Muv-Luv 本土戦線異状なし、進撃せよ! 作:tonkacchi
そのため、今まで出てきた帝都=東京の認識でお願いします。
18:15 横浜上空
トンカッチは横浜基地近くまで迫った。だが、眼前に広がるのは赤く焼けた大地だった。地上は大火災となっており、望遠すると地下施設にも被害が及んでいるのが見て分かった。さらに近づくと、通信が入る。
「そこの帝国軍機、何の用だ!冷やかしに来たならさっさと帰りやがれ!こっちは忙しいんだよ!」
その声の裏では、慌ただしく動いているのが分かる。通信の主は地下にいるようだ。かすかに聞こえてきたのは、地上と地下を繋ぐ通路が危険な状況になっているとのことだった。その通路が塞がれた場合、物資搬入の速度が非常に遅くなる。メインエレベーターも機能を停止しているようだ。
「忙しいところすまない!国連軍の涼宮中尉から何も聞いていないか!?」
「涼宮……ああ、なんかさっき言ってたな。『帝国軍機が来る』とかなんとか、まさかアンタかい?」
「そうだ、俺がその帝国軍機だ!着陸してかまわないか!?」
「ああ、構わんよ!アンタは独自の判断で救助活動を支援してくれると助かる!」
「了解!」
通信は一方的に切られた。どうやら状況はひっ迫しているようだ。現状は火災が主な被害のようだが、これが進行すれば基地放棄もやむを得ない状況になる。それは避けなければならない。とりあえず、火の手が来ていない場所に弐型を駐機させる。リモート操作出来るように、機体の火は入れたままにしておく。そして、再び回線を開く。
「俺だ、トンカッチだ!誰でもいいから応答しろ!」
「―――トンカッチ中佐ですか!?榊です!」
榊に現状を報告させる。火災が拡大しており、地下部分も徐々に怪しくなっているらしい。凄乃皇が置かれている格納庫はかなり下層のため被害が出ていないが、A-01の格納庫は被害が出ている。行方不明になっている4人は、そこで戦術機の整備をしていたことが分かっている。そのため、先に行くならそこだ。榊には、回線を開いたままにするように伝えた。
「まずは、地上の4番格納庫から探しに行くしかねえな!」
A-01は専用格納庫を地上と地下に1つずつ持っている。まずは地上の4番格納庫だ。屋根が崩れ落ち、格納庫の骨組みがせいぜい見えている程度だった。一面が火の海だった。燃え盛る格納庫の中には、戦術機が何機かあった。だが、そのどれもが擱座していた。中にはテンペストもあった。テンペストがあるということは、ジェームズが取り残されている可能性も高い。トンカッチは格納庫に侵入するため、弐型を持ってきた。防火服無しで入るのは、自殺行為同然だからだ。
弐型で器用に瓦礫をどかしていく。弐型に搭載されている、機体火災用の消火剤を使用する。一旦火の手が弱まる。その隙に、ガスマスクの用途も兼ねている簡易ヘルメットを装着する。しばらく中を探していると、手が見えた。ぐったりとしていたが、確実に生きている人間の手だった。
「おい貴様、生きているならピースサインをしろ!」
すると、親指を立てて、すぐに下に下げた。やはり生きているらしい。周りの瓦礫をどかし、生存者のあたりの安全を確保させる。そして、顔が見えるように慎重に瓦礫をどかし始めた。
「やっぱお前はしぶとい奴だぜ、本当に!」
瓦礫の下にいたのはジェームズだった。運よく圧迫はされておらず、クラッシュ症候群の恐れはなかった。すぐに瓦礫を取り除く。C型軍装はボロボロになっており、体中傷だらけになっていた。
「ジェームズ、大丈夫か!?」
咳き込みながらジェームズは答えた。
「俺は何とか生きてる、だが速瀬たちがここのどっかに閉じ込められているんだ!探してくれないか!?」
地上部分にはいなかったため、半地下になっている整備用の溝を確かめる。ライトで照らすと、倒れている兵士が3人いた。さらにフォーカスを当てると、速瀬たちだった。
「速瀬か!?生きているか!?」
だが、返事が全くなかった。すぐに駆け寄って状況を確かめる。脈はある。気を失っているだけだった。だが、一酸化炭素中毒の可能性が高い。すぐに背負って、外に連れ出した。外に出てしばらくすると、再び火が燃え盛り始めた。格納庫は炎に包まれ、機体も爆発し始めた。
「……なあジェームズ、今ので何機失った?」
「安心しろトンカッチ、一個中隊分の戦術機だ。それも第3世代機勢ぞろいだ」
「安心できねえよ……」
歩兵用通路を使い、地下へと退避していった。途中で救護班に出会ったので、救護してもらうことにした。気を失っているだけで、命に別状は無いようだ。それを知り、トンカッチとジェームズは地下に行った。ところどころ配線がスパークを起こしており、点滅している電灯もあった。だが、気にせず下へ下へと向かう。
5分後
エレベーターというのは人類の偉大な発明だと再認識した。エレベーターは電力遮断されて使用不可になっており、階段で地下に向かわなければならなかったのだ。そのため、非常に足に疲れがたまってしまった。挙句時間もかなり取られた。
「よ、ようやく地下まで来たぜ畜生が!」
「ふぃ~!さすがに疲れるな、コレ!」
地下のドアを開けると、そこは野戦病院と化していた。わずかに生きているエレベーターがフル稼働している。さらに、地下の戦術機格納庫にはほとんど機体が残っていなかった。今晩から収容を開始する予定だったという矢先での事件だったのだ。とりあえず、A-01が待っている凄乃皇の格納庫まで向かった。凄乃皇・弐型がもともといた位置には、布で被せて秘匿されていた。
さっき救護班に渡した3人以外は揃っていた。にしても、トンカッチは気まずかった。脱走まがいのことをしたのに、また戻ってきたのだ。心象は最悪だろう。まずは謝罪をしなければならない。許してもらえるかどうかで言えば、許してもらえないだろう。だが、まずは人間謝ることが肝心だ。
「…逃げるように出てって、結局心配だからってまた戻ってきちまった。……本当に申し訳ない!」
殴られることも多少は覚悟していた。だが、誰もトンカッチを責めるものはいなかった。
「トンカッチ、別に誰もお前を責めはしねえよ。お前は俺たちと距離を置きたかった、違うか?」
「…………そうだ。俺はここにいると罪悪感で押しつぶされちまいそうになって、それで逃げたかったんだ」
「あんな事があったんだ。誰だってそうなるに決まってる。だから、お前が帝国軍に戻るって言ったときは感情的になったが、今になってみれば至極当たり前のことだ。そういうことに、みんな気づいたのさ。香月副司令も一緒だ。だから、もう一回戻ってこないか、トンカッチ?」
ジェームズは手を差し出してきた。
「…………よろしく頼む!」
トンカッチは手を握り返した。そして、トンカッチは大苗代の名を捨てた。
「現時刻をもって、国連軍横浜基地第1特殊戦術機甲大隊に着任した。…よろしく頼む!」
『了解!』
そして、トンカッチは救助活動の方針をすぐに立て始めた。そういったことは専門外なので、とりあえず手の足りていないところを優先して補助するように命令した。そのころには、救護班が速瀬たちを格納庫まで運んできてくれていた。もう意識が回復しており、話すこともできるようになっていた。だが、絶対安静を言い渡されていた。彼女たちはここに置いておくほかない。とりあえず、地下の被害状況をまとめる。
現在は凄乃皇の格納されている90番格納庫にいる。地上は先ほど見た通り、壊滅的被害だった。地下にも戦術機はほとんどおらず、メインシャフトも火災が発生しており、基地全体が機能不全を起こしていた。仮にもこの瞬間にBETAに襲撃されればひとたまりもない。地上のレーダーなどは地上司令部の焼失により、接近されても全く分からない状況になった。トンカッチの接近に気づけたのは、たまたま地上に生き残っていた通信兵が見ただけだったのだ。
また、わずかばかり地下にいる戦術機は地上に出すことが難しい。メインシャフトの火災と、戦術機用エレベーターの損傷のせいだ。現在他の帝国軍基地や、在日米軍に支援を要請しているが、それもまた時間が少々かかる。最悪の報告は続く。
「こちら横浜司令部!現在、日本海側の帝国軍基地からBETA出現の報告が殺到しています!また、松本駐屯地の観測施設より緊急入電!…BETAが南進中、統計学的にはこの横浜基地を目指しているものかと!」
ついに恐れていたことが起きた。BETAの本土再侵攻だ。先ほどのレーザー攻撃は始まりの合図だったのだ。奴らは我々人類が打倒したハイヴを取り返しに来るのだろう。仮にもそうなれば、帝国はもう巻き戻すことはできない。何としても死守しなければならない。特に、この横浜は最重要拠点だ。横浜の襲撃回数が多かったため、長野防衛線は増強されている。多少の時間稼ぎにはなるはずだ。
「最悪の状況ってことだな。…風間、今使える戦術機とそれを地上に上げるのにかかる時間は?」
「使えるのは予備の不知火3機と、索敵装備の無い彩雲2機のみです。時間は跳躍ユニットを使用すれば、1分です。ですが、戦力的に防衛は難しいかと」
「そうだよなぁ…ん?仮の話だが、凄乃皇シリーズの地上に出す時間は?」
「残念ながら、現在不可能です。メインシャフトを利用する必要があるので、そうなると復旧もしくは利用可能になるまでの間はかかります」
現在ではメインシャフトの復旧見込みは立っていない。凄乃皇の退避は不可能だろう。だが、一つだけ方法がある。
「…………凄乃皇の荷電粒子砲で地上までつながる穴を作って、地上に出撃させるってのはダメか?」
全員口をぽっかりと開けた。あまりにも頭の悪い案が出てきたからだ。そんなことをすれば、基地の崩壊はもっと進むだろう。仮に崩壊しないとして、その穴からBETAが侵入するリスクがあるのだ。絶対にやってはいけないリストの一つに入っているだろう。だが、退避する余裕はない。
「中佐、それは最終手段にしましょう!?さすがに問題大アリですよ!?」
「そうだよな、うん。やめよう。さすがに頭が悪すぎた」
とりあえず、最終手段の準備はしつつも防衛戦闘をすることは決定した。地上には弐型を置いてきており、これを使えば戦力の足しになるだろう。早く防衛態勢を整えることが必要だった。戦術機搭乗割り当てを決める。
「…………柏木、御剣、妹の方の涼宮は不知火に乗れ。彩雲には風間と珠瀬が乗るんだ。突撃砲くらいはあるだろ?」
彩雲には支援突撃砲を装備させ、後方射撃に注力させる。機動戦は不知火の仕事だ。すぐに防衛線の準備を始める。最悪の状況に備えて、残った隊員には歩兵陣地を構築するように命令した。もちろん、司令部の周りだった。侵入された場合、司令部を襲うのは小型種が先だった。それを防ぐためだ。その指揮を榊に任せた。
「いいか榊、司令部付近に侵入されたらお前らが頼みだ。207分隊小隊長を務めたんだ。きっとうまくやれる。だから、しっかり頼むぞ!」
「りょ、了解!」
トンカッチたち戦術機部隊は地上に向かった。
50分後
地上の状況はより酷くなっていた。辛うじて残っていた建物が崩壊を始めたのだ。だが、消防隊の懸命の働きのおかげで、火災の被害拡大はしていないようだ。被害状況については一度気にしなくても良いだろう。
そう思い、風間に索敵を依頼する。彩雲のレーダーは通常の戦術機のレーダーより高性能かつ広範囲だ。索敵装備が無くても十分だ。さらに、彩雲には有線ケーブルで地下との有線通信を可能にした。これにより、情報は手に入れれる範囲は全て手に入れれる。風間に状況を読ませて、報告させる。その情報を基にして不知火で防衛線を築く。珠瀬には光線級の優先排除を命令した。彼女の狙撃の腕に太刀打ちできるものはこの部隊にはいない。
「風間、地下の連中なんて言ってるか分かるか?」
「少し待ってください……現在、長野で交戦中だそうです。戦況は劣勢、戦線も瓦解しており、防衛失敗だそうです」
長野は増強されているとはいえ、所詮は地方部隊だった。佐渡島の影響で、どの部隊も充足率は最悪だった。せいぜい帝都防衛部隊が残っているところだろう。このまま横浜に来られると、BETAに再奪還される恐れが非常に高い。
「…………甲府防衛戦線、崩壊!BETAの侵攻止まらず!」
「クソっ、もうやられたのかよ!」
ついに防衛線が突破された。ここを突破されると、相模原の第14地方戦車隊と第87戦術機甲部隊頼みになる。だが、彼らは旧式装備だった。神槍作戦でも後方予備部隊として待機させられていたほどだった。突破されるのは簡単に予想できる。しかし、朗報も届く。
「横須賀から整備の完了した臨時艦隊が応援に来てくれるそうです!」
艦隊は神槍作戦で使われて、補給も整備もろくにされていないボロボロの艦隊だった。それでも支援してくれるだけありがたい。彼らは相模湾に展開し、支援砲撃を敢行する予定だそうだ。
10分後
「相模原の防衛線も突破されました!」
「艦砲射撃がどれほど効果があるかだな!?」
この間にヘリ部隊の出撃の算段が整っていた。横浜からは
問題は戦術機甲部隊だった。彼らはまだ出撃準備が完了していなかったのだ。このままだと、横浜陥落後に到着することになる。彼らの早期到着が横浜の命運を分ける。
「艦砲射撃、始まりました!」
相模原の定点カメラからの静止画が送られてくる。海上を映しているカメラだった。到着していたのはアーレイバーク級4隻と戦艦土佐だった。しかし、両艦ともミサイルは1発も搭載されていなかった。土佐は艦砲がメインなので問題ないが、アーレイ・バーク級で攻撃できるのは127㎜砲1門のみだった。また、土佐も砲弾が足りておらず、4斉射分しか残っていない。ろくに補給されていない証拠だった。
だが、艦隊から広域通信が入った。
「こちらは臨時支援艦隊旗艦土佐!横浜基地の誰でもいいからこの情報を聞いてくれ!現在、BETAに光線級は存在していない!航空兵力が有効活用可能だ!我々はできる限りの遅滞を試みるから、後は頼む!」
土佐からの通信だった。相手の状況が全く分からない中で、この情報は心強い。これでヘリ部隊が安全に戦闘をすることができる。しかし、先ほどまでは遠くでしていた砲撃音のようなものが次第に近くなっていた。
「珠瀬、最大望遠で確認できる距離か?彩雲はカメラの倍率高くできるんだが」
「今やってみます!…確認できましたけど、土煙が立ってます。砲弾ってこんな感じに着弾しましたっけ?」
珠瀬から画像が送られてくる。ギリギリ見える範囲だったが、確かに土煙が立っていた。しかし、着弾時の土煙とは全く異なっていた。あれはもっと地面から噴出するような煙だ。これは何かが移動している煙と同じだった。風間に音響センサーを見るように伝える。その間にトンカッチも機外に出て望遠鏡を見る。
「中佐、音響センサーからの解析結果ですが、BETAの移動音と合致!」
「…ああくそっ、もう目と鼻の先じゃねえかよ!全機、交戦準備!兵器使用自由!弾と武器は案外あるんだ、遠慮せずに使いまくれ!」
『了解!』
風間と珠瀬の狙撃班が遠方狙撃を開始する。弐型と不知火に追加装備したALMランチャーもありったけ使用する。遠くの大地で爆発炎を確認する。
「初撃命中!次のミサイルコンテナ、用意!」
すぐに茜の不知火がミサイルコンテナを弐型にセットする。要領としては射手と装填手に分かれているのだ。ミサイルコンテナは戦術機側からでなければロックオンができない。ミサイルによる飽和攻撃により、前衛を死体の山でブロックする。
「こちら帝国軍混成航空部隊だ!BETAに痛いのをぶっ食らわせてやる!」
パイロンに吊り下げられたハイドラロケットがBETAに突き刺さる。戦術機搭載のALMランチャーよりも弾幕密度は高かった。通常弾頭だったが、光線級がいないので全弾命中だった。
「目をつぶってても簡単にキルがとれるボーナスステージだぜ!」
「馬鹿野郎、前に出過ぎるんじゃねえ!戦術機のALMに巻き込まれる!」
しかし、さすがはBETAといったところだ。圧倒的弾幕に怯みすらしない。自分の仲間の屍を超えて彼は進んでくる。
「中佐、最後のコンテナです!」
徐々に距離が近くなってきた。どのみち、ここまで距離を詰められてしまえばALMランチャーは使い物にならない。狙撃をしていた柏木と御剣に弾幕を張るように命令する。彼女たちはフルオート射撃に切り替えて弾幕を形成し始めた。航空部隊も30㎜チェーンガンを使用し始めた。もう目と鼻の先まで接近していた。
「敷設した地雷はどうなってる!?」
風間の提案で敷設された地雷は、遠隔操作で起爆するようになっていた。地雷と言っても、地面に爆薬を埋め込んだだけの即席地雷だった。
「まだ有効範囲外ですよ!?」
「畜生!それならお前の判断で起爆してくれて構わねえ!…任せる!」
「了解!」
確かにまだ引き付けきれていない。効果が薄くなってしまう。そう言っている間にALMランチャ―を使い切った。すぐにトンカッチと茜は突撃砲に持ち替える。地雷の爆発範囲を再度マップに表示する。どうにも引き付けが弱い。火薬量だけで言えば、見えている範囲の内だったら半数は削れる。しかし、そこを迂回されかけている。何とかしなければならない。
「航空部隊に緊急命令!これから地雷のエリアまで俺が誘導するから、その支援をしろ!」
「国連軍のヤツに命令されるのは癪だが、ここは乗っておいてやる!聞いたな野郎ども!あの兄ちゃんを援護してやれ!」
『了解!』
航空部隊は低空飛行に切り替える。トンカッチは彼らが陽動をしている間に、BETA群に接近する。かなりの数だった。一つでもミスをすれば、BETAと一緒に起爆される羽目になる。ある程度の距離に近づくと、BETAの一部が反応した。それにつられるように、他のBETAもトンカッチに向かった。
「聞き分けのいい異星起源種は嫌いじゃねえぜ!」
挨拶代わりに120㎜と36㎜をありったけ撃ち込む。激昂するようにBETAが殺到する。それを、弄ぶようにひらりと回避する。そして、地雷のポイントまで飛行する。トンカッチの側面と正面にBETAが回り込もうとする。
「お前らの思い通りにはさせんよ!」
それを航空部隊が牽制する。陸と空で完璧なチームワークができていた。そして、ポイントを通過し、柏木たちの地点まで後退に成功した。風間が広域通信で呼びかける。
「これより地雷を起爆させます!全機起爆ポイントから離れてください!………発破!」
しかし、地雷は起爆しなかった。風間はもう一度手順通りにやるが、全く反応しない。
「くっ、何故反応しないの!?……中佐!」
「分かっている!航空部隊、もう一度だけ頼まれてくれ!」
「何だぁ!?一回聞いてやったんだ、いちいち了承取らなくてもいいわ!」
「助かる!……起爆ポイントを偵察してくれ!もしかしたら――」
「地雷の起爆装置の故障を調べろってことだな!?」
「できるか?」
「そういうことならお安い御用よ!」
彼らは起爆ポイントまで飛行してくれた。すでに起爆ポイントにはBETAがいたが、まだ数が少ない。不思議なことに、起爆ポイントに先発が突入すると、進軍速度が極端に遅くなった。拡大して確認する。すると、地面から地雷と思われる物体がむき出しになっていた。それを避けるようにして動いているのだ。さらに、地雷のランプが点滅していた。
「地雷は確認したが、ランプが点滅している!」
「点滅だと……断線だ!クソっ!」
こうなると、遠隔起爆は不可能になる。だが、もう一つだけ方法はあった。
「珠瀬、頼みがある」
そう言いながら、航空部隊を下がらせた。
「地雷を埋めた場所、あるよな。あそこに狙撃してほしい。劣化ウラン弾なら恐らく着火するはずだ。……いけるか?」
「が、頑張ります!」
珠瀬は狙撃姿勢を改めて取る。その間に接近されないように、必死に防衛する。突撃砲で弾幕を張るが、航空支援の無くなった状況では焼け石に水だった。珠瀬が狙撃を成功させて、地雷を起爆させなければならない。
「…………そこです!」
狙いを澄ました一撃は、正確に地雷に命中する。1発では着火しなかったが、同じ弾着地点に2発目3発目と着弾する。コンマ単位の誤差もないほど正確だった。そして、ついに着火した。地雷に引火し爆発した。爆発の威力は初期計算値の70%にも満たしていなかったが、一気に一帯のBETAを撃破することに成功した。
「よくやった珠瀬!この隙に一気に戦線を――」
「地下から振動音検知!」
すると、御剣の目の前に突撃級が出現した。
「御剣、退避しろ!」
すぐに対応し、回避に成功する。だが、その穴から噴き出るようにBETAが出現した。そのどれもが大型種だった。ここまで基地に近い距離でBETAが出てしまったのだ。陥落も時間の問題になるだろう。だが、それでも最後まで抵抗しなければならない。それが、トンカッチの覚悟なのだ。
「何が増援だ?俺は身一つになってもここを守り抜くって決めたんだよ!」
残弾の無くなった突撃砲をパージし、長刀を抜刀する。BETAの隙間を縫うように機動し、的確に弱点のみを突き刺していく。何度も何度も繰り返し突き刺していく。弐型が次第に真っ赤に染まっていく。気づけば噴出したBETAの大半を、トンカッチは一人で片づけてしまった。
「これだけやっても、終わりは見えねえのか……」
そう言い、遠くを眺めた。そこには第2陣のBETA群がいた。第1陣よりも多い数だった。トンカッチは、決断を迫られた。
「…………風間、最終手段を使うしかない。横浜基地からの総員退去の要請をするんだ!」
「しかし、まだ応援の部隊が来るはずです!それまで待ちましょうよ!?」
「駄目だ!あれを見ろ!……先ほどと違って、これ以上防衛できる戦力はない!持ちこたえられても、後10分がいいところだ」
航空部隊は補給のために木更津基地まで後退を余儀なくされていた。砲撃戦を展開するための装備もない。ALMランチャーも使い切った。海上戦力は帰路についている。メインシャフトは依然として使用不可だった。もうこれまでだった。
「だから、ここの人間をお前たちが救うんだ!これは、俺からの命令だ!」
「……承服しかねます!最後の最後まで私は諦めません!」
「中佐、風間少尉もこれだけ覚悟決めてるみたいですし、私たちも残りますよ」
柏木も風間に同調した。茜も、御剣も、珠瀬も同じ思いだった。最後の一兵になるまで防衛を続けようというのだ。
「……ったく、やっぱりみちるの育てた部隊だ。覚悟の決まり方まで一緒だな!」
「伊隅中佐だけじゃないでしょう?トンカッチ中佐も私たちを育ててくれたじゃないですか~」
その言葉にトンカッチはいくらか希望を見出した。生きようとする希望だった。それが戦うための原動力となる。
「さて、ヴァルキリーズ諸君。……全機、突撃!」
『了解!』
一気にBETA第2陣との距離を詰める。出来るだけ遠くで交戦を開始して、徐々に後退していく。BETAの侵攻速度をどれだけ落とすことができるかが、この突撃の価値になる。そして、増援部隊の到着まで持たせる。
「御剣、長刀に切り替えろ!」
「了解!中佐、右に要撃級!」
御剣に言われるより先に、長刀が捉えていた。今までにないほどの高揚感と、集中力がトンカッチを包んでいた。自分の思った通りに敵が動く。それに合わせるように攻撃をするだけだ。だが、その集中力は不意に途切れた。警報が鳴ったのだ。だが、対象はトンカッチではなかった。御剣が突出しすぎたがゆえに孤立したのだ。このままでは、彼女は死ぬだろう。
「御剣、大丈夫か!?」
「中佐!私に構わずに!」
「馬鹿野郎!死ぬときは俺一人でいいわ!」
一気に機体を前進させる。長刀を横に薙ぎ払うように切りつける。
「どけどけどけどけどけぇ!」
もう少しで御剣の安全を確保できる、そう思った瞬間に長刀が折れた。すぐに短刀を取り出そうとするが、BETAに弾き飛ばされた。完全に丸腰になった。そのトンカッチの弐型を囲むようにBETAが動き始めた。この隙に御剣は後退することに成功した。トンカッチ的には最高の状況だった。弐型の兵装を確認する。残された兵装はたった一つだった。自爆も考えたが、それはもう少し先の話だ。マニピュレータを貫手の形にする。
決して諦めはしない。自分が死ぬまで必死に戦ったということを、先に逝った者たちに示さなければならない。
「さあ、かかってこい!」
その合図と同時に、BETAが飛び掛かってくる。それに手刀で対抗する。必死に抵抗する。徐々に装甲にかじりつかれ始めても、気にせず戦闘を継続する。だが、後ろからの攻撃で体勢を崩された。
「畜生ここまでか!?……全機退避しろ!S-11を使用するしかねえ!」
「……了解しました、中佐!全機退避急いで!」
「頼むぞ、風間!」
彼女たちの退避を確認した。最後の言葉など考える暇もない。トンカッチは拳をスイッチに振り下ろそうとした。だが、その手を止めた。急に周りのBETAが射撃を受けているのだ。上空には輸送機が飛行していた。さらに、そこから3機の不知火が降下してくる。
「…………先逃げしようってか、兄弟!?そんなの絶対に俺は認めねえからなぁ!」
「伊隅家の人間に、自爆という文字はありませんよ!」
「私はみちるちゃんの守りたかった世界を守る。そのために戦う!」
その声は間違えようがない。彼らだった。
「……ずいぶん遅い到着じゃないか?伊隅家の皆さんよぉ!」
降下してきたのは正樹とまりか、あきらの伊隅家だったのだ。