Muv-Luv 本土戦線異状なし、進撃せよ!   作:tonkacchi

61 / 65
第61話 本土戦線異状なし

 正樹たちは本来遠く離れた基地の所属だった。だが、緊急招集で近隣の基地に来るように要請されていた。その際に、横浜基地からの増援要請を受けたのだ。

 

「それで来てくれたってのか!…しかし、帝国軍にしては対応が早すぎないか!?」

「そこは無断出撃に決まってんだろ!招集地点の厚木の連中、ノリが良くて助かったぜ!」

 

 もうハイジャック同然じゃないかとトンカッチは思った。光線属種でもいようものなら即刻撃墜されて無駄足になる可能性だってあるのだ。それを強行するなど、正気の沙汰ではない。だが、今はそれに甘んじるほかない。少しでも戦力が欲しいのだ。風間たちには再補給するように命令する。それくらいの時間は確実に稼げるからだ。さらに、正樹はトンカッチに長刀を渡した。

 

「まだ戦えるだろ、兄弟!」

「……俺にしっかりついてこいよ!?」

 

 再び戦闘を再開する。援護射撃が増えたおかげで、近接戦闘をが非常にやりやすくなる。トンカッチと正樹が前衛でBETAを切り刻み、その穴を埋めないよう援護射撃で駆逐していく。何度も繰り返していく。戦えば戦うほど、消耗はしていく。だが、BETAも同様だった。BETAは当初の圧倒的な数を半数近く失っていた。

 

「もう少しだ!もう少し耐えれば、他の基地からの増援が来る!」

「それ本当なのか!?」

「知らん!だが、今はそれを信じるほかないだろ!」

 

 戦車級を倒すのは容易いが、突撃級を倒すのは長刀では難しい。背後に回り込んでからの攻撃でないと有効でないからだ。だから、援護射撃に任せる。徐々に頭数を減らしていく。それでもBETAの進撃は止まらない。援護射撃をしていたまりかたちだったが、弾薬が尽きてしまった。

 

「あきらちゃん、私たちも前衛に行くよ!」

「わ、分かってるよ!」

 

 風間たちも長刀を抜刀し、それに続く。全機が長刀で近接格闘戦に移行していた。本来なら危険な状況だが、数が少ないので現状は大丈夫だった。

 

 

 10分後

 

 依然として彼らは健在だった。だが、長刀はボロボロで、推進剤も足りなくなっていた。使えてもあと2分だった。帰りも考慮すれば、1分もないだろう。しかし、その状況でも交戦を続けていた。

 

「中佐、もう短刀しかありません!」

「じゃあその短刀使って死ぬ気で戦え!ここを突破されれば、人類は再び滅亡の危機に瀕することは容易に想像できるだろ!」

 

 トンカッチはそう言ったものの、確かにこの状況ではどうしようもないことは分かっていた。S-11を利用した戦術か、突撃か。または、賭けに等しい最終手段の行使か。だが、トンカッチは勝利を確信した。

 

「全機、これより300m後退する。奴らのお出ましだ!」

 

 弐型のレーダーにはとあるものが映った。それは後方から接近していた。

 

「こちら帝国軍習志野基地第21戦術機甲部隊、援護要請を受けて遅ればせながら参戦させていただく!」

 

 弾薬と燃料を満載した不知火が多数駆けつけてきた。ALMランチャーからミサイルの雨が降り注ぐ。誤射しかねない距離での起爆だったが、ギリギリ当たらないように調整されている。

 

「トンカッチ中佐、申し訳ありません!少々整備に遅れました!」

「すまないな零!大丈夫だ!それによりも、弐型勝手に使わせてもらってるが、大丈夫そうか!?」

「めちゃくちゃ問題アリです!後でこっぴどく説教されてください!」

「へっ、怒られるのは慣れっこだっての!」

 

 零たち第21部隊の支援攻撃により、後退することができた。彼らが前線を後退してくれたことにより、防衛線が再び構築された。さらに側方からミサイルが弾着する。

 

「こちらは米海軍第1臨時戦術機甲部隊だ!フェニックスには巻き込まれてないな!?」

 

 横須賀にいた米海軍の戦術機部隊だった。戦術機はF-14が6機だったがフェニックスミサイルを満載しており、それをありったけ撃ち込んだのだ。36発のフェニックスミサイルは、大量のBETAを無差別に爆殺した。そのおかげでBETAは殲滅された。残る残党を零たちが始末する。第2陣のBETAは完全に撃滅された。

 

「これで、一旦打ち止めか?」

「だといいが、風間どうだ?」

「……確認が取れました。当基地には依然として第3陣と第4陣のBETAが向かっています。ですが、現時点で増援として来てくれる予定の部隊で防衛可能と司令部は判断しています」

 

 それを聞き少し安心できた。これで最悪の事態は回避することができそうだったのだ。だが朗報ばかりではない。

 

「しかし、帝国軍の本土防衛線が徐々に押されており、このままでは横浜以前に帝国存亡の危機に陥るそうです」

 

 さらっと恐ろしいことを風間は言った。仮に横浜が残っても、帝国自体が滅べば意味はなさない。結局のところ、一人の中佐ごときにそれほどの大きな問題を解決する能力はない。今は、持てる戦力で防衛をする必要がある。そこでトンカッチは零に提案した。

 

「零、この弐型を借りたままでいいなら習志野基地に戻ってくれて構わねえ。どうする?」

 

 彼らだって今すぐにでも本土防衛戦線の方に合流したいはずだ。だが、それを蹴ってまで来たのだ。だから、何かしらの対価を求めて行かせればいいのだ。それを断ればこの基地の防衛を継続させればいい。かなりずるい手段だったが、この際選んでいられない。

 

「……本土防衛を司るのが我ら帝国軍。もって我々は横浜基地防衛の任務を放棄し、本土防衛戦線に合流させていただきます。そのため、その弐型は譲渡しましょう。元々あなたの機体になる予定ですしね?」

「すまねえな、零。無理ばっかり言って」

「大丈夫です。そういったことは、あなたの父上のおかげで慣れているので」

 

 そう言って零は飛び去った。零の言った『父上のおかげ』という言葉が引っ掛かったが、今は気にしている余裕がない。トンカッチは司令部との回線を風間につながせた。

 

「どうしたの中佐?」

 

 応答したのは夕呼だった。

 

「香月副司令、お話があります」

「帝国軍の中佐が国連軍に口出しするのかしら?国際問題になりそうなことをされるのね?」

「……俺は二度と逃げない。だから、話を聞いてくれ!」

「…………面白そうな話なら聞いてあげる」

 

 トンカッチは作戦を立案した。現在帝国軍は本土防衛線を何重にも展開している。だが、神槍作戦の影響で万全とは言えない。その防衛戦力を割いてまで横浜基地を守るメリットは薄い。だから、増援要請中の部隊を全て本土戦線に回そうということだった。代わりの戦力は米軍を頼るほかない。

 

「何を言い出すと思えば、そんなこと?」

「しかし、帝国あっての横浜であります!どうか一考いただけませんか!?」

「面白そうじゃないか、博士?先ほど君の言っていたことも照らし合わせれば、もっと都合も良いはずだ」

 

 会話に割り込んできたのはラダビノッド司令だった。どうやら夕呼は何かしらを考えていたそうだ。それを問い詰める。出てきた回答は、背筋を凍らせるものだった。

 

 あくまでも仮説としての話だったが、オリジナルハイヴである喀什(カシュガル)ハイヴが全てのBETAに対しての命令をしているというものだった。他のハイヴはあくまで中継地点にすぎないのだ。今回の横浜基地襲撃と帝国に対しての総攻撃は、BETAの計画的戦略とみており、帝国と横浜を危険視したBETAの対策としての攻撃だと判断したのだ。

 

 人類側がハイヴを獲得したままでは恐らくBETAにとって不都合極まりない。情報を全て抜かれてしまうのだ。また、BETAが学習能力を持たないという説は完全に否定されることになった。ここまで計画的な戦略を行使していることや、佐渡島で出現した特異個体のことからそう断定することは簡単だ。

 

 そこで夕呼はある作戦を考えていた。どのみちこのままではBETAが帝国を覆いつくす可能性が高い。その前に総本山たる喀什を攻略しようというのだ。甲1号を攻撃することにより、全体命令をする指揮系統がなくなる。そうすればBETAの侵攻は弱まるだろうというものだった。

 

「しかし、仮にもその作戦を実行したとして失敗すれば?」

「そんなの決まってるじゃない。人類の滅亡よ」

 

 要するに失敗が許されない作戦でもあった。この作戦を夕呼は一人で考えていた。一応ラダビノッドにも話は通しており、彼の承認は得ていた。だが、帝国軍からの許可は取り付けていない。それもそのはずだった。これは帝国を生贄にしろというものと同様だったからだ。攻略に成功しても、帝国に残ったBETAが受けていた命令をそのまま遂行するという可能性がある。そうなった場合、帝国軍の戦力だけでは防衛しきれるとは到底思えない。だから、まだ帝国軍に話をつけていないのだ。あくまでも机上の空論というわけだ。

 

「…………帝国軍の説得、俺がやってみてもいいですか?」

 

 だが、トンカッチはある手段を使うことにした。

 

「まあ、説得できるならそれに越したことは無いわ。…できるのね?」

「失敗は人類の死と同等なんですよね?なら、信じてください」

 

 トンカッチはすぐに弐型を降りた。無線機で地下のA-01との連絡を開始する。

 

「そっちは大丈夫か?」

「こちら鎧衣、BETAは基地内には侵入してきていません!大丈夫です!」

「よし、それなら良さそうだな……。白銀は動けそうか?」

 

 少し間をおいて武が応答する。

 

「中佐ですか!?俺は回復して、いつでも戦闘できます!速瀬中尉たちはまだ厳しそうですが…」

「なら少々きついが、俺の戦術機を使え。俺は今から帝都に向かう。その間、この基地を守り抜け!」

「り、了解!」

 

 武に弐型を任せることにした。そして、トンカッチは帝都に行く準備を整えた。恰好はもちろん、国連軍制式採用のC型軍装だ。要請していた偵察ヘリのOH-1の元に向かう。向かう先は帝都城だった。さらに、帝都にいるとある人物に電話をした。

 

「こちらは帝国斯衛軍総合司令部です。ご用件は何でしょうか?」

「俺は国連軍横浜基地所属の()()()()()()()だ。取り急ぎの内容があって、とある人物を出してもらいたいのだが、お願いできるか?」

「呼び出し先によりますが、どなたでしょうか?」

「現政務総監、崇宰恭子大佐を頼む」

 

 

 22:30 帝都城

 

 トンカッチはヘリポートにつくと、出迎えの兵士を確認した。

 

「まったく、ジェームズさんだと思って電話に出たというのに…」

「申し訳ありません、大佐。こちらも急用でしたので」

「そこまでかしこまらないでください!違和感しかありませんからね?」

「確かに私が上官だった時期もありましたが、今ここでは貴方様が上官であり、頼みの綱であります。これくらいの礼儀は当然のことかと?」

「まあ、そうかもしれませんけど…。とりあえず、言われた通りのことはしておきました。後は、中佐の頑張り次第です」

「心得ております」

「では、ついてきてください」

 

 そう言い、恭子はトンカッチを城内に連れて行った。城内に入るのは初めてで、おそらく二度と入ることもないだろう。それほどに神聖な領域なのだ。電気的な明かりはともされておらず、昔ながらの火を使った明かりだった。何度か階段を上がり、部屋を通過して、今までとは明らかに違う襖の前に来た。

 

「殿下、崇宰恭子であります」

「……その者を中に入れなさい」

 

 そう言われると、襖が開いた。中には、御剣と似た女性と、神槍作戦で一緒に戦った月詠中尉がいた。

 

「私は、政威大将軍の煌武院悠陽であります。この度は、わざわざ横浜からお越しくださり感謝を申し上げます」

 

 彼女は、現帝国の政威大将軍である煌武院悠陽殿下だった。初めて見たが、やはり御剣と瓜二つだった。

 

「私は、国連軍所属の伊隅中佐であります。この度は、わざわざご拝謁させていただき、誠にありがとうございます。そして恐縮ですが、本題に入らせていただいてもよろしいでしょうか?」

 

 トンカッチは、封筒から書類を出し始めた。そこには、作戦立案書があった。夕呼が思いついた計画を即座に作戦立案書に書き込んだプロが横浜にいた。その人の書いた立案書は、完璧なものだった。その立案書を手にした悠陽は、隅から隅まで読んだ。そして、床に置く。

 

「……作戦の内容は分かりました。そして、あなたがここに来た理由もわかりました。この私にしてほしい内容も分かりました。その上での回答を申し上げさせていただきます」

 

 悠陽は一呼吸おいてから、話した。

 

「この作戦は……認められません」

 

 さすがに相手は将軍殿下だ。ガードが堅い。だが、絶対に崩さなければならない。

 

「と言いますと?」

「確かにこの作戦は非常に重要なものです。ですが、帝国臣民を死なすような行為を命令することは私にはできません!」

「しかし、このままでは帝国も滅んでしまいます!ここで何もしなければ、燃え盛り滅びゆく帝国を見ることになるのですよ!?」

「中佐、殿下の御前であらせられるぞ!控えよ!」

 

 恭子がトンカッチを諫める。だが、それでもトンカッチは止まらない。

 

「この作戦を実行せずに死ぬか、僅かしかなくとも存在する希望に頼るか、答えは一つのはずです!どうか殿下……ご決断を!」

 

 それでも悠陽はNOを突き付けた。そもそもこのようなことを、政威大将軍とはいえ一人で決めるのはおかしいものがある。彼女一人の命令で、たくさんの将兵や民間人が死ぬのだ。それをさっさと決めろというトンカッチがおかしいのだ。だが、トンカッチは諦めなかった。何度も何度も頭をこすりつけて嘆願する。どれだけ拒否されようとも、屈せずに嘆願し続けた。

 

「どうかお願いします!どうか……!」

 

 そして、悠陽は大きなため息をついた。

 

「……トンカッチ中佐、顔をお上げください。私が今まで会ってきた中で、ここまでの姿勢を見せたのは貴方が初めてです。どの者も本心を見せることなく、私に交渉を迫っていました。ですが、貴方からは心の底からの叫びに感じるのです。……ですから、私は貴方の願いを承りましょう」

 

 ついに悠陽が折れた。彼女自身も実際、決心がついていなかっただけだった。だが、トンカッチの言った通り、このままでは何もせずに死を待つも同然だった。それを回避するには、このギャンブルに参加するほかないのだ。帝国の存亡を賭けた、一世一代の大勝負に。

 

「ここから先は、私の務めです。月詠、中佐を外まで案内なさい」

 

 トンカッチは、悠陽に対して深々とお辞儀をして部屋を後にした。

 

「…………殿下、よろしかったのですか?」

 

 恭子は思わず聞いてしまった。

 

「大丈夫です。私はこれからの歴史に、恥ずべき行為として名を遺すに違いありません。ですが、この判断はきっと間違っていないものになります。そう信じていますから。貴方も同じでしょう、恭子?」

「…………私も、殿下の意見と同じです。彼とは、共に戦ってきた間柄ですゆえ」

 

 

 同時刻 横浜基地

 

 トンカッチが交渉をしている間、司令部では帝国軍との通信網が確立されつつあった。このおかげで、疑似的なレーダー網を獲得することに成功した。また、戦況の詳細も分かるようになった。依然として戦線は押され気味だった。帝国軍は多数の防衛線を緊急で構築し、第1から第3まで存在する。だが、第1防衛線は全箇所突破されており、第2防衛線での戦闘が開始されていた。第3防衛線を突破された場合、組織的抵抗が難しくなる。

 

 そうなった場合、米軍が保有している核攻撃部隊が緊急発進し、焦土作戦を展開することになる。そうすれば、BETAは殲滅できるものの、帝国は別の形で崩壊の道を行くことになりかねない。横浜司令部にはそれに抗うべく戦いを続けるものの叫びが入り続けていた。届く報告のほとんどが、戦線後退ばかりだった。

 

「ここにある航空部隊を増援に回すべきかと!」

「駄目だ!それではここも陥落するぞ!?」

「しかし、その前に本土防衛線が瓦解します!」

 

 横浜でも揉めていた。帝国支援派と横浜防衛派の二派に分かれてしまっていたのだ。どちらの言うことも理解できる。だからこそ、トンカッチの交渉の結果次第だったのだ。在日米軍には本土防衛戦線への支援を要請しておいた。これは国連軍からの依頼だった。断ることもできないはずだ。

 

 横浜の防衛は、米海軍の臨時編成された部隊と、正樹たちの3機の戦術機、そして航空部隊のみになる。第3陣と第4陣の防衛は若干苦しくなる。一応米海軍の戦力は全て借りる予定だったので問題ない。さらに、その先にある防衛ラインが守られればそれに越したことは無い。

 

「在日米軍の横田基地から連絡です。F-22Aを1個小隊だけこちらに回すそうです!」

 

 横田基地は在日米軍の中でも最大規模の基地だった。さらに、最新鋭機のF-22シリーズが大量に配備されている。それを全て出撃させるつもりだ。本来なら核攻撃部隊が横田に配備されているはずだが、それに対応した機体も全て出すとのことだった。つまり、焦土作戦を敢行する気は無いようだ。

 

 続いて、他の最前線司令部から同じような符丁が飛び交ってきた。

 

『我、甲信越戦線司令部。甲信越戦線異状なし。繰り返す、甲信越戦線異常なし』

『新潟戦線司令部。戦線異状なし』

『沼田第2防衛線司令部、戦線に異常なし』

 

 どの司令部からも戦線異状なしとの報告が入ってきた。さらに、その末尾には必ずこの文言が添えられていた。

 

『本土戦線異状なし』

 

 どの司令部もこれを無差別に各方面に打電している。どれも平文だった。さらに、回線の一つが使用不可にされた。それは、誰も使っていない、半ば忘れられていた回線だった。

 

「私は、政威大将軍煌武院悠陽であります。この通信を聞いている者は、皆にお伝えして下さい。現時刻から30分後、この帝国についてのお話をさせていただきます」

 

 悠陽からのメッセージだった。夕呼はにやりと笑った。

 

「さて、トンカッチの交渉結果を眺めさせてもらおうかしら!?」

 

 

 23:00

 

 トンカッチはOH-1から降り、すぐに司令部に向かった。そろそろ放送が始まる時間だった。帝都に行っていた間には、横浜での戦闘は起こっていないらしい。司令部のモニターの前に、何人かの将校が待っていた。

 

「あら、五体満足で帰ってこれたのね?交渉の結果が見れるわ、アンタは一番前で見なさい」

 

 夕呼は自分の座っていた席を譲った。ありがたくその席をもらう。あの場では悠陽は了承してくれたが、実行してくれるのかどうかは分からない。この放送ですべてが分かる。

 

「頼む、殿下!」

 

 そして、放送が始まる。そこにいたのは正真正銘、煌武院悠陽本人だった。その横には、正装に着替えた恭子と、帝国軍の階級が高そうな人物が控えていた。

 

「私はこれより日本国民全員に対し、困難な命令を下させてもらいます。……現在戦闘中の帝国軍に命令します。この日から、2002年1月2日まで、本土戦線を防衛してください。これは、帝国軍国防省並びに国連軍総合作戦司令部との協議の結果に基づく最優先命令になります。どうか、民を守る盾となり、剣となり奮戦していただきたく存じ上げます」

 

 これは、悠陽が作戦を認可したということだった。作戦立案書に書かれていた日付では、1月1日に作戦を完遂させるとのことが書かれていた。2日までと言ったのは、おそらく保険的なニュアンスだろう。

 

「さすがね、中佐。今回に関しては、アンタのおかげよ」

「私はあくまで話をしに行っただけにすぎません。…これは殿下のおかげです」

 

 悠陽はその後、ここに至るまでのことを話し始めた。

 

「既に本土戦線は切迫した状況にあります。1日でも防衛しきることが困難であることは重々承知しております。ですが、我々はこの窮地を脱する作戦を知りました。それは、甲1号目標の制圧というものでありました。あまりにも無謀ともいえる作戦です。先日行われた甲21号目標制圧作戦である神槍作戦では、各国の兵力を譲り受けたうえでの総攻撃で陥落させることに成功しました。しかし今回は、たった数機の戦術機での強襲攻撃になります。国連軍の協力の元行われる作戦ではありますが、非常に可能性の低い作戦になります。ですが、我々はもはや手段を選ぶことができない状況にあるのです!」

 

 さらに悠陽は続ける。その語気は徐々に強くなっていっていた。

 

「このままでは、帝国の大地は赤く燃え、蹂躙されるのを待つのみです。……何もせずに死を待つか、わずかばかりの希望に全てを託すか。私は、そのわずかの希望に縋ることにしました。この決断に日本国民全てを巻き込むことを、民を守るべく死ねと命令する私を、未来を繋ぐ若人を殺そうとする私を、決して許さないで下さい。……以上で、政威大将軍煌武院悠陽の宣言を終えます」

 

 その後は帝国軍の男が詳細な作戦計画を説明し始めた。夕呼の言ったプランをブラッシュアップし、最大限まで成功の可能性を上げたものだった。そのため、本来の目的通りの作戦となり、夕呼も満足していた。問題は、作戦実行部隊だった。

 

「しかし副司令、実行部隊には誰が行くんです?」

 

 そのトンカッチの疑問は誰もが抱いていた。だが、あっさりと夕呼は答えた。

 

「決まってるじゃない、アンタたちよ?」

 

 即答だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。