Muv-Luv 本土戦線異状なし、進撃せよ!   作:tonkacchi

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第63話 死戦区域、主広間

 5:30 主広間まで残り2500

 

 道中の横坑にはBETAはほとんどいない。だが、この先の主広間にはうじゃうじゃとBETAの反応があった。推定個体数15万。総本山だから多いことは理解しているつもりだった。だが、あまりにも多すぎる。先ほどまで多くても3万だったのだ。それが5倍になって襲い掛かる。とてもじゃないが、この部隊の数だけではさばききれない。凄乃皇の火力があればなんとかなるかもしれないが、それではあ号標的との接触で不利になる。

 

「さて諸君ならどうする?やらなければならないこととしては、前方にある第1隔壁を開放する。次に解放された横坑に全機で侵入。侵入後は隔壁を閉鎖し、第2隔壁を2700㎜かS-11で破壊してあ号標的と接触って流れだ」

 

 彩雲には隔壁開放材と閉塞材の両方を持った増槽が追加されていた。彩雲に作業はやらせるが、直掩は絶対に必要だった。

 

「隔壁の作業は、風間と柏木に頼む。お前らなら何回かやってるから勝手は分かるだろ?」

「分かりました。しかし、直掩はどうしましょう?私のMQ-1は凄乃皇に回しますか?」

 

 確かに、テンペストαにはMQ-1がセットで動いていた。それを作業の直掩に回せば、凄乃皇の守りが薄くなる。だが、作業の方を優先することにした。そして、トンカッチはあることに気づいた。

 

「………いっそのこと凄乃皇を囮にするか?」

 

 というのも、ML機関の臨界運転時にはBETAが多数凄乃皇に引き付けられていた。だが、非運転時には寄ってきていない。これを利用するのだ。最初は戦術機全機で中央突破し、隔壁に到達。BETAは当然隔壁にいる戦術機に殺到する。その距離がある程度縮まったところで、ML機関を臨界運転させる。そうすれば、襲い掛かってくるBETAの大半は凄乃皇に集中する。そこを全ての火力で粉砕する。2700㎜と荷電粒子砲は使用可能になっても待機状態にしておく必要があるが、砲塔やVLSで多少は持ちこたえれる。大型VLSに残っているS-11弾頭はかなり温存できている。

 

「これ以外の方法は俺には考え付かない。他にあれば言ってくれると嬉しいんだが…」

 

 他にも案を出そうとするが、なかなか出てこないものだ。主広間は広いので、その広さを生かした戦闘を取ることは新たに提案された。だが、この方法に付け加える形に過ぎなかった。

 

「よし決まりだな。白銀たち、お前ら凄乃皇クルーが一番きついと思うが、踏ん張ってくれよ!」

「了解です中佐!こっちは1回経験してんだ、問題ないです!」

 

 作戦が決行された。

 

「全機、最大戦速で突入しろ!行くぞぉ!」

『了解!』

 

 今まで温存していた推進剤を惜しみなく使用して、最大速度で突っ込む。

 

「かかってこいBETAども!飛び掛かってくるBETAはクソみたいなBETA、飛び掛かってこないBETAは普通のBETAぁ!全部ぶっ潰してやる!」

「MQ-1、モードオフェンシブ!敵を引き付けなさい!中佐、彩雲を先行させます!榊少尉、彩峰少尉はついていってください!」

『了解!』

 

 その飛び出した二人をカバーするように珠瀬と鎧衣が側面に回る。正確な射撃精度を誇る珠瀬が的確に脅威度の高い目標を撃墜し、撃ち漏らしを鎧衣が撃墜する。

 

「俺と御剣が殿やってやる!テメエらはさっさといけぇ!」

 

 トンカッチと御剣は殿を務めた。後方からくるBETAは津波のように押し寄せていた。だが、怯むことなく攻撃をする。御剣は接近戦を得意としているため、トンカッチがそれに合わせた動きをする。長刀の攻撃は後隙が大きい。カバーは必須だ。にしても、御剣の武御雷は明らかに異常な性能をしていた。BETAが相手にならないほどだった。数では負けている。だが、その性能を見れば劣勢を変えれるのではないかと思うほどだった。

 

 だが、まだ動きが若い。完璧とは言えない。だから、それを助けるのが大人としての働きだ。時々自分の命を捨てたような動きがみられる。それをカバーしてあげなければならない。

 

「御剣、突っ込みすぎるな!波に飲まれる!」

「しかし、これくらいの無茶をしなければ作業を妨害されます!何卒お許しを!」

 

 そういい、全身凶器の名の通りの動きで殲滅していく。だが、徐々に囲まれ始める。

 

「だから言ったろうに!」

 

 すぐにカバーをする。退路を作るように突撃砲を撃つ。マガジンが空になるが、まだ予備弾倉はたくさんある。サブアームを利用して装填の隙を減らす。YF-22X自体が近接戦を不得意とするが、この際だとそれをせざるを得ない。短刀を取り出し、BETAの群れに突入する。関節強度の不足が響いてくる。負荷係数が徐々に上がる。

 

「これ以上負荷はかけたくねえんだがな!?風間、作業はどうなってんだ!」

 

 風間たちは隔壁に取りつき作業を開始していた。

 

「MQ-1が1機大破しましたが、それ以外は順調です!」

 

 先ほど隔壁付近であった爆発の原因がこれで判明した。彩雲の調子はよさそうだ。このままうまくやれば、隔壁に突入することは簡単だろう。しかし、ここからが正念場だった。

 

「さあて、やれるんじゃないかな?…白銀、機関を再始動して横坑に侵入しろ!」

「了解!…持ってくれ、凄乃皇!」

 

 ML機関の再始動とともに、BETAが一気に凄乃皇の方向に体を向ける。早速、四六糎砲が最接近したBETAを吹き飛ばす。だが、数が多すぎる。トンカッチと御剣で減らしたとはいえ、まだまだ12万以上は軽くいた。

 

「2700㎜はまだ装填しているのか!?クソっ!…小型VLSハッチ全開放、大型VLS発射管を12番以外全開放!…発射!」

 

 ほぼミサイル全弾を発射する。ミサイルの雨がBETAを襲う。その中にはS-11弾頭もあった。これ以上温存していると、先に凄乃皇が撃墜されると武は判断した。圧倒的な弾幕量だったが、それでもBETAは削り切れない。さらに音響センサーが音を拾う。

 

「中佐!凄乃皇後方3000からBETAの増援の移動音を感知!」

「寄りにもよって増援だ?!連中学習してやがるのか?」

 

 爆破用のS-11とS-11弾頭は別物だ。機体搭載のS-11はS-11弾頭に比べて火力も爆発範囲も段違いだった。これを隔壁操作装置に利用しようとしていたが、この際仕方ない。

 

「白銀!ラザフォード場は完璧なんだな!?」

「中佐何をする気なんです?」

「完璧なんだなと聞いている!」

「………いけます!」

 

 そう武は言った。すぐにトンカッチはYF-22XのS-11を取り出す。さらに、御剣のS-11も奪い取る。

 

「御剣はさっさと隔壁まで退避しろ!後は、凄乃皇のラザフォード場次第ってわけだ!…鑑少尉には申し訳ないが、これしか無かろう!」

 

 そしてS-11を凄乃皇後方に放り投げる。

 

「総員衝撃に備え!」

 

 遅延信管でセットされたS-11が、後方のBETA群を爆発で吹き飛ばした。あまりの火力の高さに機体が軽く吹き飛ばされるほどだった。さらに空中には主広間の壁面から生じた粉塵により、広範囲での粉塵爆発になった。閉鎖空間ということも作用し、一気にBETAが爆発により消し炭になるが、A-01は全機無事だった。本来なら爆風で全滅もしくは被害をかなり受けるはずだが、ラザフォード場のおかげで爆風に指向性を持たせることに成功していた。

 

「急場の案だったが鑑少尉、よく合わせてくれた!」

 

 ラザフォード場が凄乃皇を頂点とした円錐状に展開されることにより、後方に爆風を逃がしていた。隔壁までの爆風はほとんどなかったのだ。だが、ラザフォード場に一時的な高負荷がかかる。さらに、BETAの死骸が上から降り注いでくる。それもラザフォード場に干渉する影響の一つになる。

 

「すみません中佐!2700㎜は使い物にならなくなるかもしれません!」

 

 そういうと、2700㎜を搭載した右腕を傘にした。これでラザフォード場への干渉を極力減らそうというのだ。確かに合理的判断だ。仮にもラザフォード場が消失または機能停止になれば致命的だ。それと2700㎜の交換なら安いものだろう。どのみち揚弾機能がいかれているのだ。使い物にならない可能性の方が高い。何とかBETAの雨を通り抜け、隔壁に到達する。

 

「彩雲の開放材、充填完了!隔壁も開き始めました!ですが、閉塞材の注入ができません!」

「鎧衣のカバーに誰か入ってやれ!」

「了解です!」

 

 茜と珠瀬がカバーに入る。

 

「柏木は後方の増援対処に回ってくれ!俺と御剣、風間も向かう!凄乃皇が侵入するまでの辛抱だ!持ちこたえて見せろよ!」

『了解!』

 

 後方からの増援で来る数は5万だ。BETAのバーゲンセールと言っても過言ではない。凄乃皇からの砲撃支援は得られない。何とかして主広間侵入前に数を減らしたい。しかし、レーダーや通信機器の調子が不良になりつつあった。ハイヴの壁面はレーダー波などを吸収しやすい特性がある。それが粉塵として降りかかれば機能不全にもなる。

 

 正確な部隊の位置情報が共有されにくくなった。だが、目視でとらえることは可能だった。それを基にしてデータを構築させる。これで応急処置になる。そのデータを見る限り、まだ凄乃皇は横坑に侵入していない。解放作業もうまくいっていないようだ。

 

「しかし、残ったS-11の量が気になるな。もうそろそろ尽きるぞ…」

 

 トンカッチと御剣の戦術機のS-11はすでに使用している。門を閉じるための制御装置爆破用のS-11は茜のものを使用する。風間は既にS-11を広間攻略に使用している。鎧衣と珠瀬のS-11もトラップに使用しており、彩雲とMQ-1にはS-11を搭載していない。自由に使えるのは榊と彩峰、そして柏木のものだけだった。凄乃皇のVLSにあるS-11弾頭は残弾1発だ。大量破壊兵器はこれ以上はない。補給コンテナには99式重火砲があるはずだが、それを装備している暇など無い。通常兵装で何とか凌ぐほかない。最前線を張っていた御剣がレーダーにBETAの姿を捉える。

 

「我々の正面1200にBETA群検知!設置したトラップとの距離は100を切りました!」

「BETA先鋒が通過から10秒後に爆破だ!しくじってくれるなよ!?」

 

 そして、先鋒がトラップを通過し10秒が経過した。

 

「発破!」

 

 トンカッチはスイッチを押す。一つ目のS-11は侵攻速度遅滞目的だった。無事起爆し、先鋒が足止めをくらう。

 

「2つ目のS-11もうまくいってくれよ…発破!」

 

 しかし、スイッチをしっかり押しても起爆しなかった。何度押しても同じだった。これは本命のS-11だった。これで一気に数を消し飛ばすつもりだった。だが、的確に2つ目だけ破壊されていた。

 

「ああクソクソっ!あいつら本当に学習しすぎじゃないか!?ちょっとくらい堕落しててくれよな?」

「中佐!愚痴を言っている場合ではありません!距離900を切ります!」

「分かっとるわ!少しくらい愚痴吐いた方が楽だろうが!?…ったく、距離500から350まではセミオートで狙っていけ。どうせ最初は突撃級だ。それを切ったらフルオートだ。劣化ウラン弾の味を思い出させてやれ!」

『了解!』

 

 ついに500を切った。十分引き付けられたと言える距離だ。単発射撃により足元へ正確に射撃する。次々と足を失い、BETAは滞留していく。だが、それをどかすように次の突撃級が無理やり道を切り開く。さらに、壁の側面や天井にも張り付いているBETAがいた。重力という概念は彼らには存在しないようだ。こうなってくると、距離もクソもなくなってくる。

 

「仕方なし、か。全機、フルオート射撃だ!残ってる弾全部ぶちかませ!」

 

 一気に弾幕になり替わる。鉄の嵐と言って過言ではない。だが、BETAはそれを突き進む。徐々に距離は迫ってくる。主広間に入られると、一気に流入されることになる。この横坑で食い止めたい。だが、止めきれない。

 

「中佐限界です!これ以上ここで戦えば、全滅しかねません!」

「ちっ!全機、主広間に下がるほかない!後退準備!」

 

 だが、1機だけ残っていた。

 

「中佐、ここを突破されれば後は無いんでしょ?じゃあ、私が何とかしますよ!」

 

 残っていたのは柏木だった。

 

「馬鹿野郎!テメエ一人残っても意味ねえんだぞ!?さっさと後退しろ!」

「ここを突破されれば、さっきまでの戦闘は無意味になります!通路の死守は絶対でしょ!?…それに」

 

 柏木は機体状況を見ていた。機体各所に黄色の表示が出ていた。さらに、跳躍ユニットは真っ赤の表示になっていた。

 

「どのみち私は長くは持ちませんよ。……実はさっきの爆発の時に損傷しちゃってて――」

「何でそれを早く言わなかった!?それだったら、確か凄乃皇に脱出艇があったはずだ。そこに乗り込めば――」

「気遣いはうれしいんですけど、それやったら貴重な戦力を一つ失うことになっちゃいますよ?…私ずっと考えてたんです。この命の使いどころはどこだろうって。それが今分かった気がするんです。多分、田島も同じこと考えてたんだろうって」

 

 田島の名前を聞いたときにトンカッチは全てを悟った。柏木は特攻をする気だと。

 

「私は本来あの日に死ぬべきだった人間だった。それを生かされたんです。既に存在しない存在がいまさら消えたところで変わりないんですよ!……だったら今ここでこの命を使うべきなんです!」

「そのようなことをしても田島少尉は浮かばれませんよ!?柏木少尉、早く離脱を!」

 

 風間が必死に止めるも、聞く耳を持たなかった。さらに、柏木は秘匿回線でトンカッチに繋ぐ。

 

「中佐、最後にお願いがあります。わがままですけど、聞いてもらえませんか?」

「………お前の覚悟は分かった。俺はこれ以上止めるつもりはないから、手短に頼む」

 

 内容は、武の凄乃皇・四型に対するデータ偽装だった。仮に武が柏木が死んだことを知った場合、武は酷く動揺することになる。柏木なりの最期の気遣いだ。

 

「了解した。YF-22Xのデータハッキング能力は世界一だろうからな。確実にできるだろうさ。……あとは任せろ、柏木」

「……今までお世話になりました、トンカッチ中佐!」

 

 トンカッチは後退しながらデータを書き換える。そして、凄乃皇が通信を聞けないように細工する。これで通信を凄乃皇は聞くことができなくなった。

 

「全機、柏木の援護をしたのちに隔壁まで戻るぞ。…反論は受け付けない」

 

 120mmで大型種を破砕し、跳躍ユニットの故障している柏木でも比較的安全に突撃できるように地点を確保させる。柏木の目標としている地点は、2つ目のトラップだった。その地点で自爆し、後続のBETAを完全に断ち切る。

 

「それじゃあ中佐、お先に!」

 

 柏木はいつ爆発するか分からない跳躍ユニットを無理やり全力噴射させる。アラートは鳴りっぱなしだった。だが、止まることはできない。ついに限界を迎えた左エンジンが爆発し炎上する。

 

「くっ、まだまだぁ!」

 

 即座にパージし、誘爆を防ぎながらさらに奥へと進む。だが、右足を戦車級に捕まえられた。バランスが一気に崩れ、その場に倒れた。目標としていたトラップの場所まで、まだ200もあった。もう援護射撃は飛んできていない。このまま何もできないで死ぬのだろうか。一瞬柏木の脳裏にそれが浮かぶ。しかし、その考えを一気に振り払う。

 

「私は……まだ田島に生かされた命を使い切っていない!」

 

 右足が食いちぎられると同時に、左腕も破壊される。だが、右腕に装備した長刀で振りほどき、機体を動かせるようにする。要撃級が頭部に衝角を振り下ろすが、それをあえて受けながら前に進む。頭部が破壊されても、機体胸部のサブカメラで外は辛うじて見れる。一瞬だけ目の前が暗くなったが、すぐに網膜投影が復旧する。まだ戦える。まだ進める。

 

「あと少し、あと少しなんだ!通しやがれBETAどもがぁぁぁぁ!」

 

 ポイントまで一気に飛ぶ。出力限界により、右エンジンも故障し使用不可になる。だが、勢いよく飛んだおかげでポイントまでたどり着く。

 

「あとはこれを起爆させれば!」

 

 まだS-11は生きていた。遠隔装置だけ破壊されていたが、直接起爆は可能だった。あとはスイッチを押すだけだった。しかし、機体の腕が動かせなかった。というよりかは、自分の体が全く動かなかった。さらに、網膜投影の画面が暗くなっていく。

 

「あ……れ?体……うごか、ない?」

 

 柏木の不知火・弐型の胸部には、要撃級の衝角がめり込んでいた。防護シャッターは降りていたが、それでも衝撃に屈していた。管制ユニット内は大きく損壊し、機体の一部が柏木の上半身と下半身を2つに分けようとさえしていた。そして、何かが撃ち込まれる音を肌で感じる。鎮静剤だったが、それすらも知覚できないほどだった。

 

 網膜投影は機能しなくなった。自分の目で体を見ると、腹部に水平に瓦礫が刺さっていた。もう少し右側だったら完全に体が真っ二つだった。鎮静剤投与のおかげで腕は辛うじて動く。痛みもない。ただ不思議な感覚だけが柏木の体を襲っていた。

 

「…………ま、だだ!」

 

 最期の力を振り絞る。もう機体は動かない。自分も助からない。だが、弐型のS-11は使える。ならば、それをもって誘爆させればいい。単純火力2倍のS-11だ。

 

「一緒に……死ね!」

 

 スイッチを押し込む。直後に弐型のS-11が起爆し、トラップのS-11も誘爆する。大きな爆発とともに通路は塞がれた。それをトンカッチたちは音だけ聞こえた。爆風が少しだけ来た。だが、機体に問題はなかった。

 

「………白銀には絶対に何言うなよ。アイツには俺から話しておく」

 

 後方からくる増援のBETAはこれで打ち止めになった。トンカッチは凄乃皇に近づく。接触回線にて武と会話する。

 

「中佐、先ほど後方で大きな爆発音を検知したのですが何があったんです!?」

「あれか……あれな、トラップの起爆音だ。安心しろ、増援はこれ以上は来ないはずだ」

「それならよかったです!あ、それと凄乃皇の通信機能が不調なんです。原因不明のエラーとして処理されてて」

 

 YF-22Xのハッキング能力が正常に作用している証拠だった。粉塵の影響だと嘘をつく。柏木機も健在の表示をさせていた。そして、隔壁が完全に開放される。先行して茜と風間がクリアリングを開始する。問題なしと判断したため、凄乃皇は前進した。

 

「柏木……すまん!」

 

 トンカッチも後ろから合流した。最後に進入するのは、鎧衣と珠瀬だった。彼女たちは開放作業から閉鎖作業に移行していた。だが、閉塞材の充填がうまくいっていない。

 

「壬姫さん!やっぱり閉塞材だけ入らないよ!?」

「そんな!もう閉塞材の予備なんて無いよ!?」

 

 予備の閉塞材すら充填ができなかった。原因はよくわからなかったが、可能性としては『一方通行の隔壁』というものが考えられた。それなら、開閉装置である脳の破壊をする必要がある。もしくは外装を剥がして、直接注入すればいい。鎧衣は外装破壊を試みる。この距離なら短刀を突き刺した方が貫通力はある。だが、短刀がうまく刺さらない。さらに最悪の状況は続く。

 

「振動音!?壁面からだって?」

 

 そして、主広間の中央部壁面が大きな土煙を上げて崩壊する。そこにはトンネルの掘削機のようなものがあった。さらに、その口が開きBETAが大量に放出され始めた。先ほどまではいなかった大型の要塞級が出現し始めた。他のBETAも大量に放出されてしまっていた。珠瀬がすぐに排除に向かい、榊と彩峰も援護に回るが、焼け石に水だった。

 

「こちら榊!主広間側面から大量にBETAが放出中、至急援護を!」

 

 トンカッチはすぐに反転し援護を開始する。確かに大量のBETAが出現していた。数自体は先ほどよりは少ないが、要塞級が厄介だった。仮にアレが近づきすぎると、触手で脳が破壊されかねない。そうなると、トンカッチたちは取り残されることになってしまう。それは避けたい。出来るだけ多くの人員をあ号標的との接触に持っていきたいのだ。

 

「鎧衣はそのまま閉鎖作業を継続!4人で何とかするしかない!」

 

 トンカッチの突撃砲も残弾が無くなっていく。最初こそ大量に予備弾倉を所有していたが、連戦が続きロクな補給すら受けていないこの状況だと弾切れも致し方ない。片手には短刀を装備させていた。彩峰と榊が近接戦を無理やり敢行する。だが、すぐにBETAの波に飲まれる。離脱を図るも、要塞級が妨害を仕掛ける。珠瀬が退路を確保したおかげで窮地は脱していたが、数は減っていない。このままだと、隔壁閉鎖前に流入される。

 

 茜のS-11を利用して強制閉鎖も考えたが、その前にS-11が破壊される可能性が高かった。これは先ほどのトラップで分かっていたことだ。今は鎧衣が作業を成功させるほかない。

 

「畜生が!ここで弾切れかよ!」

「中佐は下がって補給を!ここは私と彩峰で対処します!珠瀬も下がって鎧衣の援護を!」

 

 トンカッチと珠瀬は後退した。榊と彩峰が必死に応戦する。最新鋭機たるT-50だが、徐々に押され始めていた。彼女たちの戦力不足以前にBETAによる物量制圧が苦しめていた。単独性能の高い戦術機だとしても、結局は火線の数がものを言うのだ。格闘戦になるが、取り囲まれる。そして、彩峰のT-50の左腕が吹き飛ばされる。

 

「彩峰ぇ!」

「榊うるさい!…たかが左腕を失っただけ!」

 

 残った右腕で必死に長刀を振り回す。榊も抜刀し近接戦を援護する。だが、戦車級に足を取られる。脚部のモーターブレードで排除しようとしたが、死骸がこびりついたままだった。機動力の鈍った榊のT-50にBETAが群がってくる。

 

「榊から離れろぉ!」

 

 彩峰が榊に取りついたBETAを排除しようとする。だが、それどころではないほどにBETAは襲い掛かる。

 

「彩峰、私に構うな!アンタはアンタの正面だけ見てればいいのよ!」

「榊がやられれば、こっちも死ぬ!ただ、それだけ!」

 

 だが、彩峰の機体は限界を迎えていた。何度かの要撃級の前腕攻撃で長刀を吹き飛ばされる。兵装担架から長刀を出そうとするが、ロッキングボルトが故障し外すことが不可能となった。

 

「外せないなら、壊せばいい!」

 

 無理やり機体パワーを活用してブレードマウントごと引きちぎる。ついたままのマウントごと長刀を振り下ろす。BETAが少しだけ距離を離す。目の前に要塞級が迫っていたからだ。満身創痍の彩峰機に要塞級が襲い掛かる。触手が高速で放たれた。だが、榊が代わりに長刀で受け止める。そして触手を切り落とす。勢いそのまま、急上昇して要塞級の頭部を切り落とす。だが、飛び出た溶解液が跳躍ユニットと頭部を溶かした。

 

 空中で何もできなくなった榊は重力に身を任せて落下した。機体は落下の衝撃で機能を一時停止した。それをカバーしようと彩峰が動いた際に、機体腹部に衝角攻撃を食らった。致命的損傷だった。内部までダメージは行き届いており、彩峰もダメージを受けていた。機体の破片が管制ユニット内部に飛び散ったのだ。それは彩峰の体を傷つけるには十分だった。

 

 破片はナイフのように突き刺さる。致命傷ではないが、痛いことには変わらない。鎮痛剤ではごまかしようのないものだった。鈍い痛みが全身を襲う。

 

「…………榊、生きてる?」

「何とかね……アンタこそ、ボロボロじゃないの?」

「……助かる見込みは無いね」

 

 補給を終えたトンカッチが合流しようとする。だが、榊がそれを止めた。

 

「中佐は横坑に進入してください!……こっちはもう助かりませんから」

 

 榊と彩峰は無線封鎖をした。その直後、横たわっていた榊のT-50にBETAが飛び乗り始める。S-11を起爆しようとするが、損傷により使えなくなっていた。彩峰のT-50にいたっては直立したまま動かなかった。

 

「榊……先、行ってるよ」

 

 そして、動けなくなった彩峰に別の要塞級からの触手が突き刺さった。即死だった。管制ユニットを貫き、触手を振り回して機体を壁面や地面にたたきつけ、バラバラになるまで振り回した。横たわった榊には、要撃級の衝角が立て続けに振り下ろされ続ける。何度も何度も胸部に連続して殴打する。防護シャッターが最初は防いでいたが、何度目かの攻撃の際にひしゃげて壊れたあと、衝角が内部に到達した。

 

 長く苦しめるかの如く敢えて死なないくらいの深さで殴られ続ける。せめてもの救いだったのが、一撃目で気絶してしまったことだった。そして、機器がショートした影響で機体から出火した。自動消火装置の故障もあり、機体全域が燃え始める。火は燃料に引火し、誘爆して爆発四散した。

 

「そんな……榊さんたちが!」

「鎧衣ぃ!手ぇ止めてんじゃねえぞ!?あいつらが必死に稼いだ時間だ!それを活かさずしてどうするか!?」

 

 トンカッチも苦しかった。別に血も涙もないわけではないのだ。ただ、今はそれを悲しむ時ではない。

 

「………!外壁が崩れたから、隔壁閉塞材が注入され始めた!中佐、作業は成功しました!」

「よし!よくやった!だったらさっさと隔壁内部に入ってこい!」

 

 だが、鎧衣は隔壁に行こうとしなかった。機体の故障かと疑いステータスを確認する。だが、故障はしていなかった。推進剤も余っている。

 

「何をしている!?さっさと来い!じゃないと隔壁が閉鎖されて取り残されちまうぞ!?」

「…………壬姫さん、付き合わせてごめんね。壬姫さんの機体の跳躍ユニットには推進剤がもう入っていないんです。あと、脳を破壊する役がなきゃ駄目じゃないですか?」

「それはS-11で吹き飛ばせば――」

「さっきのトラップが失敗に終わった時点で、成功確率は大きく減じています。だから、僕と壬姫さんで脳を破壊します!」

 

 そう言い残すと、隔壁は急速に閉鎖し始めた。トンカッチは引き返すように再三通告したが、聞く耳を持たなかった。

 

「どいつもこいつも命令違反が大好きなのか?いいから、早く戻ってこい!これ以上仲間を俺たちは失うわけにはいかんのだ!…早く!」

 

 その叫びも虚しく、隔壁は完璧に閉鎖された。

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