Muv-Luv 本土戦線異状なし、進撃せよ!   作:tonkacchi

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第64話 最終決戦

 隔壁の向こう側では未だに戦闘音がしていた。突撃砲の乱射する音だ。他にも何かを打ち付けるような音もする。先ほど試みていた脳の破壊だろう。アレが破壊されれば隔壁は誰も開けることができないからだ。その音を背中に聞きながら、第2隔壁の開放作業に移ろうとする。そして、発砲音と爆発音が途絶えた。彼女たちの命が潰えた音だった。

 

「……今は何も言うまい。白銀、2700㎜は使えそうか?」

 

 先ほどのガードのせいで故障している可能性が高かった。外部損傷はないことがはっきりと分かった。だが、内部は分からない。

 

「右腕の方はギリギリ揚弾し終わったので1発だけ行けます!左腕は問題ありません!」

 

 広間で使用した際の火力を見れば、第2隔壁は破壊できるだろう。第2隔壁は破壊しても問題はない。第1隔壁が閉鎖されたことにより、これ以上の流入はないからだ。

 

「じゃあ早速ぶっ放してくれ!」

「了解……照準調整良好。環境補正による変更、完了。砲身内温度許容値、反動制御装置起動。システムオールグリーン!」

 

 しかし、YF-22Xのマップに戦術機の反応が出た。

 

「白銀、発射シーケンス中断!発砲待機だ!前方に戦術機の反応がある!」

 

 凄乃皇は未だにレーダー偽装を施されているため、その意味が分からなかった。だが、確かに戦術機の反応があった。

 

「今機体照合をかけている……機体名は試99式改戦術歩行戦闘機。またの名を、村雨・弐型。そしてこの信号は……2号機だ!」

「村雨って、ありえないでしょ!?おまけに2号機って――」

「ああそうだ!……村雨型はたった2機しかいない試作機、それも佐渡島で2機とも消失している!何故、何故ここにお前の機体があるんだ!答えろ2号機の衛士、伊隅みちる!」

 

 そう言うと、姿を現した。その姿は村雨ではなく、佐渡島の戦術機型BETAに似たものだった。どことなく村雨にも似ていたが、そっくりと言えるほどではなかった。しかし、右腕には銃のようなものを持ち、左腕は剣を持っていた。さらにそのBETAから初期照射警報が鳴り響く。その直後に茜の不知火が狙撃される。片腕を吹き飛ばされるだけで済んだが、どうやらあの銃は光線級を取り込んでいるようだ。

 

「…………全機に通達。攻撃目標を前方BETAに集中しろ!仮名として戦術機級としておく!…白銀は電磁投射砲の射撃準備を再開し、完了次第発砲しろ!」

 

 だが、状況を理解した風間が反論する。

 

「しかし中佐、アレには伊隅中佐が残っているかもしれないんですよ!?」

 

 もっともな反論だった。だが、目の前の物体は既に攻撃を開始している。つまり、敵だ。

 

「BETAに捕まって生きて帰ってきた奴など今まで存在していない!仮にアレにみちるが乗っていたら、今頃バイタルモニターに反応があるだろうが!……いいか、奴は敵だ!殺すべき、憎むべきBETAだ!全機、攻撃開始!」

『了解!』

 

 すぐに武は2700mmの発射準備をする。先ほどの状況から待機したままだったので、すぐに発砲することができた。

 

「発射します!射線上より退避!」

 

 コールしてから5秒後に、2発の砲弾が放たれた。その射線上に戦術機型BETAもいた。だが、そのBETAは避ける様子すら見せなかった。砲弾は戦術機級に当たることなく、その後ろの隔壁に直撃した。だが、隔壁は開放できなかった。

 

「くそっ!貫通しかしてないのかよ!」

 

 さらに、右腕が軽い爆発を起こす。この射撃で右腕の2700㎜が耐久限界を迎えたのだ。左腕でもう一度狙おうとする。だが、ラザフォード場を貫通してレーザーが左腕を攻撃した。

 

「ラザフォード場を貫通した!?中佐、2700㎜使用不可!四六糎砲とS-11弾頭で何とかします!風間少尉、彩雲も借ります!」

「馬鹿!今使ったらあ号標的との接触の際のカードが荷電粒子砲だけになるぞ!」

「その機会すら作れなくなるよりいいでしょうが!」

 

 そう言って、武は全弾隔壁にロックした。戦術機級がそれを防ぐべく凄乃皇に照準を合わせる。

 

「そうはさせない!」

 

 茜が捨て身のタックルで照準をずらす。間一髪、凄乃皇の頭部をかすめる。互いに崩れた姿勢に、風間が追い打ちをかける。

 

「涼宮少尉、離れてください!」

 

 MQ-1が突撃砲を乱射しながら距離を詰め、その後ろに隠れるように風間のテンペストαがいた。正確な機械による射撃が、戦術機級を襲う。すぐに光線がMQ-1を貫き、撃墜した。だが、背後にいた風間までは到達しなかった。

 

「もらったぁぁぁぁぁ!」

 

 長刀の間合いに詰めた風間が長刀を振り下ろす。浅かったが、胸部にダメージを与えた。とどめを刺すべく長刀を下からはね上げようとする。すると、胸部に人の顔らしきものが見えた。そこには自分たちの隊長だったみちるがいた。何かに縛られて磔にされていた。そして、風間に目を合わせるようにニヤリと不敵な笑みを浮かべる。それが風間の最期になった。

 

「風間…風間ぁぁ!」

 

 風間は胸部を手刀で貫かれていた。さらにもう片方の腕で、茜の不知火を持ち上げる。トンカッチと御剣はすぐに左右から攻撃を仕掛ける。だが、不知火とテンペストαを盾にするように構える。

 

「御剣!風間ごと撃て!」

「しかし少尉はまだ――」

「助からんのは分かるだろう!…やるしかない!」

「了解!」

 

 御剣は躊躇なく突撃砲を撃つ。なるべくテンペストに当たらないように調整する。だが、その弾着地点はどれも致命的打撃にならない箇所だった。さらに、自分のバイタルパートを守るようにテンペストを移動させていた。トンカッチの方には茜がいたが、彼女はまだ死んでいない。絶対に撃てない。それを理解して動いているのだ。

 

「中佐、私ごと撃ってください!今ならコイツの動きは止まっています!」

「まだ諦めるんじゃない!これ以上仲間を失いたくないんだよ!」

 

 YF-22Xが最大加速をする。一気に体に負荷がかかるが、お構いなしだった。高速機動により背後を捉える。御剣も、長刀でテンペストごと切り伏せようとしていた。しかし、このBETAの反応速度と動きは想定を大幅に上回っていた。

 

 背中の兵装担架もどきは触手として展開し、風間の機体を貫いていた手は即座に細く収縮して抜ける。トンカッチは触手による追撃を受けて射撃ができず、御剣は投げ飛ばされた茜機に激突し吹き飛んだ。茜はまだ生きていたが、機体はボロボロだった。それでも戦う意思を見せつけるように立ち上がる。トンカッチも短刀で触手を追い払う。その後ろでは、凄乃皇が砲撃を続けていた。しかし、四六糎砲はピタリとやんだ。弾切れだった。機関砲がオートで戦術機級を狙い始めたが、全く当たる気配がなかった。

 

「白銀、あまり機関砲を使い過ぎるな!お前は戦力を温存しろ!それより、隔壁はどうなった?」

「隔壁は破壊出来ていません!ただ、ダメージは確実に入っています!彩雲の重火砲系は使い切っちまいました!残ってるのは格闘系装備だけです!」

「了解した!だったら、彩雲は補給モードにして再装備させておけ!」

 

 隔壁は未だに壊れていないが、損傷があるだけまだいい。とりあえず、目の前のBETAを撃破しなければならない。触手が落ちた光線銃と剣を拾おうとするが、それをトンカッチが狙撃する。剣は拾われたが、最脅威物体の光線銃は破壊できた。後はBETA本体だった。だが、御剣から通信が入る。

 

「中佐…涼宮少尉が、戦死しました」

 

 実は、投げ飛ばす前に何かしらが胸部を貫通していたのだ。それで茜は致命傷を負っていた。バイタルモニターを確認すると、30秒前からフラットになっていた。つまり、立ち上がったのは茜の最期の意地だったのだ。

 

「……御剣、茜から武器を回収しておけ。もう補給なんてしている暇はないからな」

 

 そしてトンカッチはこの時、明確な殺意を目の前のBETAに向けた。このような非道な行いを、みちるがするはずがない。ならば、目の前の物体はBETAという正真正銘のクズ野郎ということだ。

 

「俺の大切な仲間を無残にも殺したその罪、殺すだけでは償えると思うな!」

 

 突撃砲を構えなおし、短刀を片手に持たせる。御剣も長刀を二刀流で構える。前後から挟むように展開する。BETAも攻撃目標を凄乃皇からトンカッチたちに変更していた。だが、不思議なことにノイズ交じりでオープン回線で通信が入る。この回線は誰も使っていないものだった。

 

「…………して。…わたしを、ころして?」

 

 この声は紛れもない。みちるだった。さらに、胸部から少し見える内部には裸体のみちるがいた。上半身しか見えなかったが、何かに磔にされている状態だった。その画像を全員に共有する。その間、戦術機級は先ほどまでの動きと違い、何かに悶え苦しむような動きをし、その場から動こうとしなかった。

 

「どうやら今は動けないようだな。…お前ら、この画像を見てどう思う?」

 

 武たちはその画像を見て驚いた。

 

「これは…!伊隅中佐じゃないですか!?」

「つまり、説得が可能なのではないでしょうか?今しがたの通信からも、本人の意識がまだ残っている可能性が否定できません!」

 

 予想通りの反応だった。むしろ正常と言えるだろう。

 

「だよな、そう見えるだろ?けどさ、もうコイツ2人も殺してるんだわ。……みちるだったらこんなことしねえだろ?」

 

 そう言い、トンカッチは突撃砲を捨てた。両手に短刀を持ち、近接格闘戦の構えに変わる。

 

「御剣ぃ、コイツをぶっ殺すぞ!」

「しかし――」

「命令だ!戦術機級を殺しにいく!」

「…了解!」

 

 一気に距離を詰める。しかし、急に触手を全方位に解き放つ。誘導ミサイルのように食いついてくる。必死に逃げ惑うことしかできない。御剣が何本か触手を切り落としたが、それでも数は一向に減らない。このままここで遅滞されるわけにはいかない。トンカッチは苦肉の策を思いつく。

 

「白銀と御剣、俺がコイツを何とかしてやる!だから御剣、10秒だけ耐えてくれ!」

 

 そう言うと、トンカッチは凄乃皇の方に退避した。ある程度距離を離すと、トンカッチを攻撃していた触手が全て御剣の武御雷に向かう。だが、反転してきたYF-22Xに戦術機級は気づいていなかった。

 

「御剣はその場から今すぐに退避しろ!…一気に仕留めてやる!沈めぇぇぇぇ!」

 

 跳躍ユニットのリミッターを明らかに超えた速度で戦術機級に突っ込む。触手がYF-22Xを捉えるものの、少し遅れていた。タックルをすることに成功した。その勢いそのままで隔壁に向かう。

 

「中佐、そのままでは隔壁に衝突します!」

「それでいい!隔壁にこの質量でぶつかれば崩れるはずだ!白銀ぇ、ついて来いよ!」

 

 触手が必死にトンカッチを剥がそうと抵抗する。まず跳躍ユニットを狙おうとするが、うまく狙いをつけれていないようだ。ターゲットを変更し、ホールドしている腕を切り落とそうと試みる。だが、遅かった。

 

「へっ!遅かったなぁぁぁ!」

 

 隔壁にトンカッチと戦術機級が衝突した。その衝撃により、隔壁は崩落した。道が切り開け、あ号標的のいるエリアまでの侵攻が可能になった。

 

「武!中佐が切り開いた道だ!一気に進むしかないぞ!」

「分かってる冥夜!…ありがとうございます、中佐!」

 

 凄乃皇と武御雷は内部に侵攻した。トンカッチと戦術機級は隔壁の瓦礫の下に埋もれていた。戦術機級を突き飛ばしてから瓦礫に埋もれたので、多少距離離れているはずだ。すぐに機体を起こす。機体は立ち上がったが、すぐに膝から崩れ落ちる。機体の負荷が許容値を大幅に超えていた。その証拠に、両腕が動かなくなっていた。戦闘は一切できない。

 

「ここからだってのによ!くそっ!……いや、まだある!」

 

 すぐにトンカッチはパネルを操作する。そして、彩雲を呼び出す。全ての武装を再装備していた彩雲だ。本来なら戦闘目的ではない。だが、この際これに乗るしかないのだ。すぐに機体に乗り込む。佐渡島ハイヴ偵察の時と全く変わらない感覚だった。そして、戦術機級も立ち上がる。その奥ではあ号標的と思われる物体と、武たちが対峙していた。通信は一切聞こえなかったが、何かを話しているようだった。だが、気にする余裕などなかった。

 

「…………やっぱりみちるだよな」

 

 ボロボロになっていた戦術機級の中には、村雨の管制ユニットが組み込まれていたのが分かった。あの日みちるは拉致され、このような形に改造されたということだ。つまり、人類側の通信機が使えるということだ。恐らく聞こえる回線に周波数を合わせる。

 

「お前なんだろ、そうだと言ってくれよみちる!」

 

 しかし、さっきまでの口調と全く異なった口調で返答される。

 

「否定する。私は観察対象が呼称するBETAに属する」

「こいつ……みちるを乗っ取ったってことか?それに観察対象だぁ?それって俺たち人類のこと言ってんのか?」

「肯定。人類は我々BETAの観察対象である。我々は人類を観察しているにすぎない」

 

 どうやらみちると村雨という人類側のデータを食ったからか、無駄に流暢な話し方だった。

 

「ならなぜ俺たちと戦う!観察するだけなら攻撃しなければいい!」

「攻撃という単語に関しては否定する。我々は我々の観察活動に対する妨害行為、即ち災害行為に対処しているに過ぎない」

 

 人類との戦争を災害行為という風に言われてしまった。今まで必死に戦っていた相手は、ずっと災害対処をしている感覚で殺しにかかっていたのだ。そんな相手に今まで人類は殺戮を繰り返されていたのだ。しかし、この言葉には違和感があった。いつものみちるの口調と全く違うのだ。つまり、何かしらに操られているような喋り方だったのだ。さっきの通信の時の方が、彼女の喋り方そっくりだった。

 

「なるほどな……お前たちのことがよくわかったよ。BETAは殺す、全て、何もかも!」

「訂正、今までの対策行為は戦争であると定義。対策行為に用いるもの、または人類側の行為を攻撃と定義する。そして前言に対し否定する。人類の呼称する装備は、我々の対策範囲内にある」

 

 そして後ろを指さす。凄乃皇・四型だった。荷電粒子砲をチャージし射撃した。だが、あ号標的目前で拡散しはじかれた。それはラザフォード場だった。

 

「人類側呼称物質、G元素を応用した。あの攻撃は我々の対策範囲にある」

 

 さらに御剣機が危険領域に到達する。どうやらあ号標的からの攻撃を受けているようだ。凄乃皇も同様だった。ML機関の出力が急速に低下していたのだ。その減り方はエネルギーを吸い取られているかのようだった。

 

「なるほどねぇ……人類側兵器はどんどん使い物にならなくなるってわけか。だったら、今日ですべてを終わらせて見せるさ!」

 

 トンカッチはあることに気づいていた。目の前にいる戦術機級は、あ号標的のバックアップ的存在ではないかと。これ以前にBETAがこれほどの知性を有していたのなら、既に人間との交流が発生していたはずだ。それが観測されていない。つまり、BETAにとってもまだこの状況は未観測なのだ。さらに、武の話との不一致があった。

 

 最終決戦時にはあ号標的以外いなかったというのだ。それが今、戦術機級という亜種がいる。このBETA自体も特異点的存在なのではないかと考えたのだ。

 

 そう考えていた最中、凄乃皇・四型が最後の咆哮をあげる。荷電粒子砲の臨界圧縮極点照射だ。ラザフォード場に最初ははじかれる。だが、徐々にその拡散は狭まっていき、貫通した。あ号標的は、照射により消し炭になった。だが、目の前の戦術機級は未だにペラペラと喋り続けていた。やはり、バックアップとしての運用個体のようだ。もしくは、独立した存在という可能性だ。どっちにしろ排除しなければならない。武たちに援護してもらおうと思ったが、パワーダウンして動けなくなっているようだ。こいつとの決着は自分でつけなければならない。

 

「お前みたいな頭が変に良すぎる個体にいいこと教えてやるよ。人間社会ではな、そういう奴は不安要素として取り除かれるべきだってな!」

「……対象を災害、訂正し敵対勢力として認識。当該要素の排除に移行する」

 

 すると、戦術機級は長刀を拾って構える。トンカッチも、兵装担架から長刀を抜刀する。他にも武装はあったが、そのすべてをパージし身軽にする。跳躍ユニットのリミッターも解除する。後を考える必要はない。なぜなら、恐らく一撃で決着がつくからだ。全ての神経をこの一撃に注ぎ込む。

 

「…………覚悟ぉぉぉ!」

「……目標の排除を開始する」

 

 彩雲はどの戦術機よりも速い。全てのリミッターが解除された跳躍ユニットの噴射量は、今までの記録全てを塗り替えるほどのものだった。一瞬にして最高速度の1.5倍をマークする。

 

「我彩雲、我ニ追イツク者無シ!」

 

 神速の一撃は、戦術機級の胸部を狙う。しかし、BETAは常に学習と進化をする。飾りだった跳躍ユニットは、ついに本物になった。急速にG元素反応が跳躍ユニットもどきから拡大する。簡易的なラザフォード場を円錐状に展開し、ジェットエンジンのように飛ぶ。お互いの距離がすぐに詰まっていく。戦術機級も長刀を突き刺すように構える。

 

 しかし、トンカッチは長刀を下ろして速度を急速に落とした。そして、両腕を広げて待つ。そのがら空きになった胸部に、戦術機級は容赦なく長刀を突き刺す。長刀は簡単に機体を貫いた。だが、彩雲はまだ死んでいない。

 

「これで零距離になったなぁ!」

 

 ギリギリと今にも壊れそうな音を立てながら、彩雲の右腕が戦術機級の背中をえぐる。左腕も一緒に背中に刺す。

 

「いい加減…こっちに戻ってこい!みちる!」

 

 そして、戦術機級に取り込まれていた管制ユニットを引き抜く。触手がそれに突き刺さっており、必死に抵抗してくる。全く引きはがせない。だが、トンカッチは諦めなかった。

 

「これ以上……諦めるのは、俺はやめたんだぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 ついに引き抜く。それと同時に戦術機級は力を無くしたように崩れ落ちる。彩雲もすべての力を使い果たし、崩れ落ちる。トンカッチもまた、これ以上動けなかった。長刀の攻撃は彩雲だけでなく、トンカッチにもダメージを与えた。すぐに死ぬことこそないが、出血が止まらなかった。

 

「…………ああ、懐かしいなぁ。横浜事変の時も、出血止まらなかったんだったけ?つーか、これその時の傷と一緒の場所じゃねえか?…あの時はみちるがいたから何とかなったが……今度こそくたばりそうだな」

 

 そして物音が機体の下からする。すぐにハッチを解放する。別に誰でも構いはしない。BETAだって構いはしない。どのみち人類は勝ったのだ。今さら死のうが生きようが変わりない。最期に拝む面が何か気になるだけだ。そして、その正体が分かった。

 

「…女神様の降臨にしては、随分遅いじゃねえか」

 

 そこにはみちるがいた。目の色は変色して赤色に変わっており、肌の色もところどころ変わっていた。ちらりと見えた背中にも傷跡のようなものがあった。だが、正真正銘伊隅みちる本人だった。ボロボロになったトンカッチを見て、彼女は泣き崩れた。

 

「そんな……私がやったの?…ごめんなさい、私が、え?嫌よ…私がトンカッチを殺したなんて…そんな!?」

 

 みちるは自らが行った行為だと勘違いし、酷く錯乱した。実際にやったのはBETAにすぎず、あくまでもみちるはその中にいたというだけに過ぎない。だが、完全に勘違いしていた。このままだと『一緒に死ぬ』とまで言いかねない。トンカッチはなるべく痛みを表情に出さずに、優しく語りかけた。

 

「大丈夫、大丈夫だから。お前は確かに目の前のBETAの中にいた、だが動かしてたのは紛れもなくBETAだ。ちゃんとお前の本心はちょくちょく聞いてたから大丈夫さ。だから……少し近くに来てくれないか?」

 

 みちるは震えながら管制ユニットに入る。優しくトンカッチは抱きしめた。傷口が少し開いて痛むが、今はそれよりも彼女の肌のぬくもりを感じていたい。彼女は人のぬくもりを持っていた。優しい暖かさだった。

 

「トンカッチ、その傷は……」

「ああ、気にすんなって。古傷が開いただけだから、問題ねえよ!……これで、俺たち人類は明日を繋げたんだ。俺たちがやったんだぜ?たった数人で、この総本山は陥落できたんだ。すごいだろ!?」

「ええ、きっと歴史に残るほどのお話ね。……みんながきっとあなたの帰りを待ってる。私も待ってる。だから、一緒に帰りましょ?」

「そうだな…………一緒に、横…は、まに……かえ、ろう」

 

 トンカッチは、最愛の女性に包まれて静かに、深く眠った。

 

 

 この日、2002年1月1日の日本時間午前6時21分。人類史における最大の転換点とされる作戦、桜花作戦は人類側の勝利で幕を閉じた。




次回が最終話になります。
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