Muv-Luv 本土戦線異状なし、進撃せよ! 作:tonkacchi
2026/1/1 11:00 国連統合軍第1方面軍拠点 横浜総合基地
この日は25年前に実行された、とある作戦の記念式典だった。その作戦の参加人数は10名程度で、無謀ともいえる戦闘を経験し、わずかな兵のみ帰還した。同時に発生した日本帝国存亡のかかった防衛線も熾烈なものだと聞く。そのすべては伝説じみたものとして今日まで語り継がれていた。
その時戦っていた兵士の多くは死に、BETA戦役と呼ばれる戦争の中でも最大の死傷者数を出していた。彼らのおかげで未だに人類は存続している。そう思い、男はフラフラと基地内を歩いていた。
「大尉~じゃなかった、隊長!こんなところにいたんですか!?もう式典始まってますって!」
「え、マジで言ってんの!?速瀬少尉、すぐにでも俺を案内してくれ!俺はこの基地の構造が全く分からん!」
「りょ、了解です隊長!」
隊長と呼ばれた男はすぐに速瀬少尉の案内で式典会場に向かう。式は開幕しており、メディアのカメラなどが大量に配備されていた。さらに演説台には首相と将軍殿下がいた。現在の首相は崇宰恭子という女性だった。2002年から連投しており、初の武家出身首相として期待され、その期待に応え続けていた。将軍も変わっておらず、煌武院悠陽殿下が即位したままだった。
そんな彼女たちの前の席が2席だけ空いていた。そこが男と少尉の席だった。大遅刻かつ最前列席を空ける失態を犯していた。さらに、男は式典の流れをもう一度確認する。
「え~っと、今が首相宣誓だから、次じゃん俺の番ってこと?!」
そう、この男は今回の式典で大役を任されていたのだ。このままでは間に合っても赤っ恥をかくことになる。だがどうしようもない。しかし、基地内に警報が鳴り響いた。
『こちら横浜HQ、基地正門前にデモ隊が突入してきた模様!また、残り10分で戦車が当基地に到達する!第1戦術機甲部隊『ヴァルキリーズ』は速やかに迎撃態勢を整えよ!』
この時代になっても人類同志の争いは収まっていなかった。最近は沈静化していたが、5年ほど前には人類と合成種たるBETAブリッドとの争いがあった。大多数は基本的に許容する考えだったが、戦争相手のBETAとの合成種を認めない者はもちろんいた。地球上からBETAはほとんどいなくなっているが、未だに残ってはいるのだ。戦争は終結しても、戦闘は継続している。
今回の襲撃もそのような考えの持ち主が画策したのだろう。男たちは国連軍所属で、許容派だった。やるべきことは、この暴動を抑えることだった。ヴァルキリーズは最新型の戦術機に乗り込む。強化装備を着る暇もないので、D型軍装のままで戦術機を起動した。
「全く、デモするなら別の日にしてほしいですよね隊長!?」
「いや、今日で俺助かったぜ?じゃなかったら、大恥かくとこだったんだぜ!?それならこの鎮圧作戦の方が楽ってもんよ!」
ヴァルキリーズは格納庫から戦術機を出した。彼らの戦術機は、最新鋭の第5世代戦術機『村雨改』だった。2001年時の戦術機である村雨から譲り受けた名だった。滑走路に出て正門を確認する。暴徒がなだれ込むように基地施設内に突入する。
「ありゃりゃ、横浜警備隊は何やってんの!?」
「あれでも踏ん張ったほうでしょ?ほら、あそこ」
そこには屈強なマッチョと、細マッチョの警備隊員2人が必死に基地施設外に投げ飛ばしていた。それ以外の警備隊がもやしに見えるほどだった。
「ま、あそこは警備の連中に任せて俺らは戦車の制圧をしようか?」
『了解!』
すぐに飛び、空中を観察する。都市迷彩の施された戦車の一団を確認する。高速道路を爆速で走っていた。しかし、よく確認すると戦車ではなく装甲車だった。戦術機相手では何もできない。おまけに、どことなく様子がおかしかった。抵抗しようという気が全くなかったのだ。
「隊長これはどういうことなんです!中将
「いやいや、俺に聞いても分かんねえよ!?戦車だって聞いたからこっち来たってのに、これじゃ虐殺になりかねんが…」
そして、通信が入る。
『こちら横浜HQ、今回の警報は諸君らの即応能力を図るための演習だ。すぐに帰投し、式典に参加せよ。決して遅刻がないようにな!』
どうやらバレているらしい。もしかしたら気を使ってスクランブル演習をしたのかもしれない。そうとしか考えられないほどタイミングが完璧だった。なぜならテレビ中継では殿下と首相が雑談をしているほどだったのだ。彼女たちは何もかもを知っていたようだ。すぐに帰投して機体から飛び降りる。そして会場の椅子に今度こそ座る。ヴァルキリーズのメンバーが座ると同時に式典は再開された。
そして、すぐに男の番が来た。名前を呼ばれて、壇上にたち、カメラの視線が一気に自分に向けられるのを感じた。なるべくカッコよく映ろうと、背筋をしっかりと伸ばして胸を張る。そして、宣誓を始める。
「私は国連軍衛士として世界平和のために一心に戦い――――――」
長いような短いような宣誓を終える。緊張したが、思ったより言葉がスラスラと出たと感じた。着席すると、基地司令兼第1方面軍司令の中将が演説をする。英国人だそうだが、彼もまたBETA戦役を生き残った人類の一人だった。目元に大きな傷跡があるが、戦争を忘れないためにあえて残しているそうだ。
彼の演説が終わり、式典は終了した。退役軍人の講演会があったが、ここから先はヴァルキリーズ含めた現役軍人には関係がない話だった。この後は自由時間になっており、興味のある者が見ればいいという程度だった。男は興味はあったが、用事がありそれを片付けに行った。
11:30 基地内ブリーフィングルーム
ブリーフィングルームに向かうと、何人かが軍服で待っていた。少し古いタイプのC型軍装だった。そこには中将も着替えた状態でいた。彼らは男のとある目的のために集まってくれたのだ。
「それでは
全員揃っているわけではないが、予定の空いている者は全員来ていた。そして、彼らは男の要求を承諾し、一人ずつ話し始めた。その一つ一つをメモと音声に残していく。その数は多く、国連軍だけでなく退役軍人や帝国軍もいた。しかし、その誰もが口をそろえて言った。
『大馬鹿野郎』
誰もが必ずそのワードを言った。もう少しオブラートに言ってもいいものだとは思うが、誰もがストレートに言っていた。みんなが彼の話題について盛り上がっていたが、ジェームズが時計を見る。
「さて大尉。思い出話をし過ぎたが、そろそろ時間じゃないのかね?」
今日は式典のほかにもう一つやることがあった。それは出兵式だった。この横浜から出発し、月面戦線に向かうのだ。今BETAとの戦争は月面に移っていた。既に人類側は宇宙対応型戦術機を開発していたが、それでもなかなか攻略は難しい。その戦線増強のための出撃だった。新しく編成されたヴァルキリーズの全員が行くのだ。
「頑張ってこい、伊隅隼人大尉!今度こそ遅刻するんじゃないぞ!?」
「分かってますって、中将!それでは皆さん、お元気で!」
伊隅隼人、それが男の名前だった。隼人はブリーフィングルームを抜け出して、出兵式に参加するために走っていった。
「さて、俺たちも彼らを見送りに行こうか!」
ジェームズたちも、戦士たちを見送るべく式に向かった。
同時刻 宍粟訓練校
「――であるからして、この場合には攻撃ではなく一度撤退する必要があるということだ。さて、もうそろそろ時間だな?」
そう言うと、教官の男はモニターにテレビ中継を映し出す。
「助教殿、質問があります!」
「お、なんだ言ってみろ?」
「ここに助教殿と教官殿のご子息もいらっしゃられるのでしょうか!?」
「……いるぜ?ああ、コイツだ。あいつは今回出兵する中でも特に期待されているらしいぜ」
そう言って指を刺した先は、隼人だった。
「助教殿のご子息って、隼人大尉なのですか!?それならなおさらですよ!なぜ見に行かれないのですか?」
「行きたいのは山々なんだがな、今ここでお前らみたいなひよっ子を育てる必要があるからな…」
そして画面を再度見つめる。隼人が何かを喋っていた。どうやら意気込みを語っていたようだ。ぼーっと眺めていると、廊下から音がする。
「貴様ら何を見ている…って、なんだ助教の講義の最中だったか」
女性の教官が教室に入ってくる。訓練生が敬礼をしようとするが、それを制止する。そして、その教官もモニターを見つめ始めた。
「……お前ら、この時間の講義は終わりだ。午後からの訓練に備えておけ。午後からは実機訓練だか覚悟しておけよ!」
「もしかして、伊隅教官と助教のタッグですか!?」
「そのつもりはなかったが、どうしますかな教官?」
「…………まったく、そこまでハードな方がいいのか!?まったく、仕方のない奴らだ。助教、訓練内容を変更し二機連携での訓練に変えてあげよう!」
「ということだそうだ。……安心しろ、俺の方が少し手加減してやる」
そう言い、教官らは教場を後にした。廊下から見る外の景色は明るかった。
「教官殿、我々も中継を見ますかな?」
女の方がきょろきょろと辺りを見回した。
「……あのねぇ、その『教官殿』って言い方やめてくれないかしら!?普通に下の名前で呼べばいいでしょ!?」
急にそのようなことを言うので、男の方も焦った。男も周囲に誰もいないことを確認する。やはり誰もいなかった。
「……はあ、分かった。みちる、ちょっと教官室に行こうぜ?あそこのモニターなら見れるはずだしさ」
「そう、その呼び方でいいのよ!まったく、トンカッチは変なところで恥ずかしがるんだから」
二人の教官の名前は、伊隅みちるとその夫トンカッチだった。25年前とほとんど容姿は変わっていなかった。そんな二人は教官室に向かった。すでに中継が映し出されており、他の教官も釘付けだった。そのうちの一人の女教官がトンカッチたちに気づく。
「あ、伊隅准将とトンカッチ准将だ。中継の方はもう始まってますよ?」
「…速瀬、もう私たちは准将じゃないんだぞ?」
トンカッチたちA-01の生き残りは、トンカッチ以外は配属先を自由に選べた。トンカッチは帝国軍に散々迷惑をかけたとして、この宍粟訓練校の教官をやるように命令されていたのだ。みちると速瀬はそれについてきただけだった。と言っても、情勢の落ち着き始めた最近になってのことだった。ここに来てまだ1年しか経っていないのだ。
「みちるはまだ分かるぜ?けど速瀬、お前までくる必要なかったろうに……」
「へへへ、だってそっちの方が面白そうじゃないですか?それともあれですか?二人だけでイチャイチャ出来るとでも思ってたりとか――」
「「この年でそんなことできるかぁ!」」
「まあまあやってもいいんじゃないですか?そんなことより、中継の方見ましょ!…あ、うちの子と隼人君じゃないですかコレ!」
中継画面は速瀬少尉にアップされる。隼人の副官だそうだ。速瀬少尉は、水月の息子だった。水月が女手一人で育て上げたのだ。そんな彼らの子供たちは、シャトルに乗り込んだ。それを眺めていると、電話がかかってきた。
「はい、こちらは宍粟訓練校です……ええ、そうです。私がトンカッチですが……中将ってことはジェームズか!?」
電話の相手はジェームズだった。話している内容はみちるたちにはわからなかった。だが、トンカッチの顔は笑っていた。
「ああ、そうだ!よろしく伝えておいてくれ!」
そうしてトンカッチは電話を置いた。内容を聞いても何も答えてはくれなかったが、トンカッチはひたすらにうれしそうな顔をしていた。そしてテレビ中継を閉じ、午後の訓練の準備をし始めた。何回もみちるたちは聞いてくるが、全く取り合わなかった。内容はトンカッチとジェームズしか知らない。
青く澄んだ冬の空に向けて、シャトルは飛び始めた。25年前のあの日のように、彼らもまた明日を繋ぐために空に上がるのだ。
あの日の大人たちが必死につないだ明日は、子供たちに引き継がれた。それは、未だに途切れることを知れない。
これでこの話は終わりとなります。
あとがきは特にしませんが、楽しんでいただけたでしょうか?
自分でも知らず知らずのうちにパロディネタに勘違いされかねない描写の数多くがありまして、全く考えてもいないところでそのようなことがよく発生していました。お詫び申し上げます。
また、この作品に協力してくれた数多くの方々に改めて感謝申し上げます。
本当にありがとうございました。
以下、これまでの友情出演(敬称略、記載漏れあったらすみません)
ジェームズ・スミス(@Lt_smithFFR41mr)
ヱルム・ビャーチェノワ(@EIM_Su37UB)
もち(@mochi02913)
ビルストと戦術機好きの男(@Yuki90300757993)
如月中尉(@KSRG_TSF94)
篁亞魏斗(@Raven00F)
瑛都 [ZGK0]帝国元帥 元大佐(@ZGK088)
霧雨アロナクス壱型丙(@Ke78684Hasunuma)
BD2 リユス (ship5&6) (@R50354110)
零(@F104T1002)
皆様、出演許可をいただき本当にありがとうございました。