VTuberって凄えよな、だってやりたいことなんでも出来るもん 作:木野了承
一言で言うと、俺は仮想に飢えていた。
昨今、インターネットは発展に発展を重ねて、いつでも誰でもどこでも、手軽に触れられるようになった。動画にゲームにCGに。パソコンはもとより、手のひらサイズのスマートフォンでアクセス可能。見るだけにはとどまらず、作ることだって出来てしまう。まさに夢の時代だ、テンション上がるなぁ。
しかし、現実ってのは妙に堅い。最初は面白かったものもしばらくすると定型化していって、最終的にみんな食傷気味になって廃れていく。インターネットも例に漏れず、俺にとってはもう既にマンネリ気味だ。眺めることに関しては、俺はとっくの昔に飽きていた。
しかし、そんなことで止まる俺ではない。飢えた俺は、どうしたか。眺めることに飽きた俺は、何をしたか。答えは簡単。
「ウス。じゃあ今日はウイルスのモデル作ってきたんでね、そいつをワクチンで撃ち落としていきます」
作るしかねえだろ、ないんだから。
動画投稿サイトYouTube。元は動画共有を目的として作られたそのサイトだが、現在は動画投稿だけにとどまらず配信することも出来る。今じゃ動画や配信によって広告収入を得るYouTuberと呼ばれる職業も世間に認められるようになってきて、つくづく良い時代になったもんだと思う。
俺もまた、そんなYouTubeに動画を投稿したり配信したりしている身なのである。基本はXR技術を利用したメカ系の動画。場合によってはCGやゲームエンジンも使う。だってその方が面白いし。自分は大学で情報系の学部に通っている身なので、ソフトの使用にあたっての知識や技術がそれなりにあるのが幸いしている。ちなみに、XRとはクロスリアリティの略語で、端的に言えば最先端情報技術のことを指す言葉である。VRとかARとかが例だ、聞いたことある人も多いと思う。
「あ、いたいた! あのハリセンボンみたいなのねぇ、あれがウイルスなんすよ! 中にねぇ、核があるんで、そこにワクチンを打ち込めばヤツは爆発四散します!」
今回の企画は先程述べた通り、ウイルス撲滅ゲームだ。プレイヤーは一人称視点で、マップに隠れたエネミーオブジェクト「ウイルス」を全て消すのが目的。早い話、武器がワクチンのPvE、FPSゲームである。モデルからオブジェクトからマップからシステムに至るまで、全部俺が一から作り上げたものである。夏休みから取り組み始めて、それで今は二月だから、ここまで作るのに半年かかったことになる。達成感もひとしおである。
現在そのゲームを配信でお披露目中であるが、コメント欄が中々に盛況だ。普段の配信は十人も視聴者がいれば良い方だが、今回はその五割り増しの十五人も俺の配信を見てくれている。ちょっとコメント覗いてみよう。
:相変わらずの過激派
:今のご時世にこれを作り上げる狂気
:ワクワクチンチン
:もうコイツがウイルスだろ
おい、言われたい放題じゃねえか。いつも通りだけど。
言われっぱなしは癪なので、俺も反論していく。
「良いじゃねえかよ、ワクチンでウイルスバスターするゲーム作ったってよォ! おれぁ、ウイルスのせいで高校の修学旅行なくなったんだからよォ!」
:あ、まずい
:ゴメンネ
:泣かないで
:笑ったお前が見たいんだ
「ふん、分かってくれれば良いんすよ、分かってくれれば。じゃあワクチン、核にぶっ指すから」
:なんでウイルスに核があるんだよ
「確かに……! ウイルス、原核でも真核でもねえじゃん……!」
視聴者のコメントに、思わず膝を打った。作っている最中はアドレナリンドバドバだったので、そんなこと全然考慮していなかった。一瞬思考が止まるものの、すぐに立て直す。
「ま、まあゲームだから! 中身が伴ってりゃ良いんだよ! ほら、ワクチン打ったら爆発したっしょ! 痛快⭐︎」
:痛快⭐︎ じゃねえんだよなぁ
:怨嗟感じます
:なんか画面煙たくね?
急いで取り繕ったにしては上手く誤魔化せた。そのまま核については触れず、先程説明した通りになることを視聴者に見せて、ゲームを進行させていく。コメントで指摘されているように、現在画面には紫色の煙が映っていた。
「あ、爆発すると一定範囲内にウイルスが蔓延されます。その煙っすね。……あ、やべ! 吸っちった!」
範囲を見誤り、俺、というかプレイヤーはその煙に覆われてしまう。しばらくして煙は収まったものの、プレイ画面には仰々しいエフェクトが表示されてしまった。プレイヤーもどことなく苦しそうにしている。いかにも、まずそうな状況。
:おい、大丈夫か
:なんかヤバそう
:吸ったらどうなるんだ
「吸ったらどうなるか、と言いますとね……」
神妙な口調で、俺は告げる。
「プレイヤーが風邪ひいて咳が酷くなります」
『ゲホゲホッ! エホッ、ウェッホォ! ウォッホン! ウェェェェェ!』
ほら、この通りね。めっちゃうるせえ。ずっと咳してる、コイツ。ミュートにしようかな。
コメント欄も咳と比例するように、どんどん流れていく。
:は?
:うるさい
:ミイラ取りがミイラになってるじゃねえか
:病院行け
:恥知らずのパープルヘイズ
:そのワクチンを自分に打てよ
「確かに……! なんでワクチンでウイルス撃ち落とすんだよ! ワクチンは自分に打つものじゃねえか!」
もうなんかめちゃくちゃだ。自分で作っておきながらそのカオスっぷりに戸惑いつつある。
「やっぱ人に見せるって大事だなぁ。配信やって良『ウェッホッ! オゥウェッ! オゴォォォ!』よ。うるせええええ! なんだ、このゲームはッ!」
:お前が作ったんだろ
:笑えよ
:楽しそうで何より
ゲームの根幹を揺るがすツッコミを、自らの手で刺す。これ以上の愉悦は中々ない。これが市販のゲームならこうは行かないだろう。俺が作ったのだ、文句を言ったところでどこにも火は立たない。別に、炎上など意識したこともないが。
そんなこんなで、今日の配信もほどほどに盛り上がった。十数人ぽっちでも、俺と俺が作った作品を楽しんでくれている。この瞬間、この空間、何物にも変え難い言いようもない良さがある。ああ、楽しい。始めてよかった、YouTuber。
「はい、プレイヤーが咳のし過ぎで緊急搬送されちまったのでゲーム終了です。ちょうど良いし、今日の配信はこんなところで。課題そろそろやりてえし」
:マジかよ、もっと見たかったぜ右ねじ
:良いゲーム作るじゃねえか右ねじ
:課題頑張れよ右ねじ
:次も見に来るぞ右ねじ
「なんで最後だけちょっと優しいんだよ。ありがとな」
笑いながら視聴者に礼を言う。ちなみに、右ねじとは俺のハンドルネームである。高校受験で右ねじの法則に救われたことに起因する。ありがとう、右ねじの法則。いつかまた会う日まで、右ねじの法則。高校卒業以降全然使う機会ねえけど。
ではまた次の配信で、と締めの言葉を視聴者に向けて送って、そのまま俺は配信を切った。こうして配信を閉じたとき、なぜかいつもよりやけに静かさを感じてしまう。一人暮らしだからかな。いや、関係ないか。
「ふぃー。よし、エゴサ、エゴサ」
配信を閉じてすぐに、Twitter……ああいや、今はXだ、Xを開く。評判とか意見とか、配信では見れなかったものが見れるかもしれないから、ついついチェックしてしまうんだよな。まあ、せいぜい五、六件程度しか見つからないんだけど。アンチのツイート、じゃなかったポストを見つけてしまうときもあるし。「普通に嫌いだから⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(検閲済み)になってほしい」ってポスト見かけたときは流石に効いて寝込んだ。サラダチキン食ったら回復したけど。
「んぁえ、なんかDM来てる」
開いてすぐに、アプリのメールマークのところに通知が表示されているのに気付いた。ダイレクトメッセージだ、誰かが俺宛に直接連絡を入れてきたらしい。現在扱っている「右ねじ」アカウントは友人や家族などとは繋がっていないので、身内以外の方からの連絡であることが予測される。
(まーたエロやら詐欺やらインプ稼ぎやらのアカウントか? Xになってから露骨に増えやがってよぉ、良い気分だったってのに)
俺はそのDMの送り主を、勝手にそういう輩と決め付けてテンションを下げた。Xに限らず、SNSには怪しい話が絶えない。お金が絡むものとなれば尚更だ、みんなも気を付けような! みんなって誰のことだ? 俺は訝しんだ。
アカンヤツなら即ブロックしてやろうと思って、さっさとメッセージを確認する。届いていたのはスパムでも何でもなく、見るからに堅苦しい、業務的な知らせであった。予想とは違う意外なものに拍子抜けした俺は、面倒くさがりながらもその内容を確認する。
「えーっと、『はじめまして。VTuber事務所ぶいすとりーむ採用担当をしております七草なつみと申します。右ねじ様の動画並びに配信を拝見し、ぜひ一度お話をさせて頂きたいと思いご連絡させていただきました』って……。これって、スカウトメール……?」
届いたメッセージを一通り音読して、俺は硬直した。なぜならその送り主の事務所名に、いくらか覚えがあったからである。
「あれ……? ぶいすとりーむって確か、ついこないだ時価総額が何千億だかなんだかとかでニュースになってた、YouTubeチャンネル登録者百万人越えライバー多数所属の、めちゃめちゃ有名なVTuber事務所じゃなかったっけ?」
嘘だ、と思ってメッセージを二度見する。確かに、文面には「ぶいすとりーむ」と書いてある。いやいや、と思って、今度は検索エンジンを開いてぶいすとりーむと検索した。一番上に出てきたサイトをタップする。うわお、ガチガチの公式サイトだ、やっば。なんか聞いたことあったり見たことあったりする名前がちらほら。VTuberをよく知らん俺ですら知っているクラスの、どデカい箱じゃねえかよ。この間俺がやってるソシャゲとコラボしてたね。ガチャ引かなかったけどさ、金ないし。
「は、はは、ははは。はああああああぁぁぁぁぁぁ⁉︎」
流石に動揺を隠し切れず、俺は自室で一人、叫び散らかす。閑静な住宅街に、成人男性の叫び声がこだました。
この日、俺の人生は大きく変わった。とあるウイルスで青春を失った人間が、自分で作ったウイルスを撃ち落とした夜にこんなことになるとは、全く予想だにしていなかった。飢えから始まったこの活動。人の欲望は何を引き起こすか分かったものではないと、痛感した瞬間であった。
書き溜めてたものを気晴らしに投下していくスタイル。それなりにストックはあるしプロットも用意しているけど不定期更新とさせていただきます。ゴメンネ。