VTuberって凄えよな、だってやりたいことなんでも出来るもん 作:木野了承
VTuber界隈ではモデルを作った人、キャラクターデザインを担当した人を親として扱う文化がある。とどのつまり俺たちにとって、彼女、用具レットさんがママであるという文言はあながち間違いではないという事実が出来上がる。まさか二十歳を超えて二人目の母親が出来るとは思わなんだ。人生何が起こるか分からんな。
改めまして、とレットさんが述べる。
「よろしくね、二人とも! 話は予々聞いてるよ、本当はもっと早く挨拶したかったんだけどね」
仕事が忙しくて、と申し訳なさそうに彼女は言う。確かに今日も仕事が押して来たとのことだったし、見るからに多忙そうな身。先ほどの言葉から推測するに原稿作業もあるようだし、色々と察せられるものがあった。
「いえ、お構いなく。えくすとりーむメカの生みの親である方にお会い出来て嬉しいです。丹野達人と申します、よろしくお願いします」
「し、神宮寺誠を担当させていただく、千葉誠心です! よろしくお願いします!」
初対面ということで挨拶を交わす。軽く会話をした後、すぐに打ち合わせへと話は進んだ。
「本日は初配信に向けたLive2Dの利用説明と、配信内における企画に関して話し合います。話を円滑にするためにレットさんにも同席していただきました」
「権利関係のしがらみがあるけど、そこはなっちゃんと私で解決出来るから心配しないでね。したいことやこうして欲しいって要望はじゃんじゃか言ってねー!」
どんとこい、と胸を張る彼女。相変わらず七草さんのことをなっちゃんと呼んでいる。本当に、どういう間柄なのか気になって仕方ない。だが答えを知るのは怖いので、追求はしません。
「まずはLive2Dについてざっとおさらいを。要は2Dモデルですね。イラストを元に、パーツ毎に可動域やモーションを設定し、カメラで人の動作をトラックして動きを反映するスタイルになります」
「目や口の動きなどの表情、それに加えて体全体の動きを反映させるのが基本だね。表現や再現としては乏しいけど、手軽さはピカイチだ」
確かに、と頷く俺と千葉さん。これまでにも何回か2Dモデルの研修や練習は行っているので、二人の説明は体感的に理解出来た。なんなら大学のゼミでちょっと触ったこともある。この前教授がバ美肉してたし。めちゃくちゃ面白かったな、アレ。
「機材については以前よりお渡ししている、社用のスマートフォン端末で導入可能です。ウェブカメラをお持ちでしたら、そちらを利用してもらって構いません。事務所から貸し出すことも可能ですので、必要であればご相談ください」
「使うフェイストラッキングアプリはスマホ版、PC版ともにあるので、お好きな方を。社用端末の方には必ず導入することになってるから、迷ったらそっちを使うと良いよ」
「PC版を利用するには自分で導入すればいいんですかね?」
「可能であればそれで構いません。分からなければ担当が説明、もしくは導入しに伺います。と言ってもデータをインポートして配信に反映させるだけですから、難しいものではありませんよ」
なるほど、と相槌を打つ。これで基本情報は確認出来た。となると、次は。
「では、話を具体的にしまして……。初配信に向けた、企画についてになります」
最初に七草さんは、俺達二人共通の課題を提示した。
「初配信の中でお二人には、視聴者に向けた自己紹介、今後の目標や配信内容についての説明をしていただきます。この二つに関しては必ず言及してください」
「わ、分かりました……!」
「呼び名やハッシュタグなどについては公表するもしないも個人の判断にお任せします。初配信、もしくは次の配信で出す方が大半なので、先を見越して検討してください」
「じゃ、俺は初配信中に出しちゃお」
「ボクもそうしとこうかな。早い方がいいと思うし」
分かりました、と返す彼女。三人のそんな話し合いを見守っていたレットさんは、楽しそうに頷き、語る。
「うんうん。いいね、この感じ! 新期生、燃える!」
(まあ俺は違う意味で燃えてましたけど)
心の中で自虐する。まあメカってことは回路や燃料があるだろうし、引火してもおかしく無い。なんなら物理的に燃えることを目指すのも面白いかもしれない。将来的には宇宙まで行けるメカを目指したい。……なんか最近、思考がえくすとりーむメカに支配されている気がする。心が二つある。
さて、とレットさんが話題を変える。
「せっかく私がいるんだから、キャラクターやLive2Dの仕様について質問や要望があれば受け付けるよ。何かあるかな?」
「あ、じゃあ」
俺はすぐに手を上げ、彼女に要望を伝える。
「以前から思ってたんですけど、Live2Dのモデルって正面だけ使ってる人が大半じゃないですか。だから、俺は────」
こんなことがしてみたい、と思ったことをそのまま伝える。すると彼女は目から鱗と言わんばかりに、感嘆の言葉を吐いた。
「はーっ! 言われてみれば確かに、そういう表現出来るかも! 設定画からして材料は揃ってたのに、考えたことなかったなぁ……!」
指を顎に添え、唸るレットさん。同じく感心した様子の千葉さんが、俺に問いかけた。
「すごいねぇ、丹野くん。なんでそんなこと思い付いたの?」
「え? ……メカだから?」
「……関係あるの、それ」
咄嗟に答えた内容が適当だったため、訝しげな目を向けられる。俺はメカを便利な言葉だと認識している節がある。多分千葉さんにそれを見抜かれている。この人は良いツッコミ役になってくれそうだ、これから頼むぜ千葉さん。
そんな俺達とは別に、七草さんは噴き出すように笑い声を上げていた。
「あははっ、あはっ、あははははっ!」
「……なっちゃん、ツボり過ぎじゃない?」
「ふ、ふふっ、あはははっ、はあっ! あっははっ!」
「え、ちょ、ちょっと!? なんか、めちゃくちゃウケてるんですけど⁉︎」
大笑いする彼女。普段真面目な人が笑い転げている姿ってのは結構心配になるもんなんだなぁ。
「じゃあ、えくすとりーむメカの設定に組み込んじゃいますけど、大丈夫ですよね?」
「え、あ、うん。えくすとりーむメカに関しては後から設定を付け足せるように余白を用意しているから、全然問題ないよ」
「よっしゃ。じゃ、千葉さん、というか神宮寺誠にもちょっと協力してもらっていい? 配信の最後にやろうと思ってるから、それの仕込みとしてさ」
「うん、ボクに出来ることならなんでも協力するよ!」
「あっはっはっはっはっ! はははっ、ははっ! ……っ! っ! っ!」
「あ、とうとう引き笑いに……!」
最初の炎上云々の話のときに比べ、雰囲気がガラッと変わったミーティングとなった。変に重くなる話よりこういう明るい雰囲気の方が絶対に良い。もうすぐ俺たちの活動は始まるのだ、テンションは上げてなんぼである。
(帰ったら早速準備を進めるとするか)
この先のことを画策して、俺は気合を入れる。
デビューは目の前、期待が膨らむ。かつてないほどの予感を胸に、俺は初配信に向けて心と環境を整備していくのであった。
七草さんと用具レットは同い年で、過去一緒に仕事をしたことがあります。現在も交流が続いているため仲が良いです。描写する余地がないのでここで供養して起きます。