VTuberって凄えよな、だってやりたいことなんでも出来るもん 作:木野了承
大学が夏休みに突入してすぐに、神宮寺誠のデビュー配信が控えていた。今日がその当日、記念すべき日。同期の放送を見守るために、予定をさっさと済ませようと朝早くから活動する俺なのであった。
そういやつい先ほど、大学の図書館に本を返しに行った帰りに縁日を見かけ、そこでじゃがバターとラムネとたこ焼きを買ってきた。それらを食べながら彼、神宮寺誠の配信を眺めることにする。
「はいっ、大丈夫でしょうかっ……! ちゃんと出来ていますでしょうかっ……!」
(おっ、始まったわ)
十九時きっかりに配信がスタートする。畳の部屋、「誠」の掛け軸、飾られた日本刀。背景からして剣士感が溢れている。やはりこうして見ると和風の雰囲気は素晴らしい、よく馴染む。神宮寺のビジュアルともマッチした、お手本のような配信画面だ。BGMも三味線や和太鼓が特徴的な曲なあたり、しっかり準備してきたようで何よりである。
「はい、初めましてっ! 神宮寺誠と申します! 初配信ということで緊張していますが、何卒よろしくお願いし、まっす!」
緊張して言葉を詰まらせている。どことなく口調も辿々しく、ショタっぽさが引き立っていた。必死感が可愛い、庇護欲をそそられる。これはチャンネル登録不可避である。あ、もうしてたわ。ファン第一号は俺だ、残念だったな。
挨拶を終えた彼は、より詳しい自己紹介を行った。
「普段は治安を良くする組織で働いてるんだけど、やっぱこの時代にはちょっとそぐわないみたいで。広報としてVTuberとなりました!」
(お〜、それっぽいこと言ってますなぁ)
「VTuberとしての目標は、まず3Dモデルを手に入れることです! そのときは皆さんに、ボクの剣技をお見せしたいと思います! 自慢じゃありませんが、居合や剣術に関してはボク、結構評判が良いんです!」
(それは俺も早く見たい)
心の中で逐一反応をしながら配信を見続ける。なんか、ずっとこのときのために二人で頑張って来たのに、いざ本番となると変な気分だ。この画面に映っているのは千葉さんのようで千葉さんじゃない。きっと千葉さんも俺の配信を見るときに、同じことを思うだろう。
「配信内容については、最初のうちは色んなことに手を出してみようと思っています。ゲームとか、歌とか、雑談とか! ボク、まだこういうのに疎くて……リクエスト頂けたら嬉しいな」
柔らかい口調で視聴者に向けて言い放つ神宮寺。あざとい。ちょっとドキッとした。悔しいので後でリクエストを送っておきます。一緒にアーマード・○アやりましょう。俺は後方で腕組んで見てるので。
彼はその後、ファンネームや呼び名、ハッシュタグ等を発表していった。配信自体は良い感じに落ち着いた状態で進んでいき、同時接続者数も一万人近くまで伸びたのを確認した。先輩方に比べりゃ少ないかもしれないが、それでも悪くない数字だろう。最初から十万人とか叩き出す方がおかしいのだ。というか一万人ですら多いから。右ねじの平均同接の千倍だからな。
「……それでは、本日はこれまでとなります。お付き合いくださり誠にありがとうございました!」
(誠だけに?)
届かぬボケを抱える。いつもなら口に出すところだし、ツッコミが飛んで来るところだが、今日からはその頻度も下がっていくことだろう。
ではまた次の配信で。その言葉を最後に、神宮寺誠の初配信は幕を下ろした。配信が終わってしまったことに少し寂しさを覚えながら、俺は画面から意識を逸らす。
「あっ、食うの忘れてた……」
すっかり冷めてしまったじゃがバターとたこ焼き。一口食べて、すぐさま電子レンジへと持っていく。こういうときには素直にマイクロ波に任せよう……。
鮮烈なデビューではなかったものの、安心感のある配信であった。求められるものは人によって違う。彼の王道とも言えるお淑やかな活動方針は正しいと思う。マネージャーである七草さんの見事な手腕だ、頼りになる。
千葉さんの良さは人畜無害さにある。神宮寺誠はきっと、ここから徐々に登録者を増やすに違いない。あの人柄はボディブローのようにじわじわ効いてくることだろう、そしてその隙を突くように3Dモデルが実装されれば話題になること間違いなし。プランが先まで明確だ、彼もやりやすいだろうな。
(これは俺も負けてらんないっすねぇ)
同期のデビューを喜ばしく思いながらも、対抗心も芽吹く。ライバルでもあり、友でもある。憧れてたよ、こんな存在。
俺のデビューは来週である。きっと忘れられない夏休みの出来事となるだろう。実に楽しみだ。
次の日、感想会ということで千葉さんからご飯のお誘いを受けた。お店は焼肉屋、奢ってくれるらしい。
「ボク、タン塩! タン塩食べたい!」
「慌てなくても肉は逃げんよ」
「何言ってんの、肉は売り切れるから実質逃げられるよ! 早く頼まなきゃダメなんだって!」
食のことになると途端に面白いことになるな、この人。一緒にご飯食べてて楽しいって、大事ですよね。
一通り注文を終え、肉が届くのを待つ。その間に早速、初配信の感想を言い合った。
「どうだった、ボクの配信。丹野くんから見たらどんな印象だった?」
「緊張してて可愛かったね」
「か、可愛いって……」
「言われ慣れてないんか。今後めちゃくちゃ言われることになるぞ、俺が今めちゃくちゃ言ってやろう。可愛い! 可愛い! 可愛い!」
「あー! あー! やめて、なんかめちゃくちゃ恥ずかしくなって来た!」
両手で耳を塞ぎ、顔を赤くして悶える千葉さん。そういうとこだぞ、萌えキャラだよもうそれは。
「YouTubeでもSNSでも評判は良さそうだな。バズってる、ってわけじゃないけど、既に登録者は五千人超えてるし上々だろ」
「七草さんにも褒められちゃった! 配信経験が浅い中よく頑張りましたね、って!」
え、ズルじゃん。羨ましい。
さて、と千葉さんは朗らかに笑った。
「あとは君のデビューだ。例の原稿はあれで良かったかな?」
「ああ、充分。協力ありがとう」
「ううん、気にしないで。丹野くんは大事な同期だからね、手伝うのは当然!」
えっへん、と胸を張る千葉さん。
「期待してるからね、えくすとりーむメカ!」
「任せとけって。目に物言わせてやるぜ」
同期の期待を背に受け、強気に返す。その後は二人で肉を食らい、英気を養った。千葉さんがタン塩を六人前くらい食べてたのにはビックリした。終いには「牛タンは飲み物だから」とか言い出して、その時はちょっと引いた。んなわけねえだろ。
何はともあれ、神宮寺誠は無事デビューを果たした。あとは俺のデビューを残すのみ。長かった準備期間も、後数日で終わりだ。
覚悟も準備も出来ている。さあ、この調子でデビューまで直行だ。俺という存在を、インターネットに刻むのだ。