VTuberって凄えよな、だってやりたいことなんでも出来るもん   作:木野了承

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えくすとりーむメカの初配信について

 

 お盆を目前、夏真っ盛りの八月某日。時刻、十八時五十八分。とうとうこのときがやって来た。

 

(さあて、一丁やったりますか)

 

 既にYouTubeと配信ソフトによる予約配信機能によって、放送自体は始まっている。あとは配信開始のボタンをクリックするだけだ。

 意を決して、開始ボタンを押す。マイクをオンにし、画面を配信用のものに切り替える。

 

「ウッ、ウンッ! あ、やべ……」

 

 喉を整えようとつい咳払いをしてしまい、それがマイクに乗ってしまう。まさかデビュー配信一発目が咳払いとは。これは一生の不覚である。七草さん、ごめんなさい。

 気を取り直し、挨拶を開始する。

 

「ウス。初めまして。この度ぶいすとりーむ新人ライバーとしてデビューしました、えくすとりーむメカと申す者でございます。よろしくお願いしまーす! ぶるぶるぶるぶるっ!」

 

 元気よく挨拶をする。ついでに首を激しく振っておく。連動してモデルのメカが荒ぶる。もうこの時点で情報量が多い。

 チャット欄を覗き込む。

 

:元気な人だわ

:よろしく

:礼儀正しいメカだ

:荒ぶるメカ

 

 思っていたより好印象で嬉しい。Xでの評判を見るに配信においても心配していたが、どうやら杞憂だったようだ。そもそも否定的なファンやアンチは配信を見に来ない。当然の成り行きだろう。

 

:メカも咳払いってするんだね

 

「咳払い……? メカ、ニンゲンノイウコト、ヨクワカラナイ」

 

 冒頭のミスを指摘され、誤魔化す俺。片言でなるべく機械音声的な抑揚で話したが、それまで普通に喋っていたので余計にツッコミどころが増えただけであった。案の定チャット欄でめちゃくちゃ指摘されている。

 

:さっきまで普通に話してただろうが

:一人称メカて

:心とかないんか?

 

「心? そこになかったらないですねぇ……」

 

:メカが百均の定員やるなよ

 

 ツッコミのチャットが届く。次から次へとどんどんコメントが流れていくので、読むのが案外難しい。嬉しい悲鳴というやつだ。

 

「うお〜、なんか予想以上にいっぱい来てくれてますね。メカ、感動。略してメ感動。ありがとうございます」

 

:急に普通に喋るな

:一文字だけなら略す意味ねえじゃねえか

:しかも心あるし

 

「意味、ない。心、ない。全部、ない。もうイイ?」

 

:su○remeの店員もやってんのかよ

:どんだけ引き出しあるんだ

 

 視聴者さん、めちゃくちゃネタ拾ってくれる。楽しい〜。

 話が逸れに逸れまくっているので、ここいらで話を戻す。

 

「そろそろ本格的に自己紹介しますか。私の名前は先程も伝えました通り、えくすとりーむメカです。何がえくすとりーむなのかというと、存在自体がエクストリームです」

 

:何もわからん

:自己肯定感が高い

:見習いたい、このスタンス

 

「VTuberになった理由は、事務所に『ロケットパンチ撃ってみたくない?』って誘われたからです。なのでVTuberとしての目標もロケットパンチを撃つことです。最終的には宇宙を目指します」

 

:何を言ってるんだコイツは

:異質過ぎる

:スケールがデケェ

 

 事実とフィクションを織り交ぜて話しているから内容がめちゃくちゃである。でもやるからには本気で目指す所存だ。少なくともロケットパンチは絶対に撃つ。出来るようになったら本社のビルに向かって試し撃ちするつもりである。特に恨みはないけどごめんな、パーティクル・パーティ。冗談です。

 次に俺は、今後の活動方針について視聴者に伝えた。

 

「今後の配信は〜……やりたいことを自由にやります。ただメカ、三半規管弱くて。一人称視点と三人称視点切り替えたり、カメラ感度が高いゲームはちょっと苦手なので、ゲーム配信はなんかちょっと限られてきちゃいそうなんですよね」

 

:メカも画面酔いするんだ

 

「画面酔い……? メカ、ニンゲンノイウコト、ヨクワカラナイ」

 

:もうええて

:デジャヴ感じます

:何、気に入ってんだそのワード

 

 再びツッコミが入る。ただ本当に画面酔いやばいんだよな。ウイルスバスターゲームは自分で作ったものだからなんとかなったけど、市販のヤツは慣れるまで時間を有する。配信者には結構なハンデな気がする。まあ、個人的にはだからなんだという話になるが。

 

「まあ私、メカですから。頑張ればなんでも出来ますから、ぜひ私めの配信や動画に足を運んでいただければ幸いでございますよ」

 

 そんな言葉で自己紹介を締める。さて、これで七草さんから提示されたノルマは完了だ。このあとはもう俺の、えくすとりーむメカによる独擅場である。

 

「じゃあ次に、呼び名やハッシュタグについて発表します。呼び方についてはそのままえくすとりーむメカ、略称としてはえくメカ、なんならメカでもいいです。伝わりゃイイ」

 

:その通りだけど投げやりィ!

:若干長いしな、正式名称

 

「ハッシュタグについては、一般は『#えくすとりーむメカ』、R-18タグは『#メカはダメカ』でお願いします」

 

:メカのR-18タグは草

:果たして描かれるのだろうか

:でもビジュアル的にめちゃくちゃ絵は描きやすい

 

 描きやすさについては確かに。ほぼ長方形だけで描けるもの。フレー○ーの亜種か?

 

「配信頻度ですが、週四回は必ずします。時間帯は夕方の十八時から夜の二十三時までの間くらいかな。夜行性のメカなので、ご了承ください」

 

:メカに夜行性も何もないだろ

:人間より人間らしいぞこのメカ

 

 色々とツッコミどころを与えつつ、えくすとりーむメカの配信情報を公表していく。続けて俺は、キャラクタービジュアルについて語った。

 

「立ち絵についてご紹介します。私の立ち絵を担当してくれた絵師様、所謂ママですが、用具レット様になります。ご存知の方もいらっしゃるかと思います」

 

:レットさんなんか

:神宮寺誠と一緒なんだね

:一期生以来でもあるな

:美少女に定評のあるレットがメカを?

:妙だな……

 

「美少女に定評のある……もしかして俺、美少女になる可能性あります?」

 

:可能性は捨て切れない

:どちらもあり得る

:そんだけだ

 

 それはそれで楽しいかもしれない。検討しておきます。

 

「正面、側面、背面の設定画ですが、まあどこから見てもロボですね。顔に口が無い。瞳孔もない。はなから表情をトラックするつもりがない。皆さん、俺が表情を取り戻すところを見守っててください」

 

:もうなんなんだコレは

:ちょっと怖くなってきた

 

「ちなみに瞳孔がない代わりにモデルの目を光らせることが出来ます」

 

:光るな

:なんでちょっと凝ってるんだ

 

「夜行性のメカですから。そりゃ目、光りますよ」

 

:ま さ か の タ ペ タ ム

:夜行性ってそういうことかよ

:伏線を回収するな

 

 現在ではLive2Dの機能を拡張させるアプリケーションも普及しているため、こういうことも出来る。積極的に活用していきたいところだ。

 プロフィールについても紹介していく。

 

「メカが好きなものはですね〜、とりあえずまあ化石燃料は好きなんですけど。機械とかコンピュータとか、色々いじくるの好きですね。今後はモデルの機能を中心に、色々とやれること増やしていければ最高ですね」

 

:最初の化石燃料が気になり過ぎて話が入ってこない

:化石燃料が好きなライバーって何?

:石炭とか食うのかな

 

 丹野達人自身は化石燃料はそれなりにしか知らない。あくまでえくすとりーむメカの設定である。だが念の為、ある程度の勉強はしておきました。シェールオイルが特に興味あります。

 話も盛り上がり、話すべきこと、話したいことは話し終えた。配信始めてから三十分近く経ったし、そろそろ頃合いだろう。

 

「では最後にですね、同期の神宮寺誠から手紙を頂いております。配信中に読んでいいとの承諾を得ましたので、ここらでちょっと読んでみようと思います」

 

 もちろんこれは演出であって、俺が直々に頼んだものである。内容を音読する。

 

「拝啓、えくすとりーむメカ様。残暑の候、ご清祥のこととお喜び申し上げます」

 

:書き出しがキチンとしている

:いかにも真面目らしい

:さすが剣士、礼儀がなっている

 

「本日はデビュー配信と伺いました。心よりお祝い申し上げます。えくすとりーむメカ様の今後の活動がより一層発展を遂げられますようお祈り申し上げております。さて、本題ですが」

 

 そこから一気に流れが変わる。

 

「メカ様は化石燃料がお好きとのことで、家ではオイルをごくごく飲んでいるとボクに豪語していましたね。しかしこの前本社の自販機にて、ライ○ガードを購入している場面を見かけました。これは一体どういうことなのか、お答えくださると幸いです……敬具、神宮寺誠」

 

:あ

:これはまずいですよ

:何でライ○ガード飲んでんの?

:美味いよね、分かる

 

 言動と行動の矛盾を指摘され、都合が悪くなる。誤魔化しはせず、しばしの沈黙を演出する。

 

「ッスー────。フゥー────」

 

 俺は一度大きく息を吸って、そして吐いた。オーディオインターフェースに手を伸ばす。

 エコー機能をオンにする。

 そして、俺は叫んだ。

 

「エマァァァジェンシィィィモォォォド!」

 

:⁉︎

:⁉︎

:鼓膜無いなった

 

 急に大声を出した俺に困惑するチャット欄。そんなことお構いなしに、俺はそれを続けていく。

 

「シュゴーッ……ボボボボボボボボッ! 説明しよう! えくすとりーむメカは自分に都合の悪いことを言われるとすぐ保身に走り、緊急脱出機能を発動させてしまうのだ!」

 

:させてしまうのだ! じゃないが

:効果音もナレーションも全部メカ

:とんでもねえのが始まっちゃったな

 

 さあ、ここからが本番である。

 俺は配信ソフトを操作し、予め設定しておいたスイッチ機能をオンにする。右手は立ち絵を動かすためにマウスを構え、左手はキーボードのW、A、S、Dキーに添える。手始めにゆっくり、順番にWASDキーを押していく。

 

「やはり飛ぶには回転ッ! 正面、側面、背面、側面、正面側面、背面側面、正面側面背面側面! うおおおおおおっ!」

 

 なんとびっくり、Wキーはモデルの正面を、Aキーは左側面を、Sキーは背面を、そしてDキーは右側面を映し出すように設定してあるのだ。これを押していくだけでそれぞれの画面に切り替わり、その場でメカの立ち絵が回転しているように見えるのだ!

 俺はキーボードを操作しながら、同時にマウスで立ち絵の位置を調整する。モデルの下には立ち上る細長い雲のイラストを用意してあるので、ドラッグして一纏めにしておく。

 それでは、と配信を締める俺。

 

「今日の配信はここまでとなります! また次の配信でお会いしましょう……! ご視聴ありがとうございました、さよ〜なら〜────」

 

 キーボードをカチャカチャと忙しなく叩き、マウスで立ち絵を画面上部へと動かしながら、別れの挨拶を告げる。わあ〜、えくすとりーむメカが回転しながら天へと上っていく〜。ちなみに音声についてもドップラー効果を反映させるため、俺自身がマイクから遠ざかるようにして発声した。うなりが生じていることだろう。物理選択で良かった〜。

 

(いやー、やってみたかったんだよな。緊急脱出)

 

 やりたかったことが出来て満足する。えくすとりーむメカのモデルは完全に画面外に出たが、雲のイラストは残っている。しかしそれに関しても、アニメーション機能に標準で備わっているパーティクル効果とフェードアウト機能を基準に整えた効果で霧散させた。イラストが塵のように消えていく演出が映し出され、画面には背景だけが残る。

 チャットを覗いて、感想を確認する。

 

:何を見せられたんだ俺たちは

:すごい、なんというか、すごい

:どこに潜んでたんだよこの狂人、いや狂メカは

 

 ずっとインターネットの片隅におりましたよ、目立たなかっただけで。七草さんや千葉さんやレットさん、そして事務所のおかげで、こんなことまで出来るようになりました。本当に、感謝である。

 こうして俺の、えくすとりーむメカの初配信は無事終了した。時間にして一時間にも満たないものだったが、それにしては確かな満足感があった。しかし同時に疲労も大きく、俺は配信後、七草さんと確認の報告をし合った後すぐに眠ってしまった。やっぱり緊張とか不安とか色々あったんだろうな。

 その夜、俺は夢を見た。空を飛び、海を渡り、星の間を抜ける夢。それは俺が見た景色なのか、それともえくすとりーむメカの視界だったのか。定かではなかったが、それでも楽しい夢であったことに違いはなかった。

 




supremeの店員のモノマネめちゃくちゃ好きなんですけど通じるのか?
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