VTuberって凄えよな、だってやりたいことなんでも出来るもん   作:木野了承

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進歩について

 

 

「昨日は素晴らしい配信でした」

 

 初配信の翌日。開口一番、七草さんは俺に向けてそんな言葉を送ってくれた。わざわざ俺の家の近くまで来てくれて、「どうしても直接伝えたかったから」と彼女は会いに来た。相変わらずの熱意である。

 照れ臭かったが、俺は素直にその言葉を受け止めた。

 

「ありがとうございます。事務所側の支援があったから実現出来たようなものなので、本当に、感謝しても仕切れないというか」

「ふふっ。ライバーの要望に応えるのは我々の務めですから」

 

 彼女はそう答えたあと、手に持っているソフトクリームを一口食べた。先程一緒にお店で買ったものだ。七草さんはバニラソフト、俺は抹茶ソフトを注文した。やっぱり夏といえばアイスだよな。厳密にはソフトクリームとアイスクリームは別物だけど。

 二人でそれを食べながら、話を続ける。

 

「えくすとりーむメカの初配信は、想定以上の結果を残したと言えそうです。SNSではXを中心に切り抜き動画が拡散。YouTubeの他にも各動画サイトでランキングに掲載されるほどの話題性でした。評判が逆風の中でしたが、もうそれも払拭出来たと思います」

 

 彼女が朗らかにそう通達する。確かに、今朝起きてすぐにSNSを開いたらタイムラインがえくすとりーむメカの話で盛り上がっていたのが確認出来た。動画サイトにはメカが緊急脱出するシーンの背景透過素材が頒布されており、もう既に何個かその素材を利用した動画が投稿されていた。「ギャラクティック・○ヴァを破壊するえくすとりーむメカ」という動画が早速バズっていて、それを見たときはつい笑ってしまった。まさか間接的にとはいえ俺が破壊する側に回る日が来るとは。アイツはいつも事あるごとに破壊されてて大変そうだな、と思う。

 それで、と七草さんは続けて語った。

 

「丹野さんが昨日緊急脱出装置で利用した、あの回転表現の機能ですが。恒常的に配信に組み入れようという話が出ています。企画が通ればぶいすとりーむ所属のライバー皆さんに、標準機能として備わることになるかもしれません」

 

 へえ、と相槌を打つ。そんな話になっているとは、驚きである。

 

「あの機能の優秀な点は、キー入力を同期出来る点にあります。キー入力に従ってモデルが向きを変えるということは、配信に視覚的変化を与えることが出来、これは普段行うゲーム実況配信に活きてくることと予想されます」

「ゲーム実況配信……あー、そうか。PCゲームの移動入力はWASDキーが普通だから、それと連動して機能を利用することが出来るってことか」

 

 まさしく、と彼女が頷く。つまりは、ゲームのプレイアブルキャラクターの視点変更がライバーのモデルにも反映出来るという算段なわけだ。キーを押すだけでゲームの移動入力(もしくは視点変更)とモデルの表示変更が同時に出来るから、まるでゲームのキャラとライバーが連動して辺りを見渡しているかのような、そんな表現になることだろう。確かに、面白そうな試みである。

 

「そうなると、ライバーがゲームの世界観の中に入り込んでいるような光景になりそうですねぇ」

「はい。まさしくバーチャルな存在と言える配信が出来ると思います」

 

 そうですね、と彼女の言葉に同意する。ただ普及するとなると、俺には一つ懸念があった。

 

「でもきっとその機能も、盛り上がるのは最初だけなんでしょうねぇ……」

 

 ついポツリと、そんな言葉を溢してしまう。

 今までインターネットで何度も見てきた。最初は目新しくてみんな目を輝かせていたのに、そのうち飽きて使わなくなって、忘れられていくような、そんな展開を。今回のこれも、そうなる可能性が高い。直感的にそう思う。

 

「良いんですよ、それでも」

 

 七草さんは明るく、そう応える。彼女は続け様に語った。

 

「プログレス……進歩とは読んで字の如く、進み、歩むこと。その過程で進んで来た道は、次の道へと続く標となります。例え飽きられ、忘れられ、流されたとしても、その標が次の道へと導いてくれたことに変わりありません。だから、止まらないこと。それが我々に出来る最大限の努力でしょう」

 

 彼女は俺の方を見る。俺の思考を見透かすような、綺麗に澄んだ目。まるで確信しているかのように、彼女は言う。

 

「貴方なら、分かっていると思いますが」

「…………」

「あ、目を逸らさないでください、ダメですよ」

「い、いやいや。なんか、恥ずかしくて……」

「恥ずかしがらせるために見ているのですよ? 私はネガティブなことを言う弊社のライバーに、お灸を据えているのですから」

 

 彼女は悪戯っぽく、そう告げる。もう本格的にこの人に心を狂わされそうだ。今こそ緊急脱出装置の出番なのに、俺にはその機能はない。くそ、悔しい。助けてくれ、えくすとりーむメカ! 無理メカ。俺の心の中のえくすとりーむメカがそう言った。語尾がメカなのは安直過ぎると思う。

 

「ふふっ、やっぱり楽しみです。今後の貴方の、えくすとりーむメカの活躍が」

 

 愉快そうに笑う七草さん。俺はそんな彼女を横目に、抹茶ソフトを舐める。あー、美味しい。味がまったく分かんないけど。

 夏風が俺達の頭上を通る。まだまだ気温は高くて、こうして外にいるだけで汗が滲む。だけどなぜか心は爽やかで、気持ち悪さや不快さは全然無かった。

 俺達は仮想に生き、そして現実に生きる。でも生き方は双方変わらなくて、その道が外れることは決してない。

 俺達はただ進んでいく。飢えを凌ぐために、あらゆる過程を糧として、この道の先を目指して。そこに仮想も現実もない。俺達が満足するまで、ただ歩み続けるだけなのである。

 




これにて一章、完! 次回から二章です。

ギャラクティック・ノヴァくんほんと好き。
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