VTuberって凄えよな、だってやりたいことなんでも出来るもん   作:木野了承

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読み上げ機能について

 

 ゲームモードは以前と同じくサバイバルモード、ワールドはまた新たに作り直した。ちなみに今回はコントローラーを接続してそれで操作している。キーボードだと手元がズレた際に修正が効きにくいからだ。見えないという制限はかなり大きい、こういったところにも影響が出る。

 

「よし、ログイン! ここからはアイマスクを装着します。みんな、操作よろ」

 

『あいあいさー』

『発進』

『突貫』

 

 景気良くプレイを開始する。淡々と流れる音声に耳を傾けながら、みんなからの指示を待つ。

 

「え、マジで見えん。怖い。初期位置どうなってる。助けてくれ。教えてくれ」

 

『落ち着け落ち着け』

『砂漠だな、ここは』

『近くに別の地形がある』

『そのまま真っ直ぐ、止まるまで』

 

「真っ直ぐ? 分かった、進むぞ」

 

 聞こえてきた情報を元に、操作を行なっていく。歩いてみると確かに、足音のSEは砂を踏む音になっている。砂漠なのは間違いないようだ。どちらかといえば外れの初期位置だろう。

 しばらく進んだところでSEが止んだ。入力は続けているのに止まったということは、障害物に当たった可能性が高い。それを確認してか視聴者が、コメントにて報告する。

 

『前に段差』

『一段跳べ』

『跳んだらちょっと待って』

 

「ほいほい、ジャンプするぞー」

 

 指示に従い、進行していく。思っていたより順調だ。視聴者のチャットが端的かつ明確でやりやすい。この調子で進みたいと、心の中の善の俺は思っている。心の中の悪の俺は……言わずもがなである。

 

「木、欲しいよな。どっかあるかな」

 

『少し右向いて』

『右の方に何本かある』

『奥にあるよ』

 

「よし、じゃあ右行くか。向いていくから調整頼む」

 

『ちょい右』

『もうちょい』

『そこでいい』

 

「オッケー! ここだな、行くぜ」

 

 素晴らしい程までの連携だ。意外とちゃんとしてるな、みんな。いつもより真面目なコメントばかり。

 と、思ったのも束の間。

 

『音声案内を開始します』

『実際の交通規制に従って走行してください』

『お、なんだなんだ』

『カーナビがおる』

 

(お、キタキタ……)

 

 とうとう読み上げ機能で遊び始める視聴者が出てきた。今回はカーナビに扮しているようだ、チョイスが良い。センスがある。

 

(ふざけるヤツが出てくるのは想定の範囲内。なんならまともにプレイ出来てた序盤の方が不思議でならんくらいだ)

 

 このときを待っていましたと言わんばかりに構える俺。この程度のネタ、なんてことないものである。捌き切ってこその配信であろう。

 

「カーナビいるならもう安心だな。最短経路で頼みます」

 

『二百メートル先、逆進です』

 

「うぉい、それなら早く伝えろ! だめじゃん、逆進してるんじゃ! 初っ端からダメそうだコレは……!」

 

 早過ぎる裏切りに失望のツッコミを挟む。小気味良くネタを拾ったことで、それがチャットの火に油を注ぐこととなった。ここから一段と、ネタに走ったチャットが増えていく。

 

『右折と申します この車線、何か変』

『上上下下左右左右BA』

『初見です』

『そのまま進めば木に当たる』

『メカも歩けば棒に当たる』

 

「おけ、このままね! ていうか、なんか誰かいまコマンド打たなかった? コ○ミコマンド打ってなかった? 俺の配信をグラディ○スかなんかだと思ってるやついない?」

 

 しかもどさくさに紛れて初見コメが来ていた。名前が右折の奴もいたし、なんか諺的なことを言っているのも聞こえた。流れるのが早過ぎてちゃんと聞き取れなかった。だと言うのにこの間にも様々なコメントが流れ続けている。気付けば絶え間なく、読み上げ機能が作動していた。ゲーム音より騒がしくなっている。

 

(あ、あれ。なんか、思っていたより凄い情報量だぞ……?)

 

 途端に困惑し始める俺。気を取り直そうと、視聴者に指示を求める。

 

「ちょ、みんな、助けてくれ! 木材! 木材欲しいの! 木ィ、切りたいのォ!」

 

『環境破壊は気持ちいいゾイ』

『切実な叫び』

『もうちょい先にある』

『いくぅ』

 

「おい! 勝手にいくなっ!」

 

 ああっ、つい拾ってしまった! ツッコまざるを得んだろ、今のは!

 

「やばい! もう分からん分からん! 今俺どこだ、エクストリームモラトリアムだ!」

 

『自分を見失うな』

『メカ喪失』

『このメカ、愉快過ぎる』

『もうめちゃくちゃだ』

『笑い止まらん』

『お腹痛い』

 

 わちゃわちゃと騒ぎ続ける俺と視聴者達。視聴者がメカを操縦するとは何だったのか。みんなに翻弄されるばかりの俺である。

 

「見えないよォーッ! 分かんないよォーッ! 怖いよォーッ! 助けてママァー!」

 

『お前が始めた物語だろ』

『メカに恐怖という感情が芽生えた瞬間』

『ちくわ大明神』

『何だ今の』

『メカもママに助け求めるんだ』

『これにはレット殿もにっこり』

『なんか書いとけ』

『目隠しがあろうがなかろうが進捗に大差がない』

『このメカ、本当に期待を裏切らない』

『早く緊急脱出しろ! 間に合わなくなっても知らんぞ!』

『いくぅ』

 

 混沌を極めるチャット欄。読み上げ機能がそれらを淡々と読み上げていく。もう既に操縦コメントが埋もれている。操作しようにも指示が無いからどう動かせば良いか分からない。お手上げ状態だ、もうどうにもならない。

 一向に進められずまごつく中、妙な音が耳に入ってくる。読み上げ音声の間から聞こえてきた、聞き慣れない効果音。何かが着火したような、じわじわと燃えるような、そんな音だ。

 

「なんか、なんかやばい気がする……!」

 

『あ(察し)』

『これはもう、アレですよ』

『アレでしょうなぁ』

 

 このゲームには様々な敵性モブがいる。前回戦ったゾンビの他にも、弓矢を撃ってくる敵や、毒を持つクモ、盗賊的な人間なんかもいるらしい。どいつもこいつもプレイヤーを見るや否や、喧しく騒ぎ立てながら攻撃をふっかけてくる存在だ。

 そんな中でも一際、アスクラプレイヤーから恐れられている存在がいる。昼夜関係なく出現し、音も無く近寄り、そして辺り一帯を巻き込んで甚大な被害をもたらす、その存在。

 それは、自爆する敵性モブ。

 通称掃除屋である。

 

「ああああああああぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 響く爆音、劈く悲鳴。掃除屋の爆発によって俺が操作するキャラクターは木っ端微塵に爆散し、体力がゼロとなって死亡してしまったらしい。このゲームはデスした際に音やカットインなどが入らないため、それがより一層虚無感を強調する。

 

「あぁ、あぁ、あぁー……あぁ……」

 

『お掃除されてしまったなぁ』

『塵ひとつ残ってない』

『そもそもアイテム持ってへんもん』

『爆発オチなんてサイテー!』

 

 何も出来ず、されるがまま爆発を喰らってしまったえくすとりーむメカ。呆然とする俺。

 アイマスクを取る。画面には「死んでしまった!」というメッセージが大々的に表示されていた。背景にはさっきまで俺が立っていたであろう地形と、爆発によって抉られたクレーターが映っているのが確認出来た。本来であればそこに採取したアイテムが散らばっていたり、得た経験値が光の粉としてばら撒かれたりするのだが、何も成せていない俺にはそんなものは一切無かった。

 

『お、視線が動いた』

『アイマスク取ったんだな』

『どうよ、初デスの感想としては』

 

「……つかれた」

 

 視聴者に尋ねられ、そんな身も蓋もない感想を告げてしまう俺なのであった。マジで疲れた。特に耳。

 こうして、第二回アスクラ配信は企画が頓挫した形で終了した。配信は概ね思っていた通りの流れとなったが、それ以上に混沌極める状況であった。あまりにコメントが多過ぎる。意思統一とかそういうレベルじゃない。最終的にはまともにコメントを拾えなくなったもの。

 

(あ、あれー? なんか思ってたのと違う!)

 

 自分の予想としてはふざける奴とちゃんと指示する奴、その指示を紛らわせる奴が入り乱れるような光景になると思っていた。しかしその実、ほとんどがはっちゃけたコメントを残す者だった、ユーモアのセンスがちゃんとあったのが悔しい。唐突にいくな。

 頭の中で、読み上げ機能の機械音声が反芻する。脳内、もしくは耳内にこびりついたように響いている。画面酔いとは別のベクトルの眩暈がしてきた。

 

(端からまともにプレイ出来るとは思ってなかったとはいえ、こりゃ次元が違うな……)

 

 七草さんの懸念を今、ようやく理解する。企業所属のVTuberの集客力。俺はそれを舐めていたのだ。右ねじ名義時代の感覚に引っ張られ過ぎていた、もっと早く気付いてもおかしくなかったのに。反省する俺。

 俺がこのゲームをまともに配信出来るのは、いつになるのだろうか。今回の件を踏まえ、より一層難しく思う俺なのであった。

 

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