VTuberって凄えよな、だってやりたいことなんでも出来るもん 作:木野了承
アスクラ縛りプレイ配信の翌日。今日は千葉さんと一緒に合同ボイストレーニングだったため、昼前から外出して動き回っていた。先程そのボイトレも終了して、本日の予定は完遂。現在はこの前七草さんと一緒に来た喫茶店で昼休憩中、千葉さんも一緒である。
「丹野くんもここ来たことあるんだ」
「デビュー前の打ち合わせで、七草さんと一緒に」
「あは、ボクと一緒だね」
にこっと笑って、クリームソーダを飲む千葉さん。一緒に頼んだホットドッグとサンドイッチももぐもぐと食べ進めている。ほんと、よく食うなぁ、この人は。
俺も頼んだパンケーキを口に運びながら、千葉さんと雑談を交わしていった。
「昨日のメカの配信は、めちゃくちゃだったね。まさかあんな結果になるとは……」
「まったくだ。思ってた以上にカオスだった。俺は俺と、俺の視聴者のポテンシャルを甘く見ていたらしい」
「読み上げ機能は面白いけど、扱いには注意しないといけなさそうだね」
「ああ、身に染みたわ」
千葉さんの言葉に同意する。昨晩夢に出てきたもん、棒読みの悪魔が。今後の配信においても取り扱いは慎重に検討すべきだと、そう感じる。
配信後七草さんと連絡を取り合ったが、彼女は「同時接続者数が大体千人を超えたあたりで、コメント読み上げ機能の利用を止めるライバーが多い」と所感を語っていた。昨日の配信を見れば理由は分かる。要は、収拾がつかなくなるから使わなくなるのだ。
(チャット欄を管理してくれるモデレーターの方がいるからまだ良いとはいえ、コメントの内容まで誘導、管理は出来ないし……)
難しいところだな、と悩ましく思う。えくすとりーむメカとして活動していく中で、配信というコンテンツの難しさを、俺は改めて実感したのだった。
それでも、昨日の配信で得られたことは少なからずあった。読み上げ機能については今後はスーパーチャットのみでの反映や限定配信内で実装する程度であれば丁度良い塩梅で利用出来るだろうし、なんなら音声自体をカスタムする配信をしても良い。さらには視聴者のコメントにあったカーナビやコマンドなんかを実装するのも面白いと思う。やはり、人に見せるってのは大事なことらしい。新たな刺激をもらえる。
今後の展望を思い浮かべて、愉快な気持ちになる俺。それを見た千葉さんが、不安気に尋ねた。
「どしたの、丹野くん。そんなニヤニヤして」
「んー? いや、何でもないよ」
同期による心配の目を適当にはぐらかす。意識を俺から逸らせるために、俺は話題を神宮寺誠の配信についてに変えた。
「しかし、千葉さんの体力にはビックリだったな……。なんだよ、アスクラ配信十二時間ぶっ続けって。寝て起きたらまだやってて流石に引いたぞ」
「いんやー、楽しくて楽しくて! あのゲーム、無限に遊べちゃうね!」
「俺は三十分も継続して遊べないのに……」
「ほんと、それに関しては同情する」
可哀想に、と哀れみの視線を受ける。それと同時に、千葉さんは不満な様子も見せる。
「早く一緒に遊びたいのになー、アスクラで。丹野くんは今後、どうするの? やめちゃうの、アスクラ」
「うーん、画面酔いをどうにかしないことには話が進まんな。昨日のアレは根本的な解決にはなってないし……。ま、ちょっとずつゲームプレイして慣らしていくつもりだ」
「ふぅん。それは、配信で?」
「配信でやることもあるだろうけど、酔ううちは裏でやるつもり。七草さんとも相談してそう決めた」
そっか、と頷く千葉さん。安心したような表情を見せる。
「ということは、そのうち一緒に出来るよね!」
「うん。多分」
「じゃあ、そのときまで先で待ってるからね、ボクは!」
お、約束をお覚えのようで。流石のショタ剣士である。あんまり関係ないか。ああ、と俺は頷きで返す。
夏の昼下がり。他に客のいない静かな喫茶店で、二人楽しく軽食を摂る。こういうまったりした時間こそ、大切なひと時のように思う。
「おっ?」
不意に、スマートフォンの通知が鳴った。確認してみると、それは七草さんからのメッセージで、Slackの共有チャンネルの方に送られてきたものだった。千葉さんも同じチャンネルに入っているので、確認のために口頭で伝えておく。
「千葉さん、なんかSlackにメッセージ来てる。七草さんから」
「ふぇ、ふぉんほ?」
サンドイッチを口いっぱいに詰め込んでいたため、籠った返事が戻ってくる。そのまま千葉さんは慌ててスマホを取り出して、すぐさまそれを確認した。
「ングッ、と。えーっと、何々……」
「嬉しい報告だな、こりゃ」
先にその内容を確認した俺は、千葉さんが読み終える前にそんな感想を述べる。俺達にとっての第一目標、それが達成されたことの報告だった。自然とテンションが上がる。
千葉さんがメッセージの内容を音読していく。
「神宮寺誠、えくすとりーむメカ両名の収益化申請が通りました、って……これって、つまり!」
「ああ」
頷き、言葉を返す俺。
「これで俺達は正真正銘、配信で食っていけるってわけだな」
「……! ん〜っ! やったーっ!」
途端に、千葉さんは腕を大きく伸ばして、身体全体で喜びを表現した。元々小柄な方なので、こうして腕を上げている様子を見るとレッサーパンダの威嚇を思い出す。めちゃくちゃ可愛い。このままぶいすとのマスコットとして採用しても良いと思う。
「これで無職からの解放だ〜! 嬉しい〜!」
(今ので一気に笑えなくなったんだが?)
唐突にぶち込まれた情報に脳を焼かれる。職に関しては契約した時点で「VTuber」になったと同義でしょうが。紛らわしいこと言わないの、まったく。
何はともあれ、これで一歩前進である。職がどうとか、収益がどうとか、俺にとってはあまり気にするようなことではなくて。YouTubeの新たな機能を使えることが、何よりの楽しみなのである。