VTuberって凄えよな、だってやりたいことなんでも出来るもん 作:木野了承
月末、八月最後の土曜日。隔週ミーティングのため、俺と千葉さんは本社へと訪れていた。ついでに収益化についての話もするとのこと。
開口一番、七草さんが祝福する。
「まずはお二人とも、収益化おめでとうございます。お二人の頑張りが実を結びましたね、私も嬉しく思います」
「ありがとうございますっ! いやいや、事務所の、七草さんのおかげですよ!」
「そうですね。俺もぶいすとの力がなければここまで来れたかどうか……ありがとうございます」
七草さんに対して、二人で礼を返す。彼女はそれを聞いて、ふふっ、と小さく笑うのであった。
YouTubeで収益を得るためには条件が大きく分けて二つあり、それは「チャンネル登録者数が千人を超えていること」と「チャンネルで公開されている動画の総再生時間が四千時間を超えていること」である。配信において、チャットを目立たせることの出来るスーパーチャット機能や、チャットフィード内で簡易的なアニメーションを表示出来るスーパーステッカーズなどの有料機能についてはまた別の括りだったりするが、それについても収益化の申請が通った時点で利用出来ることになる。
「神宮寺誠さんもえくすとりーむメカさんも、初配信時には登録者数の条件はクリアしていましたし、総再生時間に関しても最初の五回ほどで上回っていました」
「じゃあ、大体最初の一週間で収益化の条件は達成してたってことですか?」
「そういうことになりますね」
ほえー、凄い。企業の力、様々である。右ねじのチャンネルは二年かけてもここまで来れなかったのに、なんというか、感慨深い。
ご存知かと思いますが、と枕詞を置いて、七草さんは解説を施した。
「収益化が通ったことによって広告収入を得られる他に、チャンネルメンバーシップやスーパーチャット、スーパーステッカーズ、スーパーサンクス機能などが反映されます。これらはお二人、配信者が利用するものではなく、お二人の視聴者が利用するものになりますね」
「それらの収益はどういう扱いになるんですか?」
「配信ごとの出来高払いのようになると思ってください。基本的にはYouTubeと事務所に三割ほどずつ行きますので、手元に来るのは総額の半分程度となります」
ふむ、と頷く俺。事務所にいくらか持っていかれるのは契約時の話で知っていたが、YouTubeにも行くのか。それもそうか、考えてみれば当たり前である。収益化などかつての俺にとっては遠い話だったから、あまり深く考えたことがなかった。目から鱗である。
「半分か〜……でも、ま、仕方ないよねっ」
「そもそも配信で稼げるだけでもありがたいでしょ」
「うん、ほんとに!」
俺の言葉に、両手でガッツポーズをとって返す千葉さん。半年前まで配信とは無縁だった人が、とうとうここまで来れたのだ。嬉しさも人一倍あるのだろう。
さて、と七草さんが話を進める。
「VTuberの方は収益化が達成されると、記念として『収益化配信』を行う方が多いです。うちの事務所に所属するライバーの方達も、もれなく全員が記念配信を行っていました」
彼女の説明を受けて、思い出してみる。確かに言われてみれば、収益化記念配信がどうのこうのという話を見聞きした記憶がある。通例といった感じなのだろう。
「収益化記念配信はスーパーチャット機能が反映される最初の配信ということで、スパチャの総額が伸びやすいのが利点ですね」
「なるほど……確かに初回は視聴者のみんなも羽振良さそうですしね」
千葉さんの言葉に「はい」と頷く七草さん。彼女はそのまま俺達に、収益化記念配信を行うかどうかの確認をした。
「お二人は如何なさいますか。記念配信については」
「ボクはもちろん、やります! せっかくですもん!」
「俺もやろうかな、と」
「はい、かしこまりました」
それでは、と彼女は続けて、配信内容について尋ねる。
「配信内で何をするか、具体的に決めていきましょうか。何か予定等、考えていることはありますか? 大まかで構いません」
「ボクは普通に雑談枠にしようと思います。コメント返し中心で、視聴者と交流しようかと」
「俺は目からビーム撃とうと思います」
「はい、把握しました。詳細はまた個々相談して行ましょう。それでは、収益化記念配信についてはこの辺で。来週、というより来月の予定の確認に入ります」
「え、ちょ、待っ」
「お二人の収益化を記念して、神宮寺誠とえくすとりーむメカ二名のコラボ配信を決行しようと思います。来月下旬あたりを予定していますので、各々自分の予定を確認しておいてください」
「やったな、千葉さん。コラボ配信だって」
「え、うん、それは嬉しいっ! けどっ……! あの、ちょっと!」
千葉さんは戸惑った様子で、俺と七草さんに説明を求める。
「目からビーム撃つって、何するつもり⁉︎」
そんなの、目からビーム撃つつもりに決まってるじゃん。何言ってるんだろう、千葉さんは。