VTuberって凄えよな、だってやりたいことなんでも出来るもん 作:木野了承
今回はまったり回です。
長かった夏休みも終わりを迎えようとしていた。九月中旬、大学の秋セメスターがもう間も無く始まる。俺がデビューからここまで余裕を持って活動出来たのは長期休暇中だったからであって、ここから先は学業と配信活動を両立していく必要が出てくる。と言っても卒業所要単位数は既に超えているため、残す講義は必修の英語と卒研だけである。右ねじ時代も普通にこなしていたし、なんとかなるだろうと俺は踏んでいる。
(さぁて、夏休みが終わる前にやれることはやっておかないとな)
今まで行ってきた配信を振り返り、改善点を見つけて調整を進めていく。特に、目からビームの仕様についてはまだまだ荒っぽい点が目立つ。再現度を上げるためにも改善の余地は大いにある。手始めにSEやアニメーションエフェクトを導入出来ないか試そうと思っていたところだ、今日のうちに概形くらいは着手したい。そんなこんなで、今日も今日とて趣味に没頭である。
しばらく作業を続けて、大体二時間ほど経った頃。流石に目も脳も疲れたので、気晴らしも兼ねてメールやSNSをチェックする。Slackの方を確認すると、いつものように七草さんから業務連絡が入っていた。しかしその報告内容は普段とは違う雰囲気を漂わせており、なんというか、仕事というより研究色が強いような、そんな印象を受けた。
(なになに……3D演出の、共同開発について?)
その内容を読んで、俺はあまりの衝撃に、心が躍った。
配信タイトル。
【初コラボ/えくすとりーむメカ】メカと剣士の邂逅【神宮寺誠/ぶいすとりーむ】
『御用改めであるー! 神宮寺誠だよー!』
「ウス、えくすとりーむメカです」
『今日はなんと! えくすとりーむメカがボクのチャンネルに遊びに来てくれましたー! 初コラボです、ぱちぱちぱちー!』
「土足で失礼します」
『なんでメカが靴履いてるのよ』
開幕、俺の小ボケをしっかり拾ってくれた神宮寺誠。やるね、流石の切れ味である。
というわけで、スタートした神宮寺誠とえくすとりーむメカのコラボ配信。今回は特に何かをするわけでもなく、配信の裏話や俺たちの間柄など、まったりとした雑談をしていくつもりである。ちなみに配信を行っているのは神宮寺誠のチャンネル。俺はディスコードで通話する形で配信に参加している。配信画面は共有されているので、こちらからでもしっかりチャットは見える。面白そうなコメントが来たらどんどん拾っていきたいところである。
『そう言えばメカって挨拶普通だよね。何か案とか考えてないの?』
「なんも思い浮かばなかったから、初配信の最初に言ってしまった挨拶をずっと使ってる」
『初配信の最初は咳払いでしょ』
「すみません、よく分かりません」
『あ、Siri? 微妙に似てるなぁ』
感心するように呟く神宮寺。上手く誤魔化せたところで、俺は話を進めていく。
「神宮寺は挨拶もファンネームも凝っててカッコいいよなぁ。御用改めである! 誠凛隊! かっこいいー……」
『えっへへー、頑張って考えたからね! そういうメカのファンネームはどうなったの? 決まってなかったよね』
「アスクラ配信以降、オペレーターで定着した。割と気に入ってる」
『え、めちゃくちゃかっこいいじゃん! 経緯があの、ちょっとアレだけど』
「ははは……」
:乾いた笑いだ
:あの配信はおもろかったな
:オペレーターになるのも頷けますよ、アレは
:まともな通信じゃなかったけども
言葉を濁した神宮寺に対し、軽く笑って返す俺。チャットも比較的落ち着いた雰囲気で整っており、本当にまったりした雑談枠となっている。メカのチャンネルでは中々見られない光景だ、せっかくだし目に焼き付けておく。
二人の雑談は続いていく。
『いやー、でも思うけどさ。メカは配信の企画が面白いから、どうにでも巻き返せる気しかしないんだよね。凄いよ、ほんと』
「恐縮でございます」
『今日はなんかやるつもりなの? なんか持ってきたりした?』
「いや、今日仏滅だから。何もやんないよ」
『なんでメカが六曜気にしてんの』
「仕事運上がるように玄関の右側に鏡置いてる」
『機械が風水に頼るな』
「機械だから、ってそれ基本的メカ権の侵害ですよ⁉︎」
『初めて聞いたよ、そんな権利』
:仲良いな、二人
:二人というか一人と一機
:漫才か?
:神宮寺殿が楽しそうで嬉しい限りです
:コラボ記念 ¥10000
:¥100
「あ、スパチャありがとうございます。YouTubeとぶいすとに半分持ってかれて神宮寺に残りの九割持ってかれるから俺の懐には全体の五パーセント入りました。でけー」
『ちょっと! 適当なこと言わないでよ! そんなにとってないよ、斬るよ⁉︎』
「ごめんなさい、冗談です」
:めちゃくちゃで草
:ペラが回るな、メカは
:何してもおもろいな
やはりこの人と話すのは楽しい。付き合いの長さもあるが、気が許せるというか、なんというか。リラックスして配信に臨める。
次第に、話題は事務所の裏話になった。
『ぶいすとの企画担当さんとか開発担当さんとか、凄いよね。めちゃくちゃお世話になってる』
「ガチで助かってる。マージでありがとう」
『マネージャーさん通して色々話聞くけど、ホント忙しそう。お体だけはどうかお気をつけて……』
「この間開発の人と喋ったけど、業務内容聞いて『そんなことまでしてんだ』ってビックリした。楽しそう、混ざりてえ」
『確かにメカは好きそうかもー。緊急脱出のあの機能とかも関わってくれたんだよね』
「そうなんすよ。一応俺が作ってたんだけど、配信向けに整えてくれたり、挙動の安定性向上させてくれたり。本当に、非常にお世話になりました」
:へー、そうだったんだ
:貴重な裏話
:雰囲気良さそうね
『これから先も多分お世話になるんだろうね』
「3Dの肉体……違え、機体手に入れたら多分、もう世話になりっぱなしよ。楽しみでしょうがない、やりたいことがあり過ぎる」
『3Dの企画? どんなの考えてるの、ってアレか』
「ロケットパンチ」
『絶対言うと思った。聞き飽きたまである』
「聞き捨てなりませんなぁ」
:もう何回聞いたか分からない
:実際実現したら凄く面白そうだよね
:神宮寺殿は何かやりたいことあるの?
『ボクは初配信のときに話した通り、居合とか剣舞とかやりたいかなー。ズバッと切り捨ててあげよう!』
「是非とも早く見たいね」
『メカのことも斬ってあげようか?』
「ひえ、怖い……」
『冗談、じゃないかもね?』
「助けてください! ここから出してください! 命だけは!」
『ごめんごめん、冗談だって! あははっ!』
:ガチの命乞いで草
:たまにナチュラルでこういうこと言う
:時折狂気が垣間見えるときがあるのが……
:アスクラでゾンビの天日干しやってたときは怖かったよ、ほんとに
:無邪気に笑うのも一層、ね?
:笑い方可愛いからギャップでどうにかなりそう
俺達の口から出される様々な情報に、チャットは盛り上がりを見せる。神宮寺誠とえくすとりーむメカの雑談は、ほんわかした雰囲気ながらも小気味良い会話テンポで視聴者の心を掴んでいった。俺の画面からじゃアナリティクスは見れないが、きっと同時接続者数も伸びていることだろう。
ずっと一人で配信活動をしてきたから、こうして誰かと話しながら配信するのは新鮮だった。心がふわふわする。胸が暖かい。別に友達がいないわけじゃないが、同じ配信者という立場の友人は今までいなかったため、なんとなく嬉しさが込み上げてくる。
『いやー、メカと話すの楽しいよー! なんでも話せちゃう!』
「俺も楽しかったです。また機会があればお呼びください。なんならこっちのチャンネルにでも」
『機械だけに?』
「やかましいな」
最近この人、俺に影響されてきているように思う。しかもまずい方向に。これ以上俺に毒されて欲しくないが、つい普通に仲良くしてしまうので、困ったものである。どうか本当に、純粋なままでいて欲しい。
えくすとりーむメカとして、さらに言えば丹野達人としても初となったコラボ配信。劇的な展開になったわけではないが、それでも実りある時間だった。事務所に所属してからと言うものの、初めてのことだらけで実に刺激的だ。こんな楽しい時間がずっと続いて欲しいと、俺は切に願うのであった。
メカと誠の配信の雰囲気違い過ぎてワロタ。どうしてこうなった……?