VTuberって凄えよな、だってやりたいことなんでも出来るもん 作:木野了承
配信タイトル。
【マ○オカート8DX】しっかり掴まってろ!【ぶいすとりーむ/えくすとりーむメカ】
「ウスッ! えくすとりーむメカだァ! 今日はマ○カーやって行きまぁす!」
:気合い入ってますなぁ
:ぶいすと杯出場決まったからね
:ベリル様と一緒のチームとかヤバいな
「マジで緊張してる。ガチガチのメカ。カチカチのメガ」
:ゴツゴツのアハン
:チャラチャラのパーハン
:カチカチのメガ
ほんとコイツらノリがいいな。俺がちょっと言っただけでこの有様である。これぞまさに、インターネット。
十二月下旬に開催が決定した、ぶいすとりーむ全体を巻き込んだ大型ゲーム大会企画、その名も「ぶいすと杯」。今回のゲームは人気レースゲーム、マリ○カート8DXらしい。ヒゲを生やした赤い服の配管工を中心に、作中に登場する人気キャラクター達がカートに乗り込み、プレイヤーはそれを操作して競争するシンプルなゲーム。しかしハンドリングやコース取りのような操作技術の他にもアイテムといったランダム要素もあり、毎回展開が予想出来ないレースとなるのがこのゲームの醍醐味である。
今回のぶいすと杯は三人一組で闘うチーム戦で、メカは同期の神宮寺と、まさかまさかのベリルさん(ファンからはベリル様と呼ばれている)と一緒のチームである。この前ライブに参加して彼女の凄さに触れてしまったので、もう胸中はてんやわんやである。
「本当に一緒のチームで大丈夫なんですか? 自分で言うのもなんですけど、わたくし、まともな配信者じゃないよ?」
:このメカ、自覚あり
:どうせ今日もなんかやるんだろ
:だが、それでいい
俺は一体なんだと思われているんだろう。まあ、当然今日も色々準備して来ましたけど。
「収益化記念配信での反省を活かしまして。今日は大会に向けたゲームの練習と同時に、これまた大会に向けた新機能の調整を兼ねてます。事前確認ということだ。さあ、オラァ、これダァ! ハンドルダァ!」
そう言って俺は、それを画面に反映させる。いつも表示させている立ち絵の正面に、ハンドルを握った手元のモデルを表示させたのだ。
「実はLive2Dには手元の動きを反映させる、ハンドトラッキング機能が実装されてたりする。元から再現可能だったけど、割と最近になってアップデートされてたりもする」
:へー、知らなかった
:手元動いてる2Dなんてあんまり記憶にない
:地味に珍しいかもな
「パッと調べた感じ、使っている人は少ないように思う。まあ理由は色々あるんだろうけど、手元見せるなら3Dの方が便利だから、ってのが一番の理由だろうな」
記憶を辿り、所感を語る。手元を配信に載せる理由としては、トラッキング自体の性能を見せたい場合か、ゲーム中の操作感を示したい場合かによると思われる。そのどちらもLive2Dでは反映に限界があり、費用対効果があまり望めないが故に使われないのだと推測する。2Dで新たに機能を反映させるくらいならいっそのこと3Dにしてしまえ、と考えるのは極々自然のことだと思う。
でも俺は使う。なぜなら面白そうだから。
「実際のハンドル操作感を再現するため、ちゃんとハンドルコントローラーを買って来た。接続します。デカい、机の上がほぼコントローラーで埋まってる。ワクワクして来た」
:実際の光景を見たい
:しかし見れない、もどかしい
:手元映像の代替としてのハンドル2Dモデルってわけね
「そうそう。みんなは俺のハンドル捌きを見ててくれ。こんな感じのよぉ!」
そう言って俺は、ハンドルを思いっきり横に切る。するとそれを検知したカメラがモデルにも動きを反映させて、ハンドルを握った手ごと大きく回転させた。両手とも握っている位置は固定されているため、二百二十五度ほど手の位置が変わった。手が俺の体からあり得ない角度に曲がったように見えてしまう。
コメントで指摘される。
:分離してて草
:クソワロタ
:手、千切れてますよ
「突貫で作ったからこうしか作れんかったわ」
視聴者に向けて弁明する俺。今回は開発担当の社員の方とは関係無しに自分の力で制作したため、あまり凝ったものは出来なかった。そもそも回転検知が難し過ぎた。トラックをマーカーに頼る手法に落ち着くまで時間がかかったため、モデルに時間を割くことが出来なかったのである。
:まあメカだし、腕離れても大丈夫か
:実質ロケットパンチでしょ、これ
:【速報】えくメカ、ロケットパンチ達成
「おい待てぇ! 勝手にロケットパンチにするな! 違うから、分離しただけだから! ハンドルに手ぇ、持ってかれただけだから!」
:ロケットパンチ代 ¥1000
「ああっ! 俺の記念すべき初めてのロケットパンチスパチャが! 流れて行ってしまったぁ……!」
:人生で初めて生で見るロケットパンチがコレ?
:大分スケールが小さいですな
:良かったな、撃てて
「ぐぬぬぬぬ……! 好き勝手言いよって、オペレーターめ……!」
こんちくしょうめ。見てろよ、お披露目の時にゃ度肝抜かしてやるからな。
それはそうと、ゲームスタートである。ハンドルコントローラー(以下、ハンコンと略すものとする)には操作ボタンも付いているので、問題なくゲームを進めることが出来た。早速オンライン対戦に参加してみる。
「ドリフトもハンドルで行わなければならないから、カーブが多いステージとか厳しそうですよね。レインボー○ードとかやばそう。カーブの切り替えの練習しとくか」
他の参加者を待つ間に、ハンドルを右へ左へ動かして感覚を確かめる。その間モデルも動きをトレースするので、配信画面ではメカの手が大回転し続けていた。
:両手が暴れてるって
:シュール過ぎる
:もっとしっかり握れ
「いやいや、握ってはいるでしょ。肘の関節が脆いだけで」
:なんでメカなのに関節弱いんだよ
:もっとネジ締めとけ
:ちゃんと固定しろ
視聴者からはツッコミの嵐である。完璧に再現するのも楽しいが、若干の粗があるのもそれはそれで面白いらしい。反省点や改善点はあれど、今回の企画もウケは良かった。
「ステージは、スカイガーデン……。あれ、これヤバいのでは?」
:初っ端からここか
:落ちる未来しか見えない
:俺のサイドエフェクトがそう言ってる
今回のコースは空中を舞台としたもの。道中は巨大な植物のツルの上を走るので、両脇に柵や壁のない道がやや多い。故にハンドル操作やアイテムの被弾によってコースアウトすることが多々あり、そうなればかなりのタイムロスになることは間違いない。
それに加え、今回の俺は通常のコントローラーより操作が難しいハンコンでのプレイである。もう嫌な予感しかしない。
「あ、始まった。まあスタートダッシュは余裕ですわ。マジでコースアウトだけは気を付けないとアカン」
レースが始まり、一斉にスタートする参加者達。開幕の加速はしっかり成功し、中位集団に位置する。上々な滑り出しだろう。
「よっ! ほっ! ジャンプアクションもお手のものだ! 基本的な操作は問題ない!」
:結構上手い
:ハンコンにしてはいい感じ
:やるね、メカ
「実はコッソリ裏で練習してたのさ! ハッハッハー!」
:根が真面目
:SNSの挨拶も丁寧だからな
:配信に対してはほんと真摯だよこのメカ
大袈裟に振る舞いながら、レースに身を任せる俺。レースゲームの実況は意外と難しくて、被弾や順位に対するリアクションくらいしか話すことがない。なるべく飽きないように、小ネタも挟みつつゲーム実況を行っていく。
「来たぜ、カーブが! オラァ、インド人を右に! あぁ〜……!」
:ワロタ
:綺麗に落ちてったな
:インド人を右にするから……
:手が荒ぶり過ぎている
「封印されし我が右腕が、いざ回らん! うおお、ダブルアイテム、ゲットだぜ! ってアレ⁉︎」
:わざわざ回すために封印を解くのか
:左腕も回ってますよ
:器用にアイテムボックスの隙間を通り抜けるメカ
:反応がいちいち人間臭いぞ
「ショートカットだ……! ほりゃっ! うおお、成功したっ!」
:おおー、上手い
:小刻みにハンドル切ってるのが分かる
:意外と操作感が伝わってくるな
ゲームに対する反応も、ハンドトラッキングに関する反応も、どちらも視聴者からは好評だ。この調子なら本番までには調整が間に合うことだろう。よしよし、良い感じである。
「ゴール見えて来た! ラストスパートだ、しっかり掴まってろぉ!」
:タイトル回収
:俺達が掴む側なの?
:一位見えてるぞ!
:加速間に合うか⁉︎
「うおおおおおおぉぉぉっ!」
野太い声をあげながら、一直線にゴールへとカートを走らせる。アイテムを潤沢に使用して、全力で高順位を目指して来た。ここまでの頑張りで、一位を狙える場所にいるにはいる。最後まで気を抜かずに走り切る。
ゴールラインを過ぎた。さあ、果たして結果は。
「んー、五位! 微妙!」
:これまたなんとも言えない順位を
:上手いっちゃ上手いけど……
:微妙にも程があるなぁ
良いとも悪いとも言えない順位になってしまい、反応に困る俺と視聴者達。それでも手応えはあり、今後の練習次第でどうにでもなる感じがする。流石大人気ゲームだ、普通に楽しい。
「よし、どんどん走るぞ! うおおおっ、ハンコンの力、見せつけてやるっ!」
:ガチャガチャ回すな
:画面の情報量が多いって
:相変わらずの混沌
ハンドルを右に左に動かして、わちゃわちゃと騒ぐえくすとりーむメカ。チャット欄も俺に触発されるように、盛り上がる。
:楽しみだな、大会
:メカ頑張ってね
:大会当日もこんな感じなんやろなぁ
割と平和な雰囲気で、配信は進んでいく。大会という目標と、その練習と調整という目的。分かりやすい指標があったから、内容が具体的になって視聴しやすい配信となった。大会にはそういう側面もあるんだな、なんて思う。
(このまま何事もなく大会を迎えられればいいねぇ)
そんな風に、思った矢先である。
:[Beryl Channel]面白いことしてるね。当日はよろしく!
突如配信のチャット欄に登場したベリル。本物の彼女のチャンネルだ、アイコンやチャンネル名から察せられる。俺の配信を覗きに来たらしい。よりによってハンコンで暴れているときにチャットが来た、恥ずかし過ぎる。
「ふぁえっ、ベリル先輩⁉︎ え、やっばぁ……ありがとうございます、よろしくお願いします。ウス……アス……!」
俺は彼女のチャットに対してしどろもどろになりながらも、きちんと反応を返すのだった。
有名事務所に所属するということは、こういうシチュエーションになることもある。想定出来たことだったが、いざ身に降りかかるとなると戦々恐々というか、恐れ多いというか。自分の身の丈に合っていないような感覚に陥る。
本当、大変な世界に入り込んでしまったなぁ。色々と難しい場面も多いけど、それでも退屈しないから楽しい。すっかりVTuber事務所というものに馴染んでしまった俺なのであった。