VTuberって凄えよな、だってやりたいことなんでも出来るもん 作:木野了承
パーティクル・パーティ本社があるビルにて。階下にある自販機で、俺はいつもと同じようにライ○ガードを購入した。今日は午前中からボイス収録の仕事、その後お昼ご飯を挟んで打ち合わせ。ゲーム会社とCG制作会社の方にも顔を出し、挨拶回りまで行った。結構忙しかったように思う。ようやく一段落ついて、ゆっくり過ごせる時間が出来たのだった。
(俺のボイスドラマなんて需要あんのかなぁ。しかもクリスマスシチュ。台本からして完全にデートだったし、なんか恥ずかしい)
ボイス収録を振り返りながら、ライ○ガードを胃に流し込む。爽快感ある炭酸が喉を刺激し、意識がシャキッとする。美味い。エネルギーが溜まったような、そんな感覚がある。
VTuber、というよりYouTuberの収入源はいくつかあり、「動画による広告収入」、「企業案件」、「スーパーチャット」、「チャンネルメンバーシップ」、そして「グッズやボイス販売の収益」あたりがメインとなる。特に一番最後のグッズ・ボイス収益に関しては、YouTubeに手数料が持っていかれないことから還元率が高く、売れれば売れるほど明確に収入が上がる。
VTuberにおいてはボイスドラマの需要が高く、ぶいすとりーむでも定期的に所属ライバーによる音声作品の販売を行っている。えくすとりーむメカも例に漏れず、来月の十二月にクリスマス限定ボイスが販売されることとなった。つい先ほど、それの収録が終わった。
内容はクリスマスデートで、メカと共にイルミネーションを観に行き、帰りに一言、「メリークリスマス」と告げて終わるもの。事前に台本を貰って頭が真っ白になり、収録の際にも改めて頭が真っ白になった。まさか俺がデートの演技をすることになるなんて。生まれてこの方、女の子とデートなんてしたことないのに。メカに先を越される男。
(ボイスドラマって、声が良い人がやるからいいんじゃないのか? 俺、あんまり声について言及されたことないんだよなぁ)
今までの人生を振り返りながら、そんな風に黄昏る。ボイトレの先生には「しっかり腹から声を出せている」とか、「緊張や不安や恥ずかしげがあまりなく、素で取り組めている」とか言われたけど、声質については言われたことが何もない。視聴者からもそういうコメントが届いたことはなく、自分でも普通の声だと思っている。
そもそもメカとデートってなんだよ。どういうことだ、マジで。とりあえずそこにツッコみたくて仕方なかった。
自分が脚本の立場だったら、どんな物語を描くだろうか。メカとヒューマンドラマは相性が悪いだろうし、ならいっそのこと機械の立場を前面に押し出す方がいいかもしれない。そんな風に、本社の前の道端で、ライ○ガードを飲みながら佇む。
(おっと、ここでずっと飲むのはまずいか。帰ろ、帰ろ)
慌ててペットボトルを鞄にしまって、その場を離れる俺。えくすとりーむメカは初配信にて、本社のビルの自販機で特定の飲料を購入したことを公表している。万が一メカを知る人物が今の俺を見たら、ぶいすと事務所の近くでそれを飲んでいるということはひょっとしたらメカの中の人かも、と思われる可能性がある。考え過ぎかもしれないが、えくメカの身元がバレる、いわゆる身バレの懸念は出来るだけ防ぐのが吉だ。余計な騒動を招きかねないからな。
何せ、えくすとりーむメカも知名度が上がってきた。チャンネル登録者数は十五万人を超えている。まだまだこれから、伸び代しかないメカなのである。
動画タイトル。
【切り抜き/アスクラぶむ鯖】配信裏でも画面酔いで苦しむメカと遭遇する神宮寺殿【ぶいすとりーむ/神宮寺誠】
アスクラ共有サーバー、通称ぶむ鯖に弓道場を作ろうと画策する神宮寺誠。
「よし、土台はこんな感じでいいでしょ。あとは木材で矢取り道作ってー、矢道は芝で埋めてー。あとは、的をどうするかだな……」
:結構ガチ目に再現しようとしてるね
:めちゃくちゃ楽しんでるなぁ
:専門用語かな
:弓道やったことあるんか
「いやー、弓道はやったことないけど、知人が結構その道のプロっていうか、なんというか。それの試合を観に行ったことならあるんだ。だからちょっと知ってる」
:さすが剣士
:ツテがあったわけね
:的ならカカシ作ればいいんじゃない?
「あ、カカシ! いいね、そうしよ!」
視聴者と共に案を練りながら、作業を続けていく神宮寺。
そんな中、ゲーム内チャットに通知が入る。
[Extreme Mecha joined the game]
「え! あ! わあ、メカ来た!」
:え
:ほんまや
:初遭遇じゃん
:挨拶しようぜ
ぶむ鯖に初めてやって来たえくすとりーむメカ。彼の登場に神宮寺やチャットも大盛り上がり。彼の動向に注目が集まる。
神宮寺はゲーム内チャットにて、交流を試みる。
「やったー! ようやく会えたよ〜! よし、チャットで声掛けてみよっか!」
[Shinguji Makoto:こんにちは!!!]
[Extreme Mecha:こんにちは。お疲れ様です]
「あっはは、礼儀正しい!」
:メカの貴重な配信外シーン
:ちゃんと挨拶返してくれるあたり
:画面酔い大丈夫なのかね
すぐさまメカからレスポンスが来る。それを受け神宮寺は、彼とチャットで話を進めていく。
[Shinguji Makoto:今日は何するの?]
[Extreme Mecha:ソロと共有鯖における画面酔いの対照実験する]
[Shinguji Makoto:そっかー。大丈夫そう?]
[Extreme Mecha:開幕の探検でもうヤバいです]
「もう既に酔ってる。大変だなぁ、メカは。どこいるんだろ、迎え行こ」
:なぜメカが画面酔いするのか
:その真相を探るため、我々はアマゾンの奥地へと向かった……
[Shinguji Makoto:今どの辺にいる?]
[Extreme Mecha:なんかデケェ看板あります。三回見たらDeathって書いてある]
「あ、じゃあ割と近いな。行こう行こう」
:ほんとなんなんだよその看板
:割と交通量多いとこに設置してあるから余計に酷い
:しかも別に死なない
彼のメッセージから居場所を辿り、合流しようと考えた神宮寺。しかしここで、えくすとりーむメカから悲しいお知らせが届いた。
[Extreme Mecha:ごめん、これ以上やると本格的に酔いそうなので落ちます……]
「え、ちょ、ちょっとぉ⁉︎ メカァ! 待ってぇ、今迎え行くからぁ!」
:はっや
:もうダメだったかぁ
:電光石火の画面酔い
以前より苦しんでいた画面酔い。彼はそれを未だ克服することが出来ておらず、今回もダメな様子であった。
[Extreme Mecha:トホホ……]
[Extreme Mecha left the game]
[Shinguji Makoto:あ]
「あー……行っちゃった」
:ワロタ
:早過ぎる退出
:大変だな、メカも
:三回見たら死ぬ看板を一回見て死んだメカ
:出オチもいいとこだ
「メカはいつになったらアスクラ配信出来るんだか……」
切り抜きは閑話的なものだと思ってください。あまり本筋とは関係があるようでない、少しあるかもしれない。