VTuberって凄えよな、だってやりたいことなんでも出来るもん 作:木野了承
十一月下旬。
配信タイトル。
【#ぶいすと杯/マリ○カート8DX】ベリル様と神宮寺殿と合同練習【ぶいすとりーむ/えくすとりーむメカ】
「ウス、えくすとりーむメカでーす。配信始めました。声入っても大丈夫ですか?」
『こちら神宮寺、こちら神宮寺。問題ありませーん! あ、御用改であるー! 神宮寺誠です!』
:いつもの二人
:安心感あるわ
:今日もハンドル握ってやがるぜこのメカ
:相変わらず神宮寺殿は元気やねぇ
俺の問いかけに対して、神宮寺がそんな風に反応を返す。チャットでも言われている通り、ディスコード越しでも分かるこの元気の良さ。これは彼の美点である、是非とも見習いたいところだ。
そして、今日はもう一人。
『ベリルです! こちらも問題ないよ、音もバッチリ!』
:キターーーーーー!
:ベリル様、満を辞して参上
:この絡みは未知すぎて想像がつかなかった
:楽しみ過ぎる
:ベリル様! ベリル様!
可愛らしくもよく通る声で、彼女、ベリルは応えた。チャットの盛り上がり方も凄い有様である。なんなら俺もテンション上がっていたりする。
今日は来る大会「ぶいすと杯」に向けて、チームでの合同練習の日であった。配信は各々のチャンネルで行っており、視点だけが異なる。三人(厳密には一機と二人)で一緒にオンライン対戦に潜り、連携や作戦、方針なんかを定めるのが目的である。
ベリル様は配信上で俺や神宮寺と絡むのは初めてのことであり、まずはお互い挨拶からとなった。
『メカくん、神宮寺くん。お二人とは初めましてだね! よろしくお願いします!』
『よろしくお願いします! ベリル様と同じチームとは……この神宮寺誠、至上の喜びです!』
「先日の配信ではどうもでした。改めて……よろしくお願いします、ベリル様」
この前の配信でのやり取りを引き合いに出しつつ、挨拶を返すメカ。自ずと話は、俺のプレイスタイルについてとなった。
『先日の配信では、って言われて思い出したけど、メカくんは本戦もハンドルコントローラーで戦うの?』
「はい、もちろん。そのために色々準備したんで」
『いや、そのためっていうか、準備した結果ハンコンになったんでしょ?』
「そうとも言うかも」
『ふぅん。目的と手段が逆なわけね』
「ギクゥ」
神宮寺とベリル様、二人から指摘されて図星なメカ。車体のカスタムやコントローラーの調整を同時に進行しつつ、俺は弁明する。
「いや、でも、大会要項には『ハンコンで参加してはいけない』ってルール無いですから! しかも僕、ハンコンで何回か一位になりましたから! レートもハンコン一筋で一万間近まで来たんですよ! 足は引っ張らないので、どうか何卒……!」
『メカくんのその練習配信見てたけど……。まあその、頑張ってはいたから、そこに文句は言えないんだよなぁ』
『ダメですよ、ベリル様! メカを甘やかしたら! この人、すぐ変なことしますから!』
「人じゃない、メカだ」
『ほら、すぐこれですもん!』
『あっははっ! ほんと、面白いね君達!』
:ベリル様を前にいつも通りな二人
:相変わらずの様子でにっこり
:雰囲気が良過ぎる
:ベリル様が笑っておられる……
いつものように漫才染みたやり取りを繰り広げる俺と神宮寺。それを受け、ベリル様が笑う。ぶいすとの歌姫が楽しそうにしている。今日も平和です。
そんなこんなで、ゲームスタートである。ベリル様がゲームに招待してくれたので、彼女の意見を主軸にコースやレース方針を相談していく。
『コースはどうする? お二人は得意なコースとか好きなコースとかあるのかな』
「得意かどうかは微妙だけど、ココ○ッツモール好きです」
『へー、なんで?』
「いや、なんかねー。俺、どうやらそのステージのBGM、歌ってるっぽいんですよね」
『それメカくんの音MADでしょ』
「知ってんのかいっ!」
まさかのベリル様巡回済み。ついでに本人巡回済みも公表した形になる。めちゃくちゃである。
『じゃ、せっかくだし、ココ○ッツモールにしよっか』
『いいですね。走ってて楽しいですよね、このコース。モールの中走るっていう感覚がなんかこう、いけない感じがして』
「なんか発想が怪しいぞ、神宮寺殿」
発言にツッコミつつ、二人と同じステージを選択する。実際に走るコースはプレイヤーが選んだステージの中からランダムで決まるが、今回は俺達三人に加え、何人か他のプレイヤーも同じステージを選んでいたため、無事そのコースに決定した。
レースへとゲームが進行する。
『スリー、ツゥー! ワンッ!』
神宮寺が画面の表示に合わせて、そんな風に声を出す。彼の掛け声に引っ張られる形で、俺はスタートダッシュのための加速ボタンを長押しした。
しかし、タイミングが速過ぎた。
『あああっ! ミスった!』
「うおおおい、俺もミスったじゃねえか!」
:ワロタ
:掛け声の時点でこうなると思ってたわ
:ベリル様に置いていかれるメカとショタ
二人仲良く揃ってスタートダッシュを失敗する。カートがボフンと煙をあげ、スタート位置に留まる俺達。ベリル様を含む他のプレイヤーは皆、先に行ってしまった。
『なーにやってんの、二人とも!』
『ごめんなさい! 焦った、本当に!』
「神宮寺ィ! 声に引っ張られちまったじゃねえか! 俺は許そう! だが甲羅が許すかな⁉︎」
『狙う気満々じゃんか!』
ネットにおいて有名な言葉をなぞらえて、そんな風に言い放つ。このゲームにおける甲羅は投擲武器で、実質的な攻撃手段である。要は先ほどの発言は、攻撃宣言とも受け取れるのだ。
気を取り直してカートを走らせる俺。しばらく進んで、最初のアイテムを獲得する。出て来たのは前にいるプレイヤーを自動で追尾して攻撃する「赤甲羅」、しかもトリプルであった。
「赤甲羅三連だと⁉︎ ふはははっ、俺の自動追尾弾だぜ!」
『いたあああいっ! なんでボクに投げるんだっ!』
「あ、ごめえええぇぇぇん! 神宮寺殿おおおぉぉぉ!」
:宣言通りぶち当てていくスタイル
:謝るあたり律儀
:なんで同期でやり合ってんだ
甲羅を投げたら丁度前にいた神宮寺に当たってしまった。集団が密集していたため判別出来なかった、申し訳ない。被弾して転倒する彼を後目に、横を通り抜ける俺。
「神宮寺、俺、お前の分も頑張るよ……! 待ってー、ベリル様ー!」
『まだ終わってない! まだ終わってないから! ていうかメカのせいでしょうが!』
『ちょっ、二人! 何してんの、マジで! 私、今一位で頑張ってんのに!』
「ベリル様、俺は人じゃないです! 二人じゃなくて一機と一人!」
『うるさい!』
「うるさい⁉︎」
『ごめん! 言い過ぎた! 静かにして!』
「オブラートに包んだけど言ってること変わってない!」
『あははははははっ!』
「なにわろてんねん、神宮寺ィ!」
:一戦目でこの濃さ
:やっぱりこうなったか
:楽しそうでなにより
怒涛の展開が続く。元よりこのゲームはレースゲームという性質上混沌とした状況になりがちだが、三人の配信者が集まったことによってさらに場がカオスなものになった。気を取り直してレースへと集中する。
「青甲羅です、青甲羅です! ベリル様、一位ですよね!?」
『今一位! 今一位! 投げないで!』
『あ、サンダー! いつ使えばいい⁉︎』
「分からん、分からん! AI混乱中! AI混乱中!」
『あ、もう撃っちゃっていいよ!』
「オッケー! 撃ちます、発射!」
『メカくんには言ってないぃぃぃ!』
:もうめちゃくちゃ
:騒がしくてワロタ
:笑い過ぎて息出来ない
連携とか作戦とか以前の話になって来た。普通にプレイするだけでこれである。レースゲームにおけるチーム対抗戦が如何に難しいかがなんとなく分かった。
わちゃわちゃしているうちに、レースが終了する。さあ、気になる順位は。
ベリル様、一位。メカ、三位。神宮寺、四位。
『あれ、意外と悪くない!』
『リカバリー出来て良かったー!』
「ミスった割には健闘したんじゃないでしょうか」
:あれだけめちゃくちゃな展開だったのに
:みんな普通に上手いな
:いいとこ目指せるんじゃないか
開幕の一戦で好感触な結果を残した我ら。その後のレースでも高順位をとり続け、「あれ、これ意外とイケるのでは?」という雰囲気が漂い始める。
『私達、意外とやれるのでは?』
『メカもハンコンの割に普通に強いんだけど』
「でしょー? 言ったでしょー、俺だって練習して来てるんだって。本戦も任せてくださいヨォ!」
『あ、ベリル様。これなんか企んでるメカです、本番気を付けておいた方がいいです』
『マジ? ……メカくん?』
「いやいやいや! 真面目にゲームはしますよ、ゲームは! メカ、マジ真面目!」
『ということはこれは配信関連だな』
「なんで分かるんだよ!」
神宮寺に見透かされ、焦るメカ。実を言うと大会に向けて、とある機能の実装が形になったところなのである。今回の練習配信でやけにテンションが高かったのは、ベリル様との合同練習ということに加えて、その機能の完成に気分が上がっていたからである。早く見せたくて仕方ないのだ。
『一体何するつもりなんだか、メカは』
『色んな意味で楽しみになって来たね』
「やってやりますよ、名を轟かせてやりましょう!」
:テンション高えなぁ
:でも楽しみよ、大会
:応援してるぜ
皆の期待を背に受け、気分も上々。チームの雰囲気も良い、一緒にプレイしていてとても楽しかった。チームが決まったときはどうなることやらと不安だったが、いざ集まってみれば平和だった。
さあ、あとは大会に向けて一直線。ベリル様の顔に泥を塗らないためにも、精一杯頑張ろう。