VTuberって凄えよな、だってやりたいことなんでも出来るもん 作:木野了承
十二月下旬、クリスマス直前。とうとうこの日がやって来た。
配信タイトル。
【#ぶいすと杯/マリ○カート8DX】大会withベリル様&神宮寺殿【ぶいすとりーむ/えくすとりーむメカ】
「「「ウス、えくすとりーむメカです。大会だあああぁぁぁ!」」」
配信を始めて開幕、大声で叫ぶメカ。今回の配信では表示させる2Dモデルを三つに増やしており、全て同じ動きを反映させている。それに加えて音声も三重で、配信上では音圧が凄いことになっていた。チャット欄では当然の如く困惑の声が上がっている。
:一体なんだ
:なんで三体⁉︎
:声も三重だし
:なぜ増えた?
「「「なぜ増えたか。それは大会だから」」」
:答えになってねえ
:これがシンギュラリティか
:音量はともかく声の主張が強い
:量産型ということか……?
「「「量産型……あ、そう! 量産型! 量産型だからです! 量産されました、メカが! ありがとーう! 良いコメントありがとーう! 使わせてもらう!」」」
:視聴者のコメントが良かったからってウキウキしやがって
:潔い
:何するか分からんけどとりあえず楽しみよ
:こういう割り切りはメカの良いとこだよ
視聴者の反応は中々で、初出の配信画面でありながら意外とすんなり受け入れられた。改めて思うが、うちの視聴者の適応力が凄いことになっている。背部に循環と調和を意味する方陣でもあるのだろうか。八握剣異戒神将メカ羅。
しばらくして、神宮寺とベリル様が合流する。
『あ、あー。声大丈夫かなー?』
「「「大丈夫でーす」」」
:お、ベリル様
:ベリル様は良くてもメカは大丈夫じゃないよ
『オッケー。お疲れー! ベリル、入りましたー!』
『こちら神宮寺、同じく通話入りましたー!』
「「「了解。よーし、よろしくお願いします!」」」
:普通に挨拶するな
:みんないつも通りで草
:ツッコミ不在の恐怖
俺の音声状態に対して、何も言及して来ない二人。チャット上ではそんな二人に対して疑問に思う声もちらほら。その理由を俺は説明する。
「「「実はこの声重なってるの配信上だけなんすよ。ディスコードでは普通の出力になってるはずだから、二人は何が起こってるか多分分かってない」」」
:あー、なるほどね
:そういうことか
事情を把握し、納得する視聴者達。しかしその弁明は通話越しにチームメイトにも伝わっており、俺の言葉を聞いた神宮寺が口を挟む。
『あ、本当にやってるんだ、アレ』
「「「はい」」」
『屈託のない返事が速攻で返って来てビックリした。素直過ぎる』
「「「画面の様子や音声については後々アーカイブで是非ともご確認ください」」」
二人に向けてそんな風に言い放つ俺。チームメイトや大会運営とは事前に話を通してあるので、企画内容は問題なく共有されている。運営側からもしっかり許可を得ているので、安心してお届け出来るというわけだ。
ベリル様からもお言葉を頂く。
『話には聞いてるけど、実際に何をどうするのかは知らないから結構楽しみだったりするよ。後でしっかり見るからね、メカくん』
「「「恐縮です……」」」
:声が三重だから全然恐縮そうに見えない
:音圧が、音圧が
:まだ始まってすらいないのにコレ
レース開幕直前、雰囲気はバッチリ。期待感も膨らみつつ、その瞬間をただただ待つ。
(お、始まった)
運営グループより通知が届く。それを確認した俺達は、すぐさまゲームのオンライン対戦ルームへと入室した。
『始まった! うおおっ、やるぞー!』
『みんな入室はやっ。よーし、挨拶チャット打っとこー』
「「「なんか俺だけアバターの雰囲気浮いてません?」」」
『メカくんがぶいすと唯一の完全人外だからでしょ』
確かに。ベリル様に言われて思い出したわ。そういやデビュー時もなんやかんや言われたっけ。もう既にそれが懐かしい、遠い昔の話のように思う。
さてさて、大会の詳細だが。四種のコースを走り、その順位に応じて与えられるポイントを総勢十二名で競うモード、通称グランプリで行われる。コース及びカートは実装されているもの全てを選ぶことが出来るが、キャラクターは個人個人のアバターで統一。性能差はカートによるもののみになる。
『グランプリ二回、合計八レースの総得点で順位決めるから、一回目負けても挽回出来そうだよね』
「「「バンカイ出来そう……? え、斬月ってこと?」」」
『そっちの卍解じゃないよ、メカくん』
「「「あ、挽回ね! あー、はいはい!」」」
:難聴のメカ
:死神代行のメカ
:神宮寺殿なら卍解出来そう
「「「コースはランダムで選択肢が出てくるけど、相談して決めて、揃えて選んでも良いんですよね?」」」
『うん、大丈夫。ボク、サンシャ○ンくうこう好きだから出て来たら選んで欲しい』
『ココ○ッツモールは?』
『メカが歌うからダメです』
「「「俺は歌ってないって」」」
:練習配信以降さらに伸びてたぞあのMAD
:製作者ビビってたからな
:本人巡回済み&ベリル様巡回済み
二人とルール確認という名の雑談を交わしながら、レース開始のときを待つ。しばらくして、画面はステージ選択へと移行した。
「「「お、来たー! あ、サンシャ○ンくうこうあるやん」」」
『よし、じゃあここで決まりか!』
『ありがとうございます! 選ばれてくれー!』
三人で同じステージを選択して待機する。少しして参加者全員のステージ選択が完了したとのことで、実際に走るコースを決めるためのルーレットが始まった。
さて、初戦のコースは。
『ありゃ、外れたか』
「「「ま、四分の一ですしね」」」
『ツルツル○イスターか……でも走りやすいからまだマシかも』
残念ながら俺達が選んだステージでは無かったものの、結果としてはクセのないコースとなった。一安心、一安心。
レースが始まるまでの短い間でも、俺達は今後の方針を伝え合う。
「「「前有利なコースなので、首位獲ったらリード保つのに集中で。他二名で全力で援護しましょ」」」
『りょーかい!』
『よーし、よろしく! みんな、頑張ろうね!』
ベリル様からの発破を受けて、気合十分。初戦から良い順位につけて、勢いに乗りたいところである。
ハンコンを握る。さあ、レースの始まりだ。
『ぃよーし! スタートダッシュ成功!』
『よしよし、良い調子、良い調子!』
「「「フハハハハッ、全員まとめて撫で切ってやるぜ!」」」
『メカ、ハンドル握ると性格変わるタイプなんだな』
『なんでメカなのに性格変わるのよ』
:ワロタ
:配信の度に新しい設定増えてくな
:レベルの高い合格点を超えるメカ オールウェイズ出してくれる
滑り出しは全員好調、先頭集団へと入る三人。順位的にも各々が首位を狙える位置に着いている。アイテム次第で結果が変わりそうな展開である。
そのまま大きく順位が動くことなく、レースは中盤へと差し掛かった。設置されているアイテムボックスへと突っ込むメカ。
「「「アイテムゥ! あ、トリプル緑甲羅!」」」
手にしたアイテムは投げると真っ直ぐ向かっていく攻撃アイテム「緑甲羅」三つ分のもの。追尾する赤甲羅と比べて性能が若干劣るため、基本的にはそこまで当たりのアイテムではないが、今回の俺にとってはかなり嬉しいアイテムであった。
「「「待ってたんだ、トリプルアイテムを獲得するのを! いくぜ、オペレーターのみんな!」」」
俺はそんな風に告げて、片手をハンコンから離してキーボードを操作する。トリプルアイテムはボタンをホールドする必要がないため、右手のみの操作でも問題なく走れている。通常のコントローラーではハンドリングの方向についてもスティックで操作する必要があるが、ハンコンではハンドルを傾けるだけでいいので、それに関しても心配がない。
キー操作によって立ち絵の演出機能がオンとなる。途端、光に包まれる2Dモデルの立ち絵。俺はその演出に合わせて、口上を述べるのだった。
「「「俺は配信画面上の三体のえくすとりーむメカを素材に、オーバーレイネットワークを構築!」」」
『は!? なに、何言ってんの! 何してんのメカ!』
「「「エ○シーズ召喚! 現れろ、ナンバーズスリーナイン! 超、えくすとりーむメカ!」」」
:⁉︎
:は!?
:エ○シーズ⁉︎
その口上に呼応するかのように、配信画面における立ち絵が変化した。額のV字パーツがいつもより大きくなり、光り輝いている。三つあったモデルは一つへと集約し、音声の重なりも無くなった。
そう、これが。
「これこそが今回の新機能、エクストラデッキシステムだ! 刮目せよ、ハハハハハッ!」
:クソワロタ
:遊○王ネタじゃねえか!
:なんなんこれ
掻い摘んで説明すれば、超人気カードゲームの演出をパロディしたもの。それが今さっき披露した機能の概要なのである。
俺は小さい頃からカードゲームが好きで、プレイするのはもちろん、アニメを見るのも好きだった。特にアニメにおける切り札登場シーンが大好きで、CGによる特殊演出や主人公の特殊口上などを見ては胸を熱くさせるばかりだった。だけど現実のカードゲームじゃそういう演出は出来なくて、そんなリアルにちょっぴり物足りなさを感じていた。
だけど、バーチャルなら話は別だ!
「超えくすとりーむメカの素材を一つ取り除き、効果を発動することが出来る! 正面に緑甲羅を投擲! 当たったらスタンさせることが出来る!」
:そりゃそうだろ
:アイテムが素材なのかメカが素材なのか
:細けえこたぁ良いんだよ!
俺はそのカードゲームのアニメの主人公になりきったつもりで、淡々と台詞を述べていく。実際の説明となぞらえて、その内容をゲームへと落とし込む。
「一撃目! 不発! 二撃目! 不発!」
:外してて草
:このエク○ーズモンスター弱くねえか
:エク○ーズモンスターってなんだよ
「三発目! よぉし、当たったぜ! 強靭、無敵、最強! 粉砕、玉砕、大喝采! ワーハッハ!」
『いたあああっ! ボクに当ててどうすんだ!』
『あっはっはっはっはっ! もう、何もかもがヤバ過ぎる! あはっ、あはははっ!』
「ターンエンドだ!」
『ターンエンドだ、じゃないよ! メカァ!』
「すまねぇ、神宮寺! うおっ、アイテム! ドロー、コイン一枚! サレンダーします……」
『温度差凄っ!』
盛り上がる俺、振り回される神宮寺とベリル様、そして視聴者のみんな。より一層混沌となるレースゲーム配信。ゲームは元より、この瞬間がとてつもなく楽しい。夢中になる。
新機能のお披露目もさることながら、ゲームの方もどんどん進行していく。
「スターだ! うおおおっ、オーバー○ップ・クリア・マインド! リミットオーバーアクセル○ンクロォォォ! 現れろ、
『え、あ、これも遊○王ネタなんだ! へー、かっこよっ! なんか興味出て来た!』
『ええっ!? ベ、ベリル様⁉︎』
「いつだって全力! 一位を目指すぜええええええぇぇぇ! うおおおおおおぉぉぉ!」
:今度は全身七色に光ってて草
:ゲーミングえくすとりーむメカ
:迫真の掛け声
:おい、デュエルしろよ
:よく見たらハンドルに手が六本ついてる
:ほんまやんけ、こっわ
:あれ、これ何の配信だっけ
:まったく分からない
:ベリル様が遊○王に興味を……
元ネタがどうとか、通じる通じないとか、そんなことはどうでも良い。伝わる奴らに伝われば良いし、これを機に知ってもらえればそれはそれで良し。好きだって気持ちを示せたのならそれで良い。バーチャルならこんなことが出来るんだってことが伝われば良い。それだけで十分なんだ。
大会は息つく間もなくどんどん進んでいき、終わりへと向かっていく。その間も新機能による演出で融合したりしなかったり、光の速さになってみんなを置いてけぼりにしたり、待機画面で全演出披露などしながらも真剣にゲームに取り組んで行った。
最後のレースが終わる。さあ、我らのチームの結果はどうなったか。
『ええっ、チーム順位総合一位⁉︎』
『しかもベリル様個人総合二位、ボク四位、メカはボクと二ポイント差で五位⁉︎ あれだけはっちゃけて⁉︎』
「ガッチャ! 楽しいレースだったぜ!」
:すげえよ、お三方
:見ててずっと面白かった
:良いもん見せてもらったわ
:ありがとう、おめでとう
大会にも本気、演出にも本気。やるからには全力だってこと、分かってもらえただろうか。この二ヶ月間、制作にも没頭してゲームの練習も欠かさなかった。結果としてはチーム内最下位の順位だったけど、それでも半分よりは上だ。足を引っ張ったとは微妙に言いづらいところだろう。
『やったー! 優勝だ! ありがとう、神宮寺くん、メカくん!』
『ボクも結果が残せてめっちゃ嬉しい! ありがとうございました、二人とも!』
「ありがとう、お疲れ様でした! いやー、クッソ楽しかった! 確かな満足だ……!」
:最初から最後まで良かったな、このチーム
:面白い上に雰囲気も最高だった
:ベリル様も超ウキウキだったしな
:ありがとう、メカ
こうして、最高の結果で大会を終えることが出来た。みんなの頑張りが報われた上に、新機能も十全に発揮出来た。これ以上にない成果であろう。本当に、本当に楽しい時間だった。神宮寺とベリル様のお二人、そして運営には感謝してもし切れない。改めて、ありがとう。
新年へ向けたインターバル期間である、年の瀬。この一年、色んなことがあった。途切れずに辿ってきた俺とメカの足跡が、今の俺の背中を押してくれる。ブレずに真っ直ぐ進められる。
来年はもっともっと、出来ることを増やしていきたい。楽しく、自由に、この世界に身を置きたい。今日の大会参加を経て、心の底から、俺は強くそう思った。
ちなみに作者はゼアルの途中(ギミックパペットが出たあたり)でアニメ視聴をやめている。
大会編は当初二話に分ける予定だったが、長くなると物語の本筋とは関係ないところで話が広がりそうだったので一話にまとめた。レースまわりの話をかなり省きましたが、どうなんでしょう。