VTuberって凄えよな、だってやりたいことなんでも出来るもん   作:木野了承

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忘年会について

 

 

 ぶいすと杯が終わって数日。年末ということと、それに加えてぶいすと杯直後ということもあって、打ち上げと忘年会を兼ねた宴会が開かれることとなった。社員さんはもちろん、ライバーもそれなりに参加している。結構な規模の集まりとなっていた。

 その参加者の中にはもちろん、俺もいる。

 

(ふいー……酔い、いつもより回るなぁ……)

 

 俺は一人コッソリ会場を抜け出して、外の空気を吸いに行った。アルコールの類は月に一度飲むか飲まないかくらいだが、今日は無礼講ということでせっかくだし頂いた。慣れない宴会の席と年末の空気に浮かされて、俺はいつも以上に酔うこととなったが、それでも不思議と気分は悪くなく、楽しい酔い方が出来ているようだった。

 しかし。

 

(疲れたー。知らん人が沢山いるから、挨拶して回るだけでも大変だ)

 

 ふぅ、と一息吐いて疲れを誤魔化す。白い息がほわっと広がって、そして冬の空に消えていった。

 現状、VTuberとして面識があるのは同期の神宮寺誠と、先日大会で同じチームになったベリル様のみ。他の方とはSNS上で絡みがあったりするものの、リアルにおいてもバーチャルにおいても、ぶいすとのメンバーとはあまり知り合えていない。今日の忘年会で初めて顔を合わせた人の方が圧倒的に多かった。

 別に人付き合いが苦手というわけではないが、知人が少ない集まりは流石に疲れる。こうして一人抜け出してきたのは酔いを覚ますためってのもあるが、一人でのんびり浸るのも兼ねていた。

 

(あー……去年の年末は、どう過ごしてたっけかなぁ)

 

 そんな風に思い耽る。クリスマスが終わってすぐ実家に帰って、そこでテスト勉強をしていたのは覚えている。ああ、その合間にウイルスをバスターするゲームの制作を進めていたんだっけ。懐かしいな。昨年は一人でごろごろして過ごしていたのに、今年はこれである。

 たったの一年で、こんなにも俺を取り巻く環境は変わった。実に感慨深い。小さく笑う俺。

 

「あ、いたいた」

 

 不意に、そんな声がした。外で佇む俺に向かって、近付いてくる者が一人。声のした方を向けば、そこには見覚えのある姿が。この人は。

 

「おわおわおわ、ベリル様」

「ふふっ。ダメだよ、ここは現実だから。その名前では呼ばないでくださいっ」

「あ、ごめんなさい。失礼しました、鈴木さん」

「はいっ、よろしい」

 

 クスッと微笑む彼女。ダッフルコートに身を包む、黒髪ショートのその女性。この方こそ超人気ライバー「ベリル」の中の人、鈴木佳澄(かすみ)さんなのである。

 彼女は俺の元へと近寄ると、上機嫌に語った。

 

「改めて、大会のお礼を言いに行こうと思って! 探したよ、丹野くん」

「それはそれは、申し訳ない。ちょっと酔いを覚まそうと思って」

「ふーん。酔ってるの?」

「少し」

「そう。実は、私も」

 

 彼女は視線を少しだけ上げて、そんな風に告げた。つられて見上げる俺。空は澄んでいる。星はあまり見えないけど、でも綺麗な夜空だった。

 

「ありがとう、丹野くん」

 

 彼女は徐に、礼を言った。続けて語る。

 

「私は唯一残った一期生だし、それに加えて活動内容はアーティストとしての側面が強い。だからVTuberとしての活動のほとんどはソロで、誰かと一緒に何かをするのは、結構久しぶりだったの」

「へー、そうだったんですか」

「うん。半年ぶりくらいじゃないかな。ライブもあったし」

 

 彼女のそんな言葉に、俺は納得する。確かに、夏から秋にかけて、ベリル様はとても忙しそうな雰囲気だった。配信頻度も落ちていたし、コラボや企画に参加する余裕がなかったのだろう。思い当たる節が多い。

 

「でも今回の大会に誘われて、キミや千葉くんと一緒のチームになって、そしてちゃっかり優勝しちゃったりして……。ほんと、思い出に残る企画だった」

「はははっ、俺もです」

「……改めて、ありがとう」

 

 彼女は再び、礼を言った。

 

「私自身アイドル色が強いから、ファンの中には結構過激な子なんかもいて……。過去には同じ配信画面に映っただけで叩かれちゃった方もいて、ちょっと心配だったの。また私のせいで迷惑かけちゃわないかって」

「……」

「チーム発表のときはちょっとざわついたけど、始まってしまえば杞憂だったね。キミのキャラクター性に助けられた気がするよ。あと、千葉くんの存在も大きかったかな。あの人、いるだけで雰囲気が丸くなるから」

 

 確かに、と頷く俺。千葉さんは一緒にいるだけで雰囲気が朗らかになる。多分、そういう人物なんだと思う。

 彼女の独白は続く。

 

「今回の大会を機に、私、殻を破れた気がするんだ。今までずっと一人で頑張ってきて、突っ走ってきて、必死にやってきて……。真面目にやんなきゃって、ずっとそうなんだと思ってた」

 

 でも、と彼女は言う。

 

「そうするしかない、わけじゃないんだって」

 

 強く思ったよ、と彼女は笑った。

 

「キミのアーカイブ、見させてもらった。まさか大会中にあんなことしてたなんて、びっくりしちゃった。でも、面白かった。夢中になって見ちゃった」

「それは、恐縮です」

「キミのその活動の根幹は、好きって気持ちや楽しいって感情からやってくるんだと思う。人はそういう夢中な姿に、魅せられるんだと思うんだ」

 

 だから、と彼女は俺に向かって、微笑みかける。

 

「是非ともキミには、そのままでいて欲しいなっ」

 

 彼女、鈴木佳澄さんは、ベリルとは印象が全く違う。ベリルはカラフルで煌びやかで可愛い少女だけど、鈴木さんはシックで落ち着いていて大人っぽい、そんな印象。

 だけど笑ったときのその表情だけは、全く同じ輝きを放っているように感じた。

 彼女のそんな言葉に、俺は応える。

 

「はい。任せてください。俺は全力で、俺でい続けます」

「ふふっ、うん! 先輩として、後輩の活躍は見守り続けてるからね!」

 

 さて、と彼女は戻る準備をする。

 

「千葉くんにはもう感謝を伝えたし、あとは君達のマネージャーさんだな。なつみ……さんだったよね」

「はい」

「だよね。ふう、よし、私は戻るね」

 

 じゃあ、と彼女は告げる。

 

「またね!」

 

 彼女は笑顔で手を振りながら、会場へと戻っていった。再び一人となる俺。冬の寒さだけが、俺を包む。

 

(唯一残った一期生、ね)

 

 一人外に居続ける俺は、彼女の言葉を思い出して感傷に浸った。なんとなくだけど、その事実に彼女の大事な部分が隠されているような、そんな予感がした。

 ぶいすとりーむの一期生は元々三人いた。ベリル様と、もう二人。そのうちの一人は二年と半年ほど前に契約違反という形で除籍となり、もう一人の方もほどなくして引退、卒業していった。両名とも他の名義で活動する、いわゆる「転生」の情報がないことから、完全に配信界からは去ったものだと世間では言われている。二人とももうYouTubeのチャンネル自体ないから、今から彼女達の詳細を知ることは出来ない。

 七草さんが言った、「ベリルと比肩して欲しい」という言葉。あれの真意を、俺は大会を通じて察した気がした。

 あれは俺達に向けた発破と同時に、ベリルへと向けたエールだったのかもしれない。現状、唯一の一期生。だけど孤独を感じる必要はない、貴方を支えてくれる存在は他にもいるという、そんな声援。ずっと第一線で活躍し続けてきた宝石に対しての、労いの後押し。

 

(なんて、考え過ぎか)

 

 突飛した思考を振り払う。酔いと緊張で熱った顔を、すっかり冷たくなった両手で冷ましていく。頬から手へと温度が移っていき、やがてその熱は平衡状態へと収束していく。

 何かの温度が下がっても、熱力学の観点から考えれば熱は消えていない。どこかへと移っただけで、この世から突然ふっと無くなったわけじゃない。もし熱が足りないとすれば、それはエネルギーとして仕事を果たしただけだ。

 きっと、人の熱意も同じなんだと思う。何かに影響されて、熱くなって、それで発散して。やがてその熱意が薄くなっても、それは誰かの心に移っていって。ずっとずっと、循環していく。人の心を動かしていく。

 ベリル様はその歌唱力とパフォーマンスで、俺を含めた視聴者の心を動かした。今回の大会では歌を抜きにしても、エンタメ的な立ち回りが出来ることを証明した。彼女は熱源として、大きな存在なんだろうと実感した。

 

(……俺も誰かの心を、動かせているのだろうか)

 

 そんな風に、しみじみ思う、師走の日。

 もし俺も誰かの心を動かせているのであれば、それ以上に嬉しいことはない。

 それを確かめる術はない。ならばそれを実感出来るその日まで、俺は動き続けていたい。心にそんな、火が灯った気がした。

 




これにて二章終了です。

頑張れ、ハーメルン
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