VTuberって凄えよな、だってやりたいことなんでも出来るもん 作:木野了承
初詣について
年が明け、一月。俺は大晦日から三が日にかけては配信をお休みし、実家に帰ってのんびり過ごすことにした。家族にはVTuberとしての活動が把握されているので、帰るなり色々と祝われたり揶揄われたりして、なんとも言えない年末年始だった。公式サイトの画像を無理矢理A4サイズに引き伸ばした画質ガビガビの白黒プリントえくすとりーむメカの額縁がリビングに飾られているのを見たときは流石に笑ってしまった。飾るな、そんなもん。先祖みたいに思われるでしょうが。
そんなこんなで束の間の休息を挟み、無事年を跨いだえくすとりーむメカ。目立った炎上や騒ぎもなく新年を迎えられ、嬉しい限りであった。
さて、新年一発目の定例ミーティング。七草さんや千葉さんと会うのは忘年会ぶりで、まずは新年の挨拶からとなった。
「SNS等で既に挨拶はしていますが、対面は初ということで、改めて。明けましておめでとうございます。丹野さん、千葉さん。今年もよろしくお願いします」
「明けましておめでとうございます! こちらこそ、今年もよろしくお願いします! 七草さん、そして丹野くん!」
「はい。明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします、お二人とも」
やっぱり挨拶となると普通だな、俺は。別に気にするほどのことじゃないけども。
「さて、今日のミーティングですが。お伝えすることが沢山あります。まずはそれらの確認からですね」
そう言って七草さんはタブレット端末を操作しつつ、予定を報告していった。
「まず、神宮寺誠さんとえくすとりーむメカさん両名に新衣装実装が決定しました。既にレットさんに依頼済みで、現在鋭意製作中です。お披露目配信は来月か再来月になると思われます」
「「おお!」」
「次に、案件についてです。メカさんには配信用ソフトウェアの案件のご依頼が、神宮寺さんには以前配信していたアプリゲームからコラボ企画のご依頼が来ています。この後資料をお見せしますので、各々詳細を確認して受けるかどうか決めてください」
「「おおっ!」」
「そして最後に、お二人の3Dモデル実装が決定しました。これからは3D配信の研修やリハーサルも予定に入ってきます。既にモデルは制作済みで、お披露目配信は半年後の予定です」
「お、おおっ!?」
「ちょ、多い多い、多い多い! 受け止めきれませんて!」
あまりの情報量に処理が追いつかない俺。えっと、新衣装が来て、案件もあって、3Dモデルも実装? てんこ盛りだな、新年一発目から。
千葉さんが驚いた様子で反応する。
「もう3Dモデル完成してるんですか、早いですね! もっと時間がかかるものかと……」
「弊社ではデビューが決まった時点で3Dモデルの制作が開始されます。然るべきタイミングで実装するためにも、先に用意しておくに越したことはありませんから」
「なるほどなぁ」
ふむ、と頷く俺。確かに事前に準備しておけばいくらでも練習したり企画案を出したり出来る。先んじて手を打っておくことの大事さはこれまでの活動で身に染みていた。やるな、パーティクル・パーティ。
「そして、その3Dモデルの配信に関連した話ですが」
七草さんが続けて告げる。
「以前より他企業と共同で開発を進めていたソフトウェアが、だんだん形になってきました。それについてもお二方の3Dモデルお披露目配信にて利用することが正式に決定されましたので、ご報告を」
淡々としたその報告。しかし俺はそれを聞いて、大きな期待感を抱えたのだった。
ミーティング後、俺達三人は一緒に神社へとやって来ていた。目的はもちろん、初詣である。
「実はボク、もう初詣に行っちゃったんだよね。だから初ではない」
「セカンド詣ってことか。あるいは次詣」
「そうだけどそうじゃない感が凄い」
「丹野さんは初詣、行かれたんですか?」
「いや、俺はまだです。未詣、まだ詣」
「脊髄反射で喋ってない?」
メカに脊髄はないが。何を言ってるんだ、千葉さんは。
「あ、おみくじあるよ!」
「ふふっ、お詣りする前に引いてみましょうか」
(スパチャを贈るとおみくじが引ける……行けるか? なんらかの法に触れるかもしれない、確認必須か)
「どうしたの、丹野くん」
「いや、法律って怖いよなって」
「本当にどうしたの」
適度に雑談を交わしつつ、三人で初詣を楽しんでいく。促されるままおみくじを引いたが、俺の結果は
「あ、丹野くん、吉凶末分末大吉じゃん! 良かったね!」
「あ、本当ですね。吉凶末分末大吉、これは今後に期待が持てます」
(なんで分かるんだよ)
なぜか把握している二人に驚く俺。二人の意外な一面を感じ取った。
おみくじ売り場から移動して、みんなで本殿へと向かう。道すがら作法について確認する。
「お詣りって二礼二拍手一礼でいいんだよね?」
「良いんじゃないか? 詳しくは知らないけど」
「どんな形であれ、神様に失礼のないような振る舞いであれば大丈夫だと思いますよ」
「それは確かに。というか、神宮寺って姓なら神様関係かなんかじゃないのか? きちんと把握してなくて大丈夫なの?」
「……」
「押し黙っちゃった」
「あとで一緒に色々調べてみましょうね」
「はぃ……」
しゅん、と悄気る千葉さん。久しぶりに見たな、この姿。クソ可愛いわ、やっぱり。俺の同期が可愛すぎる件について。千葉さんをモデルに小説書こうかな。売れるぞ、多分。
そうこうしているうちに本殿、賽銭箱前まで辿り着いた俺達。みんなで揃ってお賽銭を投げ入れ、お祈りする。二人は何を祈ったか知らないが、俺が祈ることはただ一つだけであった。
(どうか今年も健やかに、お二人と一緒に活動していけますように)
心からそう切に願う。
去年はお二人と事務所の尽力のおかげで随分と楽しませてもらった。今年も同じように、いや、それ以上に楽しみたい。俺はそんな気持ちで溢れていたのだった。
参拝を済ませ、さて、と踵を返す俺達。
「そろそろ帰りましょうか。今日も冷えますし、喉を悪くしたら元も子もないですからね」
「ボク、お腹空いちゃいました。帰りに何か食べて行こうかな。丹野くんはどうする?」
「俺は帰って表情を取り戻さなきゃいけないので……」
「そっかー、それは残念」
「私はこの後仕事があるので送れませんが、大丈夫ですか?」
「はい、一人で帰れます。ご心配なさらず」
では、と俺は二人に向けて挨拶をする。
「お先に失礼します。改めて、今年もよろしくお願いします、お二人とも!」
元気よくそう告げて、その場を後にした俺。二人の見送りを背に、その足で最寄りの駅へと向かう。
なんというか、色々と慣れてきたな、と思う。何事も慣れてきた頃が一番怖い。より一層注意して活動していこうと、心の中で誓う俺なのであった。
吉凶末分末大吉、伏見稲荷神社のおみくじには実際にあるらしい。