VTuberって凄えよな、だってやりたいことなんでも出来るもん 作:木野了承
配信タイトル。
【謹賀新年/新機能】こういうときどういう表情をしたらいいか分からないんだ【ぶいすとりーむ/えくすとりーむメカ】
「ウス。えくすとりーむメカでーす! 明けましておめでとう、オペレーターのみんな! 今年もよろしく頼むぜ!」
:明けおめ
:明けおメカ
:今年も面白い企画期待してる
:よろしく、メカ
良いな、明けおメカって挨拶。来年になったら使おうかな。忘れてなければ、だけど。
というわけで、年明け一発目であるこの配信。一月上旬ということで地域によってはまだ冬休みの方もいるようで、その影響か視聴者の集まりがよく、チャット欄も賑わっているのが見てとれた。幸先良いスタートだ、嬉しい限りである。
開幕新年の挨拶を終えた俺は、視聴者達に向けて今回の配信の主題を伝えることにした。
「コメントありがとう。さてさて、今日の配信内容だが。タイトルにもある通り、新機能でございます。さあ、なんだろうなぁ!?」
:やかましい
:かなりの頻度で新機能が来るからなぁ
:予想出来るわけがない
:何すんのよ
「ふっふっふっ……。俺の初配信を覚えているか? 厳密には、初配信で何を言っていたかだ。そこにヒントがあるぜ!」
:アレを忘れられる視聴者は今ここにいないと思う
:ありゃあ伝説でしたよ
:話の内容はあまり覚えていない
:咳払いは覚えている
咳払いはもういいんだって。戒めとして編集せずに残してありますけども。
それはともかく、機能についてだ。
「さあ、今回の新機能……。正解は、これだ! プシュー……」
:出たな、セルフ効果音
:変なことする合図だよ、もうそれ
口で効果音を再現しながら、俺は配信画面に表示していた立ち絵にカーソルを合わせる。えくすとりーむメカの顔をドラッグして、そのまま画面上部へと移動させた。メカの頭部だけが離脱した形となっている。
その下から出て来たのは。
「じゃじゃーん! メカ自体の機能がアップデートされ、とうとう液晶が付きましたー! これで色々と映せるようになったぞ!」
嬉々として告げる俺。画面にはメカの頭部があった部分に黒と緑を基調とした電子板が表示されており、今か今かとその時を待っている。
俺はそれについて、続けて詳細を説明していった。
「知ってると思うが、メカのモデルは元々顔のパーツが目しかなかった。その目も機械的なデザインで、表情の乏しさが目立ってたように思う」
:確かに
:メカだし違和感なかったけど、言われてみればそうか
:言動や感情はめちゃくちゃ富んでるけどな
「他のライバーさん方は目や口をトラックして立ち絵の顔に反映させているから、その人の表情が分かりやすかったはず。だけどメカにはない。メカも表情を見せられたら、面白いんだけどなぁ……。そう思った俺はですね、思い付きました。じゃあ液晶用意しようと。その液晶に映せばええやん、となった次第です」
:もうその発想が突飛だよ
:パーツを導入とかじゃねえもんな
:液 晶 化 現 象
:ラブ○イブの○奈ちゃんボードみたいな感じってことね
「ははっ、ワロタ。そう、実質俺がラブ○イブ」
:は?
:何言ってんだこのメカは
とあるアイドルアニメに登場するキャラクターと似た状況になり、つい可笑しく思う俺。結局俺もアイドルになっちゃうわけか。七草さん、ごめん。運命には抗えないみたいだ。いや、誰がアイドルやねん。俺はメカだ。
と、いうわけで。
「初配信時に言ってたよなぁ、俺が表情を取り戻すところを見ていてくれって! とうとうメカにも表情が再現出来るようになったぞ、ってことで! みんなに見せてやるぜ、俺のフェイシャルエクスプレッションをよぉ!」
高らかに告げる。いざ、実践のときだ。
「この液晶はウェブカメラか、俺の持ってるタブレット端末と接続可能だ。前者はカメラでの入力、後者は端末にイラスト・文字等を書くことで入力するわけだな。まずはタブレットでの入力をやってみようか」
手元に端末を持って来て、接続の確認を進める。端末とパソコンは同期出来るのが一般的だし、すぐに作業は完了した。それを受け、俺は電子ペンを使ってタブレットに色々と書き記していく。
最初に描いたのは。
『><』
「ふえぇー、オイル漏れちゃうよぉ……」
数学記号の一種、不等号を用いて再現した困っている感じを出すときによく使われる顔文字。閉じられた目を漫画的に表現した、いわゆる不等号目と呼ばれるものである。
困り眉に似た表現であり、先述の通り困った様子を表すときに使われることが多いため、俺も例に漏れずそんなシチュエーションを思い浮かべてセリフを言った。メカと関連させて発言したが、それが絶妙に気持ち悪かったらしく、視聴者から非難が届く。
:キッツ
:やめてくれ
:本当にやだ
「ごめん。自分でもキツかったと思います。反省しています、許してください」
:分かればいい
:反省してるならいいんだ
:でも目はそのままなんだな
そんなコメントを見かけて、俺はそっと表示をリセットした。液晶がまっさらな(実際は黒いけど)キャンパスへと戻る。空気の読めるメカです。
その後も色々と記入していった。『怒』と文字で書いたり、さらなる顔文字でしょぼんしたり、四コマ漫画を描いたり、描いたものを点滅させたり。表現法は無限大だ。
「以上、タブレットでの出力はこんな感じ。俺は絵心そこまであるわけじゃないから陳腐にしてチープだったけど、絵上手い人なんかは凄いことになりそうだな」
:陳腐にしてチープて。んなこたなかったよ
:これは面白いかも
:カンペや伝言ゲームなんかに使えそう
:見てるとペンタブが欲しくなるな……
なるほど、カンペや伝言ゲーム。面白い発想だ。謎解きゲームなんかをプレイする際のメモとしても使えそう。ついでで実装した機能だが、意外と便利そうだ。
さて、これは前菜。ここからがメインディッシュである。
「さあお待ちかね、カメラ入力です。ちょっと待ってて、今設定し直すから」
視聴者に向けてそう告げて、俺はタブレット端末の接続を切る。液晶の出力法を切り替え、ウェブカメラと対応させた。動作をある程度確認し、問題ないことをチェックした俺は、それを作動させる。
「よし、これで大丈夫! どうだ、これが俺の、真の表情だ!」
そんな風に、俺は高らかに宣言した。
更新された配信画面を見て、途端にチャット欄がざわつく。
:目と鼻と口⁉︎
:デジタル調で表示されてるんだけど
:ドット絵みたい
:うわー、奇妙
「そう! 今回はウェブカメラで入力された映像を、顔のパーツ毎にデジタル信号として出力してみました! それをさっきから映してた液晶に反映させてるってわけだ! 俺のご尊顔だ、しっかり見とけよ!」
声高々に説明する俺。前々から試してみたかったことが形になったので、ややテンション高めなのはご愛嬌である。
今回参考にしたのはトゥーンレンダリングという技術。入力された画像や映像からエッジ(出っ張っている部分のこと)を検出し、別の作画で出力する手法のことである。撮った写真を漫画風に加工する際や、CGをアニメっぽく見せる際に使われている技術である。アプリゲームのウ○娘なんかにも使われているものである。
厳密に説明すればラプラシアンフィルタだの画像微分だのなんだの、難しい要素が絡んでくるのだが、そこは置いといて。今回は俺、丹野達人の顔のパーツをデジタル信号として出力することにしたのだった。本来のトゥーンレンダリングでは作画を変えるまでにいくらか処理を挟むわけだが、別にそこに関しては拘りがないので、一番簡単なイチかゼロかでの出力となっている。ここら辺の変換については後々気にしていってもいいかもしれない。
「はっはー! どうだ、今俺は笑っているぞ! みんなにはどう見える⁉︎」
:笑ってるね
:笑顔ではあるな
:画素数が少ないから詳しくは分からないけど、でも表情としては認識出来る
:パーツ毎の配置が綺麗過ぎて凄え不気味
「画素数と配置に関してはしょうがなくてなぁ。色んな意味で怖いんだって。上層部まで確認が行ってさ。ここまでならってラインなんだ、これ」
:なるほどね
:視覚的な怖さと、中の人の身バレ的な怖さか
「中の人……? メカ、ニンゲンノイウコト、ヨクワカラナイ」
:久しぶりに聞いたわ、それ
:本当にすっとぼけた顔してたのな
とぼけてなんていません。真面目に分かってないだけです。正直身バレしたところでって感じではあるけど、まあ、イメージは良く保つべきだからな。丹野達人は忍びます。
液晶を通じて、配信に表情や顔の動きを載せていく。
「これ、口開くとおもろいんだよな。歯とか凄い、舌動かすとめっちゃキモい動きになる。レロレロレロレロ」
:うわうわうわうわ
:動かすな、動かすな
:なんでメカに舌があんねん
「パーツ毎に表示してるけど、配置は実際の顔とは違ってて揃えてるわけでしょ。だったらランダム配置でもいいじゃんってことで、ガチャを引いて配置することも出来ます。試しに一回引くか」
:自分の顔をガチャにして遊ぶな
:目の位置に口が、口の位置に目が
:何これ、上弦の伍?
:バーチャル福笑い
確かに福笑いみたいだ。図らずも正月っぽい企画となった。シーズナブルなメカである。
「よし、こんな感じで表情を取り戻したところで、今日の配信はおしまーい! いやー、楽しかったわ」
:表情取り戻した上でぐちゃぐちゃにしてるんだが
:とうとう自分の顔で遊び始めたなぁ
:メカはメカに収まる器じゃなかったか……
どういうこと? 俺の器はクラインの壷みたいってことか? なんか、うちの視聴者の深みが増して来たように思う。
そんなこんなで、表情を取り戻した、厳密に言えば獲得したえくすとりーむメカ。今後はこの機能を恒常的に設定し、必要に応じて使っていくつもりである。果たして出番があるかどうかは置いておいて、さらに表現の幅が広がったわけである。
年を越したえくすとりーむメカは、一味違う。今後も色々と、やれることを増やしていく所存だ。まだ世間に公表されてないが、3Dモデルも実装されるという話だし、今のうちに楽しめるだけ楽しんでおこう。やりたいことなんて、山のようにあるしな。
追記:資格の講習を受けなければならないため更新遅れます。ご了承ください。