VTuberって凄えよな、だってやりたいことなんでも出来るもん 作:木野了承
一月中旬、成人の日を過ぎた頃。新衣装に関する打ち合わせの為、俺は七草さんとレットさんと共にミーティングを行っていた。デビュー前に行った、担当キャラクターについて以来のオンラインミーティングである。久しぶりだったせいで若干準備に手こずったのは内緒だ。ギリギリ間に合って良かった。
打ち合わせは滞りなく進み、円滑に情報が共有されていく。一通り説明し終えたレットさんが、ふう、と一息ついた。
「詳細はざっと、こんなもんかな。世界観や設定については全て反映する必要はないからね。これらの情報を踏まえて、丹野くんが自由に解釈してくれて構わない。もちろん、公序良俗に反するものはダメだけどね」
「はい、分かりました。ありがとうございます、レットさん」
「礼は要りません。仕事ですから」
「最近シン・○ジラでも見ました?」
「すごっ。今のでよく分かったね」
俺の問いに驚きで返すレットさん。大学一年生のとき初めてサブスクリプションサービスに登録して、これで映画が見放題だ、ってなったときに散々見たからなぁ。プログラミングの講義の時間に隠れて見てたの、懐かしい。
「丹野くんは色んなネタを拾えるねぇ。ゲームやアニメ、映画に物真似、インターネットミームまで……ウィットに富んでいるというか、なんというか。普段の配信の企画もそうだけど、君の引き出しの多さには脱帽だな」
「ふふん、でしょう? 丹野さんは凄い子なんです! 自慢のライバーですもの!」
「え、あ」
七草さんが誇るんだ、ビックリした。やば、嬉しい。この人が喜んでると俺まで気分が上がってくる。あれ、褒められたの俺じゃなかったっけ。なんか分からなくなってきた。
打ち合わせがひと段落したというのに、ミーティングが終わらない。そのまま三人で、雑談を交わしていった。
「配信の企画と言えば、この前の液晶機能。面白かったなぁ、アレ。よく思い付いたね、あんなの」
「ああ、アレは大学の友人が似たようなの作ってて、それを参考に。ウチの大学、変なもの作る人間が多いんで、結構影響受けたりします」
「なるほど、大学生の丹野くんならではの強みですね」
「ライバーは出不精になりがちだからなぁ。学校という外に出る機会が明確にあるのは、良いことかもね」
確かに、と俺はレットさんの言葉に頷いた。家に篭りがちだと発想や思考が狭くなる感じがするから、外出するのはクリエイターにとって大事なことかもしれない。ネタや企画を思い付くためにも、ぶらぶらと歩き回ることは地味に重要だと思う。
徐に、レットさんが所感を語った。
「液晶機能もそうだけど、君の企画力や発想力には驚かされてばかりなんだ。それを実現する知識や技術にも感心する。見る度に刺激を貰えるよ」
「いやいや、そんなそんな」
「モデルの作者としては嬉しい限りなんだ。君が活躍しているのを見るのはね」
彼女は小さく笑みを溢すと、続けて言った。
「えくすとりーむメカは君のために作られたキャラクターだ。その調子で、メカらしい配信をしてくれれば、と私は思うよ」
「……はい、頑張ります!」
彼女のそんな言葉に、俺はしかと応えるのであった。
「千葉さん、来月の三日って空いてる?」
打ち合わせの直後、俺は神宮寺改め千葉さんに通話でアポイントをとった。千葉さんは食事中だったようで、何かを咀嚼する音を時折発しながらも、突然の電話に対してしっかりと反応を返してくれた。
「みっか? うん、空いてると思うけど。んも、んぐ、どうしたの、急に」
「さっき七草さんとレットさんと打ち合わせしてて。その中で、三日に俺とレットさんと千葉さんでコラボ配信しないかって話が出たんだ」
へえ、と相槌で返す千葉さん。
話を続ける。
「七草さん情報では仕事やレッスンは入れてないはずってことだったんで、あとは本人確認だけだったんだ。大丈夫そうだね」
「うん、稽古も個人的な予定も無いから行けると思う。んぐ、んむ、ボクの方から七草さんに参加の旨を伝えておくよ」
「ああ、よろしくお願いします」
うん、と明るい返事が通話の向こうから聞こえた。
快諾した千葉さんだったが、詳細を気にしてか、俺へと質問を投げかける。
「コラボ配信って、何する予定なの? レットさんもいることだし、また裏話的な雑談枠?」
「いや、今回はちゃんとした企画をやるつもり。多分本社に集まって配信することになると思う。チャンネルは俺のになるかな」
「へー、大掛かりなんだね。それで、その企画ってのは?」
「おいおい、察せていないのかい? 今までのやり取りの中で既に核となる情報は出ているんだぜ?」
「急にムカつく言い方になったな」
饒舌に語る俺に対し、辛辣な言葉を投げる千葉。この人に冷たい言葉掛けられると精神的になんか来るな。でもなんとなくゾクゾクする面もある。本当にいけない扉を開こうとしていないか、俺。怖いから鍵を掛けておこう。公開鍵暗号でしっかり戸締り。俺の心はデジタルなんだ。
「……それで、一体何するの」
呆れた口調で、そんな風に問う千葉さん。俺はそんな不満げな同期に、企画に関するヒントを提示していくのだった。
「配信予定日は二月三日だ。なんか心当たりないか、その日に」
「二月、三日……? 誰かの誕生日とか、記念日ってわけでもないし。……あ、まさかっ!」
「フッ、その様子だと気付いたようだな!」
千葉さんのリアクションに、不敵な笑みで返す。
二月三日といえば、やることなど一つしかない。俺は高らかに宣言するのであった。
「レッツ、鬼退治だぜ!」
講習を乗り越えた先にあるのは試験でした。