VTuberって凄えよな、だってやりたいことなんでも出来るもん   作:木野了承

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節分について(2)

 

 

 雑魚鬼と格闘すること数分。やがて敵の出現がめっきり収まり、画面にはメカと神宮寺のモデルだけが残った。

 

「あれ、もう終わり?」

「いいや、まだだ……! ヤツが、来るぞ!」

 

 途端、画面が揺れる。震える画面右奥から、徐々にそいつは姿を現した。

 怒り狂った表情、迫力ある角と顔、金棒と巨大な身体。最後の敵、鬼達の親玉「大鬼」である。

 

「な、なんだコイツは⁉︎」

「なんだってお前、ボスに決まってんだろ!」

「節分にボスなんて概念無いでしょ!」

 

:当たり前のように言うな

:メカの節分に対する歪んだ認識は何?

:鬼に親でもやられたんか

 

 そんなこんなで、ボス戦がスタートである。

 コイツの厄介な点は手に持った金棒の攻撃範囲が広いことと、戦闘中に小鬼や鬼を呼び寄せるところ。雑魚敵を相手取りながら、ボスにも攻撃を当てなければならない。

 つまるところ。

 

「うわっ! 手を振るヤツじゃちっこいのに攻撃吸われてボスに当たらない!」

 

 こういう状況になるということである。

 神宮寺が先ほどまで使っていた攻略法は、確かに道中は有効である。しかし全体に満遍なく攻撃する都合上、体力の多い敵、つまり集中攻撃が必要な敵に対して効果的とは言えない。ボスの他に雑魚敵も出るこのシチュエーションではさらに効果は薄まる。これは意図して対策したものであり、上手く作用しているようで安心した。

 

(今までは俺が楽しむために作ってきたけど、今回は二人で楽しむために作ったからな。色々と考えることが多くて苦労したぞ)

 

 楽しむ側から楽しませる側へ、意識が進化した良い機会だった。この経験は今後活きてくることだろう。俺はまだまだ、成長出来る。

 

「神宮寺、場面によって攻撃法を切り替えるんだ! 雑魚敵が多いとき、ボスに隙が出来たとき、その時々で一番有効な攻撃を叩き込め!」

「分かった! うおおおぉぉぉ!」

 

:この二人、ノリノリである

:没入してらっしゃるわ

:節分ってなんだっけ

 

 すっかり白熱したバトルとなったボス戦。二人で協力し、鬼に向かって一心不乱に豆を投げ続ける。

 進めていくうちに、新たな要素が現れた。画面下部から「福」と書かれた黄色い玉が、ふよふよと横切り始めたのである。

 

「な、なんだコレ! 福⁉︎」

「迎え入れるんだ、神宮寺くん! 鬼は外、福は内だ!」

「え、ええ、ああ、そういうこと⁉︎ よし! あ、でも間に合わない!」

 

 気付いた頃には福の玉は神宮寺の少し手前、ギリギリ届かない位置まで来ていた。移動入力では間に合わない距離。すかさず、俺は叫ぶ。

 

「身体を動かせ、神宮寺! トラッキングの力を見せつけろ!」

「よしッ! おりゃあああぁぁぁ!」

「おおおっ、ビックリした……!」

 

 俺の叫びを聞くや否や、身体を右へと傾ける神宮寺。迫真の雄叫びながら体の動かし方は穏やかで、ぽふん、と隣でプレイする俺の肩に寄り掛かる形となった。不意な接触に驚きつつも、気を取り直し画面へと意識を集中する俺。

 当たり判定は2Dモデルを基準に設定してある。動き次第で敵を躱すこともアイテムを入手することも可能。上手く身体を動かして判定を広げた神宮寺は、見事福に手が届いた。

 

「やった、届いた! 福を迎え入れたけど、どうなるの⁉︎」

「コマンド、コマンドを入力だ! 画面の指示に従ってキーを入力!」

 

 福を手にした瞬間、画面にカットインが入り、「とどめをさせ!」というテキストメッセージが表示された。それと同時に福を手にした神宮寺のモデル上部に、「ADADWSWS Shift」という表記が浮かぶ。これこそ先程口にした、入力コマンドである。

 

「A、D、A、D、WS、WS、シフトッ! 入力完了だっ!」

 

 すぐさまキー入力を済ませた神宮寺。途端、画面に一閃、切れ込みが入る。アニメーション演出である。

 直後、毛筆フォントによるテキストが表示される。

 

『神宮寺流剣術 一の太刀 紫電』

「え!? なにコレ!」

 

 切れ込みから広がるように、新たな画面へと移り変わる。そこには用具レットによる描き下ろしイラスト、神宮寺の特殊カットインが用意されていた。目を閉じ、居合の構えを取る神宮寺の姿。

 演出が開始されるや否や、俺とレットさんのテンションが最高潮に達する。

 

「「いけえええぇぇぇ、神宮寺いいいぃぃぃ!」」

 

 二人の声援に応えるかのように、神宮寺の両眼が開眼する。その刹那、紫の斬撃エフェクトが画面に映し出され、イラストが切り替わる。納刀の仕草を見せる神宮寺。

 画面に神宮寺の台詞が表示される。

 

『これにて一件落着!』

 

 最後に彼はニコッと笑みを見せ、イラストがフェードアウトしていく。最後の最後まで粋な演出であった。

 演出が終わり、ゲーム画面へと戻る。大鬼の動きが止まっている。次第にその身体に切創が現れ、やがてぼろぼろと崩れていった。鬼退治完了の証である。ゲームクリアだ、達成感に満たされる。

 ゲームをクリアしたというのに、神宮寺はおろおろと狼狽えていた。

 

「え、え、え? なに、今の! なんか、めっちゃかっこよかったんだけど! ボクじゃん、今の!」

「そうだよ。神宮寺がとどめを刺したんだもん」

「そうだよ、って、え!? わざわざ用意したの⁉︎ めちゃくちゃ凝ってたんだけど! 差分まであったんだけど!」

「我ながら力作でした……会心の出来」

「無事鬼退治達成ということで! さあ、ここで新機能についての説明に入ります!」

「ちょちょちょ、ワケワカンナイヨ!」

 

 困惑する彼を他所に、俺はこの企画の真の目的を説明していった。

 

「というわけで、節分配信でしたが! 先程お披露目しましたカットイン演出は今後、えくすとりーむメカ、そして神宮寺誠の2Dモデルにおける標準機能として実装されます! レットさんからのプレゼントでした!」

「えぇ⁉︎」

「ふふふ、サプラーイズ」

「ええええええぇぇぇぇぇぇ⁉︎」

 

:えええええええええ⁉︎

:なん……だと……

:豆まきだけじゃないのぉ!?

 

 そう、今回の配信は豆まきシューティングゲームの披露と同時に、神宮寺誠に対するサプライズプレゼントを目的としたものだったのである。

 レットさんが横から補足する。

 

「企画立案はメカくん、制作は私とメカくんの共同ということで、こちらのチャンネルで配信させていただきました。詳細説明等に関しては改めて、別枠で行う予定です」

「あ、う、えぇ⁉︎」

「日頃のお礼だ、神宮寺! いつも俺のノリに付き合ってくれてありがとう! この機能はクソマロが来たときにでも使ってくれ!」

「あぇ、うぇ! えぇ?」

 

:唐突な感謝に涙を禁じ得ない

:まさかまさかのサプライズ

:動揺して神宮寺殿、呂律回ってない

:クソマロを斬り捨てる神宮寺殿を見たいかと言われれば是非見たい

 

 怒涛の展開に思考が追いつかない様子の神宮寺。チャット欄も盛り上がりを見せ、配信はクライマックスを迎える。

 

「さあ、今日の配信は以上でございます! 鬼も退治したことだし、俺達の春は明るいぞ!」

「う、うぅ……! くぅー……!」

「どうしたの、神宮寺くん」

「う、嬉しいよぉ……! こんなかっこいいの、うれじいぃ……! ずるいよ、メカぁ、ママぁ」

「喜んでいただけたようで何より! ごめんな、内緒にしてて! 驚かせたくてな!」

「サプライズなんて学生のとき以来だったよ。懐かしい気分になった」

「うおおおー、後生大事に使わせていただきます……!」

 

:イイハナシダナー

:色々とてんこ盛りな配信だったな

:神宮寺殿が嬉しそうで俺達も嬉しいです

 

「今回は試験的運用も兼ねてたから、本実装の際にはもっとバリエーションが増えてるかも知れません。是非とも、お楽しみに。メカくんの演出についてはまた今度だね」

「そちらも見ていただければ幸いです。それでは今日はこの辺で。ご視聴ありがとうございました!」

「メカ、レットママ、ありがとう! 視聴者のみんなも、ありがとう! また次の配信でお会いしましょう……!」

 

 三人で締めの挨拶をして、配信を終える。無事に企画もサプライズも成功して、満足度の高い時間だった。

 この企画を通じて考えたことは、「俺一人だけが楽しむままでいいのか」ということだった。今までは俺が満足するために色々と画策してきたが、それだけでは勿体無かったように思う。これからは、できる限りこの楽しさや嬉しさをシェアしていきたい。

 斬新で愉快なインターネットを広めたい。俺の原点はそこにある。誰かを、そして世界を巻き込むようなコンテンツを発信していくための第一歩を踏み出したい。今日の配信は俺のそんな芯を見つめ直す、良いきっかけとなってくれたように思う。

 楽しいは創れるし、分け合える。今年の節分はそんな気付きを得られた、特別な日となった。

 

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