VTuberって凄えよな、だってやりたいことなんでも出来るもん 作:木野了承
節分の日から数日後。今回は先日お披露目したカットイン演出機能の解説動画収録ということで、都内のスタジオにて改めて集まりがあった。千葉さんやレットさんらと一緒に、機能の仕様について共有していく。収録はわいわいと騒ぎながらも無事に終了。その動画は編集された後、神宮寺誠のチャンネルに投稿されることになっている。
収録が終わるや否や、すぐさま感想を言い合う俺たち。
「まさかメカの演出がえくすとりーむと書かれた無数のロケットを飛ばすものだとは……めちゃくちゃ笑ってしまった……」
「絶妙にカッコいいから余計に面白いんだよな、アレ」
「ふふふ、好評で何より。作者冥利に尽きるなぁ」
撤退作業もこんな調子で、和気藹々と雑談を交わしながら進んでいった。演出機能はこの動画収録を機に各々のモデルに正式に導入されたので、動画が投稿され次第、各配信で使用することが出来る。実に楽しみだ。
七草さんが口を挟む。
「企画立案こそ丹野さんがきっかけでしたが、元よりカットイン演出やアイキャッチの導入は検討しているところでした。あると便利ですからね」
「確かに。ボクも待機画面や切り替え画面をそろそろ静止画から卒業したいなって思ってたから、丁度よかったかも」
「演出の他にもオープニングやエンディングにも応用出来るから、配信映えする良い機能だよな」
「使い方は君たち次第だ。存分に活用してくれることを願うよ」
レットさんのそんな言葉に、任せてください、と胸を張る千葉さん。どことなくテンションが高い。俺の気分も同様に高まっており、早く使いたい気持ちでウズウズしていた。
さらに言えば、と七草さんが付け足す。
「今回の演出には別の狙いもありまして、それについても上手く作用してくれると思います。今後はそれに関連したお仕事のお話も増えていくと思いますし、話を円滑に進めるのにも役立ちそうです」
「別の、狙い……? なんです、それ」
千葉さんが七草さんに聞き返す。彼女が答える前に、俺が千葉さんに向けて告げる。
「必殺技だよ、必殺技」
俺のそんな言葉に、「ええ」と七草さんは頷いた。きょとんとする千葉さんに対し、彼女は説明していく。
「昨今VTuberはゲームとコラボすることも少なくありません。ゲーム内のプレイアブルキャラクターとして実装されることもしばしば。その際に固有のモーションや技の原案が有ると無いとでは、企画の立てやすさに明確に差が出ます」
「はえー、なるほど!」
「コミカライズ等のメディア展開をする際にも有用だと思うよ。事例はそこまで多くないけど、君達のような機能や技に富んでいるキャラクターであれば作品のネタにもしやすいし」
「ふむふむ。まさに、一石二鳥ってわけですね!」
考えてみると確かに、えくすとりーむメカや神宮寺誠の設定はキャラクター性に秀でているように思う。これは俺達ならではの強みだ、活かす他ない。
しみじみと、これまでを振り返る千葉さん。
「なんか、段々と話が広がって来たなぁ。去年のボクが聞いたらビックリすると思う」
「ははは、確かに。俺も驚くだろうな」
表ではそう笑いながら、心の中では感傷に浸る。
二月と言えば、俺が七草さんからスカウトの話を受けた月である。あれからもう一年経とうとしているのだ、感慨深い。
(まだまだこれから、だな)
右手拳を握り締める。俺は改めて、決意を固めたのであった。
時は少し経ち、二月下旬。今日はとうとう、えくすとりーむメカの新衣装お披露目の日。少し前に神宮寺誠の新衣装も披露されたため、連日の発表となっている。節分配信やら、カットイン演出やら、新衣装やら。一年の中で最も日数の少ない月でありながらこの情報量。稠密六方格子構造くらい予定がぎゅうぎゅう詰めである。
配信タイトル。
【俺も】新衣装お披露目【ぶいすとりーむ/えくすとりーむメカ】
「ウス。えくすとりーむメカです! 今日はとうとう新衣装だっ!」
:おめでとう ¥10000
:神宮寺殿に続いてか
:新衣装代 ¥5000
:隅付き括弧の使い方よ
:メカにも衣装って概念あるんだな
「スパチャ、あざます。……むむ、衣装というより新モードと言った方が正しいかも。タイトル変えとくか」
改め、配信タイトル。
【俺は】新モードお披露目【ぶいすとりーむ/えくすとりーむメカ】
:あー、何が何だかわからなくなった
:俺「は」
:何を強調してるのやら
差別化は大事ですから。神宮寺に対して俺はこうだよ、っていう対句法的なタイトルです。対句法からふと思ったけど、俺達の関係を詩に綴るのも悪くないかも。タイトルはもちろん「私と誠とメカと」で決まりであろう。……この「私」は誰なんだろう。自分で考えておいてちょっと怖くなって来た。
「さて、話変わりますけど。いやぁ、先日の神宮寺の新衣装、見ました? マジで良かったですよね。いつもカッケェ羽織着てる人が、今度はモダンな制服ですってよ。しかもちゃんと短パン。うーん、満点。文句無し」
:急に饒舌に語り出したな
:確かにアレの破壊力はやばかった
:神宮寺殿の生脚
:その……下品なんですが…フフ……下品なのでやめておきますね
:正統派な新衣装だったな
「で、羨ましかったので、俺にも新衣装、じゃなかった新モードが来たと。そういうわけですわ。じゃ、早速行くぜ!」
:はやいはやいはやいはやい
:急に切り替えすな
:制御不能か?
:ハンドルどこやったんだ
運転の予定はないので、今回の配信でハンドル機能を表示することはない。この配信がどんな道筋を辿るかは俺にしかわからない。視聴者は固唾を呑んで見守っていることだろうな。
何はともあれ、いってみよう。
「……おや⁉︎ えくすとりーむメカのようすが……! えまーじぇんしーもーどっ! テレレン、テッテッテッテッ♪」
:ポ○モンかよ
:進化するんだ
:エマージェンシーモードって鳴き声だったの?
:まーた光ってるよこのメカは
せっかくなので、以前大会で使ったエクストラデッキシステムにも対応するように新衣装のモデルを設定してある。操作一つで通常立ち絵と切り替え可能というわけだ。便利〜。
超有名なモンスター育成ゲームに準え、演出のノリに乗る俺。光に包まれたえくすとりーむメカであったが、しばらくして、演出が収まる。
そうして画面に現れたのは、苔と錆で覆われた、えくすとりーむメカの変わり果てた姿であった。そんな荒んだ見た目とは裏腹に明るい声で、俺は堂々と告げる。
「おめでとう! えくすとりーむメカは荒廃した姿に進化した!」
:進化……? これが……?
:進め過ぎだろ、時を
:予想外なの来ちゃった
:絶対モードって枠組みじゃないでしょ
:終末迎えてるじゃん
:ポストアポカリプス?
チャット欄が反応で賑わう。コメントでも言われている通り、今回の新規立ち絵のコンセプトは文明崩壊後の終末世界観、所謂「ポストアポカリプス」となっている。メカだからこその設定。他のVTuberでは中々真似出来ないテイストである。
「機械とポストアポカリプスの組み合わせは定番ですから。例え世界が滅んでも、俺は配信をし続けます」
:覚悟が決まりに決まってるな
:本当にしそうだから困る
:ラ○ュタのロボット兵みてえ
:なんかそれ聞いて安心しちゃった
:ちょっとエモいな
反応は上々。ここからは、この新モードを活かした配信へとシフトさせていく。
手始めに、オーディオインターフェースの設定を弄り、音質をあえて悪くする。マイクにノイズが乗っていることだろう。その状態で挨拶をしてみる。
「ザザッ……ウス……えくす……ーむメ……す。今日は……ザザッ……してい……す」
:音質わっる
:臨場感出すな
:本当に終末世界で配信してるみたい
「ウス……えくすと……メカで……えく……りーむメ……す。誰か……届いていれば……嬉し……。えく……りーむ……です。ザザッ……えくすとりーむメカです」
:壊れたラジオのように挨拶を繰り返している
:なんか切なくなってくるのやめろ
:取り残されたメカは誰にも届かないのに配信を続けた……
(あ、しまった……)
心の中で若干焦る。理由は視聴者のコメントにある。困ったものの、仕方ないと割り切って俺はそれを配信画面に映した。
『えくすとりーむメカは配信を続けた。その声はもう、誰にも届かないというのに』
漫画の吹き出しのような枠に、テキストを添えた画像。それを立ち絵の横に表示させたのである。モノローグで語られたその描写が、余計に終末世界観を彷彿とさせる。文言が視聴者のコメントとそっくりになってしまったため焦ったが、考えてみればそんなに焦る必要がなかった。まさに杞憂である。
:何これ、最終回?
:新モードお披露目枠だと聞いてたのですが
:なんなんだこの感情は
「ザザッ……俺の笑顔を……届けます……」
そう言って、以前実装した液晶機能を表示させる。しかしここにも世界観が適用されており、表情が表示されることはなく、画面にはスノーノイズしか映っていなかった。
:画面、砂嵐じゃねえか
:そこまで設定反映させてんのかよ
:凝り過ぎだろ
:何食ったらこんなこと思いつくんだ
「何食ったら思いつくか、だって? ライ○ガードだよ。厳密には飲むだけど」
:ワロタ ほんと好きだな
:そこだけ鮮明に聞き取れる
:終末でもライ○ガードはあるんだ
:まあ名前からして守ってくれそうだし……
聞き取れたのは俺がノイズキャンセリングを有効に戻したからである。そろそろ音質が悪い状態もストレスになる頃だろう。塩梅、大事。
「ちなみに緊急脱出しようとするとパーツが少しずつパージされちゃいます。試しに三回転くらいしてみますね。ほっ……あーあ」
:あぁ、腕が、腕が
:長い年月を経て、メカの体はこんなにも脆く……
:少し前まであんなに元気に豆を撃っていたのに
:オイルも漏れちゃって、もう
:さらっとやってるけど凄えな、この機能
今実際に見せたように、緊急脱出機能を利用しようとすると切り替え毎に確率(擬似ランダムだけど)でパーツが分離していくようになっている。2Dモデルはパーツ毎に分けてトラックを設定しているため、少し手を加えればこのようなことも可能。人物がモチーフでは四肢をもぎ取るなどとんでもない話であるが、俺ならお構いなし。いくらでも分離し放題である。
「失った手足は修理することが出来ますが、壊せば壊すほどクセになってより壊れやすくなります。要は分離する確率が上がっていく。脱臼みたいなもんすね」
:言い得て妙だ
:なんとなく分かるのが悔しい
:遊び心すげえな
こういった設定を配信に組み込むのは割と好きだ。ロールプレイと言うんだっけか。演じる、とまでは行かないけど、成り切る行為は楽しい。非日常感を味わえる。
「自分、このモード、かなり気に入ってます。やっぱイイっすね、こういうの。テンション上がる」
:斬新でいいね
:新衣装お披露目配信で面白いって感想抱くの初めてかもしれん
:ほんとメカはなんでもアリだな
視聴者の反応の良さに安心する。俺のガワがえくすとりーむメカで良かった。やりたいことと本当にマッチしたキャラクターだ、七草さんの慧眼にはつくづく恐れ入る。
キャラクター性及び設定の反映は、VTuberである利点の一つだと個人的には思う。他の配信者や動画投稿者と差異をつけるという意味でも大きな役割を持つ。設定はあるだけでは意味が薄く、扱ってこそ真価を発揮する。それを今回の配信で強く実感した。
スカウトを受けて、約一年。最近になってようやく、VTuberとしての自覚が固まってきたように思う。それでも俺らしさは失われておらず、上手く立ち回れていると自負出来る。
あとはこのまま走り抜けて、ひとつ次元を越えるだけ。それまでに機能を増やして、俺の視野と世界を拡げていこう。