VTuberって凄えよな、だってやりたいことなんでも出来るもん 作:木野了承
配信タイトル。
【ムービング・シーナリー】感動的な景色をインターネットに【ぶいすとりーむ/えくすとりーむメカ】
「ウス。えくすとりーむメカです。今日は、アンケェェェンッ!」
:そんな言い方しなくても
:はっきり言いやがった
:清々しいことこの上ないね
三月某日、案件配信実施日当日。配信を始めるや否や、この放送がプロモーションを含むことを早々に自白する俺。なんとなくの印象だが、案件については隠すよりも大っぴらに言った方が、配信者的にも視聴者的にも割り切りが出来るように思う。こういうのははっきり明言した方がやりやすいと、そう思っての宣言であった。
「初めての企業案件なので、ちょっと緊張している。生温かい目で頼む」
:はじめてのあんけん
:メカにもとうとうお仕事の話が……
:めでたいねぇ
言った側からコメントが生温かくなる。メカの視聴者、みんな良心的というか民度が良いというか、割と治安が良いと評判である。悪ノリはすれど、ラインは超えない良い塩梅。ほんと、俺は人に恵まれているよ。
さて、と本題を切り出す。
「今日の内容は端的に言えば商品紹介になるな。ちなみに案件は元より、商品紹介すらまともにやるのは初めてです。俺もYouTuberらしくなってきたな……。しみじみ」
:勝手に感傷に浸るな
:今までの企画からしてずっとネット活動者らしくはあったぞ
:枠からはみ出てはいるけどな
あれ、生温かいコメントが、ちょっとずつ冷めてきたような……。色々言われておりますが、前向きな評価と受け取ろう。
何はともあれ、件の商品である。俺はパソコンを操作して、それを画面に表示させた。
「さあ、早速ですが、本日紹介するのはこちら! ソフトウェア開発会社である『りそーす』様からリリースされております、映像背景ソフト『ムービング・シーナリー』です。今、俺のモデルの後ろで流れているのがそのソフトによる映像ですね」
:綺麗な空だな
:雲が動いている
:メカの配信でこんなに画面が澄んでること中々ないぞ
:目に優しいね
配信画面上では普段とは異なる背景が、メカの立ち絵の後ろに映し出されていた。いつも利用している背景は適当にその辺のフリー素材配布サイトから拾ってきた静止画であるが、今回は特別な映像となっている。ムービング・シーナリーは配信画面に映像を映し出すソフトウェアだ。つまりは背景に特化した、配信向けの商品なのである。
「YouTuberを始めとしたインターネット活動者、特に配信者全般に言えることだけど、配信の際にはいろんな画面を映すよな。背景画像もその一つなわけだが、殆ど静止画で済ませているのが現状だと思う」
:まあ、確かに
:背景を気にしたこと、あまりないな
:素材の使い回しする人が多い印象だな
「で、そこに注目したのがこのムービング・シーナリー。ソフト内に実装されているいくつかの映像素材を自分で組み合わせて、その映像を背景として利用出来る。要は、背景を動かせる」
淡々と説明を述べつつ、ソフトウェアの操作も進めていく。実際に編集画面を開いて、本格的な紹介へと移る。
「UIはこんな感じで、個人的にはかなり扱いやすい。映像素材の編集も素材自体がかなりシンプルだから、基本カットして貼り付けるだけで作れちゃう。でもそれを映すだけで画面に変化が起こるから、物凄くコスパが良い」
:なるほど、面白い
:背景が動くだけで印象が変わるな
:でも映像となると処理が重くなるんじゃ
「容量の軽い映像をループさせて表示させているから、処理に関しては問題ないんだな、コレが。PCのスペックによらず、遅延せずに使えるとのこと。企業努力が成せる技ですわ、凄いね」
使用感を褒めちぎり、仕事が絡んだ配信ながら明るい雰囲気で臨む。なんというか、俺の性分に合った案件な気がする。やっていて楽しい、円滑に進行出来る。りそーすさん、お仕事くださってありがとう。
ある程度解説を済ませたところで、俺は実践ということで具体的な使用例をお披露目することにした。
「じゃ、これを使った演出の例をお見せしよう。まずは、普通の市街地の背景をセットする。そこから経過時間を指定して、隕石落下の素材を入れた後、このサイバー風な素材を挟む。合間にも演出を差し込んだりして……。そんでもって最後に……これは内緒にしとこ」
:編集めちゃくちゃ簡単じゃん
:なんで隕石の素材があるんだよ
:もうこの時点でカオス
:最後だけ隠しやがって……
:期待感爆上がり
編集の流れや操作方法をしっかり示し、着々と準備を進めていく。ものの五分足らずで目的の映像は完成し、すぐさまお披露目の状況は整った。さあ、ここからが肝である。
「うし、じゃあ、始めるメカよ。とくとご覧あれメカ」
:楽しみになってきた
:急なメカ語尾に動揺を隠せません
:余計な情報を増やすな
雑な上に唐突な設定を挟みつつ、俺は再生ボタンを押した。演出が起動する。それを皮切りに、俺も演技の準備を始めた。おほん、と喉を整える。
車や通行人が行き交う一般的な市街地を背景に、メカのモデルを動かしていく。雑踏に混ざる感じで、あくまでも日常感を前面に出すように振る舞う。
「いやー、配信活動楽しいなー。でも、最近立て込んでたから、色々と溜まってるんだよなー」
:なんか始まった
:白々しい演技
:何溜まってんだ?
:メカには疲れもストレスもなかろうに
「はあ……。特に、ウルト溜まってんだよなぁ……」
:ウルトだった
:そりゃ溜まるわ
:メカにウルトあったんだ……
ここで言うウルトとは、対戦ゲームやアクションゲームでよく見られる、そのキャラクター特有の必殺技的な立ち位置のスキルのことを指す。火力の高いものや広い範囲を攻撃出来るものなど、ゲームやキャラクターによって効果はまちまちであるが、総じて強力なものとなっている。
一般に、ウルトは使用するまでにゲージやクールタイムが存在しており、使用出来る状態になったことをゲーム界隈では「ウルトが溜まった」などと言う。今まさに、えくすとりーむメカのウルトが溜まっている。そういう設定で現在の演出は進んでいる。
しばらくして、次の映像が始まった。隕石落下の素材である。
「い、一体、なんだアレは⁉︎」
:隕石かな
:隕石だよ
:隕石だね
制作過程でなんの映像であるか既出であるため、チャットでことごとく言及される。しかしそんなことなど一切意に介さず、俺は続けた。
「うおおおぉぉぉ! やったぜ、今こそウルトの切りどころだ!」
そう言って、俺はキーボードで「ADADWSWSシフト」と順に押した。先日実装された、例のコマンド機能である。カットイン演出が挟まり、えくすとりーむメカによる迫真の絨毯爆撃が流れる。
「フゥーッ! キモチイィーッ!」
:出たよ、コマンドカットイン
:相変わらずシュール
:それウルトだったんだ
:相変わらず設定の活かし方が上手い
:機械にも気持ち良いとかあるんだなぁ
元々必殺技目的で実装された機能だ、今回のような設定に落とし込むのも容易なこと。テンションが上がって気持ち良いとか機械的にアウトなセリフを口走ってしまったが、深く気にせずに進行していった。
大量のロケットを隕石に向けて発射したメカであったが、その衝撃によって画面が震えた。この演出もムービング・シーナリーによるもので、細かいところまで設定することが出来る。痒いところに手が届く、良いソフトウェアだ。もうこれは普段使い決定であろう。実に楽しい。
カットイン演出が収まり、画面は隕石落下の映像へと戻る。その瞬間、画面にヒビが入った。時間指定で差し込んだ、映像切り替えによる演出だ。
「しまった! 隕石とウルトによる衝撃で、時空にヒビが……! 時空が歪んじゃうよぉ〜⁉︎」
:歪んじゃうよぉ〜⁉︎ じゃないんだよ
:何を見せられてるんだ、俺たちは
:一体、どうなっちゃうんだぁ〜⁉︎
もうめちゃくちゃな世界観であるが、ここまでは予定通り進められている。ここからクライマックスだ、盛り上げていくぞ。
「ぐぅっ、うお、引っ張られる〜! う、あぁ〜! 時空ホールに、吸い込まれてしまった〜!」
そう言って俺は、メカの2Dモデルをマウスでドラッグして、ヒビへと持って行った。あたかも吸い込まれたかのように、意図的にヒビの周りを渦巻くようにして移動させる。そんなあからさまな演技に、チャット欄ではツッコミの嵐であった。
:自分から入りに行ってるじゃん
:時空ホールってなんだよ
:ポ○ダンにあったよな、そんな穴
:超次元呪文?
「うわ、超次元呪文とか懐かしっ。俺、ホワグリめっちゃ使ってたわ」
やば、デュ○マのコメントについ反応しちゃった。カードゲーマーの血が騒ぐ。これが性か……。サガ……?
話が拗れる間も演出は進んでしまうため、話題に関して深掘りせずに意識を切り替え、集中する。いつの間にか画面はサイバー調の素材へと切り替わっていた。
この映像は最後の転換に向けた繋ぎのようなものなので、時空を超えているような、そんな雰囲気に思わせたい。ならば、手段は一つ。
「うわああああああぁぁぁぁぁぁ!」
叫ぶしかあるまい。俺による迫真の叫びとサイバー調な素材によって、えくすとりーむメカが災難にもワープに巻き込まれたかのような光景となった。気分はまるでSF映画である。
:本気の悲鳴笑う
:このメカ、急に叫ぶ
:タイムスリップしてるみたいな感じかな
「タイムスリップ……あ、そうです。そんな感じだと思ってください」
:急に落ち着くな
:メタ発言を平気で挟んでくる
:ほんと、メカはなりふり構わないよな
コメントは拾ってなんぼですから。これぞ、配信の醍醐味。
そんなこんなで、演出も終盤。白背景のフェードを挟んで、サイバー調な光景から次の映像へと切り替わる。視聴者には隠した最後の素材、その内容とは。
「な、なんだここは……」
画面に映ったのは、塵と砂が舞い散る退廃した街の光景。建物は瓦解し、大気は乱れ、人の気配など微塵もない、寂れた世界。
そう。再びやって来ました、「ポストアポカリプス」です。
「誰かー! 誰かいませんかー! くそっ、なんなんだこの世界は……」
:ポストアポカリプス「お待たせ!」
:なんでここで前の配信と繋がってくるんだよ
:新モードのアレはこれが原因だったんだ……
:案件で伏線を回収する男
:誰がここまでやれっつった
:ちょっとドラマチックなの笑う
「俺は男じゃない、メカだ。そこんところはよろしく頼むわ、マジで」
:誰もいねえんじゃねえのかよ
:普通にレスポンスしてくる
:演技しながらコメ返すな
案件放送にも関わらず独特の世界観を見せつける俺の配信に、チャット欄は大いに盛り上がる。以前実装されたえくすとりーむメカの新モード、終末世界観バージョンとの繋がりも匂わせたことで、なぜか物語性が強くなった。元々濃かったキャラ設定がさらに濃くなっていく。ちょっと自分でも設定盛り過ぎているように思い始めて来た。バカが持って来たバイキングみたいになっている。自重した方が良い。した方が良いだけで多分しない。
「辺りには誰もいない、か。仕方ない、ネットを介して呼びかけよう。あー、配信者で良かったー! ウス、えくすとりーむメカです! 今日は無人の街から配信しています。えくすとりーむメカです! 誰かに届いていたら嬉しいです。えくすとりーむメカです!」
自分の名前を連呼し、配信を介した設定という感じで呼びかけ続ける。以前の新モードお披露目配信の流れを踏襲しつつ、演出を締めた俺であった。
画面が暗転後、配信画面が当初のものへと戻る。その間にちょこっとだけ操作を挟みつつ、意識を演技から普段の雰囲気へと戻す。
「はいっ! つーわけで、ムービング・シーナリーの使用例でした。如何でしたでしょーか!」
:メカのためにあるかのような素材だった
:さりげなく立ち絵を終末世界観モードにしやがって
:配信中に制作した割にはクオリティ高かった
:普通に面白かったな
:編集も楽だし、映像もぬるぬる動くし、良いソフト
「でしょー? こんな簡単に映像編集出来て配信に反映出来るって、凄えよなほんと。皆さんもぜひ使ってみてください」
:メカ以上に使いこなせるヤツいないだろ
:普通に編集ソフトとして優秀かもしれん
:ちょっと使ってみたくなって来た、配信始めるわ
お、今回の件を機に配信始めようとしている人がいる。いいね、輪が広がっていく感じがして。りそーすさんも喜ぶだろうな。
こうして、メカの初の案件配信は幕を下ろした。評判も上々、商品の宣伝も俺のやりたいことも同時に出来て、まさに一石二鳥な仕事であった。こういう案件ならいくらでも受けて良いと感じる、そんな一件だった。
俺にとって配信は、仕事となりつつある。だからと言ってそれはビジネスを意味するというわけではなく、もっと抽象的なものを表しているように思う。エネルギーというか、なんというか。とりあえず堅苦しいものなんかではないことは確かに言える。
今日分かったことは、俺は仕事が絡んだ配信でも楽しめるということ。こういった積み重ねが後の俺を象ってくれることだろう。VTuberになってからというもの、成長を実感することが多くなった気がする。本当に不思議な職業だ。
以前と比べて、確かに前に進めている。止まらないことが大事だと、俺はもう知っている。もうすぐモラトリアムも終わる。それまでにメカを通じて、新しい俺を見つけられたら最高だ。その道中も楽しめるなんて、なんてお得なんだろう、VTuberは。
お待たせして申し訳ありません。さらに申し訳ないのが今年いっぱい仕事がヤバそうで……なるべく早く更新出来るよう尽力します。とりあえず作者は無事ですし完結まで持っていく所存ですので、何卒。
更新が滞る間も沢山の方に読んでいただけているようで、頭が上がりません。今後ともよろしくお願いします。