VTuberって凄えよな、だってやりたいことなんでも出来るもん 作:木野了承
めでたく事務所所属二年目を迎えたこの春。年度が変わると事務所の研修も少し変化があるようで、四月中はその新たな研修を受ける機会が多かった。研修内容も配信に絡んだものに偏っていて、なんというか、否応なしに有名配信者としての自覚を得ることとなった。なんでよりによってここで感じてしまったんだ……。もっとあっただろ、他に。
そんな裏話はさておいて、本日の話である。普段は週に四回をノルマとして配信活動を行っているえくすとりーむメカであるが、それとは別に不定期にメンバー限定配信、通称「メン限配信」を行っている。その名の通り、メンバー会員に登録している方だけが見ることが出来る配信であるが、今日はそのメン限配信予定日となっていた。ということで、早速配信を開始していく。
配信タイトル。
【メン限】えくすとりーむメカのスクラップ工場見学ツアーにようこそ【ぶいすとりーむ/えくすとりーむメカ】
「ウス、えくすとりーむメカです。今日は、メン限〜。えくすとりーむなオペレーター達、よろしく。よろしく、よろしから、よろしく、よろしかり。し、しき、しかる、しけれ、しかれ!」
:シク活用やめて
:古典の活用とか懐かしい
:貴重なメン限、感謝致します
:特別感ありますねぇ
:今日は何するのかな
「今日はタイトルにもあります通り、スクラップ工場見学ツアーします。端的に言えばボツ企画供養回です」
:ほほう、ボツ企画
:まああれだけ普段色々やってたら、ボツの一つや二つあるよね
:ええやん、そういう裏側の話好き
えくすとりーむメカとして活動していく上で、今まで様々な企画・機能をお披露目してきた。しかしその中にも「あれ、ちょっと微妙だな」とか、「これは表に出すほどのものじゃないな」とか、あまり上手くいかなかったものもあるわけで。配信で使わずに終わってしまったものが多々ある。ただそのまま出さずに腐らせてしまうのも勿体無いということで、メン限配信で供養してやろうという目論見であった。
「んじゃま、行きますか。早速一つ目から。ひとつメカら……? こんなところにもメカが隠れているとは、な……」
:自分で言ったメカに反応するなよ
:「ふざけるな」で反応したザケルみたいな
:ガッシュ○ル方式やめろ
ガッ○ュベル方式て。言い得て妙なコメントだ。例えのセンス高過ぎだろ、オペレーター民。
「気を取り直して、一個目。スパチャで目からビームのヤツに加えようと思った機能なんだけど。ん、メカら……?」
:もうええて
:キリねえなぁ
:隙あらば言葉狩り
しつこい俺に対する視聴者のコメントを横目で見つつ、PCを操作する。以前披露した「スパチャを目からビームとして発射する機能」の話を振り返りつつ、俺は詳細を語った。
「収益化記念配信の後、もうちょいやれることあるんじゃないかって色々画策してたんだよな。で、一応形になった演出がコレなんだけど」
ちょっと流すね、と俺はその機能をオンにした。瞬間、えくすとりーむメカの特殊カットインが発生し、音声アナウンスが再生される。
『アタックファンクション、
突然流れ出したそのカットは、まるでゲームの必殺技のような雰囲気を醸し出していた。というか、元ネタからして必殺技みたいなものなのである。
というわけで、と俺は詳細を説明した。
「ボツ企画その一。必殺ファンクション演出ですね。今のアナウンスボイスは俺です」
:ダンボール○記じゃねえか!
:えくすとりーむメカはLBXだった⁉︎
:技名よ
:ジョ○ョのスト様の技か
:あーん、メカ様が死んだ!
ざわつく視聴者達。コメントにもある通り、これは人気ゲームと人気漫画から着想を得て作り上げたものであった。どちらの作品も俺が好むものなので、製作中はウキウキだった。しかし完成してから見直してみた結果、思うところがあり実用には至らなかったのである。
「主なボツ理由はネタが散らばり過ぎてるのと演出スキップが出来なくてテンポが悪くなるところ。スパチャ流れる度に演出挟まることに気付いて、それは楽しくないなぁ、ってなって実装を見送った。あとアナウンスで流れる自分の声を聞くと羞恥心で胸が焼けそうになる」
:最後の理由ワロタ
:別に悪くなかったで
:自分の録音した声を聞くと変な気持ちになるよな、分かる
「発想自体は悪くなかったんだよな。結果的にこれを作った経験から節分配信のときのカットイン演出機能の案に繋がったわけだし。作った意義はあったボツ機能でした」
:なるほど、アレの元ネタということか
:無駄ではなかったんだなぁ
所感を語りつつ、「では次」と話を進める。
「次のヤツは機能っていうかバグなんですけど、面白いバグだったんで紹介します。緊急脱出機能に関連したものになるね」
画面を切り替え、そのままバグのお披露目に入る。内心、バグをお見せすることに若干の違和感を抱えながらも、俺はそれを視聴者達に公開した。
「コチラですね。ちょっと私用で連打ツールを導入した際に緊急脱出の機能と紐付けされちゃったらしくて、メカの立ち絵がどえらい挙動をするようになってしまいました」
表示されたのは、高速で左右に振られ続けるメカの姿。モーションブラーのように残像が映るほど、明らかにおかしい動きをしている。このバグが起こった当時、まさか側面の立ち絵を用意していたのがこんなところで仇となるとは、と驚いたものだった。
:ワロタ
:めちゃくちゃ速い左右移動
:なんかこういう戯画なかったっけ。女の子に挟まれた男性が迷っているみたいなヤツ
:Gステップみてえ
:ト○ンザムだ
:タイム○ルターか?
:えくすとりーむメカ の こうそくいどう!
視聴者が各々思い浮かぶ加速手法を羅列していっている。分かる、俺も最初これ見たとき色々思い浮かべたもん。加速装置と言ったらもうロボットやらサイボーグやらメカやらモビルスーツやらの専売特許みたいなものだしな。たまたま起こったバグだけど見ていて楽しいものだったので、この場で見せられたのは嬉しい話である。
「これ面白いんだけどねぇ。正常な挙動じゃないので、公の配信では出さないようにしよっかなって。マネージャーさんとも相談して、メン限ならってことで今回ね、お見せすることに」
:ゲームで言うグリッチみたいなものだしな
:そういうところちゃんとしてるよな
:しっかりマネとも相談するあたり律儀
「ホウレンソウは大事なんでね。事務所入るときにめっちゃ言われたんで、はい。ちゃんとコンプライアンス守ってますんで。マニュアルに忠実なメカですんで。ロボット三原則もちゃんと守ってますんで。そこんところよろしく。頼むわ、マジで」
:この間のぶいすと杯で神宮寺殿に甲羅当ててたろ
:アレは人に危害加える判定じゃないのか?
「甲羅……? メカ、ニンゲンノイウコト、ヨクワカラナイ」
:まーた言ってるよ
:メン限でも言うのか
:無敵の言葉やめろ
もう定番と化してしまったコメント劇を軽くかます。別に定番にするつもりはなかったのだが、使い勝手が良過ぎて、つい。我ながら便利な言葉を作ってしまったものである。ちなみにバグについては既に解決済みで、配信終了後に修正する予定である。
さて。
「次が最後のボツ企画になります。これはめちゃくちゃ頑張って作ったモノなんだけど、とある事情でボツに。マジでな、頑張ったんだけどな」
若干口調に哀愁を漂わせつつ、最後のお披露目へと向かう。配信のオチとも言える最後のボツ企画。その内容とは。
「バリア機能ですね。アフターエフェクトを利用して作ったヤツ。トラッキングと連動して範囲が変わるし、スパチャビームを受け止める仕様もある」
こんな感じで、と実際にやってみせる。ビームに関してはわざわざスパチャを送ってもらうのも悪いので、デモデータを利用して再現した。本来のビームはメカの目から出る設定であるが、仕様をわかりやすくするために発射位置を反転し、逆に目に向かうようにさせている。メカに向けて放たれたビームだが、立ち絵の周りに展開されているバリア(正六角形のみで構成された球体状のもの)の境界面に触れた瞬間に動きが止まり、そこでしばらく振動した後、自然消滅するように挙動を設定している。これはバリアがビームを相殺したという体で表現したつもりである。
「ほら、ちゃんと受け止めてくれるんだよ、これ。防いでくれるんだよ、みんなのスパチャを」
:なんで防ぐんだよ
:メカだけだよ、スパチャを攻撃として認識してるの
:すげえ、ちゃんとバリアだ
:めっちゃ面白いじゃん
:なんでボツになったの?
「なんでボツになったかと言いますとね。これには深い事情がありまして」
視聴者の当然の疑問に、俺は神妙に理由を説明するのだった。
「これを作り上げて、舞い上がった俺はですね。マネージャーさんに見せびらかしに行ったんすよ。どうっすか、凄くないっすか、って」
:完成して舞い上がってマネージャーに報告しちゃうメカ、可愛い
:マネと仲良いんだな
「概ね好評で、これは実装待ったなしか! と思ってたら、なんか不意にマネージャーさんが変なこと言い出して」
と言うのが、と俺は経緯を話す。
「『これ、六角形だけだと多面体出来なくないですか?』って言われたの! もう俺、それ聞いた瞬間、目ん玉飛び出ちゃった。もうこんな感じで」
視聴者にそう説明して、俺はウィンカー機能をオンにした。両目が光り出す。
:それはウィンカー
:お前眼球無いだろ
「眼球無い? 確かに。ふふっ、ごめん。眼球ないわ。……あれ? それだと、俺のアレって目からビームじゃなくない……?」
:気付いちゃった
:ダメだって、それ気付いちゃ
:急にスン……ってなっちゃった
:じゃあ今までビームを撃っていたのは……
ちょっとこれは協議の必要があります。次の隔週ミーティングに議題として持ち込むことが今、決定した。これは専門家の知識が要る。えくすとりーむメカの専門家である七草さんの知識が必要だ。
「ま、まあいいや。バリアの話ですよ、バリア。マジで言われてビビった。確かに多面体にならないじゃん、って。だからボツ理由は『オイラーの多面体定理に反しているから』です」
:理由やば過ぎ
:気付いて指摘するマネージャー、おかしい
:誰が気にするんだ、そんなこと
「誰も気にしないって? いやー、でもかの高名な数学者オイラーの名がつく定理だから……。俺は許せねえっすよ、これに反しちゃうのは……! みんなも許せねえよなぁ⁉︎」
:うるさい
:別に……
:なんなのだ、その拘り
:メカらしいっちゃメカらしい
一回言われちゃうとずっと気になってしまうんだよな、これ。定理だけに、理に適った指摘だから余計に唸らざるを得ない。世知辛い話である。まあコイツに関しては五角形を挟んでちゃんと球状として成り立つ形に修正してから、後々公式に披露するつもりですけどね。デザインを変えるだけだし、なんてことない話ですけども。
「ということで、以上、ボツ企画供養回でした。如何でしたかな、メンバーの諸君」
:いやー、面白かった
:ボツになった経緯とか事情とか、裏話も聞けて満足ですよ
:メンバー入ってて良かった
:これは当たり企画
チャットでの評判は上々、嬉しい言葉が散見される。これでこそ、メンバー限定配信をしていて良かったと思う瞬間である。ふふふ、メカ、満足。
活動していく上で、失敗やアクシデントは避けられない事象だ。表では色々と派手にお披露目しているメカに関してもそれは例外ではなく、数々の試行錯誤の上で配信活動は成り立っている。全部が全部上手くいくだなんで、そんな美味しい話は仮想世界でもあり得ないのだ。
それでも一つ言えるのは、失敗もアクシデントも無駄ではないということ。失敗するのも事故が起きるのも、別に悪いことじゃない。やり方次第、考え方次第で、可能性は無限なのである。改善点を踏まえて更新していけば、いずれは成功へと辿り着ける。
配信が上手くいかなかったとて、社会に迷惑をかけるわけでも、命の危険に晒されるわけでもない。俺たちVTuberは気軽に失敗出来て、気軽に成功出来る。だからこそ挑戦のしがいがあり、配信をこなせばこなすほど、センスは鋭く尖っていく。そうしてセンスを磨いていくうちに、やがて高みへと到達するのであろう。
成り行きで登り始めた山だが、せっかくだ。行けるところまで行ってみようじゃないか。帰り道とか登り終わった後の話とか、今は考えなくていい。どう登ろうか、それだけを俺は考えていたい。
ちなみにこの小説のボツプロットとしては
・スイパラコラボでケーキを食い尽くす千葉誠心
・神宮寺とメカの3Dお披露目配信に出たいとごねるベリル様とそれをきっぱりお断りする七草マネージャー
・研究室の先輩がえくすとりーむメカの服を着てて焦る丹野達人
なんかがあります。