VTuberって凄えよな、だってやりたいことなんでも出来るもん 作:木野了承
七草さんは俺たち二人に書類を手渡しながら、話を続けた。
「詳細はこちらの方を見ながら。お二人の、ユニットコンセプトについてになります」
「ユニット、コンセプト……」
千葉さんが小さく復唱する。確かに、渡された資料には俺達がデビューするにあたっての設定・目標等が事細かに書かれていた。まずはその文章を、大まかに流し読みしていく。
「斬新さと新鮮さを兼ね揃えた、男性VTuberユニット。原点に回帰するような、それでいて頂点を目指すライバー像。技術とパフォーマンスに重きを置く……」
目に入った文言を断片的に拾っていく。抽象的な言い回しではあるが、なんとなく俺は理解した。
「俺が技術、千葉さんがパフォーマンスに振った活動をしていくってことか」
まさしく、と七草さんは俺の言葉を肯定した。
「丹野さんは個人チャンネルの方で、卓越した創作活動をされてました。貴方にはそのセンスを、VTuberとして活動していく中で是非発揮して欲しいです」
「創作って言ったって、あれは俺の趣味嗜好を俺の持ち得る知識でかろうじて再現してただけですけども……」
技術についても、大学で学んだことやネットで拾ったものを流用、もしくは転用しているだけなので、実を言うとそんなに大したことはしていない。世に蔓延るエンジニア達やクラフター達と比較すれば素人もいいところだ。
「それが良いのです」
彼女は言い切る。
「貴方の趣味嗜好には一見の価値がある。荒削りながらも画期的で、見ていて楽しいコンテンツ。私はそう認識しています」
「……はぃ」
そう言われちゃ、受け入れざるを得ない。別に、俺の趣味を褒められて舞い上がってなんかいませんけど。嬉しくて踊りたくなったりなんかしてないですけど。勘違いしないでよね。
続けて彼女が言った。
「技術に振るだけでなく、それこそ、斬新さを感じさせることが出来る。それが丹野さんの強みです。貴方の発想力には驚かされるばかりですから」
微笑みながらそんな感想を述べる彼女。この人は本当に、真っ直ぐに気持ちをぶつけてくる。むず痒くなるが、悪い気はしなかった。
彼女は次に、千葉さんの方へと視線を向けた。
「千葉さんには、3Dモデル配信を中心に、演舞や殺陣などの披露をしていただきたいと思っています。今は3Dモデルにおけるトラック精度も上がっていますから、貴方の新しい表現の場として充分に活動していけるはずです」
彼女の説明に、ふむふむ、と頷く俺。しかし当の本人は、話を理解していないようだった。
「トラック、せいど……? あの、ごめんなさい。意味教えてもらっても良いですか……?」
「ああ、トラックとはデータ上のモデルを動かす際の手法のことです。簡単に言えば、現実のアクターの動きを、追跡するように再現するといった方法のこと。演者が手を振ったら、モデルも手を振る。演者が歩き出したら、モデルもそれを追うようにして歩き出す。そんな風に、VTuberは基本、現実の動きと連動するようにしてモデルを動かしています。その動きの再現精度を、そのままトラック精度と呼びます」
質問に答える七草さん。まあ確かに、普通に過ごしてたら聞き馴染みのない言葉だしな。トラッキングだのプリレンダリングだのメッシュ結合だのなんだの、専門用語を知らないのは無理ない話だ。俺も大学入ってから知ったもん。
彼女の説明に「ほお〜」と感嘆する千葉さん。その後、続け様に質問した。
「でもそれって、3Dにおいての話なんですよね? 普段の配信から常に3Dモデルを扱うってことですか?」
「いえ」
七草さんはすかさず否定した。手元の資料を捲るように促し、説明する。
「資料のとおり、丹野さん千葉さん両名は、最初は2Dモデルからのスタートです。配信を続けていく中で軌道が乗り次第順次3Dモデル実装という予定になります」
「従来通りってことですね」
「そういうことになります」
肯定する彼女に、千葉さんが口を挟んだ。
「じゃあボクは、その3Dモデルが実装するまではどういう配信をしていけばいいのでしょう?」
戸惑う千葉さん。どうしたら良いか分からず不安がる同期に、俺は助言した。
「配信と一言で言っても、歌、ゲーム、雑談、その他諸々色々あります。まだデビューまで時間ありますし、そこは深く考えなくていいっすよ。自分のしたいことしていけば大丈夫っす。多分」
軽い口調でそう告げる。俺の言葉を聞いて、七草さんも頷いた。
「丹野さんの仰る通りです。千葉さんは今までYouTubeとは疎遠だったとのことですから、分からないのは自然なことです。活動していくうちに、どんな配信をしたいか、どんなVTuberになりたいか、少しずつ掴めていければ良いです。難しければ、私や他の社員、ライバー方に相談してみてください」
力になってくれますよ、と優しく語りかける彼女。おっとりした声もあってか妙に安心する。女神だ、女神がいる。この人マネージャーじゃなくて女神です。崇め奉った方がいい、絶対。社を作ろう、賽銭箱ポチッとくか。
千葉さんも話を聞いてホッとしたようで、胸を撫で下ろしていた。
「そ、そうですよね。そのための事務所ですもん、頼りにさせていただきます」
「ええ、もちろん。それに、千葉さんの演舞や身のこなしは本当に見事ですから! 3Dでの表現が実現したら、きっと見に来た人は驚くに違いないです!」
へえ、そんな凄いんだ、千葉さん。こりゃ俄然楽しみである。
「しかも今時、YouTubeに慣れてない人材なんて貴重ですよ……! 今までVTuberなんて知らなかったフレッシュな方が配信を始めたら何が起こるか……。私、予想出来なくてワクワクします!」
さっきの女神云々は取り消させていただきます。この人は狂人です。癖強すぎるだろこのマネージャー。
しかしこれであらかた俺達の方針は理解出来た。俺が斬新さと技術、千葉さんが新鮮さとパフォーマンス。分かりやすいこった。
「以上、お二人の方針についてです。まだまだデビューまでかかりますが、その時まで頭の中に入れたままにしておいてくださいね!」
はい、と彼女の言葉にしかと返事をする俺達。方針が具体的に定まった今、本当に自分はVTuberになるんだという実感がひしひしと湧いてくる。モチベーションがグングン上がっているのが分かる。やばい、思っていた以上に楽しみになってきた。
「では続いて、デビューまでの話になります。配信環境の整備はもちろんのこと、ネットで活動していくにあたってのリテラシー講座や研修等にも参加してもらうことになります。それについての話と予定を。また、ボイストレーニングやダンスレッスン等にも通っていただくことになりますので——」
引き続きミーティングを進行していく七草さん。千葉さんも集中して話を聞いている。俺ももちろん真面目に参加していたが、頭の片隅ではずっと、これからの活動について考えてしまっているのであった。
(ふおおおぉぉぉ、やべ〜! ワクワク止まんねえ〜!)
資料を読みながら、俺は一人、舞い上がるのであった。