VTuberって凄えよな、だってやりたいことなんでも出来るもん   作:木野了承

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担当キャラクターについて

 

 

 初めてミーティングを行った日から、二ヶ月ほど経過した。その間の俺と言えば、インターネットリテラシー講座で野球と政治と宗教の話はするなと口酸っぱく言われたり、ボイストレーニングにて講師から筋が良いと言われて思いの外好印象だったりと色々だった。企業所属VTuberは皆、通る道らしい。案外忙しいものなんだな。

 さて、今日も例によって七草さんからの招集、zoomでの打ち合わせだ。と言ってもメールで既に内容は伺っており、早い話、担当するキャラクターについてらしい。原案資料等は既に頭に叩き込んでいるので、配信に向けた設定と方針の照らし合わせがメインになるだろう。俺は自分のモデルを既に確認したわけだが、同期の千葉さんのものはまだ知らないので、それを見るのもちょっと楽しみである。

 

「あ、あー。聞こえますか、お二人とも」

 

 オンラインでの打ち合わせが始まる。七草さんのそんな声かけに、俺と千葉さんが返答した。

 

「丹野、聞こえてます」

「千葉も問題ないです!」

「はい、こちらも確認出来ました。では始めましょう」

 

 初のオンラインミーティングとのことで若干不安だったが、恙無くスタートした。ホストの七草さんが進行を担当し、資料を確認していく。

 

「ではまず千葉さんの方から原案を確認していきましょうか。まず名前から。『神宮寺誠(しんぐうじまこと)』、コンセプトはショタ剣士です」

 

 今さらっとショタって言った? 真面目な口調でショタって確かに言ったよな、七草さん。打ち合わせ自体はめちゃくちゃ堅いのに、出てくるワードが異質だ。VTuber事務所って本当不思議だ、つくづく思う。

 画面共有されていた資料には確かに、幼い見た目の少年剣士の設定画が描かれていた。新撰組を意識してか、水色の羽織袴を身に纏っている。短めかつ艶やかな黒髪、あどけない顔立ち、低めの身長。紛れもなく、ショタである。

 

「あの、ショタってなんですか?」

「幼く可愛らしい容姿の少年のことです」

「あ、はい」

 

 千葉さんはその端的で分かりやすい説明で全てを察したようだ。なんか、この人には純粋なままでいて欲しい。そう思ってしまった。

 説明は依然続く。

 

「神宮寺誠はぶいすとりーむ初のショタ枠となりますね。中性的な千葉さんにマッチした、魅力的なキャラクターになったと思います。本人の希望とも合致した、良い事例となりそうです」

「前から少年剣士というものに憧れてまして……。こんな形でその夢が叶うとは思ってませんでした」

 

 VTuberは自分のなりたい姿になれる。剣士だろうが人外だろうが美男美女だろうがなんでもござれだ。千葉さんの夢を叶えるにはうってつけだったわけだ。

 

「イメージぴったりって感じですねぇ。女性人気はもちろん、男性人気も狙えそうだ。罪な人だ、千葉さん改め神宮寺誠は」

「え、えぇ〜? そうかな……」

 

 照れ笑いを見せる千葉さん。こりゃデビューが楽しみですな。動いている神宮寺誠、是非眺めたいものです。

「では次に」と七草さんが口を開く。

 

「丹野さんのモデルについてですね。今、共有します。はい、こちらです」

 

 画面が変わり、今度は俺が担当するキャラクターの資料が映し出された。刹那、千葉さんが絶句する。

 

「えっ……。え、えっと……。え?」

「名前は『えくすとりーむメカ』です」

「え、あの、え?」

「コンセプトはメカです」

「え、え……⁉︎」

 

 淡々と説明する七草さんに対し、動揺を隠せない様子の千葉さん。分かるよ、混乱するよな。仕方ない、俺が助け舟を出してやろう。

 

「千葉さん、落ち着いてください。初めて聞きましたもんね、俺から説明します」

「あ、はい……!」

「メカってのはmechanism(メカニズム)、もしくはmechanic(メカニック)の略語です。機械とかロボットを指す言葉です」

「知りたいのはそこじゃないんだけど⁉︎」

 

 食い気味にツッコまれる。え、そこじゃない? じゃあ何の問題も無いと思いますが。

 

「な、なんでロボット⁉︎ てっきり丹野くんも人間だと思ってたよ! かたや少年剣士、かたやロボット、なんだそれ! 世界観何⁉︎」

「確かに……! メカとショタ剣士が同時に存在するとは、タイムパラドックスか⁉︎ これが相対性理論か……。俺の身体はタキオンで出来ているのかもしれん……アインシュタインさん、あとは任せてください……」

「ちょっと何言ってるかよく分かんない!」

 

 さらに声を荒げる千葉さん。七草さんが割って入る。

 

「まあまあ、落ち着いてください。彼のモデルがロボットになったのには深い事情がありまして」

「そうなんですよ、実はね」

「丹野くんはちょっと黙ってて!」

 

 怒られちゃった。しょうがないので言われた通り、俺は口を閉じる。説明は全て七草さんに任せることにした。

 

「以前も話した通り、彼にはクリエイティブな配信をしていただきたくてですね。丹野さん本人も、なるべく自分のやりたいことや再現したいことを曲げたくないと仰っていました」

 

 あー、いつだったか忘れたけど言いましたね、そんなこと。だってVTuberだからと言って配信や動画のバリエーション狭まるの、悲しいじゃない。やれること全部やりたいですもの。

 

「それで、丹野さんのこれまでの傾向や性質から考えてみたのです。彼の思考回路やキャラクター性と合致するようなモデルは何か。協議の結果、我々は『機械』に目を付けました。元々彼のチャンネルは情報技術を扱っていましたからね、彼の趣味とロボというキャラ設定は相性が良いはずだと結論付けた次第です」

「な、なるほど……?」

 

 一応話の筋は通っているため、千葉さんも納得はしているようだ。しかし依然引っかかる点があるようで、質問をぶつける。

 

「でも情報技術からキャラクターを連想するなら、もっと人間っぽいモデルもいるんじゃないですか? 科学者とかエンジニアとか!」

「それじゃロケットパンチ出来ないじゃん」

「ちょっと! 結局君の趣味が大半じゃないか! 真面目に考えてたのかごめん、とか思っちゃったじゃないか!」

 

 いやいや、至って真面目だから。真面目にロケットパンチ撃ちたいと思ってるから。

 

「ビームも撃てませんしね」

「え、七草さんもそっち側なの⁉︎ え、ボクがおかしいのコレ⁉︎」

 

 俺と七草さんの言葉に振り回される千葉さん。俺たちは楽しみに思っているが、確かにコレ(額にV字のパーツがくっついてるコミカルなロボット)が同期と思うと若干同情する。すまん、千葉さん。明日二人でご飯食べに行く予定なので、そこでは俺が奢ります。それで許してください。

 とにかく、と七草さんが告げる。

 

「以上、神宮寺誠とえくすとりーむメカの二名で、新たな男性VTuberユニットとして売り出していきますので。気張っていきましょう」

「男性VTuberユニットって、一名メカなんですが? 性別という概念無いんですが⁉︎」

「OSは男っていう設定にすりゃいい」

「OSが何なのかはともかく、無理がある設定ってことは分かるからね!」

 

 ぷんすかとカメラ越しに憤る千葉さんの姿が観察出来る。かわええ〜、なんかいけない感情湧き上がってきちゃう。ダメダメ、この人は同期です。落ち着け落ち着け。

 何はともあれ、これでお互いのモデルを確認出来た。方針も定まりつつあるし、いよいよ本格的にデビューに向けた話がまとまってきた感がある。むすっと不貞腐れる千葉さんを宥めつつ、俺たちはその後も打ち合わせを進めていくのであった。

 

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