VTuberって凄えよな、だってやりたいことなんでも出来るもん   作:木野了承

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アカウント開設について

 

 

 デビューに向けた準備や研修に奔走するうちに、いつの間にか季節は夏を迎えた。VTuberとしてデビューするにあたり、丹野達人史上最も忙しい春となったが、大学一、二年の間に余分に単位を取っておいたのが幸いしてなんとか大学生活との両立が出来た。余裕を作っておくのは大切なんだなと、切実に感じた時間だった。去年と一昨年の俺に感謝である。

 さて、春セメスターのテスト期間を目前とした初夏のとある日。俺はテスト勉強など知らんとばかりに大学近くの多摩川河川敷で、清涼の空気を浴びつつスマートフォンと睨めっこしていた。むむ、とつい眉を顰める俺。難しい顔の原因は、Xでのえくすとりーむメカに対する評判にあった。

 

(おっと〜? 焦げ臭くなってきましたねぇ)

 

 つい先日開設された「えくすとりーむメカ」のXアカウント。今のところデビューの告知をポストしただけであるが、なぜかもう若干炎上している。特に、リプライを覗くとそれがよく分かる。目立つものをいくつかピックアップしてみる。

 

[人外は求めてないんだよなぁ]

[コイツがぶいすとメンバーと絡むの嫌過ぎる]

[ぶいすとの方針とは合わないだろ]

 

 おい、ここでも俺は言われたい放題なのか!

 

(多分だけど俺たちの先輩方……特に一期前の三期生がみんな正統派の女性ライバーで、めちゃくちゃ跳ねたのが影響してるんだろうなぁ)

 

 そんなことを思いながら遠い目で川面を見つめる。あ、魚。悠々と泳いでらっしゃる。夏って感じがする。

 VTuber事務所としてのぶいすとりーむ、通称「ぶいすと」は以前も確認した通り、女性ライバーの人気が高い。看板とも言える彼女らは須く可愛らしく、ファンの心を掴んでやまないのも頷ける。そんな中新期生としてなんか妙なロボットがやってきたのだ、ぶいすとファンの方々が驚くのも無理ないだろう。

 

(七草さんも『最初のうちは否定的な目で見られることも多いと予測されます』って言ってたし、覚悟はしてたけど。でもま、良い気分ではねえよな)

 

 眉を落とし、ふう、と一息吐く。ちなみに神宮寺誠に関してはそこそこ好印象らしい。幼さを残しつつも清廉さが溢れるビジュアルも相まって、男女問わず人気が出つつある。やはりショタか……。ショタは素晴らしいからな……。

 まあ辛辣なリプライも、右ねじ名義の時に言われた⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(検閲済み)に比べれば可愛いものだろう。それに例え評判が良くなかろうと、俺のやり方が変わることはない。俺は常識の範囲内で面白そうなことをやっていけばいい。誰になんと言われようと、俺は止まるつもりはない。

 そんな風に、俺は割り切ることが出来ていたのだが。

 

「あわわわわわ……! た、丹野くん、大丈夫⁉︎」

 

 何故だか知らないが、同期の方が慌てていた。Xアカウント開設後の最初の打ち合わせにて、俺が顔を見せるなり心配そうな表情で俺の元へと駆け寄る千葉さん。自分より慌てている人間を見るとこちらは逆に冷静になる。淡々と、俺は答えた。

 

「大丈夫って、えくすとりーむメカの評判について? 全然問題ないけど」

「ほ、本当に……? 無理とかしてない……?」

「してない、してない。普通、普通。スタンダード丹野達人、もしくはニュートラル丹野達人です」

「いつもの丹野くんだ……!」

 

 適当な物言いから判断される。日頃の俺がいかにバカなことを喋っているのかが知れる。だからと言って止めるつもりはありませんが。

 七草さんが口を挟む。

 

「予想はしていましたが、想像以上でしたね……。甘く見積もっていました。申し訳ありません、丹野さん……」

 

 バツが悪そうな顔で謝る七草さん。そんな彼女に向けて、俺は軽く返す。

 

「謝らなくて大丈夫ですよ、こんなことになるなんて、いくらなんでも分かるわけがないです。それに、大体はなんとなくで嫌悪感を抱いてるだけで、根っから嫌っているわけではなさそうですから。まだ始まってすらいませんし、ここからです」

 

 ここからいくらでも巻き返すことが出来ると、俺はそう確信していた。七草さんを始め、ここまで事務所が全力で支援してくれた。おかげで俺は、自信を持って振る舞える。真っ直ぐ配信と向き合うことが出来る。

 七草さんは俺の言葉に同意して、真摯に答えた。

 

「その通りです。頑張りましょう」

 

 はい、と頷く俺。一連のやり取りに隣の千葉さんも触発され、ギアを上げる。

 

「うおーっ! なんか、丹野くん見てたら気持ちが凄く昂ってきた! ボクも頑張るよ!」

「マジ? なんか千葉さんが頑張るって言ってるところ見ると、俺も俄然、やる気出てくるな」

「あははっ、無限ループ、永久機関の誕生ですねっ」

 

 さっきまでの雰囲気はどこへやら、キャッキャと盛り上がる三人。歳も性別も職もバラバラな俺たちだが、相性はすこぶる良く、大変ながらも楽しくやらせていただいている。こうしていると、失った青春を取り戻しているような、そんな気がしてくる。

 

「さて、そろそろ本題に入るとしましょうか」

 

 七草さんが話を切り出し、場を落ち着かせる。促されるまま席へと着く俺たちに対し、彼女は説明を開始した。

 

「本日の打ち合わせの内容は、配信時に利用する2Dモデルの詳細説明が主です。これまでも何度か説明しましたが、今回はデビュー配信における配信内容と照らし合わせた話になります」

(とうとう来たか……)

 

 一瞬のうちに体が強張る。緊張の理由はもちろん、デビュー間近なのを否応もなく感じたからである。なにせ俺たちのデビューまで、もう一ヶ月を切っている。話がより一層本格的になるのも当然の話だった。

 彼女は引き続き語る。

 

「2Dモデル利用にあたり、キャラクターデザインを担当してくれた絵師さんとミーティング、の予定でしたが。前の仕事が押しているようで、少し遅れてくるそうです」

 

 そろそろいらっしゃると思うのですが、と彼女がこぼした、その瞬間。

 

「お、遅れましたーっ!」

 

 バタバタと慌てた様子で、その人はやって来た。深緑色の使い古されたパーカー、茶髪のポニーテール、赤縁メガネ。そして手には大荷物を抱えた、その人物。この人が恐らく七草さんが言った絵師なのだろうと、俺は一目見て分かった。

 七草さんが出迎える。

 

「お待ちしておりました、レットさん」

「うん、お待たせ、なっちゃん! 聞いてよー、編集のヤロウが引き留めて来やがってさー! 寄稿がどうのこうの、うるせえのなんの!」

 

 こちとら予定あるってのに、と文句を言うその方。話の内容はさておき、七草さんのことをなっちゃん呼びだと……! 一体どういう関係なのだろう、気になる。気になり過ぎる。ジッと様子を窺う俺。

 彼女はそんな俺の視線に気付き、「およ」と声を上げた。

 

「あは、この子らが例の新期生さんか! ふむふむ、なるほど!」

 

 うんうん、と頷きながら俺と千葉さんを観察する。なんというか、快活な人である。見ていて気持ちがいいほどの元気さだ。

 七草さんが立ち上がり、口を開く。

 

「お二人とも、ご紹介しますね。こちらが先程説明した、『神宮寺誠』と『えくすとりーむメカ』の作者……」

 

 そこまで言って、七草さんは手をその方へと向けた。挨拶を促され、引き継ぐその人物。彼女は高らかに、名前を述べた。

 

用具(ようぐ)レットです、よろしくね! 私があなた達二人のママです!」

 

 一応言っておくが、俺はこの方から産まれた記憶も、この方に育てられた記憶も一切ない。

 




感想返すときつい長文書きがちドラゴン
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