仮面ライダーイリス   作:夜野千夜

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らっきょの上巻を読んで書きたくなった作品です。難しくなりすぎないようにがんばります!


哀憎─あいぞう─

「はぁー……」

 

 オレは一人とぼとぼ歩いていた。放課後校舎裏に呼び出されるのはもう慣れた。けれどこの後の展開を考えると、ため息を吐かずにはいられなかった。

 

 

 

 オレは昔から、なんでかはうまく説明できないけど他人の嘘がわかった。嘘をつかれると『あ、この人嘘ついてるな』って感じの匂いがして。小さい頃は馬鹿正直に全部嘘だって言ってたけど、オレももう高校生だしさすがに全部言うのはやめてた。

 ……けれど、つい。持ち物検査でなんか隠してるのにしらばっくれようとした不良を見て。ついオレはそいつ嘘ついてるよ、って言っちゃったんだ。

 結局そいつはクスリを隠して持ってて。オレがバラしちゃったから退学になったんだけど……そいつはクスリを売りさばいて不良グループの資金源にしてたみたいで。お金を巻き上げられなくなった不良たちは、オレにたかるようになった。

 

 

 

 それからというもの、オレは地獄の日々をおくってる。オレのおこづかいじゃ不良たちは満足してくれないから毎日サンドバッグにされて。オレの体はたちまちアザと怪我で埋め尽くされた。いっそ倒れられれば良いのに、オレの体は思ったより頑丈みたいで。誰にも相談できずただ毎日暴力にさらされる日々を過ごしてる。

 

「……」

 

 じわ、と涙が浮かんだ。親にもらった大事な体をこんなボロボロにして、申し訳なさで泣けてくる。

 

――オレはどうしたら良いんだろう。

 

 そんな風に考え事をしていたからか、うめき声みたいなのが聞こえてくるのに気づくのが遅れた。校舎裏に近づくにつれて、その声が大きくなっていく。

 もしかしてオレ以外にも目をつけられた人がいるのかな、なんて思いつつオレはそっと校舎裏を覗き込む。

 

「ぐあっ!!」

「うっ、ぐっ!!」

 

 ……オレは目を疑った。殴られて蹴られていたのはいじめっ子たちだった。ボロボロになってうずくまる不良たちの中心に、細身の少年が立っている。少年は無感情に向かってくる不良たちを簡単にいなし、地面に叩き伏せていた。

 

「これで全員か?」

 

 リボンタイのついたシャツの上にパーカーを羽織りフードを被った少年は、不良の一人を軽々と持ち上げるとそう尋ねた。

 

「うぅ……」

「答えろ。これで、全員か?」

「ヒィッ!?そ、そうです!」

「そうか。ならもう用は無い。――良いか、僕が目を光らせている以上もう悪さはできないものと思え。わかったな?」

「は、はいぃぃぃ!」

 

 不良たちはボロボロの体を引きずりながら去っていった。少年は去っていく不良たちの背中を興味なさそうに見つめている。

 

「……で、お前は?」

「!」

「いつまでそこにいる。盗み見されるのは気分が悪い。さっさと出てこい」

 

 ……バレてた。おずおずと少年に近づくと、少年はオレを見て目を見開いた。

 

「ずいぶんボロボロだな。体中傷だらけじゃないか」

「!わかるの?」

「まぁ、な。さっきの奴らにやられたのか?」

「……うん。その、恥ずかしい話あいつらに毎日ボコられてて……」

「恥ずかしくはないさ。むしろ誇ると良い」

 

 少年はオレの頭に優しく手を置いた。

 

「よく耐えた」

「!」

 

 その瞬間、オレの中の何かが弾けて。オレは自分でも止められない涙を流し続けた。

 

 

「落ち着いたか?」

「うん……」

 

 オレと少年は中庭の自動販売機の側に移動していた。なかなか泣き止まないオレを見捨てることなく、少年はオレに高そうなハンカチを黙って差し出し、スポーツドリンクを渡してくれた。

 

「ありがとう、何から何まで。……そういえば、キミは?」

「僕か?僕は宮代誓(みやしろちかい)という。近々ここに転校する予定があってね、下見に来たらあいつらに絡まれたというわけさ」

「そっか、それは災難だったね……。あ、オレは山吹伊織(やまぶきいおり)。一年生だよ」

「一年か。なら僕の後輩にあたるな」

「……ってことは、先輩?」

「あぁ。僕は二年生だからな」

 

 その瞬間、オレは血の気が引いてくような感覚がした。

 

「そ、そうだったの!?あ、そうだったのですか!?お、オレタメ口で話して……!」

「僕は気にしてない。好きなように話せば良いさ。ここで知り合ったのも何かの縁だ、僕のことも好きに呼んでくれて構わない」

「好きに……?」

「あぁ。近しい人間からはチカなりセイなり呼ばれてるな」

 

 チカ……セイ……。どっちもニックネームみたいなものかな。うーん……どっちで呼んでも良いんだろうけど……なんか、何かが違う気がする……。

 

「……うーん、オレはセンパイって呼ぶ!」

「……センパイ?」

「?うん!だってセンパイだもんね!年上には敬意払うものだって、じいちゃんも言ってたし!」

「……そうか」

 

 センパイは自分用に買ってたコーヒーに口をつけた。ブラックのコーヒー飲めるのかっこいいなぁ……大人って感じだ。

 

「それで、伊織。この後時間はあるか?」

「うん、あるよ」

「職員室に寄ろうと思っているんだが、そこまで案内してもらえるか?お嬢様を案内できるように前もって慣れておきたいんだ」

「良いけど、お嬢様って――」

 

 誰のこと?って続けようとした時。センパイは突然コーヒーを置いて立ち上がった。

 

「センパイ?」

「……ラヴィリンス」

「え?」

 

 センパイが見てる方をオレも見ると――空が歪んでた。

 

「え!?何あれ!?」

「なんだ、君も見えるのか。どうやら伊織もパラドックス耐性は高いみたいだな」

「センパイなんでそんな冷静なの!?」

 

 あわあわするオレを置いて、センパイはどこかに向かって歩き出した。耳にスマホを当てて誰かと話している。

 

「ギルフォード」

『うん、こっちでも観測してるよ。ラヴィリンスでしょ?』

「話が早いな。座標は?」

『そこから南西に十メートルで着くよ』

「了解。すぐに向かう」

 

 スマホをしまったセンパイは走り出した。オレもセンパイに続くけど、センパイは追いつけないほど足が速かった。立ち止まったセンパイは全然息を荒くしてなくて、涼しい顔で立っていた。

 

「せ、セン……パイ……」

「なんだ、君も来てたのか。……ふむ」

 

 考える素振りを見せたセンパイは、オレに背中を向けた。

 

「伊織、君も来ると良い」

「え?来るって――」

 

 どこへ、と続けようとしたオレは顔を上げて言葉を失った。

 センパイの前に、ぐにゃぐにゃ歪む穴みたいな物が浮かんでいたからだ。穴は人一人入れそうな大きさで、向こう側がどうなっているかはまったく見えない。

 

「お嬢様もギルフォードもいつも人が足りないと言っていたからな。パラドックス耐性が高い人間なら快く迎えてくれるだろう」

「あの、センパイ!ずっと何の話してるのかわからないよ!?」

「言葉が足りないのは謝る。が、時間が無いからな。説明している暇も無いんだ。……僕についてくるかどうかは君に任せるが」

 

 どうする?と目で問われる。

 ……きっとここでセンパイについていったら、オレは今まで知りもしなかった世界を知るんだろう。あのぐにゃぐにゃ歪んだ穴を見ればすぐわかる。正直、あの穴の向こう側なんて行きたくない。だって怖いし。

 

 けれど。

 

「……」

 

 センパイは黙ってオレに手を伸ばした。ついていくなら手を握れってことなんだろう。この手を振り払えば、オレはあの穴の向こう側の世界なんて知らなくて済むんだ。

 

 でも、本当にそれで良いのか?

 

「……行きます!」

 

 オレは頭悪いから。後のことなんて何もわからないし考えられないから。だから、オレはセンパイを信じる!

 

 手を握れば、センパイは目を丸くしてオレを見ていた。でもすぐに穴の方を見て

 

「行くよ」

 

とだけ言って穴に飛び込んだ。

 

 

 穴の向こうに飛び込んだオレは、その光景に口をあんぐり開けてしまった。

 

「ここ、校舎……?」

 

 さっきまでいた校舎と何も変わらない光景が広がっていたからだ。キョロキョロ辺りを見回すオレと対照的に、センパイは冷静に周りを見ている。

 

「まだユガミがそんなに広がっていないみたいだな」

「ユガミ?」

「一言で言うと世界に必要とされなかったものが集まってできたエネルギー、かな。この辺りの説明はここを抜けたらする。……それより、いたぞ」

 

 険しい顔で前を見据えたセンパイの目線を追うと、そこにはオレを呼び出してたいじめっ子のリーダー的存在が立っていた。思わずセンパイの後ろに隠れてしまったオレを、センパイは庇うように立ってくれた。

 

「なんだ、まだ痛めつけられたかったのか?意外な趣味をお持ちなようで」

「ウゥ……!」

「せ、センパイ!なんかあいつおかしくない?」

「おかしくて当然だろ。じゃなきゃこの空間を作ったりはしないだろうさ」

「ヤ、マブキ……!カエ、セ……!!」

「ひぃっ!?オレもうお金持ってないよ!?」

「君も難儀なやつに目をつけられたなぁ……」

 

 しみじみ呟くセンパイ。そんなこと言ってる状況じゃないよね!?

 

「ウアァァァァァ!!」

 

 いじめっ子はふらふらとこっちに近づいてきたかと思うと――姿を変えた。赤黒い肌を持った鬼みたいな姿になったそいつを、センパイは冷静に見つめてる。

 

「――天邪鬼、か。なるほど」

「何がなるほどなの!?センパイ、あいつどうなったの!?」

「落ち着け、伊織。僕なら元に戻せる」

 

 鬼はセンパイに向かって鋭く伸びた爪を振り下ろそうとする。

 

「グレイス、いるな?」

 

 爪が届くよりも先に、センパイの体は氷でできた骨の手に守られていた。センパイを守った骨の手は鬼の爪を簡単にへし折ってみせた。

 

「グアァッ!?」

 

 鬼が後ずさり空いた空間に、地面から氷の手の先が伸びてくる。ずるり、と音を立てて姿を現したのは――巨大な氷の骸骨だった。骸骨はセンパイに顔を向け、首を傾けた。

 

「デッカ!?」

「ア……」

「あぁ。いつものを頼む」

「ア……」

 

 骸骨はセンパイに弾丸状の氷を手渡した。

 

「伊織。よく見ておくと良い」

 

 センパイは氷を手で砕いた。すると腰に雪の結晶のような意匠が施されたベルトが現れる。

 

「これが、この世界で生き抜くための力だ」

 

 センパイの手に氷でできた剣のようなものが現れる。

 

「――変身」

 

 剣をくるりと回転しながら振ると――センパイの体は白銀の骨の手に包まれた。骨の手が開かれた時そこに立っていたのは、白銀の体に赤いマントをたなびかせた仮面の剣士だった。仮面は雪の結晶のような形が全面に出てて、鎧部分には骨のような意匠があしらわれてる。

 

「伊織、この姿の僕はこう呼ぶと良い。仮面ライダーイリスとな」

「仮面ライダー……イリス……」

「さて、待たせてしまって悪かったな。君のユガミ、断たせてもらおう!」

 

 イリスは一息で鬼との距離を詰めた。鬼に目にも止まらぬ速さで斬りかかり、剣戟を閃かせる。

 

「グッ……!」

 

 鬼は自分が不利だと悟ると、イリスと距離をとった。そして地面に手を当てると、ボコボコ音をたてながら地面から土の弾丸が飛んでくる。

 

「ハッ、そう来るか?」

 

 イリスが手に持ってた剣型の氷を地面にカン、と打ち付けると氷は杖の形に変わった。杖を振ると、たちまち地面が凍りつき弾丸を防ぐように氷の壁ができた。

 

「これで終わらないよ」

 

 イリスは氷の壁の上に立った。狙いを定めるように杖を鬼に向けると、杖の周りに氷柱が何本も浮かぶ。

 

「BANG」

 

 杖の周りの氷柱がガトリングみたいに鬼に向かって飛んでいく。氷柱が何本も突き刺さり、身動きが取れなくなった鬼の前に降り立ったイリスは、ベルトに触れた。

 

「あるべき姿に戻ると良い――!」

 

 イリスがベルトに触れると、ヒール部分が大きくなって巨大な氷柱に変化した。イリスは巨大な氷柱から飛び降り、鬼に向かって足を振り下ろす。

 

「グァアアアーッ!!」

 

 鬼は汚い悲鳴をあげ、雪の結晶に包まれた。地面に降り立ったイリスは、鬼から元の姿に戻った不良を見下ろしている。

 

「これでユガミは断たれたな」

 

 ベルトの雪の結晶部分に触れると、イリスの変身も解かれてセンパイも元の姿に戻った。

 

「戻るぞ、伊織」

「あの、センパイ。コイツ、死んでないよね……?」

「もちろん。ただこいつの中のユガミを断っただけさ。おそらくだが、もう君に執着することもないだろうな」

「?なんでそう言えるの?」

「……」

 

 センパイは少しの間言うかどうか迷ってたみたいだけど、不良の方をチラッと見てから口を開いた。

 

「この空間はラヴィリンスと言う。ユガミと人間の強い思いが結びつくことでできる空間だ」

「ユガミ……って、エネルギーみたいなもの?だっけ?」

「そうだな。詳しくは後で説明するが……ラヴィリンスの名の由来は愛……LOVEと、迷宮を意味するラビリンスを組み合わせてできた言葉だ。すべてがそうとは言わないが、強い思いは愛が由来となってできることが多いからな」

「へぇー……ん?愛?」

「つまり、あの不良は君が好きだったんだよ。自覚しているかどうかはわからんがな」

 

 それだけ言ってセンパイはスタスタ歩き出した。センパイの後ろをついていきながら、オレはセンパイの言葉を思い返して――って、え。

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 オレは思わず叫んでた。

 

――――――

 

仮面ライダーイリス

宮代誓が変身する氷を司る仮面ライダー。名前の由来は凍てつくの「イ」、玻璃・瑠璃の「リ」、ガラス・アイスの「ス」から。武器は剣と杖に形を変える氷「形無(かたな)」。




哀憎(あいぞう)
憎しみは哀しみしか生まないものだ。たとえそれが愛から来るものでもね。
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