仮面ライダーイリス   作:夜野千夜

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背中は遠ざかっていく。心に反して、追いつけないほどに。


追背ーおうせー

「「……」」

 

 中庭で、オレと遥さんはトランプを手に向かい合っていた。

 

「こっち……いや、こっちかも……?」

「ふふ、どっちかしらね?」

「よくカード遊びにそこまで真剣になれるな……」

 

 センパイの呆れた声が聞こえた気がしたけど、そんなの気にしない。だってこの勝負の行方で遥さんが焼肉を奢ってくれるかがかかってるんだから!

 

「決めた!こっち!」

「そっちにするのね?わかったわ、引きなさい」

「うりゃー!」

 

 オレは気合をこめながら遥さんの持ってた左のカードを引いた。くる、とカードを回転させればそこに描いてあるのはスペードの二――じゃなくてジョーカーだった。

 

「うわぁぁぁぁん!!」

「あははは!残念だったわね?」

「負けたぁ……焼肉……」

「そんなに焼肉食べたかったのか?」

「だって!焼肉なんて誕生日の時くらいしか行けないし!センパイはブルジョワだからそんなの関係なく行けるんだろうけど!」

「どこで覚えたそんな言葉」

 

 センパイはハァ、と息を吐いて遥さんの傍まで移動した。そして遥さんの腕を持ち上げると、遥さんの制服の裾からカードが何枚も出てきた。

 

「やっぱりイカサマしてましたね」

「あら、バレちゃった?」

「遥さんズルしてたの!?」

「伊織くんがいつ気づくか気になって、ついね。まさか勝負が終わるまで気づかないとは思わなかったわ」

「お嬢様の手腕なら伊織を騙すことなんて容易いでしょう」

「ひーどーいーよー!!」

「ごめんなさいね?お詫びに今度バーベキューしましょ。うちの牧場産の和牛も持ってくるわ」

「許す!!」

「ちょろいな……」

 

 オレは遥さんとバーベキューの予定を立てようとスマホをポッケから取り出した。するとスマホのバイブ音が聞こえたからオレのスマホを見たけど特に通知は何も来てなかった。首を傾げていれば、センパイが僕のだな、と教えてくれた。

 

「……そうか。伊織、今日の放課後予定は?」

「?特になんもないよ?」

「なら僕たちと一緒に来てくれ。会わせたいやつがいる」

「会わせたい人?」

「あぁ。そこで君にも戦う力を使えるようにする」

「てことは……オレも魔法使えるようになるの!?」

「そうなるな。……目を輝かせるのが早いぞ。魔法を使うには準備が必要なんだからな」

「準備?」

「あぁ。そのために、あいつに会わせる必要があるんだ。名前はギルフォード・M。――僕の兄だ」

 

 

 放課後、オレはセンパイと遥さんと一緒にまた桐堂財閥の別荘に来てた。ギルフォードさんは奥の方の部屋にいるとかで、二人は離れないでついてくるようにオレに言いつけてから迷わず進んでった。

 

「ギルフォードさんってどんな人?」

「優しい人よ。優しすぎて少し心配になるくらいにね」

「刺されても相手を許しそうなくらいには優しいな」

「……それ、優しいって言えるの?」

 

 ただ危機感無いだけでは……?というオレのツッコミは無視された。……いったいどんな人なんだろ。センパイのお兄さんっていうのも少し気になるし。

 

「着いたわね」

「入るぞ、ギルフォード」

「せめてノックしよう!?」

 

 なんの躊躇いもなくセンパイは部屋のドアを開けた。いつものことなのか、遥さんは特に何もツッコまない。これがきょうだいの距離感なのかな……?

 

「おかえり、チカ。今日もお疲れ様」

 

 研究室みたいな部屋の真ん中に、ワイシャツの上に白衣を着た青年が立っていた。もみあげの一部を後ろで束ねた彼は、いかにも優しそうな顔をしてて初対面から人に好かれそうな微笑みを浮かべてる。……屋内なのにサングラスかけてるのは少し気になるけど。

 

「ただいま、ギルフォード」

「ふふ、相変わらずおれのことなかなか兄さんって呼んでくれないね」

「……別にいいだろ」

「ふふ」

「この人がギルフォードさん?」

「ええ、そうよ」

「やあ、はじめましてだね。おれはギルフォード・M。チカの異父兄です」

「いふけー?」

「おれとチカは父親が違うんだよ。おれの父親はイギリス人だったんだ」

「へー……。だからギルフォードさんは外国の人みたいな名前なんだね」

 

 オレの感想に、ギルフォードさんはにこにこ笑ってる。……うん、たしかに良い人かもしれない。よく笑う人は良い人だとオレは思ってるから。

 

「それで、きみはいったいどちら様かな?」

「あ、自己紹介忘れてた!オレは山吹伊織!です!風間高校の一年生!です!」

「ふふ、元気な子だね。ということはチカと遥の後輩か」

「そうなるわね。でもそれだけじゃないわ。伊織くんはパラドックスを判別する鼻を持っているのよ」

「へぇ、それはすごいなぁ。ラヴィリンス発見がこれまで以上に捗りそうだね」

「……よく言う。すごいのはギルフォードも、だろ」

「おれは大したことないよ」

 

 相変わらずにこにこ笑ってるギルフォードさんと、そんなギルフォードさんをじとっと見てるセンパイ。話についていってる気がしなくて遥さんを見れば、遥さんはニヤリと笑った。

 

「セイってば意地が悪いのね。伊織くんがおあずけくらった飼い犬みたいにこっちをキュルキュルしたお目々で見てたわよ?」

「別にそんな目で見てないよ!?ただセンパイとギルフォードさんの話についていけなかっただけだよ!」

「二人の世界作られてたものねぇ。責任持ってちゃんと説明してあげるのよ?」

「はいはい……」

 

 別に拗ねてないからね!?とオレが言ってもセンパイは聞いてくれない。ほんとに拗ねてないのに……ちょっと寂しかったけど。

 

「ギルフォードはパラドックスが判別できる目を持っているんだ」

「パラドックスが判別できる目?」

「うん、そうなんだ。おれはね、小さい頃にイビツキに目を交換されたんだよ」

 

 ギルフォードさんはそう言ってサングラスを取った。それだけなのに、オレはギルフォードさんの目は何かおかしいとすぐわかった。遠くから見ても、ギルフォードさんの目は光って見えるのだ。しかもなんだかカラフルで……教会とかで見るガラスの模様みたいだった。

 

「不気味だろう?」

 

 ギルフォードさんは笑顔を崩さないままオレを見てる。

 

「えっと――」

「無理に答える必要は無いよ、答えならわかってるから。……別にこの目を嫌っているわけでもないしね。これのおかげでチカのために動けるわけだから」

「おぉ……」

 

 センパイ愛されてるなぁ……。こういうのをケンシンテキ?って言うんだっけ。なんとなくセンパイの方を見れば居心地悪そうに目を逸らした。照れてるのかな。

 

「説明はそれくらいでいい。ギルフォード、今日は伊織に付き合ってやってほしい」

「伊織くんに?構わないけど……」

 

 センパイの頼みにギルフォードさんはすぐ頷いたけど、遥さんの方をちらっと見た。センパイの考えを説明してほしいみたいだ。

 

「伊織くんも魔法が使えるようにしてほしいのよ。頼めるわね?」

「そういうことか。もちろん良いよ。伊織くんもそれで大丈夫かな?」

「うん、だいじょ――じゃなくて!はい!大丈夫です!」

「無理に敬語を使わなくて良いよ。おれにも遥さんやチカと話す時みたいに話して良いから」

「えぇぇ、でも……」

「良いんじゃないか、別に。本人が良いって言ってるんだから」

 

 明らかに年上の人にタメで話して良いか迷ったけど、ギルフォードさんの笑顔の圧みたいなのに負けてオレは頷くことしかできなかった。

 

「それじゃ、行こうか伊織くん。魔法の使い方は移動しながら話すよ」

「あ、はい――じゃなくて、わかった!」

 

 オレは部屋を出たギルフォードさんに続く前に、センパイと遥さんにまたね!と手を振ってから部屋を出た。

 

 

「ふふ、懐かれてるわねセイ」

「……」

 

 笑みを深めて遥は誓を見ているが、誓は何も答えない。いや、答えようとしないと言うのが正しいか。誓は遥から目を逸らしながら、唇をきゅっと結んでいる。

 

「……僕のことはいいでしょう。それより、もっと大切なことを話し合う必要がありますよね?お嬢様」

「あら、私としてはもっとあなたと伊織くんのことを話していたい気分なのだけど」

「お嬢様」

「冗談よ」

 

 誓に咎められ、遥は残念そうに首をすくめた。そして先程と打って変わり真剣な表情で誓を見据えた。

 

「あなたが話したいのは、ここ――風間市(ふうまし)のことでしょう?」

「はい。その通りです」

 

 頷いた誓は、部屋の外に一度視線をやった。誰もいないことを確認した後で、誓はもう一度口を開いた。

 

「風間市には明らかに魔が集っています。風魔(ふうま)、の名を冠するだけのことはありますね」

「風に乗って魔が集いやすい地形ではあるとギルフォードが言ってはいたけど?」

「はい、それはたしかです。西方に位置する川に乗って魔の気が押し寄せ、東方に位置する山によって魔の気がせき止められる……これ自体はよくあることです。過去に滞在した他の地域でもこれは見られる光景でした。……が」

 

 誓は意味ありげに言葉を切った。

 

「西方を流れる川の付近に、パラレルワールドを意図的にこじ開けようとした形跡がありました」

「!」

 

 パラレルワールドとは、ユガミの一種である。

 今誓たちが存在している世界は、正しいと確立された世界だ。正しいと確立されているということは、正しくない世界もまた存在しているということだ。この正しくない世界、というのがパラレルワールドを指す。

 

 パラレルワールドは、ユガミの総本山であるパラドックス界に存在している。このパラドックス界はユガミで構成されているため普通の人間には知覚できないものだ。パラドックス界に正しい世界に存在する人間の方から接触することなど到底無理な話だ。

 

――では、正しくない人間であれば?

 

――もしくは正しい人間が、世界にとって正しくない選択肢を選んだら?

 

 パラドックス界に接触することは難しい。しかしパラドックス界に存在するパラレルワールドであれば、知覚さえしてしまえば接触することは容易いのである。

 

「いったい誰が……?」

「それはわかりません。考えられる選択肢としては二つ。一つはこの世界に存在しているはずのない人間がこじ開けようとした。そしてもう一つは――」

 

 誓は言いづらそうに目線を泳がせていたが、意を決したように口を開いた。

 

「パラドックスを知覚できる人間がこじ開けようとした。……伊織のように」

「……セイ、あなた」

「わかっています、僕も最低なことを言っている自覚は。伊織を見ていればわかります、彼に裏表など存在しないことなど。……だから、お嬢様。伊織を疑うのは僕だけにさせてください。貴女まで汚れる必要はない」

 

 誰にも聞かせないつもりの音量で、誓はこう付け加えた。

 

「……すべて、僕が背負います」

 

 

「ここだよ」

 

 ギルフォードさんに案内されたのは、ぐにゃぐにゃと歪んだ空間の前だった。……え、これってもしかしなくても……。

 

「ラヴィリンス……?」

「正確に言うと疑似ラヴィリンス、だね。戦闘の経験を積むためだったり、パラドックスの研究を重ねるためにあえてこのラヴィリンスは消さずに残してあるんだ」

 

 さ、入ってとギルフォードさんが何の抵抗もなく入っていったから、オレも慌ててそれに続いた。

 

 中はたしかにセンパイと一緒に入ったラヴィリンスとなんら変わりなかった。もしかして、とオレが周りをきょろきょろ見回せば、お目当ての彼女はひょこっと顔を出した。

 

「あ、ミオ!良かった、また会えたね!」

「わたしもまた会えて嬉しい」

「うん、オレも!」

 

 オレの傍まで飛んで来てくれたミオの小さな手をとって、オレはぶんぶん上下に振った。ミオが目を回しそうになってたから慌てて手を離せば、ミオはふよふよと飛んでオレの頭の上にまた乗った。

 

「伊織くんはもう力を貸してくれるイビツキを見つけていたんだね。それなら次は魔法の下準備かな」

「料理みたいな言い方だ」

「お腹空いてるのかい?帰ったらチカも誘って夕ご飯にでも行こうか。……っと、話が逸れたね」

 

 ギルフォードさんは苦笑いのまま続ける。

 

「魔法はね、力を貸してくれるイビツキにユガミを制御してもらうだけじゃ使えないんだ」

「え、そうなの!?」

「そう、もう一つ大切なものがある。それが自分ルールだよ」

 

 ……

 

「なんか一気に庶民的になった……」

「少し噛み砕いて言い過ぎたかな。魔法って、魔と法則の法と書くよね?読んで字のごとく、魔法を使うには自分で決めた法……ルールに従って魔を制御する必要があるんだ。だから自分ルールを決める必要があるんだよ」

「そう言われると一気にかっこよく聞こえるね」

「そうかい?」

 

 自分ルール……自分ルールか。

 

「どうやって決めたら良いのかな?」

「そうだね。ある程度自由が利くようにルールを定めると良いよ。あと、詠唱の時に時間をかけすぎないように短くまとめるのも大切だね」

「?と言うと?」

「おれたちが使う魔法は詠唱のやり方が決められていてね。まずどんな魔法を使うか定め、次に対象と設定を決める。それからは決まり文句だね。『以上を以って魔を法とす』――この後に自分で決めたルールを宣言し、詠唱するんだ」

「センパイが言ってたのと同じやつだ!センパイはなんて言ってたっけなぁ……えっと……?」

「『自他乖離ヲ禁ズ』、だね」

「……どういう意味?」

「おれも教えてもらったことはないんだ。ごめんね」

 

 ギルフォードさんも知らないんだ……。いつかオレにも教えてもらえるのかな。そうなれるように、今は魔法使えるようにならないと!

 

「それじゃ、続きを――」

「はいはい!自分ルール決まった!」

「……意外と早く決まったんだね?どういうのか聞いても良いかい?」

「うん!センパイの許可なしに魔法使わない!」

 

 オレがそう言うと、ギルフォードさんは驚いてた。……え、そんなに変なこと言ったかな。

 

「だ、だってオレ頭良くないし!それだったらセンパイの許可取ってからの方が良いかな、って……」

「あ、あぁそんな小声にならなくても良いんだよ。ただ、その……伊織くんはずいぶんチカを信頼しているんだね?」

「え?うーん、信頼っていうか……。こうすればセンパイの側にいれるかなぁって」

 

 ギルフォードさんが首を傾げてるから、オレはうまく言葉にできないけど、と言ってから続ける。

 

「センパイって、すっごく危なそうなんだよね。オレたちが知らないうちにどっか遠くに行っちゃいそうっていうか……。だから、センパイの許可とんないといけないようにしたらセンパイもオレが心配で勝手に行っちゃうこともないかなって!」

「……」

「……って、オレなんかすごく偉そう!?」

「いや、そんなことはないよ。……うん、きっとチカも納得するさ」

 

 ギルフォードさんがそう言うなら大丈夫か。なにせセンパイのお兄さんだし。

 

「あ、詠唱どうしたら良いかな?」

誓志無却(せいしむきゃく)ヲ禁ズ、でどうかな?チカの意思を無視しない、という意味なんだけど」

「じゃあそれにしよ!ありがとうギルフォードさん」

「どういた――」

 

 その時だった。

 

ズゥン!!

 

 地面が揺れて、いつの間に現れたのかもわからない巨大な筋肉ムキムキの鬼みたいなのが立っていたのは。

 

「え!?な、なにあれ!?」

「どこから現れた……!?いや、そんなことを言ってる場合じゃない!走るよ、伊織くん!」

「わ、わかった!」

 

 ギルフォードさんの言う通り、オレたちは走り出した。魔法を使おうにも、今ここにセンパイはいない。さっきの自分ルールを後悔し始めたところで、オレは転んでしまった。

 

「伊織くん!!」

 

 ギルフォードさんの声が近づいてくるよりも前に、鬼がオレに追いつくのが先だった。鬼はオレに向かって筋肉だるまな腕を振り下ろしてくる。

 

「――っ!!」

 

 オレは咄嗟に目をつむってしまった。きっとすぐ今まで体験したことがない痛みが来るんだろう。……そう思っていたのに、衝撃はいつまで経っても来なかった。恐る恐る目を開ければ、目の前に立っていたのは――

 

「仮面ライダー……?」

 

 いや、オレの知ってる仮面ライダーとは違う。ねじれた一本のツノが仮面の右側から生えていて、藤色のストールみたいな布が肩にかかってる。全体的に紫色の鎧に身体は包まれてて、それこそ戦国武将みたいな鎧の形だ。

 

「グ、オォ……ッ!」

 

 鬼は仮面ライダーの持ってる鎖に腕を縛られてる。鎖を千切ろうと鬼は身じろぎしてるけど、鎖は一向に切れない。

 

「ふふ、うちの鎖は頑丈やろ?当然やなぁ」

 

 仮面ライダーがこの時初めてしゃべった。センパイみたいに中性的な声で、パッと聴いた感じだと男か女か――それこそ若いか年上なのかもわからない。

 

「キミ、は――」

「あぁ、無事やったん?まぁうちとしてはどうでもええんやけど」

 

 仮面ライダーはひどく無感情にそう言った。……え、オレのこと助けてくれたんじゃないの?

 

「それなら、助けたお礼に伝言頼もか」

 

 仮面ライダーはオレの耳元で囁くと、またすぐに鬼に向き直った。

 

「グゥゥ……!」

「嫌やわぁ、少しは待てへんの?せっかちな男は嫌いやわぁ」

 

 鬼を縛る鎖が伸びて、鬼の全身を縛り付けた。そして鎖から鋭いトゲが生えたかと思うと――仮面ライダーは鎖を引いて、トゲの生えた鎖で鬼をズタズタに切り刻んだ。

 

 ギャァァァ……

 

 鬼は悲鳴をあげてその場に倒れた。倒れた鬼に近寄った仮面ライダーは、退屈そうにあくびをこぼした。

 

「すぅぐ倒れてまうなんて……甲斐性あらへんわぁ。イリスとも会えへんし、うちはもう帰るわぁ」

「!なんで、その名を」

「ふふ、なんでやろなぁ?じきにまた会えるやさかい、そん時に教えてもええで?」

「まさか逃がすとでも?」

「うちと戦うん?別にうちはええけど……そこの犬ころはええの?」

「!」

 

 情けないことに、オレは震えてた。今まで感じたことが無かった、死を目の前にした恐怖。それを目の当たりにしたからだ。ギルフォードさんはオレに駆け寄って、背中を何度も擦ってくれた。

 

「あぁ、そうや。うちの名前、ちゃぁんと伝えといてや?」

 

 仮面ライダーはどこからか現れた大きな穴を前に、こう言い残して去っていった。

 

「うちは、仮面ライダーシィラ。よぉく覚えといてや――平和ボケした間抜け面のあんさん方?」

 

 

「戻ったか」

 

 シィラが飛び込んだ穴の先。そこに待っていたのはユニコーンのようなツノの生えた亜人のイビツキだった。顔に三本のラインが入っている彼は、険しい顔のままシィラに近づいた。

 

「ただいまぁ。伝言、ちゃんと伝えてきたで?」

「そうか、ご苦労」

「嫌やわぁ、もっと労わってやぁ」

「それはオクスをうまく宥められるかによるな。フォルン様が勝手にお前が出て行ったことにカンカンだ」

「そんなん、いつものことやろ?後は頼むわぁ」

 

 クスクス、と笑いながらシィラは変身を解く。そこには濡れ羽色の髪を肩の上で切り揃えた少年が立っていた。

 

「……程ほどにしておけよ、水晶(みあき)

「はぁい」

 

 運命の歯車は、たしかに回り始めていた。

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