亡国王女とエーデルヴァイスの騎士   作:暁天花

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第十六話 隔絶

 リーナが駐屯基地を離れてから、一週間が経った。

 

 

 今日の強行偵察任務を終えて、レイズフォードの駐屯基地へと帰還するさなか。梅雨時期特有の灰色の空の中を、レンたちは飛んでいた。 

 

 眼下に広がるのは、一面の滑走路と航空機だ。コンクリート舗装にアスファルト舗装、端の部分では未舗装のものまで。ありとあらゆる資材と人員を投入して、広大な平野は巨大な飛行場へと造り替えられていた。

 そして、それらの南方には、ありとあらゆる種類の軍用航空機が並べられている。

 

 それもそのはず。約一週間後に迫る〈運命の聖槍(ロンギヌス)〉作戦は、航空戦力と紅瞳種(ルファリア)人部隊だけによる突入作戦なのだ。

 浄化された土地は脆く、いつ崩落するのかもわからない。そのため、陸上戦力による突入はまず不可能だ。

 

 そのうえ、〈奈落の門(タルタロス・ゲート)〉の付近では、そもそもの問題として陸上戦力が移動できるような土地が()()()()()

 この二つの理由から、〈運命の聖槍(ロンギヌス)〉作戦では空軍と空を飛べる紅瞳種(ルファリア)人部隊による突入作戦が策定されたのだ。

 

『浄化、もうすぐそこにまで進んで来てんな』

 

 フリットがぽつりと漏らすのに、レンはちらりと背後の峰々を振り返る。

 アティルナ共和国とヴァールス王国、人類圏と浄化世界を分かつアルフェン山脈。その山頂付近には、雪とは違う(しろ)色が神々しく輝いている。

 

 その先に見える景色は、蒼穹ではなく赤い空で。不気味な赤色が、事態の深刻さを物語っていた。

 忌まわしい紅の空を視界の端で捉えながら、レンは言う。

 

「もう、あんまり時間はないみたいだね」

 

 研究者いわく。この赤色の空は、人が死ぬ度に広がっているらしい。仮にその説が本当なのだとすれば、この広がり様はどこかの国()が滅んだことを示している。

 自分たちの基地が見えてきたところで、イヴが不意に訊ねてきた。

 

『隊長との面会、まだできないの?』

「うん。リーナの方が面会を拒否してるらしくて。伝言も(とお)んない」

 

 まぁ。その理由はおおかた予想はつくが。

  とはいえ、ここまで交流を拒否されるのでは、レンたちではどうしようもできないのだ。

 

『せめて、〈運命の聖槍(ロンギヌス)〉作戦に参加するのかどうかぐらいは聞いときたいんだけどな』

「まぁ、あの傷だし間に合わないでしょ。……それに。アイツも、足手まといになるような人を参加させたりはしないだろうし」

『あいつ、ねぇ? ……司令、お前の親父じゃねぇのか?』

 

 肩を竦めてフリットが言うのに、レンは嫌悪感もあらわに吐き捨てる。

 

「誰が、あんなヤツなんか! あいつは母さんを見捨てて、俺たち特戦隊を使い捨てることしか考えてないようなやつなんだ! そんなヤツ、父さんなんかじゃないよ!」

『……言うねぇ』

 

 苦笑混じりにフリットが呟いて。それきり、三人の会話は途切れる。

 兵舎の前で降り立ったところで、そこに一人の青年士官が鞄を片手に待ち構えているのに気がついた。

 

「……あれ、輸送科の人じゃない?」

 

 イヴが言うのに、レンは彼の隣に一台の車が止まっていることに気づく。

 こちらに気づいたらしい、青年士官は鞄を手に近寄ってきた。

 

「お、やっと帰って来ましたね。貴方がレン・ブローディア中尉で間違いないですか?」

 

 彼の赤色の瞳と容姿に既視感を覚えつつも、レンは言葉を返す。

 

「え、あぁ、はい。そうです。俺がレン・ブローディア中尉です」

紅瞳種戦術義勇軍(RTVF)より、〈運命の聖槍(ロンギヌス)〉作戦の作戦指令書を預かっています。どうぞ」

 

 ついに来たか、と胸中で呟きながら、レンはその指令書を受け取る。即座に封を開けると、資料から作戦概要の一つ――参加兵力の欄を開いた。

 周りが困惑するのは無視して、レンは参加兵力の欄を一行ずつ丁寧に確認していく。

 

 そして。最後のページの下側、〈奈落の門(タルタロス・ゲート)〉突入部隊の欄に、レンたち第二特別戦隊『ヴァイスエッジ』の名称はあった。人員は()名で、レンとフリット、イヴの三人だ。リーナの名前はない。

 ほっとしたのも束の間、その下にリーナの名前を見つけてぎょっとした。

 

「……は?」

 

 思わず声が漏れる。なんで、傷の完治もしていないはずのリーナの名前が。

 

「ど、どうしたの……?」

「何か、不備でもありましたか?」

 

 イヴと青年士官が不安げな声を漏らすのを聞きながら、レンはリーナの所属部隊名を確認する。

 

 ――特別挺身隊。

 

 それが、第二特戦隊を離れたリーナの所属だった。〈奈落の門(タルタロス・ゲート)〉突入部隊の、特別挺身隊。文字の羅列に悪い予感を感じながら、レンはページをめくる。作戦内容の後半に差し掛かったところに、『特別挺身隊』の行動内容は記載されていた。

 

 

 ――第二特別戦隊の護衛の下、特別挺身隊は目標地点へと肉薄。第二特戦隊は、特別挺身隊の退路および目標撃破のための脅威の排除にあたる。特別挺身隊は、これの支援の下攻撃目撃を撃破する。

 ――(ただ)し。特別挺身隊が全滅した場合には、全軍が総力を(持っ)てこれの撃破にあたる。

 

 

 それが、作戦指示書に書かれていたレンたち第二特戦隊とリーナの特別挺身隊の行動内容だった。

 つまり。レンたちはリーナの支援にあたるだけで、〈奈落の門(タルタロス・ゲート)〉へ直接の戦闘は行わない。リーナは、一人で〈奈落の門(タルタロス・ゲート)〉の破壊作業にあたるというものだ。

 

「……ざけんなよ」

 

 割れんばかりの力で奥歯を噛み締めて。レンは呻くように呟いていた。

 こんな、リーナの死を前提にしたような作戦は、断じて容認できない。できるわけがない。

 怒りを瞳に灯したまま、レンは戸惑う青年士官へと向き直る。

 ここから徒歩では時間がかかりすぎるし、かといって飛行魔術を使えば目立つ。となれば。

 

「あんた、この後は後方の基地へと帰るだけか?」

「え? ええ、まぁ、そうですけど……?」

「なら、俺も乗せてってくれ」

 

 しばし、青年士官は押し黙って。にやりと笑った。

 

「……分かりました。行き先は軍病院でいいんですよね?」

 

 ああ、とレンは頷く。

 

「え。ちょ、ちょっと待ってよ。レンってば急にどうしたの……?」

 

 戸惑いの言葉を上げるイヴに、レンは強引に指令書を押し付けた。指令書とレンとを交互に見つめる彼女に、レンは怒りを抑えた声音で吐き捨てる。

 

「そのふざけた指令書を読めば分かる」

 

 それだけ言うと。レンは青年士官の車へと乗り込んだ。

 

 

  †

 

 

「――以上が、〈運命の聖槍(ロンギヌス)〉作戦における貴官が果たすべき動向と、それに伴う異動命令だ」

 

 半分曇りの空から夕陽が差し込む、薄暮の病室。

 朱色に染まる部屋の中で、リーナはブローディア司令から〈運命の聖槍(ロンギヌス)〉作戦についての説明を受けていた。

 

 作戦発動日は、一週間後の七月四日。アティルナ共和の革命記念日だ。

 

 参加兵力は、共和国空軍と紅瞳種(ルファリア)人部隊の全兵力。彼らが突入作戦を実施している間、陸軍は総力をもって自国の防衛にあたる。もちろん、空からの援護は一切なしにだ。

 空軍部隊が〈奈落の門(タルタロス・ゲート)〉への道を切り拓き、紅瞳種(ルファリア)人部隊が退路の確保にあたる。

 

 リーナの所属は、特別挺身隊。ただ一人の、この作戦のためだけに設立された部隊だ。第二特戦隊の護衛の下、リーナは〈奈落の門(タルタロス・ゲート)〉へと肉薄。彼らの戦域確保の下で、リーナが〈奈落の門(タルタロス・ゲート)〉を破壊する。

 

 絶対に成功しなければならない。失敗すれば、人類に未来はない。

 それが、人類の最終決戦――〈運命の聖槍(ロンギヌス)〉作戦の概要だった。

 ブローディア司令が、淡々とした口調で告げる。

 

「君の望む舞台は整えた。作戦発動までの一週間、君は傷の治癒に専念したまえ」

「……ありがとうございます」

 

 これで、私は使命を果たすことができる。ようやく、お姉ちゃんの元へと帰ることができるのだ。

 そう思うと、不思議と安堵が生まれていた。

 そうか。これで、あと一週間もすればお姉ちゃんに逢えるんだ。ようやく、大好きなお姉ちゃんと触れ合えるんだ。

 無意識に笑みがこぼれ出た、その時だった。

 

 

 

「リーナ!」

 

 制止する看護師と警備員を振り切って。レンはリーナの病室へと入るなり叫んでいた。

 朱色に染まる部屋の中、そこで見たのは、ベッドに佇むリーナと、その傍らに座る(グレン)の姿だった。

 口元に危険な笑みを宿して、リーナはふらりと視線を向けてくる。

 

「……面会は拒否したはずですが」

「ああ。そうだな。だから、“まだ”上官の大尉に具申しにきたんだ」

 

 彼女の異動の日付は明日になっている。だから。まだ、リーナはレンの上官だ。

 だから。これは()()ではなく、上官に対する()()にあたる。

 

「何を言われようが、私は己の決定を曲げることはありません。帰ってください」

 

 真紅の双眸を細めて、リーナは冷淡に言い放つ。

 それを無視して、レンは続けた。

 

「お前は……、“リーナ”は、この作戦を本当にやりたいと思ってるのか?」

「……」

 

 彼女の顔は伏せられていて、見えない。

 

「レイチェルは、あんたに生きていて欲しいから、命懸けであんたを庇ったんじゃないのか? それを、お前は無駄にするつもりなのか?」

 

 リーナが好きで、生きていて欲しいと願ったから、レイチェルは命を懸けた。自分の命を差し出してでも生きていて欲しいと願われたから、リーナは今、ここにいる。

 それを、こいつは分かっているのだろうか。

 しばらくの沈黙ののち、帰ってきたのは微かに震えた声だった。

 

「……私は、私の意思に基いてこの作戦を受け入れました。だから、これは、私が望んだものです」

「違う!」

 

 思わず叫んでいた。

 

「そうなるように()()()()()()()だけだ!」

 

 足が動く。リーナに近づこうとして――その間に(グレン)が割って入ってくる。

 きっと睨み上げた先、そこにはいつもの冷徹の赤色がこちらを見据えていた。

 グレン・()()()()・ブローディア。レンたちを戦場へと追いやった紅瞳種戦術義勇軍(RTVF)の司令長官にして、姫様(エルゼ)を殺した、憎き実父。

 

「司令内容は、既に彼女の意思と同意の下で決定されたものだ。貴様に司令を変更する権利はなく、また、変更する猶予も存在しない」

「そうやって、今度はリーナも殺すつもりなのかよ? アンタは!」

「全ては紅瞳種(ルファリア)の解放のためだ」

 

 ぎり、と奥歯を噛み締めて。レンは募る激情のままに叫ぶ。

 

「その結果が今のこれじゃないのか!? あんたを信じて戦って! それで、第一特戦隊(ザルヴァトーレ)のみんなは死んで逝った! 俺たちのやったことは全部共和国軍がしたことになって、倒した〈セフィラ〉もみんな復活して! こんなことの、一体どこが紅瞳種(ルファリア)のためになってるって言うんだよ!?」

 

 レンと姫様(エルゼ)たちが必死で戦った四年間は、結局無意味だった。活躍は奪われ、その活躍ですらも復活によって無と化した。

 全ては、無意味な散華だった。こいつのせいで。

 冷徹の瞳が、絶えずこちらを見据えている。

 

「そんな事態を二度と起こさぬために、この一年でありとあらゆる対策を講じた。計画を修正し、情報をさらに精査した」

「だから、お前を信じろと? ふざけたことを言うな!」

 

 レンの大切なものを、なにもかもを奪って、壊してきたくせに。いったい、今さらそんなやつの何を信じろというんだ。

 だいたい、母さんさえも守れなかったくせに。そんな父を、レンはどうやって信じればいいというのか。

 

「レンも司令も、やめてください」

 

 (グレン)の後ろで、毅然とした少女の声が響き渡る。

 グレンがその場を退くと、見えてきた彼女の顔は、困惑に揺れていた。

 

「こいつが、エルゼを殺したんだ」

 

 滾る激情を押し殺して、努めて冷淡にレンは告げる。

 姫様(エルゼ)の死の真相を。

 

「全ては紅瞳種(ルファリア)の解放のためにって、それが最善の選択なんだって。そう言って俺とエルゼを〈奈落の門(タルタロス・ゲート)〉に送り込んで。それで、結局なにもできずに死んだ」

 

 今でも鮮烈に覚えている。一年前の春。レンは、姫様(エルゼ)をあの原罪と浄化の世界に見捨てて逃げたのだ。君は撤退しろと、妹を守ってくれと言われて。本当に逃げ出してしまった。

 重い沈黙が、しばしその場を支配する。

 最初に口を開いたのは、やはりリーナだった。

 

「……それでも。私は、しなければならないんです」

「なんで……!?」

 

 見つめ返した先、リーナの顔には笑顔が浮かんでいた。安堵の表情だった。 

 

「これが、私に課せられた使命なんです。私が生きている意味で、私に残された、唯一の務めなんです。……だから、」

 

 一拍置いて。リーナは柔らかい、けれども確固たる意思の声で告げた。

 

「あなたの具申は受け入れられません。決して」

 

 

 

 

「ごめん」

 

 軍病院を追い出されて、失意の中で帰った駐屯基地の食堂。夜の静けさが支配する中で、レンはイヴとフリットに対して頭を下げていた。

 

「俺、なんにもできなかった」

 

 絞り出すような声が、食堂に響いては消えていく。

 リーナの意思を――あんな、自死にも等しい作戦を、レンはついに撤回させることはできなかった。

 それどころか、彼女の意思を、レンはさらに明確なものにしてしまった。迷いの部分を、断ち切らせてしまった。

 

 ……守ると、誓ったのに。おれは、いったい何をしているんだろう。

 

「や、やめてよ。頭上げて」

「別に、お前のせいであいつが行くわけじゃあねぇんだ。謝んな」

 

 気遣うような声が、頭上から振りかけられる。優しい言葉が、失意の心にはなおのこと痛かった。

 レンが駐屯基地を出たあと、二人も指令書の内容は読んでいた。

 

 リーナが、明日付で第二特戦隊を離隊すること。それと同時に、たった一人の特別挺身隊へと入隊すること。リーナが一人で〈奈落の門(タルタロス・ゲート)〉と対峙すること。その戦域の確保を、第二特戦隊が請け負うこと。

 目の前で戦うリーナを、けれど一切の手出しが許されない、無慈悲な作戦指令。いくら必要な行動だからとはいえ、それは三人にとっては断じて納得のいくものではなかった。

 

 だから。

 

 たとえ、リーナの意思を変えられなかったとしても。作戦を撤回させることができなかったとしても。ただ、彼女の死を座視する気は全くなかった。

 短く深呼吸をして、レンは顔を振り上げる。

 朱色の瞳に決意の炎を宿して、レンは言葉を紡ぐ。

 

「俺、やっぱりリーナには死んで欲しくないんだ」

 

 察して、二人は無言で頷いてくれる。

 

「おれは、リーナにこれからも一緒に生きていてほしい。俺()()と一緒に、生き抜いてほしいと思ってる。だから、」

 

 二人の目を交互に見つめて、レンは告げた。

 

「二人とも。協力、してくれないか?」

 

 リーナを死なせないために。これから先も、一緒にいられるように。そう、言外に伝えていた。 

 しばらくして、そのことが伝わったらしい。二人はにこりと笑った。

 

「もちろん、言われなくても」

「で。具体的には、どうするんだ?」

「内容は夕食でもつくりながら話すよ」

「あぁ、夕食ならもう俺たちで作っといたぜ」

 

 え、と声を漏らすのに、イヴははにかむように笑う。

 

「さすがにレンほど美味しくはできなかったけど……。それでも、ちゃんと美味しいはずよ」

 

 

  †

 

 

 作戦当日は、雲の切れ目から青い日差しが差し込む微妙な空だった。

 

 

 梅雨時期に特有の生暖かい朝風の中。広大な飛行場からは、爆装を施した戦闘機が次々と離陸していく。十二機によるV字編隊を組み終わった編隊から、ただ一点、北西方向にある赤い空へと向かって進軍していく。

 

 それらの次に発進していくのは、双発の爆撃機だ。弾倉には大型のロケット弾を抱えて、戦闘機隊の後を追随していく。

 そして。それと同時に、紅瞳種(ルファリア)人部隊を送る輸送機の発進もまた始まっていた。

 第二陣の一部隊、中央打撃群の輸送機の一つで。レンたち第二特戦隊と特別挺身隊(リーナ)は、出撃時刻を静かに待っていた。

 

 第二特戦隊と特別挺身隊。つまりはレンたちとリーナの部隊は、敵地深奥にある目標地点――〈奈落の門(タルタロス・ゲート)〉を破壊する上で最も重要となる部隊だ。ゆえに、道中の〈ティターン〉撃滅には一切関わらない。

 目的地へとたどり着くまでは、空軍部隊と紅瞳種(ルファリア)人部隊による護衛の下で、戦力を温存しておくことが役目となるのだ。

 

『あと数分後にはこの機体も発進しますんで、各自ベルトは付けといてくださいね』

 

 機内通信から、操縦士(パイロット)――もといビュイック少尉の声が聞こえてくる。それを耳に入れてから、レンは左斜め前の席に座るリーナへと声をかけた。

 

「怪我、大丈夫なのか」

「戦闘に支障はありません」

 

 振り返ることもなく、帰ってくるのは、素っ気ない返答だ。

 己の感情を極力排した、冷徹の声。

 

「そうか。なら、よかった」

 

 あえて、レンも素っ気ない声音で返していた。

 今は、お互い感情に波風を立てているような状況ではないのだ。

 敵は〈奈落の門(タルタロス・ゲート)〉と、それに同化した十一個目の〈セフィラ〉――〈神の真意(ダアト)〉。一年前にレンと姫様(エルゼ)が討伐に向かって――そして、敗退した相手だ。できうる限りの最高の状態を維持してかからなければ、まず勝ち目はない。

 機内通信から、操縦士(パイロット)の声が届く。

 

『では、定刻になりましたんで、これより本機も離陸を開始します』

 

 操縦士(パイロット)がそう言うと。機体は双発のプロペラとエンジン音を轟かせながら、ゆっくりと加速を始めていく。窓外の景色が徐々に早くなり、けれども白と差し込む青の景色は変わらない。

 次の瞬間、ふわっとした感覚がレンたちを襲った。

 離陸したのだ。

 

『離陸成功。これより、本機は中央打撃群の編隊に入ります』

 

 操縦士(パイロット)が言うのを、レンは一段と高まる緊張の中で聞いていた。

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