亡国王女とエーデルヴァイスの騎士   作:暁天花

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断章Ⅲ Savior of The White Silver
断章Ⅲ Savior of The White Silver


「さて……と。これで、未来への保険はつくれたかな」

 

 紅と漆黒の闇の世界の中。

 何とかレンを逃すことに成功したエルゼは、深淵(しんえん)の円環――〈奈落の門(タルタロス・ゲート)〉に目を向けながら呟いていた。

 現状の力では、この門を破壊することも、同化した〈セフィラ〉である〈神の真意(ダアト)〉を消し去ることもできない。けれど。

 

 未来を繋ぐための、希望を紡ぐことはできる。

 〈奈落の門(タルタロス・ゲート)〉とその付近の現状は、レンを介して伝えることができるだろう。状況さえ分かれば、アティルナ共和国も何かしらの対策は立てることはできるはずだ。

 なにせ、アティルナ共和国は世界随一の科学大国にして、この厄災を己の力のみで耐え切り、そして反抗を可能にした国なのだ。何もできないはずがない。

 

 妹に使命を託すことになってしまうのは、それはとても心苦しいことだけど。

 けれど。レンがいるなら、まぁ、大丈夫だろう。彼もリーナも、ボクの自慢の子たちだから。折れても、また立ち上がれるはずだ。

 

 〈奈落の門(タルタロス・ゲート)〉は、相変わらず漆黒の闇が円形をつくってそこに佇んでいる。外縁からは、闇と実体の入り乱れた狂気の腕が伸びて来ていた。実体の方では、蛇のようにも見える。

 瞬間、エルゼははっとした。……()()()()()()か。

 

 二重に見える闇と蛇の腕。まず、これは幻覚などではない。そんな魔力の動きは、エルゼは感じていない。

 そして。超古代文明に記されていた正世界の“セフィロト”と、それに酷似した〈生命(セフィロト)の樹〉の紋章。負の世界に封印されし渾沌(こんとん)と厄災。

 どこに繋がっているのかも分からない正体不明の門と、死亡時に魔力の爆発を巻き起こす、厄災の実体化ともいえる〈ティターン〉の存在。

 

 それらの全ては、ある一つの可能性を示唆している。

 に、と挑戦的な笑みを浮かべて、エルゼは深淵の闇に言い放った。

 

「……君の本質は、“そっち”か」 

 

 純粋な魔力の集合体。つまり、裏の世界の住人とも言える存在。それが、彼ら〈ティターン〉の正体だと、エルゼは結論づけていた。

 先程から幻覚のように見える蛇の腕こそが、〈神の真意(ダアト)〉の……いや、〈奈落の門(タルタロス・ゲート)〉の本体なのだろう。そして。その本体は、超古代文明の人々によって裏の世界――つまりは魔力の世界に封印されてしまった存在だ。

 

 〈ティターン〉の爆発は、何からの力で縛っていた魔力が、ダメージの蓄積によって弱まった結果だろう。圧縮の限界を迎えた魔力は、爆発力となって飛散する。魔力付与(エンチャント)で威力や貫徹力が上がるのと同じ理論だ。

 正直、自分でも突飛な考えなのではないかとも思う。けれど。仮にこの考えが当たっているのならば、まだ希望はある。

 

 もし、〈奈落の門(タルタロス・ゲート)〉が〈ティターン〉と同じ理論の下につくられているものだとしたら。攻撃を与え続けていれば、いずれ破壊できるのではないか?

 自然とそんな考えが浮かび上がってきていた。

 正直、分の悪い賭けだし、そもそもの前提もただの推論でしかない。けれど。やる価値はあるとエルゼは判断した。 

 

 満身創痍の身体を叱咤して、残る魔力を振り絞る。右手の〈魔術式銃(クラウソラス)〉と、左手の〈魔術式剣(アロンダイト)〉に魔力付与(エンチャント)を施す。魔力の残存量を考えて、身体強化は速度とそれに対する抵抗力だけに絞って付与する。

 どうせ遅かれ早かれ死に()く身だ。被弾に対する防御など、無意味でしかない。魔力の無駄だ。

 

 〈魔術式銃(クラウソラス)〉を構え、迫り来る無数の腕を睨み据える。

 口の端を微かに吊り上げて、エルゼは呟いた。

 

「残りは、頼んだよ」

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