聖書の神なら立川で鳩サブレ食ってるぞ   作:夜月工房

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11.VIPと遭遇したよ!

せっかく五年が経過して引きこもりを止めたんで、社会科見学として裏京都に旅行する事にした。日本地獄の見学も内容に含まれてるんで、妖怪も悪戯以上の事はして来ないと思われる。

現魔王派は割と杜撰なのでも書類が通るって愚痴はゼグラム他挨拶を受け取った旧魔王派の多くがこぼしてたが、事実として今回で言えば参加者の若者は人数だけ記載でも通った。年齢も種族も名前もスルー。

まぁサーゼクス経由で忖度があった可能性もあるが、種族柄契約には誇りと責任を乗せるべき悪魔の仕事がこれでは旧魔王派の愚痴も理解できる。

とはいえ怠惰結構、実に悪魔である。変に時間を取られる事なく人数分の通行証を受け取って領地に帰れたわ。まぁ向こうに着いたら現地の許可もらってフリーパス発行してもらうんですがね。

信賞必罰、天網恢恢疎にして漏らさずを地で行く鬼いさんと日本地獄は教育にいい。罪を抑制するのが法ならば罰は重く、但し裁きは違えずが理想だからな。契約を重視する悪魔としても破った側の負うべき責め苦の尺度として大いに参考にして欲しい。

 

 

 

「あれ、あの子バールド君じゃない」

「本当だ。おーい」

「お二方。なンでまた京都に?」

 

で、裏に入る前。表京都でばったり立川でバカンス中の聖人二人と会いましたとさ。

 

「実は福引が当たってさー」

「なるほど。しかし京都は定番すぎて外しそうですし、神社仏閣の数的にも……」

「あー、うん。落ち着かないのはあるんだけどね」

 

商店街の福引かー、天部が帰省を促すために根回ししたんだろうな。派手に動くと天使に知られかねないんで勘弁してほしいところはあるんだが。

 

「はわっ、はわわわわ……」

「ねぇねぇバールドくん、あの子は?」

「え、あァ、紹介します。彼女はアーシア・アルジェント。幼い頃より教会に託されていたのですが縁あってうちで引き取り育てている領民ですね。私自身は敬虔さとは皆無ですが、それなりに神の教えを説かせて頂いた事で彼女の信仰心はご覧の通り。今は人生最高潮まで高まっているかと。彼女以外の子供達も同じく幼少期から引き取って育てている領民でして、今回は遠足旅行で裏京都と日本地獄見学に」

「おー」

 

アーシアは信仰心もしくは記憶力のなせる業なのか、イエスの正体にばっちり気付いた様子。まぁ茨の冠してる人間なんて候補少なすぎるわな。

そんでブッダは素直に感心してくれてるけど、イエスはアレだな。直に堪えきれず暴発するな、これ。

 

「はい、みんな注目ー。何人かは気付いているだろうがこちらのお二方は……私が個人でお世話になっているヨシュア様とシッダールタ様だ。非常に気さくだが偉く尊い方なので失礼の無いように」

「「「はーい! よろしくお願いしまーす!」」」

 

さすがにバカンス中のプライベートな二人をそのままイエスとブッダですって紹介するのはなぁ。まぁイエスもヨシュアも発音違いでしかなかった気もするが。あれ、よく考えたら悪魔語翻訳で聞く側はイエスとブッダって変換されて聞こえてたりする?

しかしさすがは宝物センサーが揃えた珠玉の逸品で構成された割と早熟な子供達。ヴァーリママやレディ・リリスの尽力もあって明るく素直、何より元気いっぱいで仲良しだ。マルバス姉が宇宙を背負った顔してるが貴族教育の賜物で聖人相手だと緊張してるのか?

 

「ん〜ハレルヤ〜!!」

「わあああ!? ちょっとイエス!? 漏れてる! 奇跡が大安売りされてるから!」

「返して名前隠した気遣い」

「えっ、あっ!? ご、ごめんね?」

「いえ、とりあえず結界は間に合ってますので」

「ほんとごめん! ありがとうね!?」

 

案の定、種族の壁を越えて仲良しな子供達の姿に感動して奇跡起こしたわ。ブッダもツッコミに回りつつボケる高等テクニックを披露するし。いやもうホントこの二人好き。ドローン撮影で風呂トイレ以外常時配信されねぇかな。

でも予め日常でコツコツ耐性獲得させてなかったらイエスのハレルヤ一つで子供達の半分以上が灰も残さず消えるからマジ注意して欲しい。つーか対策なしだとアタシからして消滅してる。

 

「わー、お花いっぱい!」

「すごいきよらかなオーラ、まおうさまでもたおせそう」

「ひとのこしゅごい……りょーしゅさまがおせわになるだけのことはあるわ」

「川が……赤く……」

「このほーじゅんなかおり……ワインだこれ!? すごくいいやつ!」

 

あふん、範囲的に隠蔽が間に合わん。河川はまずい。せ、生態系が……いや、奇跡で進化するに一票だな。とりあえず色々と諦めんべ。鬼いさんに叱られるのは甘んじて受け入れよう。

まぁ、これには人間の可能性を知った悪魔や死神も価値観を一新する切っ掛けになったようだし……でもね、その人ら可能性は可能性なんだろうけど限界を何段階も越えた文字通りの超人なんですよ。基準にするのはせめて同じ人外枠でもストラーダくらいにしたって。

あれはあれでコカビエルのソロ撃退もちろん生身な偉業だが、聖槍前提とはいえ曹操なら後五年もすれば辿り着く領域なんよね。コイツらも大概バグだな?

実際に頭も体も飲み込み速度やべーからな。神滅具(ロンギヌス)の影響もあるのかわからんが、鳶が鷹を産むどころの話じゃない。基礎体力はできてきたから、リリの槍術を仕込んだら一気に化けると思う。小人族(パルゥム)用なんで体が成長すると共に変えんとない技術でもあるが。

 

「にしてもすごいよね。これだけ種族が違うのにみんな仲良しなんて」

「うんうん、アガペーだね!」

「まぁ、主の教えと懐の深さはあるでしょうね。特に人間の子達は神器(セイクリッド・ギア)により社会に馴染めぬ者とはいえ、悪魔が引き取り育てる事を許して下さってますし」

「あー、うん。そこは父さんの事も含めて責任を押し付けちゃってるから逆にごめんとしか言えないんだけど」

 

ほんそれ、げふんげふん。イエスがシステムに介入するとしたら鳩経由の奇跡が必須だろうし、そうなると鳩生存がバレて鳩にやらせろってなるからな。だからってイエスに鳩の後継者をやらせたらストレスで死んでしまう。でも三日後に復活するネタが使えて嬉しかったりするんかな。

まぁ、気にするなって言ってもしちゃうのが原罪背負って裁かれた彼なわけで。

 

「あー、それならこの子と話をしてあげてほしいのですが」

「ひぇっ!?」

 

奇跡を目の当たりにしてずっと祈りを捧げる体勢を取ってたアーシアを軽く押し出して提案。

 

「もちろんいいよー。アーシアちゃんだっけ? 気軽にイエスって呼んでね!」

 

えぇい信者を前にフランクな。もうちょい威厳を出せ、威厳を。アーシアは感動してるからいいけどさぁ。

 

「あ、あの!」

「うんうん、何かな?」

「私、皆を守れる力が欲しいんです。でも、運動は苦手で、それにドジだし……」

「なーんだ、そういう事なら任せてよ」

「ちょ、イエス!?」

「あ、これ駄目なやつですね」

 

アーシアの聖書的に否定されそうな内容を、恐怖に打ち克ってまで告げた悩みを、なんだで済ませる男、イエス。しかし朗らかで悪気なしなのは伝わるんで怒るに怒れない。

で、この後は安請け合いしたイエスがその態度に偽りなしとばかりそのまま簡単にとはいえアーシア……だけじゃなくその場の――アタシを含む――子供達をまとめて祝福しちゃったからさあ大変。

それぞれ神器(セイクリッド・ギア)持ちは覚醒するわ、その神器(セイクリッド・ギア)にぼんやりと補助AI的な人格が宿るわ、むしろ神器(セイクリッド・ギア)の有無と関係なく軽い奇跡を起こせるようになるわ……これだけでもお腹いっぱい胸いっぱい。喉詰まりして死ぬレベル。

しかも体ができあがったら(かみ)に頼んでヤコブ(イスラエル)に教えを授けてもらう約束を取り付けるわ、相乗りしたブッダも今からでもできる準備としてヨガの指導書を天部から配送する約束を取り付けちゃうわ……おぉ、もう。悪魔だけどオーマイゴッドだのジーザスだの叫びたい気持ちで一杯だった。鳩まで来たら洒落にならんから我慢したアタシ超偉い。電線の上で準備し(スタンバっ)てるの見てなかったら危なかったわ。

つーか帰還後ルキフグス領内だけ天界より聖なる気配に満ちるぞこれ。他の悪魔来たら勝手に蒸発していくレベルの。リゼヴィムはあのタイミングで契約してなかったら今回の旅行から子供達が帰って来たらガチで死んでたまである。翻ってリリスの先見性がヤベーイ。

 

「そういえば気になったんだけどさぁ」

「えっ、まだあるの?」

「えーと、なんでしょう」

 

嬉しさから気絶したアーシアの額と頬と首の後ろに冷えピタ貼って膝枕しながら団扇で仰いでたんだが、イエスはまだやり足りなかったらしい。

 

「そこの男の子……あれだよね、黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)? だったっけ」

「黄昏の聖槍!? 何その微妙に痛々しい名前!?」

「痛々しい名前……」

 

後は曹操を見て聖槍の所有者だって気付いたんだが、ブッダの冷静で的確な判断力に基づいたツッコミに曹操が凹まされてた。いや別に名前もその身に宿ったのも曹操に責任ないんだから落ち込まんでも。ほら、悪いのは大体そこの電線から落ちた鳩。

こんな時に強く叱咤及び激励してくれそうなアーシアはダウン中だし、ライバルのヴァーリは歴代白龍皇の魂が祝福で昇天したらしくて神器(セイクリッド・ギア)の調整してっし……ここ表京都なんだがなぁ。アルビオンが三頭身のデフォルメ幼ドラゴンの姿で外に出てる幻覚が見えるわ。いや元から出せてたか。あのゆっくりアルビオンから立派に成長したなぁ(存在しない記憶)。

ゲオルグが気を利かせて人払いしてくれててすごく助かる。メフィスト・フェレスに会わせる悪戯が功を奏したな。報酬に追加で新しい魔道具(マジックアイテム)と薬のレシピ渡そう。

 

神器(セイクリッド・ギア)の名前はさておき、聖槍の持ち主に対して何か?」

「あ、やっぱりそうなんだ。つまり君はロンギヌスさんの子孫なんだね!」

「えぇっ!?」

「おっと超展開」

 

イエスは今回ボケ倒すなぁ。つーかこれ以上先祖を盛ってどうする気だ、その子は人間だぞ!

いやまぁシステムが正常な頃は神滅具(ロンギヌス)が血統に関連付けられてた可能性は考えられるか。敵対者に渡る可能性を高く設定するとは思えんし。

 

「それに聖槍は私の血を分けた兄弟みたいなものだからね!」

「そんな、まさか!?」

「ハッ、その意味じゃ槍の持ち主は……親?」

「ちょっとイエス!? 一旦落ち着こう、ね!?」

「……義弟をよろしくお願いします、お義父さん」

「そんな……そうだったのか。俺はお父さん……」

「ほらぁ! いたいけな少年が大変な事に……ちょっとバールド君これ大丈夫!? ねぇ!?」

 

イエスよ。追加で超理論を浴びせてはなりません。確かにロンギヌスさんの槍は貴方の血を存分に浴びたわけで、ある意味では血を分けた兄弟なんて見方ができなくもないのは……ごめん、わからん。聖人ジョークか何かでいらっしゃる? しかもその持ち主を義父扱いしてイエスの血の繋がらない父扱いするのも勘弁してやってくれ。ほら曹操までキラキラして来たし宙に浮き始めた! 奇跡起こしてるじゃん! どうすんだよハレルヤじゃねぇよこの……救世主!

くそっ、下手に殴ったりして返り血を浴びるとロンギヌスシリーズの聖遺物にされるから手が出せない。アーシアを膝枕から外すのも気が咎めるし。しかし幸せそうな顔で気絶してんなコイツ。推しとの時間が消えてってんだが。起こしても推しの姿を確認したらまた爆発しそうなんだよな。

 

「うーん、聖槍の所持者が遺志に負けない器を得たので助かってる面もありますし、正直とても評価に困りますね」

「あ、一周回って冷静になってる」

「悟ればこの悩みからも解き放たれるのでしょうか?」

「うーん、苦行いっとく?」 

 

そうだよなぁ、悟り開くなら苦行で身も心も追い詰めて、追い詰めて、追い詰めまくった先で更に追い詰めてから少し緩めて気を抜いたところにここ一番の勢いで追い詰めないと駄目だろうし。しかも三日坊主の語源になった才能の塊なブッダでそれやぞ。凡人魂のアタシじゃ悪魔生を全部費やしても指先すら引っ掛ける気がしねぇんだわ。

つーかそんなんしてたらマルバス姉妹のお家再興も夢のまた夢だし、アーシアが今回の件で男前方向からどう変わるか見守りたいしな。

それとそろそろクレーリア・ベリアルが他家の秘密探ろうとかアホやらかすだろうから動く用意せんと。うん、そうだな。

 

「領地経営あるンで無理ですね」

「う゛っ!!」

 

やっべ、おおよそ全ての義務を投げ出して出家したブッタに仕事を理由にするのはマズかった。数千年前の当時は正しさで満ちていただろう出来事を遥か年下の子供にこすられるとか不憫すぎんか。解脱したのに。いやホンマごめんて。

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