「領主様、そろそろお時間が……」
「う? げっ、マジか!」
比較的年齢の近いらしい死神の子から耳打ちされて時計を確認したら、確かに余裕を持った時間とは言えなくなっていた。起きた事が事なので仕方ない話だが、どうやら結構な時間を取られたらしい。
「あれ、もしかして何か約束?」
「えぇ、本来の目的は裏京都観光ですので」
「えーそうだったの!?」
「あれま、引き留めちゃってごめんねぇ」
「いえ、それ以上の物を頂きましたから。アーシアもTRPGに誘って頂けて感無量な様子でしたし」
推しが画面や人垣越しにじゃなく直接誘ってくれるとかファンは卒倒できるわな。実際には全員を誘ってくれたわけだが。
とりあえずこれで帰ったら大手を振ってインターネット環境の導入をする決心が付いたわ。95が出たばっかりだが。マシンそのものは毎年……はさすがに無理として、それでも三年に一度は買い換えたいな。クラフトチートで作ってもいいけど、時代を先取りしすぎるとアプリが動かん問題がな。困った事にソフトウェアは未対応なんよ。アタシは思考がケンケンパーしちまうんでプログラミングとは相性悪ぃし。
将来的にデーモンをハントするゲームにも誘われるだろうな。それを悪魔領でやらせるのかって話だが、現時点でも架空の話と現実をごっちゃにするアホはルキフグス領にいないんで問題はない。
それに、はぐれ悪魔歓迎の看板は降ろさんが、どんな奴でも仲間に迎え入れるとは言ってねぇからな。中には性根の時点でどうしようもないモノとかも来るだろうから、ルキフグス領に住むと参加するかはさておき目撃に関してははぐれ悪魔狩りは嫌でも体験する事になるだろう。向き不向きはあるんで全員が手を汚すわけじゃねぇが、そういった面でも慣れてもらうために悪魔を相手にするゲームは役に立つ。人が悪魔をどう見てるか、どう在って欲しいかのサンプルにもなるしな。
つーか礼儀からして相手によって態度を変えるし、日常と儀式では臨む姿が変わる。ゲームプレイヤーとしての自分と現実の自分を一致させる必要はないって事は教えなくても理解できるはずなんだわ。自分で考える事を習慣にして、判断材料になる知識を集めてればな。
そもそもそんな現実への影響を声高に叫ぶ連中は自分が昼ドラ見てても殺人を犯してねぇだろって話だよ。論理が破綻してるんだわ。まぁ特権意識持ちの差別主義者だから自分で殺人未満の罪を犯してる以上、自分以下だと見下す相手なら段階飛ばしに自分以上の犯罪行為を実現する可能性が見えちゃうんだろうな。アホらし。喋らないだけ人形のがマシだわ。
まぁ、うちの子供達は再現した前世のサブカル作品で常識も情緒もみんな破壊済だからな。留学してる死神はみんな黒棺を暗唱できるぞ。文句言われる前にハーデスと親御さんにめっちゃ謝って来たわ。鬼いさんや立川と混ざってなかったら戦争不可避だったかもしれん。いや、そもそも死神が留学してこねぇか。
で、一応子供達の話に合わせられるようにって再現した漫画全巻とシミュレーターを冥府に置いても来たんだが……後日になって
頭を抱えてたアタシは悪くない……いや元凶だわ。どうしてこうなった。時代も技術も無視したシミュレーターのせいですねわかります。アタシって、ほんとバカ。
「うん、旅行が終わったら一緒に遊ぼうねって伝えておいてね!」
「子供をゲームの沼に引き込むのは罪に入らないのかいイエス」
ブッダの指摘がキレッキレな件。確かにセッションする時間帯は夕方や夜になるだろうから就寝時間の兼ね合いがあって、長々と続くだろうからアーシアが夜更かしする悪い子になってしまう。
その意味じゃもう少し先の話になるが、人間をネット中毒にするのは悪魔の仕事として成立しそうだな。その頃になったら試そう。
まぁ、中毒なるまで浸からせなきゃ問題ないねん。なお立川時空のルター。ネトゲ中に寝落ちして夢の中でゲームしてた事はあるが、現実でマウスクリックはさすがにしたことねぇわ。でもあれ判定的には
「はい注目! 名残惜しいが予定の時間が近いので、お兄さん方とはしばしのお別れです。今日の思い出を胸に、二人へ恥じぬ生活と再会を誓ってさよならの挨拶しましょう。それではさようなら!」
「「「さようならーお元気でー!」」」
「「バイバーイまたねー!」」
うーん、お元気でまで入るのはポイント高いな? 誇らしいぞ領民……!
てなわけで、さすがに裏京都は要予約だし二人を連れて行くわけにもいかず、二人とはそこで別れた。まぁ別れ際も互いに笑顔だったからヨシ!
子供達もこの十数分に満たない時間で劇的に変化を遂げるとは夢にも思ってなかっただろう。妖怪の脅かしに反応して
つーか、気のせいならいいんだが、二人が使い魔召喚に巻き込まれる確率がぐーんとアップしたような。須弥山に今日の出来事を伝えて、起きてしまう可能性が高まったって予想を載せておこう。ついでに事故が起きたときの希望する対処法についての質問。
いやホラ、なんかブッダに関しては苦行を課すよう要求されそうだし、さ。それでいいのか天部一同。いやまぁここだと須弥山だが。
しかし、なんだ。一同イエスの祝福を受けたわけなんだが、地味にアーシアと聖槍のインパクトに隠れて気付かれなかったジャンヌが号泣してるんよね。気付かれ無かった事にじゃなく、祝福された事に対してなわけだが。まー
つーかツッコミ受けがちなジャンヌやヘラクレスの原典との矛盾だが、最初から原典は参考程度ってお断りがあるのを抜きにして考えても、ブラックボックス化してるシステムの不具合で片が付く気もするんよね。
対象は新生児じゃないのかって? システムのバグだよ言わせんな胃が痛い。この世界だと大体ミカエルが悪い。
でもってこの世界だとジャンヌは立川時空採用で天界の警備員してたっぽくて、ちょっとした騒ぎになったらしい。おかげで無断退社からの連続無断欠勤というか行方不明で聖人認定を剥奪されかけたとか。一応、人柄を知ってて不審に思ったミカエルが探したら
つーかヘラクレスもさ、神になった後のエピソード少なすぎんか。遠回りな死因になった川を渡る際に先行したからって担いで運んでた妻を夫の眼の前で強姦しようとした身の程知らず系ケンタウロスのネッソスはダンテの神曲で普通に獄卒やってるし。いやお前は責め苦に合うべき側だろ何を雇用されてんだ。なんならケイローンもいるけどお前射手座になったよな。全部まとめてダンテこの野郎。
伝記とかで描かれたアイツがキモくて個人的に嫌いなんでバイアス掛かってる自覚はあるが、要はお前なんか好きじゃねーしとか捻くれ対応したらガチで嫌われたヘタレBSS野郎が自分を主役にした妄想なんだよな神曲。それが後世で傑作として絶賛される辺りに面白さを感じなくはない。案外と天界で黒歴史が晒されて悶えてんじゃねーかな。あるいは作品には自信持ってるけど題名を変えられてる事にキレてるか。どうでもいいけど。
でもギリシャ神話の人外を大量に出演させて明確に聖書勢力より下に置いた内容で人々にウケちゃったから巡り巡ってこの世界におけるハーデスの聖書勢力嫌いに説得力抜群なんよね。ダンテこの野郎。いやまぁ新約聖書に地名としてのハデスが出て来る程度に根付いてる概念ではあったからダンテだけに責任があるわけじゃねぇだろうが。それすらも旧約聖書にはハデスって名称で出て来なかった以上、時代を経て一般名詞扱いだと認知されたが故に生えた設定なわけで、ある意味で伝言ゲームはやめろって話だよなぁコレ。結果的には聖書勢力マンセーに繫がってるわけだが。
で、これらの件を考えればこの世界の聖書勢力がヘラクレス相手にも無許可改宗やらかしてる可能性は十分にあるわけだ。ケイローンの説得で一時期所属してたらそのままなし崩しにってのもいけそうだし。あと、少なくとも仏像扱いでインドに、なんなら日本仏教にも入り込んでるんよねヘラクレス。これだから宗教は!
そりゃイエスとブッダが立川でバカンスできるわけだよな。現実からして何でもありだもん。ファンタジーを参考にした作品ならもっと幅広く何でもありだろ。
「この度は無理なお願いにも快く許可を頂きまして、ありがとうございます」
「礼を受け取ろう。とはいえ手続き上の問題もなければ、断る理由も無かったのでな」
裏京都では微妙に上から目線で不機嫌そうな案内役に連れられて、なんかそれっぽい感じの広い屋敷にやって来た。中級悪魔くらいの実力はあるけど、子供達が反骨心を見せたら狩られる程度でしかないぞ鴉天狗くん。
で、近辺の妖怪を束ねている代表の八坂に挨拶をする事ができたのが現在。九重が生まれてない時期だろうし旦那さんも存命だと思うんだが、代表はこっちなんだな。九尾の狐って女性イメージだし違和感は無いが。
猫又みたいに異種族の男性を襲うけど生まれてくる子は猫又ってパターンだろうか。でもそれ要はダンまちのアマゾネスやん、怖っ。
「ですが無力な子供が多数ですからね。勝手に動いて迷子になったのを誘拐扱いされる面倒なども予想された事でしょう」
「ふむ、悪魔にしては随分と素直じゃの?」
「若輩者ですので、分を弁えているだけです」
実際の想定は誘拐されたのを迷子でしょって白を切られる可能性だがな!
なもんで、連れてくる面子とは模擬戦をしてある程度の自衛が可能な事を確認したり、臆面もなく叫んで助けを求められる精神性を判断基準に選んで来た。原作ネームドはもちろん、名無しのモブも精鋭ですのよ。
人間に至っては
「ふむ、裏も表とはさして違わんが、存分に堪能して行くと良い」
「重ね重ね、ご厚意に感謝します」
「うむ、その……地獄の補佐官殿によろしくな」
「はい」
いやなんでそこで鬼灯様を名指すんのよ。タイミング的に八坂と言葉を交わすのは最後になるから話すとしたらこの機会しかねぇとは思うんでわかるとして、理由がわからん。別に補佐官じゃなく閻魔大王様によろしくでよくないか。それとも今回の件を連絡したのが鬼灯様自らだったとか? 恐れ多いんだが。土産増やすかな。
つーかビビり具合も気になる。鬼灯様ならむしろナメられないよう毅然とした態度を貫けとか指示しそうなんだが。あるいは過去に鬼灯様を侮ってやらかしたか?
九尾の狐が強大な妖怪だってのはそれこそ神話勢力でも認める事実なんだが、大御所の妲己からしてセミに化けてやり過ごそうとしたのに水面に正体が映る大ガバで見つかってるし、ポンコツな印象が拭えないんだわ。その意味じゃ何かしら意図せずうっかりを発動させた可能性もあるか。色仕掛けとか賄賂とか、その辺。
実際問題、裏側に住まわせる条件として現世に留まってる幽霊の送還とか命じてるはずなんだが、普通に滞らせてる感あるしな。最近はお悔やみに載せなかったり新聞を取らなかったりで知る手段が減った弊害もありそうだ。親戚間の繋がりも薄いしなぁ……サマーのウォーズは旧時代の光景になってしまった感はある。また夏の金ローで地上波に流れるんだろうか。
まぁ、今回は聖人二人の来訪でまとめて成仏したのか見掛けなかったが、普段なら日本の街を歩いてるとそこら中にいるんよね。そんでアタシは見える子供って事で割と絡まれるんよ。それをボコして鬼灯様に連絡するまでセット。
おかげでお迎え課とも顔見知りが何名か。さすがに在野の幽霊相手なんで火車さんとは未遭遇。荼吉尼さんは地獄ですれ違ったが紹介とかはなかったんで面識はない。
裏京都代表への挨拶を終えたので、大人しく待っていてくれよと願いつつ子供達の待機する部屋へ。
案内はまた別の鴉天狗だったが、こちらは物腰柔らかだった。まぁ感情殺すくらいできんと仕事はできんわな。一応はここも宮仕えみたいなもんだろうし。
「バールド様、見て下さい!」
「アーシアはすごいなー」
満面の笑顔で竜顔の蛇を掲げて見せてくるアーシアはかわいいなぁ。どっから出て来たのそれ。蛟とか? へぇ、ミドガルズオルムって言うんだー五大龍王の一角と同じ名前だよすごいねぇ。本物? そっかー。ちょっと用事が出来たからお部屋で大人しく待っててなー。
もしもし、私バールド・ルキフグスと申しますが、こちらロキ様の携帯電話で間違い無いでしょうか……ありがとうございます、お世話になっております。それでですね……。