さて、その後は大きな問題もなく日本料理に舌鼓を打ち、広々とした檜風呂の湯船に浸かり、床に直敷きする布団でぐっすり眠って疲れを取ってもらった。途中で子供達が適宜トイレに起きるんで送迎してたら夜が明けてたよね。
で、一泊したので本格的な裏京都観光をした。こちらも八坂の厚意により派遣された護衛役を兼ねた妖怪の案内に従って集団移動。
ルートは事前に調べて連絡してあったので流れはスムーズ。見学、体験や買物を済ませて次の目的地へ……を繰り返し、大きな騒動もなく楽しむ事ができた。土産は全部倉庫に入れたんで、傍目にはとても身軽だ。
まぁ、地味に因縁付けて来そうな奴はいたんだ。護衛さんがニコニコ顔で肩組んで路地裏に消えて行ったきり見てないが。帰って来た護衛さんの顔とか服とかが染まってたがお洒落の一環に違いない。鬼灯様への報告で過敏になってたのかは知らんが、とりあえずチップの文化が無い事は重々承知の上で金一封渡しといた。受け取れないなら八坂殿に渡して欲しいって言い包めて。
そうしてあっという間に昼になり、予約してた店でうどんを食べ、ついにその時がやって来た。
「バールド・ルキフグス以下領民二十六名、参上仕りました。本日はよろしくお願い申し上げます」
「正式なルートで予約してるんですから、そう畏まらなくても。別に取って食いやしませんよ」
「うっす、ありがとうございます」
いやでも減点方式で都度金棒が直撃する印象が拭えんのよ。あと子供達の手前、初手頭を下げて格付けは済ませておきたかったし。
「それでは続けて紹介させて頂きます……ハイ、こちらにおわすのは日本地獄のトップである閻魔大王様の第一補佐官であらせられる鬼灯様だ。今回は私達の急なお願いにも諸君ら子供達の教育に繋がるならと快く許可を下さった大恩あるお方なので失礼の無いように」
「「「はーい!」」」
「よろしくお願いします。元気が良くて大変結構。それでは本日は日本地獄の一部について、VTRやPVを視聴して頂き見学して頂きます。基本的に地獄在住の鬼や妖怪向けですので、内容には少々過激な部分もありますが……それでも目を背けず向き合う事で皆さんが今後の生活の質を向上させる事を願います」
「「「はい! よろしくおねがいします!」」」
てなわけで、地獄巡りは時間が足りなくなるだろうと映像を見る事に。現地に来る必要なくね? などとは言っちゃならん。見終わった後の質疑応答とかもあるからな。
ちな、鬼灯様は機材の準備を済ませたら、道中は倉庫で大人しく過ごしてもらってたリリスの引率を引き受けてくれる。相手してくれてたエイジャには後で特別ボーナスをやらんとな。
リリスの要件は集合地獄で悪女仲間の妲己と会う約束を果たしに行く事なわけだが、白澤もその場に居そうなんだよなぁ。鬼灯様の機嫌を損ねるような真似はしてくれるなよとは思うんだが、まぁ無理な話か。他ならぬリリスが連絡して呼んでそうでもあるし、案内役を別の人に任せてもらうのが正解なんだろうな。
白澤も単体なら極度の女好きな部分を除けば完璧に近いんよね。その一点で敬意が霧散するレベルだが。その上で女性から鬼灯様の方が好みって断られ方をされまくったせいで一方的な敵視が始まり、どっかのイベントで瑞獣の立場を悪用して虚仮にしようとしたのが切っ掛けで互いに不倶戴天の敵同士なんだよなぁ。呉越同舟する程度ではあるから不倶戴天は言い過ぎか。
知識は豊富だし教え方も上手いんだが、芸術関連については独特なセンスを発揮するんで気を付けないと夢に見るレベルのトラウマを抱える事になるのが難点か。曹操やゲオルグには術だの調薬だのを学んでほしくもあるんだが、まぁその辺は別の機会に。
「わぁー、かわいいいぬー!」
「ふきしょじごく……どうぶつをいじめたやつがおしおきされるところなのか」
「えー、ワンちゃんたちはへいきなの? いじめられないかな?」
何ヶ所かTHE・地獄って感じの風景や厳つい顔の獄卒が門番してる場面を映したと思ったら、アットホームな職場ですってアピールで普通に
子供達はキャッチ・ザ・ハートされるも字幕とナレーションから勤務場所の概要を知って心配する声もチラホラ。私語を咎めるのは内容と関係ない場合にしてるので、今回はセーフ。
「ひえっ」
「ピィ!?」
「なるほど、きゆうだったな」
そしてナレーションの流れに連動してシームレスに業務時間中の呵責する様子へと映像が切り替わり、先程までの愛くるしいつぶらな瞳を潤ませていた小型犬が三白眼になって涎を垂らしながら亡者の肥えたおっさんへ容赦無く牙を突き立て、体を捻って噛み千切る衝撃的なシーンが流れる。これには子供達もびっくり。
ワニでお馴染みデスロールってやつなんだろうが、犬なせいで抜刀牙に見えて来る。絶以外に何種類かあるのは知ってるが、名前と内容はさっぱりだ。そもそもデスロールは通常攻撃としてネームド犬達が使ってたような気もする。
その後も各小地獄における呵責の様子が続き、地上でも冥界でも見られないような珍しい種の動物達に目が釘付けだった。まぁ一番は恐竜だったが。そりゃ男の子のテンションは天井よな。一部女子も天井迎えてる。
いうて、現代にも恐竜は残ってるんだがな。鳥類って形で。鳩ェ……。
つーか聖書に恐竜の描写がないって話もさ、そもそも聖書の神からすれば最初から人間に全てを教える必要があるのかって素朴な疑問に辿り着けよと。なんで最初から文字だらけの百科事典渡さなあかんねん。簡単な文字と表現で噛み砕きまくって離乳食みてぇになった内容の話を詰めたのが聖書だろ普通に考えて。
そこから段々バージョンアップしていくし続編でアレは嘘だって手の平返しするはずが、途中で優良株ソロモン来ちゃったから後はお前達の時代だって親指立てながら悪魔との決戦に向かった(想像)。
人類が恐竜の疑問を抱いた頃にはもう神が卒業認定して放置した後だよ。幼児向けの絵本を後生大事に縋り付くのも、それに科学的根拠がどうこうとか言うのも恥ずかし過ぎんだろホモサピ。いつまで赤子気分だよ。地球が誕生から四十六億年くらいだったはずだから、ン億歳でも赤子扱いして問題なさそうだ。人類最古の文明でも全然比較にならん。
もしくは人間が恐竜って呼んでるもんも神から見て鳥と変わらん認識の可能性とかな。人間だって極まったガノタ以外はザクⅡC型と高機動型ザクⅡ後期型の違いなんざわからんのよ。一般人なんて下手すりゃスコープドッグだってザクと見間違えるぞ。
いやまぁ勿論メタな事を言えば宗教を考えた連中が知らんもんは盛り込めないって話だが。全部とか絶対とか完璧とか使うと碌な事にならねぇのよ。全知全能なんて論外。ヨン様も強い言葉を使うなとおっしゃっているではないか。
「す、すごかった……」
「ちじょーのちいさなしまぐになのに、こんなまきょーがあったなんて」
「アルビオンてきにきょうりゅうはどうなんだ?」
『ノーコメントで頼む』
「からしちゃんかわいかった」
「かしゃくのときはかっこよかったね」
「わたしもからしちゃんみたいにつよくなりたいです!」
そうして無事に気分が悪くなったり眠ったりする脱落者を出せずに、地獄の紹介と獄卒を募集する動画が終わった。立川側の教祖PVみたいなのじゃなくて本当に良かった。心の底から、そう思う。
子供達には概ねどころか全員に大好評な様子。あるいは祝福ブーストで精神的に強化されてるというか苦行耐性上がってたりするんだろうか。イエスも肉体的には細いのに自分を磔刑に課すための十字架背負って坂を登るとかハードな試練を達成するガッツの塊だし。
当初の目的は人間の子供達に対する情操教育と、人間相手の悪魔契約で説得材料として使わせるため悪魔に学ばせる事だからな。他の人外種族の子供にも知識として記憶の片隅にでも残ればいいかな、と。罪に合った罰だって事を強調してあるんで、必要以上に恐れる必要は無いって事は割と頻繁に言われてたし。
問題があるとすれば割と獄卒就職を視野に入れてる子供が多い事か。いうて領内に縛り付ける気はないし、縁を結ぶ意味で各地に散るのは十分ありなんよね。日本地獄なら単体でも文句なく交流先として開かれてて欲しいし、副次効果として日本神話勢力や須弥山とも交渉しやすくなるしな。
代わりにインド神話とは距離が離れるかもだが、向こうは日本神話並に引きこもりなんで害になる可能性は低い。
「この後は質疑応答の時間だ。実際に獄卒として働いてる現役の方々が質問に答えてくれるのでどんどん質問していいぞ」
「「「はーいわかりましたー!」」」
特に指示してないのに各自で気になる部分をメモ取ったりしてたからな。向上心の塊共め。いいぞもっとやれ。
「無茶振りしないで欲しいのですが!?」
「お、獄卒の方が来たぞ。拍手で迎えろー」
「わー(パチパチパチ」
やって来たのは、まず見知らぬ赤鬼のお兄さん。虎の毛皮一丁のストロングスタイルだが、仕事着なので本人も見る側も恥ずかしさは皆無。手に持つ金棒も金属塊で相当重そうだし、モブとは思えない強さな事はヴァーリ達にも伝わっているようだ。だからニヤつくんじゃない。まだ勝てんよお前らじゃ。
「あ、からしちゃんだ!」
「ほんもの!?」
「カワイイヤッター!」
「どーもどーも」
次に櫂を持った兎である芥子ちゃん。あの『かちかち山』の『うさぎどん』だというのだから、日本人からすればサインねだるレベルの有名どころと言ってもいい。
冥界暮らしの子供達にとっては日本昔話も日本固有種も馴染みが薄いので珍しがられてるが、事実神使をやれる才能を持ち努力を欠かさなかったスーパーレアな兎なので珍しい。しかも月の模様との繋がりで兎らしく餅つきや製薬関連の知識と技術も持ち合わせており、子供達よりも博識だし器用でもある。
唯一最近越して来た姫島朱乃は日本暮らしの経験からか珍しさよりも好意的な感情から目をキラキラさせていた……だがあれはサディストとして獄卒を尊敬しているとかだろうか。たぬき相手の呵責は凄まじいからな。
朱乃は原作キャラであり二次創作でもちょくちょく救済対象にされてるので説明は不要かもだが、この世界では生ハム堕天使の説得によりつい最近になって母娘でルキフグス領まで避難して来た。
地味に朱乃が
バラキエルも頻繁に面会しに来ている……というか姫島家に転移する形で仕事が済めば帰って来てる。堕天使幹部がフリーパスで頻繁に出入りするルキフグス領の実態を知ったら
つーかバラキエル夫妻の仲が良すぎて普通に弟が妹が生まれる日も近そうなんよな。なおプレイ中にテンション上げすぎて声が大きくなり娘が起きて来てバッチリ目撃されている模様。で、朱乃の口から子供達へ広まってる。なんつー教育に悪い大人達だ。
幸いなのは露見したのがSM部分のみだから日本地獄の呵責やイエスの受難から鍛錬というか徳を積む苦行扱いされてる事か。いやどうなんだそれは。笑うに笑えん。
つーか早い子は七歳や八歳で生理来たりするし、来年には性教育もしておこう。
ああいうのは事前に知らせておくから意味があるんだ。子供の発想力とその場のノリとバレなきゃいい精神によるガバ計画は、当時の自分を客観視する事も記憶している事もできない残念な大人達じゃ太刀打ちできんのよ。
スキンシップから新種の遊びとして思い付く可能性は割と低くねぇし、一線越える内容まで辿り着いた時に性機能が成熟してたら大変な事態になるんだぞ。ベビーサタン現象で妊娠はしたが出産は母子共に死亡の危険性極大とか洒落にならん。
いやまぁ教えても自分は大丈夫とか、ちょっとくらいなら平気でしょ、って無意味な全能感から突き進む奴はいなくならないんで、鼻っ柱を折っておくのも忘れちゃならんのだが。