「やぁ、バールド。今日はよろしく頼むよ」
「かしこまりました。お目汚しになるとは思いますが、現時点でのルキフグス領を案内させて頂きます」
やって来ましたルキフグス領始まって以来初の観光客集団。父サーゼクスと叔母リアスを筆頭に、以前から狙っていたらしい母グレイフィアと祖父母に当たるグレモリーの当主様と奥様。何故か便乗して来たセラフォルーとソーナを加えて計七名の豪華メンバー。まぁぶっちゃけるまでもなく望まれてなんぞいないわけだが。
「ねぇバールド、今回はプライベートでの訪問なのだけれど?」
「親子だけであればそれも考えましたがね。まぁ、その場合でも当主様と奥様の前ですから、格好は付けたいのです」
かく言うグレイフィアは変わらずメイド服だったりする。常在戦場?
「見ない内に大きく育ったと思えば可愛い事を言ってくれる」
「えぇ、本当に。久し振りですねバールド」
「はい、奥様も当主様もお変わりなく。ご健勝なようで嬉しく思います」
祖父母に当たる御二方もどこか感慨深げ。まぁ、通信越しでしか顔見せてなかったかんなぁ。
こっちは独立したし領地経営もあるからお出掛けする余裕は無いって認識だが、向こうは帰省しないのかって認識だったし。アレかね、いつまで経っても孫は孫ってやつ。
「ねぇねぇグレイフィアちゃん。私達にも紹介して欲しいなーって」
「えぇ。バールド、こちらはサーゼクスの同僚で魔王のセラフォルー・レヴィアタン様よ」
「よろしくーレヴィアたんって呼んでね☆」
グレイフィアの紹介を受けると、ポーズを決めながらウィンクをする、若くはあるが少女よりは上な黒髪の女性。その服装はコスプレであった。
つーかその説明や台詞は公務で来てるようにも聞こえるんだが。まぁ名前を呼ぶ機会もそう無いだろうし、勝手に動くようならグレイフィアが対応してくれると信じたい。
「バールド・ルキフグスと申します。お会いできて光栄です」
「そしてこっちは私の可愛い妹のソーナちゃんよ☆」
「よ、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願い致します。ソーナ嬢」
こちらは未だロリロリ手前でペドペドしているソーナ・シトリー。多少つっかえたのは人見知りなのか、前評判で警戒してるのか。まぁこっちは問題を起こさんだろうし放置で大丈夫か。
「さて、顔合わせも済みましたし、案内に移りたいと思います」
「ちょっと! わたしへのあいさつは!?」
「……これは失礼しました。リアス嬢におかれましては相変わらずで何よりです」
「……ふん!」
一人だけ無視されてご立腹なリアスだが、領内では犯罪者扱いな自覚はあるのだろうか。まだ罰金の額で揉めてるんで手配は解けてねぇんだぞ。
そうでなくとも前回は説教しただけで挨拶してねぇんだわ。面識はあるが犯罪者兄妹の片割れとしてであって、叔母さん呼びはしたが名前の交換もしてなければよろしくもした記憶がねぇぞ。
その意味じゃ本来ならグレモリー家の誰かが改めて紹介するべきなんだよなぁ。まぁ、知っててスルーしたのはこっちなんだが。
にしても、グレイフィアが動かないのは珍しい凡ミスな気もする。もしかして挨拶済んでると勘違いしてるのかね。そこのからかわれて怒ってるリーアたんも可愛いとか思ってそうな
「さて、気を取り直しまして今度こそ出発と参りましょう。生憎と寂れた場所ではありますので、ご期待には添えないだろう事を先に謝罪しておきます」
そんなわけで出発したわけだが、迎賓館を出て数分で失敗を悟った。
そこは農耕地帯だった。ちょうど収穫時期を迎えており、ポツリポツリ点在する領民が人力で刈り取っているものの、目に映る景色としては一面に広がる麦畑。
「おぉ……」
「こういうの……いいわね」
「冥界にない海という物に興味を持ったのですが、書物を漁っていましたら稲や麦の畑が海原を思わせるとの描写がありましてね。物は試しと思いやってみたところ、思った以上に人気が出まして」
風に揺れる穂の動きと擦れ合う音が冥界に存在しない海原を思わせるせいか、地味に書類仕事で精神的に死にがちな役人から人気のあるスポットとなっている。領内の時間設定で夕陽が沈む頃になると、バカヤローと叫ぶ者もチラホラ現れるらしい。青春だぁな。
そんな説明を聞いているのかいないのか、長閑なれど雄大な大自然を感じなくもない人の手が入った麦畑に見学者達は魅入っていた。
一方でアタシはバレて欲しいような欲しくないような気持ちを抱えながら笑ってしまわないよう必死に耐えていた。
畑の一角で麦を刈り取ってる農民の一人がリゼヴィムなんだわ。
服装とかは周囲と同じだから溶け込んでるんだが、明らかに一人だけ動きが不慣れで遅い。いやそれでも真面目にやってるんで笑うのは失礼なんだが、慣れない姿勢で腰が痛くなって背を反らしてるリゼヴィムとかもうめちゃくちゃ笑いそうになるんよ。絶対濁点だらけの汚ぇ声を上げてんだろアレって。
あぁ、誰かに気付いて欲しい。そして驚き、疑い、再度驚いて欲しい。なんなら確信した時点で吹き出して欲しい。けど問題になるから気付かないで欲しい。おのれリゼヴィム、なんたる愉快犯。
ちなみにリゼヴィムはこの時間だけのエキストラだ。普段ならリリスと一緒に子供達の相手をしたり森で虫取りやどんぐり集めをしたり、ドリンクバーでオリジナルブレンドを作ったりして遊んでるはずだからな。
本職は研究員なんだが、特にノルマとかは無いんで、普段は遊び呆けてる。たまに本腰入れてマンドラゴラの品種改良とか、見分けるのが難しい有毒植物の開発とか、新種の魔獣とか、基本的に悪戯目的なのに使い方次第で役立つ結果を出して来るのが困る。モアイ顔の爆発する特殊調理食材な二足歩行根菜とか見とうなかった。適当な温泉掘って確かめたらちゃんと殖えるのまで再現されてたんで引いたわ。
最新の成果は服だけを溶かすスライムを品種改良……改良? して、下着だけを溶かすスライムやパンツと靴下以外溶かすスライムを作り上げてた。曹操の意思とは無関係に発現した聖槍のオーラでリゼヴィムごと灼かれてたが。どうやら青少年の性癖を破壊するタイプのえっちなやつは許さないご様子。
で、どうしてこんな事になっているのかってーと、面倒事を少しでも実りある物にしようと話し合いが設けられた結果、チキンレースを実施してはどうかという話になったからだ。ツッコミは随時受付中。宛先はリゼヴィムまで。
要は冥界現政府にとって厄ネタになるであろう人物がこっそりと背景に紛れ込んだり、片隅で問題行為が平然と起きたりしている事に見学者が気付くかどうか試して遊ぶわけだ。ハラハラドキドキの刺激的な催しに、参加者のテンションは高い。しかしコレってある意味では露出性癖扱いなんだろうか。
その後も自警団に混じってミニスカポリスやってるリリスや一般通過黒歌なんかがものっそい頻度ですれ違ってるわけだが、どうにもグレモリー当主夫妻用に少しだけ質を上げた施設群が冥界の平均レベルを上回ってるので驚きの連続らしく、本来なら比較にならないスキャンダラスなエキストラに気付いてもらえていない。これには一堂がっかりである。テメーらんとこの首都とかはもっと発展してるだろうに。
なお、そんな感じに周りが好感度低めな気に入らない相手を持ち上げてる流れに膨れ面してるリアスのご機嫌取りも並行してるので細かい部分まで目がいかないって理由もあるっぽい。唯一リアスを気にした風がないセラフォルーはソーナに夢中だし。ソーナは問題児達の顔を知らないだろうしなぁ。主から一定期間離れてると異形化する可能性すらあるはぐれ悪魔の都合上、冥界に回る手配書は特徴を箇条書きで似顔絵があれば良い方だし。
あ、一回サーゼクスとリアスの手配書に気付く場面はあったな。エキストラ関係なく一般領民がひそひそしてるのにソーナが気付いて、それをセラフォルーが尋ねて、そのまま領民に聞き込みして発覚。領主が一緒なんで捕縛済で強制労働の下見か何か――つまり犯罪者一行と思われてたらしい。ウケる。
なおグレモリー夫妻やセラフォルーに詳細は伏せてたらしく、帰ったら説教すると宣告されてた。
「思った以上に上手くやっているようで安心したよ」
「そうね。領民も笑顔でした。単に宝物を探り当てる才能だけでは決して辿り着けない成果です。誇りなさい」
「はい、ありがとうございます」
で、大きな騒動に発展する事のないまま見学が終わった。実質剛健を地で行く洒落っ気無しな土産屋でレトルト食品や缶詰を買い込む姿には何とも言えない気持ちにさせられたが、料理が趣味な当主様と商才に優れた奥様の琴線に引っ掛かるものがあったのだろう。知らんけど。
リアスはサーゼクスの眷属である沖田から間違った日本知識を仕込まれてたせいか、一部のお土産に対して鬼の首を取ったかの様に指摘を入れていたが、そもそも日本特有の文化ではない事を通りすがりの
「ところでバールド、これだけ領地ご安定しているのであれば顔見せに来なさいな」
「そうだぞ。この数年、通信だけで寂しい思いをさせられたからな」
「えぇ、前向きに検討致します。しかしながら、今は領地の発展が楽しくて仕方ないのです。領土そのものは狭いので、やれる事は限られているのですが」
「ふむ…どうだ、サーゼクス?」
「これだけやれるのであれば追加で与えても良いとは思いますが、単に発展させただけでは理由が弱いですね」
やんわり断ったら、領地を増やせるかの相談が目の前で交わされる。うーん、身内に甘い。
事前資料を読んでるんだろうか。下級悪魔に擬態させてるから気付かず遭遇してない認識で頭から抜けてるのかも知れんが、ルキフグス領ってはぐれ悪魔の流れ着く先やぞ。力を付けさせたらあかんタイプの爆弾にして掃き溜めなんよ表向きは。
「あー、今はまだ目立つと問題視されそうですし、お構いなく。それに、必要であればこっそり境界に沿って拡げていきますので」
「それ違法だからね? 気にする者はいないだろうけど」
「そうなのですか?」
「自分の領地すら開発が済んでいない貴族も多いからね。そもそも暮らしていく分には不満も無いのだし、領地を広くしても功績としては弱いからやりたがる者もいないのさ」
ふーん、ほーん、へーぇ。
「それは良い事を聞きました」
「はしたない表情になってるわよバールド」
「おや、失礼」
グレイフィアの指摘に頬を揉み解してリセットを試みるが、どんな表情をしていたかはわからん。多分笑顔だったんだろうが……それにしちゃ年少二人がぎこちない感じになってるな。解せぬ。
「まぁ、僻地を開拓していけば旧魔王派の領地が見えて来るでしょうし、その頃になったら相談させて頂きますよ」
「さらっと問題発言はやめてくれないかな」
「それは存分にやれとの解釈でよろしいですね?」
「よろしくないよろしくない」
「しかし現魔王としては休戦停戦を超えて和睦にまで持っていきたいのでは?」
暗に邪魔者を潰すと言えば、サーゼクスは目を細めて
「大規模な争いが起きなくなって何年が経ちますか? 裏京都旅行の際に友誼を結んだ日本の妖怪から、悪魔の管理地で教会と手を組んで動いた話は耳にしましたが、それがまた愉快な内容でしたね」
「バールド、その話は」
「原因まで知れ渡っていましたよ。教会の若者と管理者の悪魔が恋に落ちたのを教会と悪魔の双方が咎めたのだと」
「ほぉ」
「ふぅん?」
恋バナに食いついた……と見せ掛けて、奥様はバアル出身だし管理地である駒王町の話は知ってたかな。当主様も貴重な貴族の若手なんだし噂話くらいは耳にしててもおかしくないわな。あるいは戒厳令とか敷かれてたり?
「悪魔からすれば教会の戦士を誘惑して引き込むなど勲章物でしょうに、わざわざ教会の手助けを買って出るとは……何を隠していたのでしょうね。更には両勢力とも粛清を優先して、街中で遭遇したにも関わらず争わなかったとか。事を済ませたその後も争わず双方が現場から撤収した――つまり手を取り合えると証明してしまったのですよ、あの馬鹿共は」
「馬鹿共って」
「日本の妖怪を弱小勢力と軽く見て人外対策の一つもしなかったせいで一部始終を目撃されこうして拡散させてしまった間抜け共と言い直しても良いですがね。ちなみに隣町には堕天使が居を構えているらしく、当日の動きバッチリ目撃されてるそうですよ」
「な、それは本当かい?」
嘘吐いてどうすんだよ。まぁその堕天使って動向を把握してこっちに伝えて来たアザゼルと生ハムなわけだが。教会と悪魔が仲良くお話して衝突無しで済ませた証拠映像を撮影してもらってたよね。
「しかもこの事件、ここで終わりと思いきや面白い続きがありましてね……殺したはずの娘とその眷属は変わらず学校に通っているのだとか」
「……は?」
「それを確認した悪魔の派閥が確認の意味も込めて送り込んだ暗殺グループは偵察していた悪魔ごと帰って来なかったそうですよ」
「そんな報告は……あ、いや」
慌てて口を塞ぐも、どう考えても手遅れです。本当にありがとうございました。グレイフィアの絶対零度な視線に汗ダラダラ流してるけど、話は終わってねぇぞって言いたい。
「まぁ、それはいいのです。大事なのは教会が不倶戴天の敵である神敵と手を組んだという事実。地上への干渉が見られない天使を説得する材料になるのでは?」
「天使をか……」
「ちなみに堕天使の場合、少なくとも総督は
「……会ったのかい?」
「暇を作って境界越しに人間の作ったカードゲームで遊ぶ程度の仲ですが何か?」
あらら、頭を抑えて天を仰いじゃったよ。まぁ普通に殺されてもおかしくないし、証拠も残らんかっただろうしな。
「バールド、さすがにそれは報告してもらわないと困る案件よ」
「今したではありませんか」
「できれば会ったその日に欲しかったわね」
「それは失礼をば。領地に辿り着いて就任挨拶を送った三日後くらいで、当時は今以上に忙しく幼かったものですから」
おっと当主夫妻ずっこけた。グレイフィアすら髪の毛が何本か跳ねてホワイトブリムがズレたぞ。
「七年……我が子の成長を間近で? 殺してやる……殺してやるぞアザゼル」
「落ち着きなさい」
「あふん」
そして暴走しそうなサーゼクスと、それを止める妻。尻に敷かれてるなー。
「へー、アザゼルちゃんと仲いいんだー。ならさならさ、今度会談をセッティングとかできたりするの?」
ここで外交官がエントリー。ソーナに夢中じゃなかったのか。まぁご期待には添えないが。
「無理でしょうね。堕天使総督とはプライベートの友人であり所属や種族を持ち込まないのが暗黙のルールですから」
「そっかー、まぁ逆に言えばプライベートで偶然ここに遊びに来たタイミングで会う分には問題無いって事だよね☆」
「今日姿を確認された時点で戦時体制に移行している可能性もありますし、幹部勢揃いでお出迎えしてくれるでしょうね」
「あ、はい。ごめんなさい」
まぁこっちから予定を流した上で、訓練を兼ねて示威行為しとけって依頼も出した結果だがな。長居するようならこれを理由に今日は帰れって言うつもりだったんよ。
どうせ反撃は勢い弱いだろうし全力でぶん殴れるかもって伝えたらコカビエルが張り切ってたのが微笑ましい。成長速度の差でヴァーリの半減を三回許せば子供達に負けるようになっちゃったのに。流石に初見殺しに近いから二回目以降は勝ち越してるが。
いうて流石に魔王の側で護衛の一人や二人は待機してそうだし、ソイツらが牽制するくらいはしてそうなんだが、その場合は領の付近を彷徨く不審者扱いして話を聞く前にぶん殴って良いよってルビスに許可出してるし。それで結果的に殴り飛ばされた魔王眷属が堕天使領に侵入しちゃったら正当な理由でタコ殴りにできるし政治的な弱味にもなって儲け物だよね。
つーか
「そうか、確かに僕達の動きが堕天使を刺激しないとも限らないし、名残惜しいが帰るとしよう」
落ち着きを取り戻したサーゼクスの言葉を切っ掛けとして、今回の見学会は終了する流れとなった。帰り際に当主とサーゼクス宛に悪魔陣営以外ではそこそこ流通し評価もされている特産品の酒を渡したら、驚きつつ喜んでいた。
親子で晩酌する話をしていたが、果たしてグレイフィアと奥様が許すかな? まぁサシで飲まずに歓談すれば良いと思うよ。
ついでにセラフォルーとソーナ、ついでにリアスには適当なお菓子の詰め合わせを持たせておいた。セラフォルーはお酒の方がいいと愚痴をこぼしていたが、ソーナに窘められて即座に機嫌を回復させていた。チョロい。にしても、現時点でも芽吹いてるなぁ、会長の苦労人要素。
とりあえずこんな感じで初の領内見学会は無事に終了した。チキンレース参加勢は何事も無さすぎて不貞腐れてしまい、お疲れ様会でダル絡みして来たが。まぁ流石に同情する部分があったので、今回ばかりはしっかり相手してやったともさ。