「お邪魔しますよぅ」
「よぅ、バールド。決まったぜ、会談の日程」
和平に向けて準備してたら、アザゼルが会談用資料を持参してルキフグス領まで顔を出してきた。生ハムも同行してやがるんで嫌な予感しかしない。
「お疲れ、総督。場所は?」
「冥界の悪魔領と堕天使領の境目だ」
「……間違っても
「安心しろ、近所に
なるほど、先に冥界としてまとまるアピールで天界に圧を掛けていくスタイルか。でもそれ罠を警戒した天使が余計に引きこもりそうなもんだが。
「よく天使が承認したな……」
「そこは私が説得しました」
そう言って、生ハムがない胸を張る。見てて悲しくなってくるが、セクハラで訴えられそうなんでほどほどにしておく。
「脅迫の間違いじゃねェの?」
「失敬な、結果が伴えば白も黒もないんですよ」
「少しは隠す努力をするか悪びれるかしろや」
どこからともなくタスキを取り出し装着する生ハム。それには私がやりましたと書かれていた。どこで買った……いや、自作か。ネトゲの農家なのに木材加工やら裁縫のスキルも持ってるらしいし、元より中身が無駄に器用だしな。
この調子だとミカエルは胃に穴が空いたんじゃなかろうか。あるいはアタシの個人情報や鳩の生存までさらっと流してそうで怖い。
そこから教会上層部に確認取らせてイエスのバカンスを知って立川に凸したら初代ルシファーと遭遇とかドミノ倒しかピタゴラスイッチかみたいな流れになりそうんだが大丈夫だろうか。通りすがりの鬼灯様に両成敗されそう。今からお詫びに贈る酒でも用意しておこうかな。
「とりま、こっちに迷惑が掛からねェようにして欲しいもンだァな」
管理者が誰になるのか知らんが、他人の領地になっちまったらそっち側へ領地を拡張できなくなって困るんだがなー。いよいよ旧魔王派へ侵略戦争も視野に入れるかね。
仮に
バアル大王家みたいにwin-winに見せ掛けて向こうが大幅に戦略勝ちするような取引なら騙されても手管を見せてもらった勉強代で済ますが、そこらの雑魚がしてくる内容はキッズのクレクレでしかないから拳を使って返事するしかねぇのよ。
そもそも血統主義を理由に教育の機会を絞ってるせいで
いうて住んでる被差別民も成り上がれないのを承知で伝統ある古い家に仕えたり領地に居を構えたりプレミア感を満喫してるんだろうしな。お家が取り潰されてない以上は金を稼げてるわけだし、そもそも土地が余ってて地味に自然も豊かだから食うには困らんのかね。
「そりゃ無理な話だろ。今回の会談が終わったら街をお前のところに併合するつもりらしいぞ。くくっ、サーゼクスの奴、息子に何かしたくてしょうがないみたいだな?」
なんて考えを飛ばしてたら、アザゼルがニヤニヤと笑みを浮かべながら爆弾を突っ込んできた。
「他勢力の手が入ってる建物とか安全上の理由から使う気にならねェな。街そのものを事実上の監獄にでもすっか」
「おいおい、友好の証でもあるんだから大事に保護してくれよ」
「どうせ双方の駐在員やら潜入員みてェな自称移住希望者もいるンだろ? はぐれ悪魔や
「いやそこは抑えろよ」
さすがにないとは思うが、観光気分な馬鹿貴族悪魔が適当ぶっこいて『
まぁそもそも
「こちとら仮にも
最終的にはこの事実がある種の免罪符みたいな効力を持つんよね。程度があるだろと呆れられはするだろうが、領民と悪魔じゃ領民が上なんだわ。
この傾向というか特性というかは他種族でも耳にする話題なので、アザゼルほど長生きしてるなら当然のように把握している。今も盛大に溜息を吐いてるし。幸せ逃げるぞ?
「道理ですねぃ」
「あー、納得したくはねぇが理解はした。
こちらの言葉にアザゼルは天使と悪魔側のやらかしを想像して頭を抱えるが、まぁ天使は堕天の恐れから引きこもって静かな気もするし、悪魔勢力内のいざこざなら和平には影響ないっしょ。
問題起こして監督責任というか経営の実力が疑われるとか言って没収されたところでゼロに戻るだけで痛くない。むしろ悪魔同士なのに問題を起こす時点で各神話体系からまとめて聖書勢力は駄目だって攻め滅ぼされるのを避けるために堕天使と天使が組んで民族浄化ならぬ種族浄化まで発展しかねない。
神話連合と悪魔じゃどう血迷っても後者と戦うだろ。元より聖書的にも悪魔は滅さなきゃない存在なんだから。
仮にそこが穏便に済んで管理者交代になったとして、最初からうちの領地だった区域は結界で隔離済だから監視されても偽装情報しか入手できんだろうし悪魔側はメリット薄くないか? どうでもいい話だが。
「そんなわけで前から言ってる通り、今日の夜から明日未明にかけて和平交渉……に移れるかは知らンが、トップ会談が開かれる。要は房中術なしな」
「「「なん……ですって……」」」
この世の終わりみたいな表情で言葉を失う女性陣。いうて前々から告知してるんで単にノリが良いだけなんだが。
「代わりにお泊り会あるいはパジャマパーティーみてェなノリで夜更かしするのを許可する。お菓子やジュースはリリが用意してるから存分に羽目を外せ」
「「「わーい」」」
ご覧の通り。
まぁこれはこれで特殊な環境も相まって女性特有のエグい性的な話題で盛り上がったり変な協定が結ばれたりしそうで怖い面もあるが、多分それなりの頻度で似たような事してるだろうし今更よな。女性領民ほぼ全員リリスの生徒やぞ。
そして夜になったわけだが。
「やぁ、久し振りだねバールド」
「はい、魔王ルシファー様におかれましてはご健勝の事と存じ上げます。しかし私の記憶が間違っていなければ、今日はこれから大事な三大勢力の会談が予定されていたはずですが?」
早えーよ。まだ開催時刻前なんだが?
アザゼルの野郎テメー何を自分は関係ありませんみてーな澄まし顔してやがんだ。通信機器は開催後の適切なタイミングって言っといたろうがよ。
「そうだね。予定より早く集まったから開催も早めてしまおうという話になって、アザゼルから話を聞いたのさ」
「なるほど、既に
「ぶふっ!」
「おいこらバールド! てめぇそれはねぇだろうよ!?」
どうやらアザゼルはしっかり仕事をこなしてくれてたらしい。疑ってゴメンネ。だがそれはそれ、これはこれの精神で八つ当たりしておく。
いやまぁ仮にも一つの組織を率いる以上は狡猾な面も併せ持つ曲者だし、ミカエルは世間知らずな子供が知らず操り人形にされてる可能性を危惧してるだろうしな。ある程度は気安い関係だって示しておく必要がある。
「失礼、どうか気を鎮めて頂きたい恋人は
「お前なぁ……和平の話が上がってる中で喧嘩売ってくるんじゃねえよ。勘違いが起きたらどうすんだ」
「一番勘違いされそうな傀儡ではない証明にはなったかと。さすがに我が領に協力を表明して下さっている各神話勢力とは格式張った対応をさせて頂いていますがね」
「……っ、本当なのか」
他神話との繋がりがある発言に驚き、微かな裏切られた感を醸し出すサーゼクス……いや、コイツの事だから自分が
しかし客観的な視点で自分達を評価した事があるならそんな場合じゃないって分かりそうなもんだし、ちょっと突くか。
「三大勢力は人間への干渉が度を超えており他神話からの評価は最悪に近いですからね。聖書の神とそれを支える天使はかつての十字軍や海を越えた侵略を見過ごし他神話勢力から信徒の命と信仰を奪い、今なお不特定多数に付与される
「「「がはぁ!?」」」
「まぁそのおかげで完全に新規で隔離された独立勢力として活動を始められ、今までの聖書勢力とは違うと認めて頂く事ができたとも言えますがね。明らかに大きな問題が放置されているのですから、それの対策を打ち出す事で信用を勝ち取る事は比較的容易でした……何故誰もやらないのか不思議には思いましたが」
「「「ぐえぇ」」」
「そもそも神も初代魔王も不在となって緩やかな自滅を待つのみとなった現状に対して必死に抗う事もせず、身内のゴタゴタを片付ける事もできず、外に頭を下げて助けを求める事もしない。外からは静観にしか見えない時点で上に立つ者として論外です」
「「「ごふっ……」」」
揃って仰け反り、胸を押さえ、遂には机に突っ伏した。仲良いなコイツら。
「あぁ、悪魔は人口増加のために『
「……………はい」
うむっ。親子の心温まる触れ合い完了。ついでに遵法精神のLow属性アピールで初対面な天使相手の好感度稼ぎはできたな、ヨシ!
「それで話を戻しますが、本題は何です?」
「お前この流れでまともな話ができると思ってんのか?」
「できるできないじゃなくやらなきゃならんのですよ、仕事な以上は」
「……そうだね。種族の代表として来ているのだからしっかりしないと」
む、サーゼクスも復活したか。思ったよりもタフだな。
この分だと精神ダメージで隙を生む流れから致命的な攻撃を加えるギャグ漫画作戦は使えそうにないか。万が一にも敵対したら
「あの、それでは話を聞かせてほしいのですが、システムのメンテナンス技術というのはどこから入手したのでしょう」
手を挙げながら尋ねてきたのは、この中で接点らしい接点を持たない天界の代表。まぁミカエルだろうな。
基本的な
流れ的に挨拶挟むとテンポ悪いか。まぁアンブッシュは一度だけなら許されるしな。
「とある
実はこの
つーか知りたい事を知る
ふと思ったが、イエスに頼めばラジエルの書を見せてもらえそうだよな。ラジエル自身はシステムの不具合を知らされてないのか、あるいはバカンス中だから返せと言い出せず終わるのを待つ気か?
話を戻す。そんな便利能力に加え、野良の
まぁ、その最期は実にHSDD特有の
「……! その方と連絡を取る事は可能でしょうか?」
「いえ、惜しい事に
「そ、そうでしたか」
ものっそいわかりやすくがっくりと肩を落としている……!
まぁ気持ちはわかるが。アタシも真実を知った時はショック受けたわ。周りは自宅で入浴中に脳卒中を起こして……って認識だけど、実際にはふと思い付いて
しかもその死因だけなら単なる女湯とかじゃなく先に旅立たれた奥さんって限定してたから温情が入ったらしいが、残念ながら
まぁ現代日本人は大概フェチなプレイで引っかかるんだけどな!
「ですが一部分とは言え正解を入手できたわけですから、そこから解析を進めれば全体像も明らかになると思われます。各神話勢力の協力によりその一部分に関しては完全に解明され、資料に載せた記述に関してとある神話体系で用いられる術式を参考にしたと思われる事がわかっており、修正案が出されているはずですが?」
実際には自分で組んだシステムの中身がわけわからなすぎて豆鉄砲食らった顔のまま固まった鳩を放置して、各神話体系の技術を学んだアタシがクラフトチート込みで最適解を突き進み行き止まり迂回してみたいな感じで解いてったんだが、それを明かす段階ではないわな。
和平を結んで聖書勢力としてまとまった後で各神話体系に今までの事を頭下げて、その償いしなきゃないからな。その上でこれからの事でも頭下げて、そこで各神話体系から誠意を認められて許された段階で初めてネタばらしが可能になる。
その前段階だと同じ聖書勢力で話が済むなら謝らんでいいかとかふざけた事を言いながらこっちにすり寄ってくる可能性あるからな。アザゼルには念入りに釘を差しといたから漏れないと思いたい。
「そう、ですね。戻ったら試してみたいと思います。そして引き続き解析に力を貸して頂けるよう交渉の仲介をお願いしたいと考えています」
「力になれるとは確約できませんが、交渉したい旨は確かにお伝えしておきます」
まーミカエルの状態って要は親が医者なんだから骨折の手当てしろとか薬調合しろって言われてるようなもんだからな。
いうて親の言う事を聞いて手伝ってきたんだから他の誰よりも確率は高いはずだって期待されるのはしゃーない。
まぁ、一番悪いのは万が一があっても問題なく世界が回るよう徐々に引き継ぎしたりマニュアルの一つも残さなかったりで先見性のなさを披露した
いうてこっちの世界だと鳩は一計を投じて消息を絶っただけで存命だし、何もしなけりゃシステムは正常に稼働してたはずなのに、この目の前の優男がテンパって触り方もわからんシステムを勝手に触ったら誤作動させちまったってーのが真相なわけだが。いややっぱ自分がいなくなった後の用意をしてねぇ鳩が一番悪ぃんだわ。
嫌になったから辞めますってのが許される立場かって部分はあるが、そこは気持ちの問題だからどうにもならんとして、引き継ぎ資料くらいは目立つ場所に残しておかんと混乱の元というか現にシステムがエラー吐いて直らんくなったわけだし。
で、こんな感じにトップ会談の呼び出しに応じたら、そのままなし崩しに和平が結ばれるのを最後まで見届ける羽目になった。
いやね、途中退席したら勝手にルキフグス領を傘下に組み込んで自由に使えるようにしようとか言い始めそうだったから仕方なかったんよ。序盤でアザゼルをいじりすぎた。
ま、結ばれただけマシと思うか。後は反対派の抑え込みがどこまでやれるかのお手並み拝見ってとこかね。
あ、他神話へ
しっかしおかげで寝不足なまま朝を迎えたよね。相手が悪魔だからって子供への配慮を口にしなかったミカエルも所詮はマダオの一員かとラベリングしといたのは内緒。
そんで帰ったら風呂入って昼までぐっすり眠るとか宣ってたアザゼル許すまじ。何か忘れない内に嫌がらせを考えておこう。復讐の螺旋は終わらないのだ。