聖書の神なら立川で鳩サブレ食ってるぞ   作:夜月工房

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35.地獄から天国だよ!

「それでは本日の見学、よろしくお願いします」

「よ、よろしくおねがいします!」

「はい、よろしくお願いします」

 

と、いうわけで本日は桃太郎が三歳になった記念で日本地獄と天国を案内し、無事を知らせ回る事になっている。

ご両親も挨拶にと同行してきたが、こちらは十王の会議に招待されているのでそちらで食事と歓談をしてもらっている。相変わらずお供え物を利用したエコなメニューだが、味は保証されてるんで……ヨモツヘグイとか大丈夫なん? 冥界暮らしが今更? ごもっとも。

 

「桃太郎さん……いえ、吉備津彦さんは前世についてどこまで?」

「えほんのももたろうをよみました」

 

長身強面な鬼いさんにビビり散らかしていた吉備津彦幼児だったが、現在は肩車されてご満悦。

 

「物語のその後については当人に聞く方がいいかなと思いまして」

「なるほど……」

 

と、そこで吉備津彦をそっと下ろし、肩をしっかりと掴んだ鬼灯様。

 

「前世の貴方は天国での暮らしを退屈だと言って過去の栄光に縋り鬼退治をしようとお供を連れて地獄に攻めて来ました」

「なンでそんな事言うの?」

 

いやまぁ事実だが。本人の口から聞かされる『物語のその後』の始まりとしては最適ではあるが。

 

「そ、そんなだいそれたことを!?」

「そうして指名されたので相手をしたのが私です」

 

当時を思い出すかのように金棒を自分の手のひらにぺしぺし当てながら説明する鬼灯様は、間違いなく色んな意味で鬼だった。

 

「ま、まさかわたしのぜんせのしいんは……」

「いえ、得物(かたな)を折られて戦意喪失しましたし、その後は改心して天国で薬屋を手伝いながら免許の取得に勤しんでいました」

「つーか天国地獄の時点で死ンだ後の話だから死因も何もねーよ」

 

抱いた疑問について否定され、改心した事を聞かされ「よかった、よかった……」と涙ぐみながら繰り返す吉備津彦。三歳児とは思えん理解力だが、この辺はもうフィクションのご都合主義と開き直るしかない。別に英雄の魂を受け継ごうと早熟補正はセットになってねぇのよ。

そもそも本物の三歳児なら第何期かわからんイヤイヤ期に突入して自分の都合を優先しまくるんで、鬼灯様にぶん殴られ……はしないか、生身だし。子供なのを含めて注射器(リーサルウェポン)を取り出され泣かされるくらいだろうか。

 

「さて、ここが八大地獄の一つである等活地獄の、更に十六ある部署の一つである不喜処地獄です」

「おぉ、ワイルド……」

 

案内された先は、まぁ最初はここだろうなと予想通りな不喜処。今日も元気な鳥獣達が亡者を踊り食いしているし、食われた亡者は復活して再度責めを受けている。

ちな、吉備津彦はルキフグス領の情操教育で信賞必罰、天網恢恢疎にして漏らさず、悪人に人権はない、の三原則を仕込まれているため、刑罰を受けている亡者相手の同情は持っていない。

 

「あ、鬼灯さまだー!」

 

そこへ駆け寄ってくる丸々とした白い毛玉、いや、犬。元気があって大変よろしいが、その口元は赤黒く染まっているのでややホラー。

 

「どうも、シロさん」

「お前、顔拭いて綺麗にしてからにしろよ」

「お疲れさまっす」

 

言いながら手拭いでシロの顔を綺麗にする猿の柿助、そして鬼灯様へ微妙に軽い挨拶をしたキジのルリオ。

 

「こ、これはもしや!?」

「はい、かつて桃太郎と一緒に鬼退治をしたお供になります」

「おー、すげー!」

 

絵本で読んだ犬、猿、雉が揃った事でテンションが爆上がりする吉備津彦。確認すれば鬼灯様から改めて紹介され、最早テンションは花火大会のごとく。

対するお供は喜びつつも苦笑い。というのにも理由がある。

 

「去年こっちから会いに行ったんだがなぁ」

「ふんふんふんふん」

「さすがに覚えてないか。今、何歳になるんだったか」

「さんさいです!」

「ふんふんふんふん、ふんふんふん」

「あー、でも元気そうでよかった……って、シロ?」

「ふんふんふん」

 

そう、実は去年ルキフグス領へお供トリオと鬼灯様が来訪して、吉備津彦の様子を確認していたりする。

残念ながらこの年齢で一日と少ししか顔を合わせていない相手と一年以上会わないとなれば、その記憶は忘却の彼方へ飛んでってしまったようだが。

そんな中、懐かしむでもなく執拗に吉備津彦のにおいを嗅ぐシロの行動に柿助がツッコむと、ようやくシロはにおいを嗅ぐ仕草を止めた。

 

「桃太郎のにおいしないよ?」

「そら生まれ変わりだからな」

 

三歳児とはまた違った理由で記憶してないヤツがいたわ。そもそも転生を理解してない感じで?

 

「お前なー去年会いに行っただろー」

「去年、去年……あ!」

 

柿助が呆れたようにヒントを出すと、シロは少し悩んだ後で閃いたかのように声を上げた。でも柿助とルリオの表情からすると期待できない感が強めなんだが。

 

「ドラゴン肉食べたところだよね! 覚えてるよ!」

「あー、うん。もうそれでいいや」

「完全に食い意地で生きてんなこいつ」

「これが……桃太郎のお供……?」

 

神使の可能性もある白い犬だが、言動が余りにもシロ(あんまり)なせいで吉備津彦が疑惑の目を向けてるんだ。

まー去年は桃太郎の転生体と会うイベントとルキフグス領の観光が重なってたわけだし、領のもてなしを覚えてもらってた点は光栄でもあるんで何も言えねぇ。吉備津彦に対してはすまんやで。

 

「さて、感動の再会はこれくらいにして、別の場所に向かいますよ」

「べつのばしょですか?」

「えぇ」

 

感動する場面あった? いや時間は限られてるし移動しなきゃないのはわかるから遮るなんてとてもできんが。

しかし次の場所ってアレだよな。桃太郎が世話になった場所巡りなわけだし。

 

「桃源郷です」

 

あ、ちょっとお腹痛い。なんかもう展開が読める。

 

 

 

「わー、うさぎがいっぱい」

「あれ全部が見習いもいるが薬剤師で前世の先輩だぞ」

 

で、まずは何事もなく桃源郷の例の店に到着。周囲の景色にキャッキャする桃太郎が点在するもふもふの毛玉にほんわかしてる。

ファンシーな光景だが、これは月の兎が不死の薬を搗いてるって逸話に由来する。そして薬物とは毒物でもある。つまりプロからアマチュアまで入り乱れた毒使い集団でもあるわけだ。

 

「やくざ……いし……せんぱい……!?」

「おっと半端に聞き取った弊害が」

 

それを伝えたら闇医者みたいなニュアンスで受け取られた件。近いっちゃ近いから訂正するかは悩ましい。

 

そんな微笑ましいやり取りを交わしながら先に進めば、何やら取り込み中らしかった。

 

「困りますよ〜きっちり払って頂かないと」

「ない袖は振れないってね。次の取引が済んだら払えるから三日後に来てよ」

「そんなご無体な。回収せずに帰ったらあっしの首が飛んじまいやす!」

 

これはひどい。かつて今まで借金取りに押しかけられている場面があっただろうか。女関係で頬に紅葉をつけてるくらいを想像してたのに。

 

「そのときはうちの薬を使えば切り離した首だって元通りになるからもしれないからお一ついか、がはぁっ!?」

「「ヒイィィィィ!?」」

 

そして無言で金棒が振るわれたよね。悲鳴は借金取りと吉備津彦が声を重ね(ハモらせ)奇跡(ミラクル)を起こしてたんでちょっぴり笑顔になった。

 

「お前が使ってみろ」

 

そしてそのまま流れるように踏んづけて顔に金棒をぐりぐり押し当てていらっしゃる。鼻血を少しで済む白澤の頑丈さすげーよな。

 

「何しやがるこのヤロー!!」

「かもしれないとかプロ意識はないんですか」

 

ついでに即復帰して食い掛かっていく精神的タフさも見習いたいもんだ。そこに至るまでの過程が残念すぎる点からはそっと目を逸らそう。

 

「しかし珍しいですね、白澤様が支払いできないって」

「あぁ、それはね」

 

遊ぶための金を稼いでると公言して憚らないが、計画性はあるはずなんよね。どんな理由があったのやら。

 

「昨日電撃訪問してきたリリスちゃんにおねだりされて急な支出がね」

「あー、白澤様の分、代わりに払います。おいくらで?」

「え、はぁ……」

 

まさかここで問題児筆頭の名前が出るとは思わんやん?

 

――つーか何してンだリリス様よ

――あら、昨日は元から集まりがあったわよ?

――それ衆合地獄の妲己様とか荼吉尼様とか集まってるやつだろ。なんで白澤?

――私達より先に会場の別の場所にいて、途中で乱入してきたわよ。ベロンベロンに酔っ払った状態で

――この瑞獣ホント酒と女で全部ダメにしてンな

 

電撃訪問じゃねぇじゃん。酔った関係で単なる勘違いしてるだけかもだが、嘘はいかんぞ極楽暮らし。裁きを受ける必要がないとはいえ、生活態度じゃなく種族柄なのがずりぃよなぁ。

払って損した、とまではさすがに言えんが、気持ち的にもやもやする部分はあるな。いやまぁ無利子で長めの期限ありな貸しにする形でもいい気がするが。

つーか契約のお仕事扱いで白澤にハニトラ仕掛けたら業績がっぽがっぽなのでは。ぶっちゃけ神話勢力って括りじゃ所属意識は薄そうだし、失敗してときでもやんわり断るだけでその後の付き合いには影響を残さずにいてくれそうな感じが。

ゼウスやオーディンにも流用できんか試してもらうのもありか。でもリリス並の騙されてもいいというか貢ぐのを気にしないレベルの魅力が必要になるから面子は限られるなぁ。

ま、そもそも悪魔陣営のために業績上げる努力とかアホらしいんで実行はしなくてもいいわな。

 

「バールドさん、甘やかしてはいけませんよ。酔っ払いの失敗は本人が取るべきです」

「はん、お前に言われるまでもないっての。さっき言ったけど三日後になれば払えるからね」

 

鬼灯様の言葉は確かだなんだが、失敗させた原因が身内なのはなぁ。いうて白澤も今の支払い分は返すつもりらしいが。

まぁツケか何かの回収に来たらしい額はそこまでじゃなかったし、リリスのおねだりはその何倍にもなるだろうしな。一方で白澤の作る薬なら取引とやらの額はそれなりにデカいだろうし。

 

「あ、せっかくだし俺がそっちに遊び行くよ。そのときに払うから案内役にリリスちゃんヨロシク♪」

「三日後ですね。伝えておきます」

 

――つーわけなンでリリスは三日後に白澤様の案内よろ

――任せて。財布の中が空になっても買わせ続けるから

――ま、ほどほどにな

 

予約完了。白澤なら神話勢力の代表ってわけでもなし、和平とか無関係に直通の転移陣を使ってホイホイ来てもらっていいな。

最近は微妙に目が厳しくなったから別の神話体系から訪問しにくるときは政府を通さなきゃなくなってなぁ。めんどくせ。

 

「直前になって急に足が攣ればいいのに……」

 

そんなやり取りを眺め、ボソリとしているのにハッキリ響く声で鬼灯様が呟いた。

本当に白澤が絡むとものっそい大人げなくなるんだよなぁこの人。まぁ小さな欠点を持ってる方が親しみを持てるし魅力的に映るからちょうどいいっちゃちょうどいいんだろうな。

 

「ところで今日は白澤様に紹介したい人物がいまして」

「うん?」

「はじめまして! きびつひこともうします! ぜんせはももたろうらしいです!」

 

寸劇も済んだし、本題に移る。直前までのやり取りをリセットできる吉備津彦はお手柄だわー。

 

「おー、(タオ)タローくんの生まれ変わりかー。俺は白澤、よろしくね」

 

挨拶を返しながら、白澤はしゃがみ込み、視線を合わせながら頭を撫でる。

この辺は本当に立派な大人というか、しっかりしてるんだよなぁ。白亜紀辺りには存在してたっぽいから人間なんて誰も彼も子供に見えてるのかもしれんね。

 

「しかしびっくりしたよね〜目の前で急に消えるんだもん」

「その節は聖書のアホ共が大変申し訳ございません」

 

準備段階で良かった、とケラケラ笑う白澤だが、こちらとしては笑うに笑えんのよなー。そんな気持ちでの謝罪に対しても手を振りながらいーのいーのと軽く流してくれちゃいるが。

 

「まー仕方ないよね。ほら、隕石に当たるようなもんだよ」

「貴方が言うと洒落にならんのですが」

 

隕石衝突から恐竜絶滅するシーンとかリアルタイムで目撃どころか現場で環境の変化を体験してるだろうしな。むしろ隕石が直に衝突する経験してても驚かんわ。

 

「ま、百年後くらいにまたこっちへ来れたら手伝ってよ。薬の知識についても教えるからさ」

「百年後」

 

うーん、時間感覚ぅ。でも日本地獄の罰を受ける年数を考えるとあっという間なんだよな百年。

と、いうのも一番軽い――とはいえ虫などを対象含めた殺生に対して悔いや恥じる気持ちがない場合に該当する――等活地獄での衆人は寿命五百年。

ただし等活地獄の一日の長さは人間界の五十年を一日とする四天王の五百年とかいう意味不明な単位だから365日×50年×365日×500年×500年で一兆年を有に超える時間を苛責されながら過ごす事になる。

まぁ寿命なんでその前に死ぬ事もあるらしいが、獄卒の罰によって死ぬ場合はその場で復活させられるんで自然死的なもんがあるんだろう。知らんけど。

つーか普通に地球のが先に寿命を迎えるわ。宗教の残念な点というか、大きく見せたい人間の虚栄心は今も昔も変わらないんやなって。

これって要はイワシの大群とかフグやハリセンボン、レッサーパンダやヒメアリクイみたいな自分を大きく見せて敵を撃退しようって生存本能の延長だろうし、動物的なんよな。悟りの道とはいったい……。

 

 

「ももたろうは、みなにすかれていたのですね! わたしもぜんせにはじぬようすごしたいです!」

 

とりま、こんな感じで吉備津彦の顔見せは続いていき、その無事を知った面々の笑顔に吉備津彦も今後の生活に関して期待に応えるというか清く正しく生きていこうと決意していた。

しかしルキフグス領で過ごす場合、獄卒適性も上がっていく気もするんだよなぁ。農業メインで暮らしていくにも害獣駆除はするだろうから殺生と無縁ではいられんし、天国からは遠退きそうな?

まー後悔とか全くせずに人殺しまくってるだろうに僧正坊のコネで烏天狗警察に抜擢された牛若丸みたいな例もあるし、白澤が口出しするんだろうか……鬼灯様が跳ね返す未来しか見えねぇ。

つーか、そもそも百年で寿命を迎えるだろうか。

 

「? どうしましたか?」

「いえ、吉備津彦は人間のまま大往生させられるよう尽力する所存なンですが、仙術で健康だけじゃない寿命も延びちゃいそうなんですよね」

「ふむ……それはそれで派遣社員の道もありますから」

「邪仙扱いでしょうが、桃源郷住まいできるンですかねェ」

「?」

 

吉備津彦の未来に思いを馳せるが、当の本人は何の事だか分からずに首を傾げるばかり。

まぁ三歳児が未来どころか死後の生活を見据えて動くとか世知辛いにも程があるし、しばらくは前世の知人友人と結んだ縁を大事にしながら今日抱いた決意を胸にすくすく成長してもらいたいもんだ。

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