その日、ルキフグス領の割と端にある首都的な場所に作られた教会で、一組の男女が祝言を挙げた。
「汝、八重垣正臣はクレーリア・ベリアルを妻と認め、生涯愛し抜く事を我が名に誓うか」
「ち、ちちちちちち、ちかっ、誓います!」
男は八重垣正臣。プロテスタントの牧師兼戦士として将来を有望視していたが、駒王町の管理役をしていた悪魔と心を通わせてしまった事で異端として命を狙われた、自業自得感の強い部分もあるがうちら基準の価値観では不幸な奴だ。
狩られそうになっていたところをルキフグス領に引き込み、今は冥界の悪魔領で唯一の教会で牧師をしているという、割と意味のわからない立場にいる奴でもある。
この瞬間は自分の管理する教会に
「よろしい。では汝、クレーリア・ベリアルは八重垣正臣を夫と認め、生涯愛する事を誓うか」
「はい、誓います」
女はクレーリア・ベリアル。こちらは教会の戦士を堕とすキンボシオオキイの達成まであと一息な感じだったが、叔父であるレーティングゲームの皇帝ことディハウザー・ベリアルの名誉やら自身の好奇心やらで表向き存在しないとされている『
まぁ聖書の神を相手にして怯む事なく愛を誓える程度には八重垣を想っているんで、性格の面では悪い奴じゃないんだ。やらかしも年齢相応ではあると思うし。
むしろあの件は多少の伝手がありそうとはいえ、高校生レベルに暴かれそうな程度のセキュリティしか組まずにいざバレそうだと知ったらぎゃーぎゃー騒ぐ老害系悪魔上層部の無能具合が際立っててなー。
不穏分子を炙り出すための罠じゃなく普通に出し抜かれそうになってるから始末に終えない事この上ない。
いうて悪魔だからしゃーない。コイツらが無能じゃなかったら各神話体系も無視しきれずに悪魔は滅ぼされてるだろうからな。その気になったらどうとでもなるから大目に見てもらえてたんよ。
ちな、過去形なのは和平を結んで聖書勢力として改めて見極められてる最中だから。駄目だったらそのときは潔く滅んでもらうしかないよねっていう。
「それでは誓った愛の目に見える証として指輪の交換を行ってもらう」
さて、そんな愚痴はさておこう。
今日は苦難を乗り越えて新天地で多少の不便と引き換えに幸せな暮らしを送れるようになった二人がこうして無事にゴールインするめでたい日なのだ。
とりま、ハイライトはあちらの花嫁関係者席で宇宙を背負ったような顔を見せているベリアル家の方々だろうか。生存は知らせてあったんだが、教会で式を挙げるとか公式では死んだはずの聖書の神が生存してて式を取り仕切ってるとか色々と情報爆弾で思考が停止してるんだろう。
当然ながら式は撮影されてる。事前に告知と許可を得てるので、皇帝の
うちは飲食物で耐性を得る方式なもんで、招待客は隔離されてる待合室で予め摘んでもらって一時的に祈りやら聖句やら光力を無効化できるようにしてある。ここで変に警戒したり遠慮したりで口にしてないと今頃はのたうち回る事になるわけだな。
その点、クレーリアの関係者は素直な悪魔が多くて良かった。こうして苦しむ事なく式に参列してられるわけだし。偶然満腹とか緊張で喉を通らないとかなくて良かったと胸を撫で下ろしているのは内緒だ。
「これで二人を隔てるものはなくなった。続いて誓いの言葉を互いの内に封ずる口づけを…………ここに誓約は完了した。私は二人の幸福を祈り、また見守ろう。さらばだ」
なんか鳩が予定繰り上げて勝手に退場していきやがったんたが?
変なところでアドリブ入れるのやめーや。報酬減らすのもやむなしですわこれは。
ちな、司会としての台詞もテンプレとは色々違うが、悪魔絡みなんで色々と端折ってもらってる。ぶっちゃけ神自身の問いかけな時点で健やかだの病めるだの条件決めてないから無効です〜なんて言えるかって話だしな。悪魔なら言いかねないが。
仕方ないんでそのまま新郎新婦の退場を告げ、参列者に祝われながら最新の夫婦は教会を後にした。
まぁ、このまま徒歩で場所を移動して披露宴なわけだが。だから泣いてる暇はあんまりないぞベリアル家のみなさん。
立って歩け。前へ進め。あんたらには立派な足がついてるじゃないか。
こんな感じに新婦側の関係者は騒がしいが、一方で新郎側の関係者は出席者なし。これは別に冥界だとか悪魔と結婚だとかに対するボイコット的なノリじゃなく、八重垣がルキフグス領で暮らすようになった経緯――具体的には教会の戦士が悪魔に誑かされた事を理由にしておきながら和平前にも関わらず教会が悪魔と限定的な不干渉を結んで事に当たった部分――が問題すぎて自粛を禁じ得ないって理由だ。
ストラーダセレクションの大人な態度を貫ける教会関係者との接触ができなかったのは残念だが、それ以上に八重垣が気に病まないか心配になる事態ではある。とはいえ電報による祝辞は届いてるし、披露宴では多少の救いになればいいなーと。
なお、この後の披露宴では割とはっちゃけた面を前面に出した事で八重垣の染まり具合が確認され、領主としては誇らしくもどうしてこうなったと頭を抱える羽目になった事を記載しておく。
いいんだ、一年以内にはパパになるだろうし。そしてら多少は落ち着くべ。親バカ率を考えると望みは薄い? それはそう。
めでたい事があればめでたくない事もある。そんなバランスを投げ捨ててしまいたい今日この頃、皆様いかがおすごしてしょうか。アタシは別に〜ふつーっていうかぁ〜。
『
「来たぜ! これが俺の、新しい力だぁぁぁっ!」
「おぉー(パチパチパチ)」
はい、イッセーが
『なぜだ、こんな、俺は……どうして……』
見ろよ、ドライグなんて感極まって宝玉を点滅させてる。ひび割れそうになってるのは気のせいだと信じたい。白澤にいい薬ないか聞いとこ。
つーか白澤が宣言通りにやって来て領内を見て回った日とイッセーの訓練する日が重なって、出会った二人の性癖談義が一皮剥けるきっかけになったっぽいんだよなぁ。責任取ってもらわな。
『くく、大変だな、赤いの。今回の宿主は方向性こそ違えど揃って規格外らしい』
ライバルのアルビオンもこれには後方腕組み二天龍面だ。
「よっしゃあ! 早速イングヴィルド姉さんの
『頼むから性的な悪戯を試みてくれるなよ』
「………………努力はしてみる!」
『オイイイイイ!? 絶対にやめろよ!?
「冗談だっての。俺には死ねない理由がたくさんあるんだよ」
『あれだけ痛い目に遭えばさすがに学習してくれるのか……』
ちな、イッセーは初対面の挨拶が性癖開示要求なせいで領内でも危険人物扱いされてたりする。まぁ、領民がルキフグス性教育の成果で堂々と答えるおかげで地味に打ち解けてる部分からは必死に目を逸らしたい。
でも初日は挨拶の前にアンブッシュでセクハラ仕掛けようとしたせいでボコボコにされもしたんよね。基礎トレーニングでスペックは上がっても気配絶ちとかの技能は磨いてなかったから、溢れてる煩悩を察知されて迎撃されてたし、その際はマーラに間違われて仏敵退散とか言われてたのが印象的だった。悪魔領とは。
あ、マーラは現物を立川で見たが、原作同様の相変わらずな不憫ぼっちっぽい感じの無様を発揮しては聖人二名の精神にダメージを与えてた。娘さんいるリア充なんだし、その部分を前面に出せば微妙にモテを気にする生臭聖人二名に正規ルートの精神ダメージ与えられる気もするんだがなぁ。
一応、神話体系的には須弥山に属してるのかもしれんが、どっちかってーと在野の実力者……実力? 普段は緩いけど本気と全力出したらすごいはず。
「イングヴィルド姉さ〜ん! 歌を聞かせてくださーい!」
「――――♪」
「あふん」
そんなことを考えてたらイッセーが勢いよく飛び出し、イニーの歌で無力化された。秒殺だった。
「う、お、ぉ……」
『対抗、するには……まだ、足りん、か』
まだまだ成長途中とはいえ、
アザゼルの見立てでは、イニーの
とりまオサレ。アタシじゃ思いつかんわ。聖書勢力の教え的にはドラゴンや蛇が悪だから、ドラゴン支配の歌は主の絶対性を表す讃歌的な意味合いでもあるんかね?
『おのれ赤いの……イングヴィルドのあれは現状無差別なのだぞ……』
「ふっ、まだ実力が足りないか。上があるというのは燃える話だな、アルビオン」
うむ、歌が音波な以上、対象識別は強くそうあって欲しいと想わなければ範囲内の全ドラゴン属性持ちに効果を発揮してしまうんだな、これが。実際にはやろうと思えばやれるようだが、ヴァーリは自分の力で耐えたいと識別対象から除外してもらってるだけだったりする。
「うちのヴァーリきゅんなら種族や血統で納得できるんだけどよー、なんであんな特別さの欠片もないただの人間が
リゼヴィムが首を傾げるが、元より
「それが
「理不尽だねぇ」
「何言ってんだ
気持ちはわかるが、唯一それらを無効化する体質のリゼヴィムが口にしていいもんでもねぇと思うんだ。大体の
「バールド、ご飯」
「おっと、もうそンな時間か。」
歌を止めたイニーが近寄ってきて、天を指さしながら催促してくる。釣られて見れば、人工太陽モドキは直に真上へと到達しそうな位置。昼食の準備をせんとな。
いうて、今日はイニーがメインなんで手伝いをするくらいなんだが。アクアパッツァとかパスタ系とかイタリアンがお上手なんよ。
「よーし今から飯の準備してくるから適当なところで切り上げて来いよー!」
「「「「はーい!」」」」
こうしてイッセーの
いやまぁ、一応は成果が出たとしてご両親には報告してお祝いしてもらってたぞ。ルキフグス領内でもヴァーリはライバルの追い上げを、曹操は人間の可能性に喜んでたし。女性陣も真っ当な戦闘力アップだけでセクハラメインな謎技じゃない事を評価してたが、基礎力のアップでセクハラ成功率が上がる事実に気づいて警戒してた。
なお、悪魔と天使の上層部はルキフグス領に二天龍がいてどちらも