「失礼、こちら幾瀬朱芭さんのお宅で間違いないかな?」
「……どちら様ですか?」
そんなわけでやって来ました『
祖母に旅立たれ両親は外国の一人暮らしな以上は本人が対応してくれたわけだが、見慣れない人物が尋ねてきたから警戒してるようだな。質問を質問で返すんじゃねぇと言いてぇが、話を拗らせんのは得策じゃねぇし我慢だ。
「その昔、朱芭さんの世話になった者だ。日本にいなかったものだから訃報を知ったのがつい最近でね、線香の一本でも上げさせてもらおうと思って来たわけだ」
「
お祖母さんの名前を出したら効果は抜群だったらしく、半開きだった扉を開けて招き入れてくれた。
そのまま案内された仏壇に買ってきた箱菓子や作ってきた精進料理の折詰を捧げたり死者の供養を願い終えて、遺族であるトビーと故人の生前について思い出話をちらほら。まぁ、会ったのは一度きりで今回改めて調べ上げた情報がほとんどなんだが。ボロは出てないと信じたい。
「ところで、鳶雄君はお祖母さんの生家についてご存じかな?」
「えぇと、姫島ですよね」
「そうだね。名前以外に知っている事はあるかい?」
「いえ、そこまでは。余り詳しい話はしてくれませんでしたから」
だろうなー。裏側の話に巻き込みたくないって話だったし厄ネタを封印できてるなら情報を与えないのは予想できた話だ。いうて、自衛のためには知らなきゃダメな話だとも思うんよ。まー好奇心で取り返しのつかない事態に発展する可能性を思えば気持ちはわかるがな。
あるいは時が来れば打ち明ける予定だったがお迎えのが先に来ちゃったか。そりゃ中学生男子を相手に封印が〜力が〜とか、深淵に〜だの暴走の〜だの、刺さりすぎるんだよなぁ。いくら自分の寿命が近いって悟ったところで、普通に育てた孫なら年頃特有の全能感に任せてやらかす可能性がありすぎて言えんかったに違いない。予想される被害的に黒歴史なんてもんじゃ済まんからな。
ところで改めて封印し直したりはしたんだろうか。今回めっちゃ解くつもり満々なんだが、もしそうなら微妙に気まずい。
つーか五大家さぁ、仏教系の封印術に秀でてたから神道系を重視する五大家から排斥とか日本地獄に喧嘩売ってらっしゃる? 命が惜しくないのか死後の世界を舐めてんのか知らんが、鬼いさん時空や聖のつくお兄さん時空が混ざってるから神道と仏教はほぼ融合してるし常世も日本地獄や極楽と地続きだぞと。
つーかお前らの契約してる聖獣やらそもそもの陰陽道に発達する前段階の源流は中国にあって、日本神話体系から見たら十分に異端の所業なはずなんだよ。HSDD世界だと中国神話体系は須弥山と日本神話に分割された上で併合されてる感じだし、この世界だと半ば融合してるが……どちらにせよ神道じゃないからアウトって思想そのものがアウトよりなんでねーかな。受験シーズンに御守りたくさん下げてる学生を見て推しは弁財天とか見抜いてたブッダみてーな気分に近そう。
ぶっちゃけ内心は祟ろうかどうしようか揺れてる神もいるらしいし。日本の霊的な守りに都合がついたら真っ先に切る対象……ってのは言い過ぎだが、苦言を通り越してお仕置きの一つくらいはあるかもしれんね。
そんでここに聖書勢力の和平が来るわけだが。安定して効力を発揮するのはいつになるか知らんが、日本人に対する脅威の大半を占める要因がなくなるのならわざわざ五大家に大きな顔をさせる必要もなくなって、不要論を唱えるきっかけとしては十分だろう。
いやまぁ象徴でしかなく政治的な影響力の弱い魔王が結んだ和平とかお貴族様が気にするかは微妙だし、ソイツらに『
そういや
「ご両親は……海外だったか。その歳で一人暮らしは束縛されず自由なようでいて、何もかも自分でやらなければならず、場合によっては必要な事に気づかないまま事態が進行していたりするから大変だろう」
「その辺は、まぁ、周りの人が助けてくれるんで」
「そうか、昨今では珍しく善き隣人に恵まれたんだね」
高校二年生一人暮らしとかエロゲの主人公感あるよな。目指せ屋根ゴミくらいの勢いでハーレム築いたりせんやろか。でも生ハムの話だと徹頭徹尾お隣さんの幼馴染と良い感じらしい。ラッキースケベなら複数相手にあるらしいが。
「それで残念なお知らせがある。世の中にはおとぎ話や神話が実在してて、一般人の知らないところで人間に関わっててね」
「……はい?」
「お祖母さんの旧姓、姫島というのは日本のそういったオカルト系の大家なんだが、そっちは神道系を重視するらしい。一方でお祖母さんはどちらかと言えば仏教系だから異端扱いされて家に相応しくないと追い出されたそうだ」
「……はぁ」
うむ、反応が悪い。何コイツ痛々しいんだけどって顔が非常に辛い。えぇい、ままよ!
「かくいう私もそっち側の存在でね。微妙に複雑な立場ではあるが、種族的には聖書でお馴染み一神教の絶対悪、悪魔なわけだ」
蝙蝠の翼を展開してドヤ顔して見せるが、相対するトビーはちょっとビクッとしたくらいで反応そのものは実に淡白だった。いや、周囲を見回してる辺りアレだな、ドッキリ大成功とかプラカード持った幼馴染が入ってくるとか思ってる系。
「補足するとドッキリとかではないし、
「なるほど、そうなんですね」
言いながら、手の平を上に向けながら小さく魔力を展開し各属性に切り替えて見せる。トビーはすごい手品ですねとでも言いたそうな顔だ。ちくせう。
「ひとまず信じてもらえないとして、話を進めようか。怪しげなオカルトが実在するこの世界には
「ランダム」
「そして君にも宿っているんだが、厄介な事に
「祖母からは、特に……いや」
どうやら心当たりはある様子。産まれながらに至ってるなら、聞いた
しかし今更だが、持ち主が自我すら曖昧な赤子時代とはいえ独立具現型の
「まぁ、今はまだ喫緊の脅威は訪れていないが、得てしてそういったモノは理不尽だ。前触れもなく急にやって来て、何もかも奪い尽くしていく可能性だってある」
「………………」
「君が今まで通りに日常を送れる期間は長くないと思った方が良い。多少の変化で済ませるための備えをするならその期間すら諦めなければならないだろう。具体的には封印の解除や能力の習熟に費やす必要がある」
「………………」
「はっきり言って、暴力から距離を置くのは難しい。弱いまま全てを奪われるまでは平穏に過ごすか、いくつかを捨てる事になっても強くなって少数の大切なものを守り切るか。君はどちらを選ぶ? もちろん、第三の道を選択してもいい」
長々と話をしてる時間も惜しいし、裏とか何も知らない一般人に考える時間とか与えてもあんまり意味はない。あるとしたら親しい相手に相談して勇気をもらうくらいか。
つーか実質一択なんよね。明日隕石が落ちてきてこのままだと死にますが、今から特訓すれば破壊できるかもしれませんって感じの話だし。いやまぁその条件だと今から自分が頑張っても隕石なんか破壊できるわけねーだろバーカって我慢してた欲望を解放して暴れ回るヤツも少なくなさそうだが。
「……俺は」
少しばかり訪れていた沈黙を破り、彼は選んだ。
「つーわけでこちらの面子が把握してる陵空高校二年生の
「あ、えと、よろしくお願いします?」
その日の夕方。予め四凶連中とルキフグス民を誘っておいた食事会に追加でねじ込み顔合わせをしておいた。要予約な高級店かつ代金はこっち持ちなんで、普段はツレない態度の鮫島綱生や古閑雹介も参加してくれてる。
あるいは四凶とは別の
ちなみにこの二人、性格的にはそこまで合わないっぽいんだが、同じ四凶の
七滝詩求子は定期的にルキフグス領で訓練してるんで情報収集的な意味は薄いが、まぁその分だけ打ち解けてて呼べば来る感じはある。奢りに弱いだけかもしれんが。饕餮とは無関係に本人もよく食べるんだ、コレが。
そして皆川夏梅はこの中では一番一般的な女子高校生をしている。作品の都合もあって美男美女揃いだから集団から浮いてるわけじゃないし、やはりペット談義という話題があるので関係性はそこまで悪くない様子。ただまぁ窮奇にグリフォンって名前はどうなんだって感じはある。愛着を持ってくれてるし問題はなさそうだが。
ちな、四人が四人とも学校とプライベートの双方で積極的に関係を持とうとはしてないため、繋がりを知る者は限りなく少ないとの話だ。
「もう、鳶雄ったら。私はこの幾瀬鳶雄の幼馴染で東城紗枝です。この中だと唯一の一般人だけどよろしくしてくれると嬉しいかな」
はい、トビーに守りたい相手を遠ざけると人質に取られるから側に置いても平気なくらい強くならなきゃないって説得したら流れで東城紗枝が仲間になりました。とりあえず
「ちなみに幾瀬君は料理できる系男子だ」
「うっ」
「おぉー」
「?」
紹介するにしても
「とりま料理も来る頃だし、適当に食いながら雑談でもしててくれ。私はデザートを作る系のお仕事があるからな」
「へ?」
「バールドさんも料理できるんだ」
むしろそこは店の厨房を使える事を疑問に思うべきだと思うんだ。まぁそっちはそっちで気になるんかもしれんし別にいいけど。
「プロ級ですよ」
「ネタからガチまで幅広いのよね……」
「へぇ〜」
「今回は歓迎会を兼ねてるから真面目なのだし安心しとけ」
女性陣の評価を聞き流しながら厨房へと向かう。後は若いもんに任せて、ってヤツだぁな。地味に連中とは同い年ではあるが。
で、裏側の危険とはかすりもしていない面子でもあったせいか、単なる顔合わせと食事で終わった。食事をしながらの雑談で多少は打ち解けたが、学校やプライベートですれ違っても今まで通りくらいの距離感で済ます事で合意したんだとか。
まぁ仮に何かあった場合は共通の知人を通して知り合ったと正直に言えばいいだけだ。
その意味じゃ、表側で使える立場もそろそろ必要かねぇ。起業って何歳からできたんだったか。義務教育終えてる年齢だし既にいけるはずだが……いや、普通に面倒だわ。同人サークルくらいで済ましとこ。
なお、トビーと紗枝はルキフグス通いを決心したんで同じ選択をした詩求子からの好感度が上がってた。料理男子な部分にも期待大なようで割とグイグイ詰めてたが、学校で一番の美少女との距離が縮んでも動じない紗枝の本妻力は称えられるべきだろう。そしてトビーも男女の雰囲気は感じさせないサバサバした対応。これでまだ付き合ってないとか嘘やろって言いたい。
あ、出番はカットされたが
そんで解禁された『
つーか解析結果に
そんなわけで日本神話にお伺いを立てる事になったよね。まぁ高天原以前の話だし天照大神も頭を抱えてた。そして当事者からするとその後の
なお『
いやまぁ殺された後も常世で過ごしてた以上は相応の年齢で大人な対応も当然なように思えるが、基本的に神って不変だし角が取れて丸くなっても根底にあるものはそのままというか。芥子さんと狸みたいな。
思えば芥子さんは尊敬から発展した信仰を集めてるし既に神の資格を得てる気がするんだよなぁ。でも信楽太夫の件もあるし成長はしてるのか。うーむ、わがんね。
あ、それと虚蟬機関と五大家に関して尋ねたら、日本神話としては現世の事なんで基本的に不干渉だが儀式に応じて力を貸したりはするっていつものスタンスを崩さない旨を伝えられた。
それはそれとして日本地獄から死後に苛責されて反省するよりも現世で改心してくれると助かるって伝言も大抵の事は認めますって許可証と共に渡された。大義は我にあり状態になっちまったぞ、逆に気を遣って程度を考えながら動かなきゃならんくなったような……まぁえぇか。