生ハム情報の虚蟬機関やらオズの魔法使いやらの調査へ乗り出したはいいが、成果は今一つだった。虚蟬機関の修学旅行襲撃とか規模と状況的に単独じゃこっそり運ぶのが無理だし、魔法使いなり堕天使なりの協力を得るための転移魔法陣は必須だろ。事前の打ち合わせくらいしてそうなもんだが、土地勘のなさが足を引っ張った感じ。
それでも足を使い聞き込みしていったら怪しい集団の話が聞けたんで、そこから情報を精査して前後を探っていく……なんて事をしてたんだが。
「サタナエルゥ〜?」
「少なくともそう自称してますし、遠目に確認したリゼヴィム様とリリス様からお墨付きを得ています」
「ほな本物か」
はい、なんか黒幕中の黒幕が堂々と真正面からルキフグス領へ入ってきたらしい。なんでさ。
「とりあえず領主との面会を希望してましたのでこうしてお知らせしました」
「了解。ありがとうな愛しいリリ」
さて、別にアタシを排除したところで大勢に影響はない。可能性としては
ぶっちゃけサタナエルの率いるアビス・チームとやらは、宿った
つまり個人的にはサタナエルの人体実験に関して自分達で完結してるならどうぞご随意にって感じなんよね。まぁその能力が外へ向いてる以上は丹念にお話する必要のある対象なわけだが。
つーか
原作最序盤の木っ端堕天使は一時的にとはいえアーシアの
「お待たせしました。領主のバールド・ルキフグスです。貴方がサタナエル様で間違いないでしょうか?」
「あぁ」
応接室に入ると、そこには茶髪で銀色の瞳をしたイケメンの姿。ただし雰囲気は怪しい上に物騒だ。ついでに態度がデカい。用事があるなら少しは下手に出ろよ。つーか足組んで座るなその絡んでる両足一体化させてイッポンダタラ亜種に変えんぞ。
「要件を聞いてやる。その格好のままでいいから言ってみろ」
「急に喧嘩腰だな」
「『
まぁ、一番大きな理由はクラフトチートの副作用というかな鑑定でドン引きする数の呪詛がサタナエルのステータス欄を埋め尽くしてると確認できたからなんだが。何が一番ひでぇって、本人は無自覚っぽい事よな。怖すぎる。
「ふむ、その割にこうして姿を現すとは迂闊ではないか? それとも自惚れか」
「どうでもいいだろ。こっちは要件を聞いてやるって言ったンだ。テメーの無意味な好奇心に取られる時間が惜しい」
「そうか。ならば単刀直入に言おう」
ギリシャ神話だけで見てもハーデス、ポセイドン、ゼウスの連名な時点で
あるいはイエス経由で知り合った旧約聖書勢の呪いが一番効いてる可能性。基本的に実行者は鳩だし。
「オーフィスを寄越せ」
「うちで取り扱ってる一覧にゃねェ品物だな。取り寄せからやるなら高くなるが払えンのか?」
「ふざけているのか?」
「言い方が悪ィって話なンだが、その分じゃ頭の方も残念そうか。堕天使幹部はどうしようもねェ欠点持ちなのが通例だが、まさか真っ当に知能が低いとは恐れ入る」
「いい度胸だ。ならばこちらにも考えが……何?」
サタナエル、気づく!
これがドッキリ企画とかだったらプラカード掲げて突入してくる流れだが、生憎と話題そのものは真面目だし事件を未然に潰す目的がある以上は油断もできんのよな。
結果的に挑発はした形だが、オーフィスの立場は期間が長めの観光客なんでルキフグス領に属してるわけじゃなく、ちゃんとマニュアルに則った対応なんだわ。元より
それを勝手にキレられてもなー。下調べが足りてなくて無知を晒してるのすっげー恥ずい真似なんだが自覚してるんだろうか。むしろ逆ギレすると老害属性が付与されるラインだからもう少しツンツンしてみたい。でも脳内で「押すなよ絶対に押すなよ」って懇願してるイマジナリードラゴンがいるんだ。くそっ、アタシは一体どうしたらいいんだ!?
つーかオーフィスはな、住民登録もされてないから住民限定サービスを受けられない不便な暮らしを強いられてるんだぞ。その、健康保険とか献血とか。ぶっちゃけ後者は魔法や錬金術の素材として魅力的すぎるんで特例を設けたいくらいだが、許可の形にしても任意じゃ乗ってくれんだろうしなぁ。いうて下手にお願いすれば対グレートレッド戦線に参加する事を条件にされるんで断念せざるを得ない。
「これは……」
「公開してる情報なンだが、調査不足だったようだな。領民以外の暴力沙汰はお断りしてンだわ」
「これだけの数と質、何を対価に差し出した……!?」
「それも公開してるぞ。わからない事を認めるのは偉いが、他人に聞くばかりなのはもう一歩頑張りましょうって感じだァな。テメーみてェな独断も起きるンじゃ『
そもそも幹部の担当が被ってねぇし、会話も弾みそうにないもんなぁ。共通項があるとしたら神の定めた戒律への違反――一般的には人間とエロい事したい欲を満たすために集まって無事に堕天認定された事だが。結局は下ネタで一致団結とか男ってやーねー。
「質問に答えろ! これほどの呪い、貴様オーフィスを引き渡したのか!?」
「どっから出てくるンだよその発想」
いるはずのオーフィスを出さないとか、尋常じゃない量と質の
オーフィスが黙って生贄として差し出されるタマかよ。各神話体系のお歴々が協力して何重に罠を仕掛けてもイラッとしてズドンで踏み潰されるし更地にされるわ。
「ならば何故……」
「だから聞いてばっかじゃなく考えろよ。とりまテメーのソレは領内で暴力を振るおうとしたヤツを対象にしてる安全装置で、つまりテメーは暴行の容疑者だ。観光客だろうが身内だろうが変わらねェ法の裁きを受けてもらうぞ」
数年前のサーゼクスとリアスが不法侵入した件は領内見学の後で改めて略式裁判をして、罰金と二年間のアクセス禁止になったからなぁ。あれはあれで肉親とか関係なく法が上って証明になったんで契約を重んじる悪魔としては好感度が上がる……わけもなく、特権を振りかざせない不満を漏らすお貴族様が多発したようだ。まぁソイツらそもそもルキフグス領へ渡航する許可なんて出ないタイプの連中なんだが。
「下らん、なぜ俺がそのような茶番に時間を取られねばならない」
「こちとらそれこそテメーの下らねェ案件で時間を無駄にされてる最中なンだよ。弁護士のアテはあるか? 早けりゃこの場で裁判始めさせてもらうがよォ」
言うが早いが、取り出したスイッチをポチッとな。
『ほぅ、珍しいな。我々の手を借りたいとは』
『おやおや、そちらはカラスか。勢力としてはルキフグスに一番近いだろうに、接し方を間違えるとは不憫な』
「なん……だと……」
魔力通信のウィンドウが無数に開き、それぞれに冥界神や知恵の神がズラリと映る。それを見たサタナエルは目を見開いて愕然としており、そんな様子に対して各ウィンドウなら注がれるのは好奇や憐憫、侮蔑と多種多様な感情が込められている視線。映像越しでも目は口ほどに物を言うからな。
で、サタナエルの来訪から呪いの発動を経てその後のやり取りを簡潔に説明し、容疑者本人にも確認を取ったが反抗的だったので心証を悪化させるばかりだった。ひとまず喚き散らす容疑者を無視する流れが最初からできている裁判なのでトントン拍子に進み、今回は暴行未遂とオーフィスを手中に収め世を乱そうとしていた部分から『
「……どうしてこんな事に」
結局、サタナエルは最後までこちらの流れに従わなかった。まぁ、裁きそのものは公平だが領法を参照して犯罪認定してるんで外部の者としては納得できない気持ちはあるのだろう。そうでなくとも自分を上位者だと認識してるから不届きな真似だと思ってそうだし。
しかし判決が覆る事も、履行されなくなる事もない。特盛の呪いで抵抗らしい抵抗もできないまま冥府へと連行されていくヤツの背中は、なんつーか、煤けてた。
「ご協力頂き真にありがとうございました」
終わってから、ご参加頂いたお歴々に向けてお礼を述べるも、映像越しの神々は大半が笑顔だった。
『いや、こちらこそ貴重な体験をさせてもらった』
『普段の規則とは違った視点で物事を判断できるのは新鮮だったな』
『だが今回は酌量の余地がなさすぎて罪の軽減を引き出せんかった事だけは残念だった』
『確かに意見をぶつけ合う場としては機能せなんだ』
そう、死後の裁判を仕事にする方々にとってはよそのやり方、考え方に触れる貴重な機会なので研修に近く、この制度には興味津々だったのだ。なんなら一方的に判断し裁決を言い渡す立場からすると弁護の機会というものはほとんどないからな。地味に今回のような事態を楽しみにしていた方々も少なくなかった。
『そう思い日本地獄のしょうもない罪状すぎて判決に悩んだ死者百選をお持ちしました』
『こ、これがおもてなしの心……!』
『さすが日本地獄……!』
『恐縮です』
そしてこの補佐官殿である。もはや何も言うまい。
判例集そのものは日本人の変態性がこれでもかと凝縮された頭のおかしい案件ばかりで、周囲から感嘆詞の溢れる場がで形成されてた。それに対する生前の善行によるプラスだったり当時の常識や環境等の考慮でマイナスの値を減じたりといった部分には、その複雑さに唸ってたが。
総括すると非常に有意義な時間だったと大好評だったので、鬼灯様には追加報酬を支払わねばなるまい。幸いにもルキフグス領に適応してか空中移動を覚えた突然変異株をそのまま隔離、繁殖させて品種として確立させた金魚草がいたので、それを贈る事に決めたのだった。
「てーわけなンだが」
「何やってんだあいつ……」
同じ聖書勢力に格上げされたせいで裁判に招かれなかった
いうて世間話の一つでもしてればルキフグス領のヤバさに触れる機会はあったはずで。どんだけ興味あるものにしか触れずに生きてきたんだろう。そんだけ趣味人ならそらもう少し前段階というか小規模なやらかしで要注意人物として監視されるような流れが順当だし、色々とすっ飛ばして離反するとは思わんわな。
「まー余罪の追及はこれからなンで、虚蟬機関やらオズやらとの繋がりをチャキチャキ吐いてもらいたいところだな」
「はぁ……和平の後で最初に出てきた膿が
今後表出するだろうと予測されていた各勢力の歪み。そのトップバッターを飾ってしまった堕天使の総督は深い溜息を吐く。
サタナエルの目的の一つには人工
その先を煮詰めたかったのか、それとも別のアプローチを試したかったのか。まぁ永久凍結刑は立川時空のブルータスやユダが受けてた首から上だけ出してる
いうて明らかになったところで別にどうもせんのがなぁ。そもそも近くシステムの修理に挑む予定だし。サタナエルに教えたら後悔の一つでも引き出せるんだろうか。ま、性格合わなかった感じあるしどうでもえぇか。今やるべきはアザゼルへの報告だ。
「肩身が狭ェなァ、総督殿?」
「うっせー。いっそ企みが成功してたら旧魔王派や天使の過激派が調子に乗ったところを潰せたんじゃねーのか?」
信頼できる戦力は手元にあるし、不穏分子の炙り出しをタイミング合わせて同時撃破するのもやれそうな感じはあったが、何を隠そうそこに辿り着く前段階となる
「オーフィスが現状に満足してて、ルキフグス領で過ごす内に
オーフィスは自身の力を切り分けた『蛇』を作り出せて、他者がそれを飲み込むと能力に多少の
とはいえその強化幅は当然オーフィス本体の強さ未満だし、対グレートレッドを想定した場合は有無の違いがわからない程度に心許ないものでしかない。そう説明したらオーフィス自身も納得してた。
つまりサタナエルが考えるオーフィスの力目当てで集まる有象無象に、オーフィスがホイホイ渡す可能性は限りなく低い。イッセー達を通して訓練とか日々の努力ってものの価値についても学んでるし、なんなら自分でもできない事を克服するための努力を始めさえしているからな。内容は甘味作製だが。
「……
「自分が賢いと思ってるからだろ。信じられない情報は適当な理屈こねて嘘と切り捨てたンじゃねェかな」
「自分の
なんかもう途中から考えるのが嫌になってないかこの提督。悪魔や天使にネチネチ言われるのを想像して嫌になってるんだろうなぁ。特に天使。
普段はポヤポヤ系なのに対アザゼルのときだけめっちゃ性格悪くなるからな
おかげで立川時空のブラコン感情が分散されてるというか、初代ルシファーからは避雷針的な便利品扱いされてるんよねアザゼル。ウケる。
「まーアレだろ? コキュートスで冷凍されてても思考までは奪われンし、いくつか
アザゼルの理論を確認したくて性急なリカバリの準備ができてない人体実験やらかすヤツなんで、割と実践を封じられて考えるだけしかできない時間は罰として相応しいんじゃなかろうか。
「は!? ちょっと待て俺にも教えろ!」
「いや、寝食忘れて死に掛けて無意識にコキュートス送りされたりちょっと頭冷やしたいとか言ってコキュートスに行かれたりしても困るンで……」
「行かねーよ!」
結局、年齢や立場を一切考慮しない潔さとは皆無な駄々をこねまくったアザゼルにもサタナエルにくれてやった宿題をくれてやる事になった。そうして冥府の最下層では面会がてら意見を交わし合う二人の姿が見られるようになったとか。結局行ってるじゃねーかと蹴りを入れたのは記憶に新しい。
ちな、お仕事モードの初代ルシファーは堕天使幹部でも問答無用でチビリそうな迫力なのでサタナエルはプチ改心したらしい。具体的には実践に伴う対象への配慮が見られるようになった。食後の爪楊枝代わりは心身共に相当堪えるんだとか。ウケる。
つーか初代ルシファー生存の時点でサタナエルは寝耳に水すぎてその場で心が折れ消滅しかけたらしく、初代が慌ててフォローし何とか持ち直させた話を聞いたアタシは遠慮なく馬鹿笑いさせてもらった。
前話投稿後から多数の評価やお気に入りを頂きまして、本当にありがとうございます。ランキングにも載ってたそうで光栄な限り。
ただまぁ評価人数が増えたのを見て別作品を開いたかと確かめ直したり、間違いではないと認識した直後に脳内説教部屋へ叩き込まれイマジナリー歴代ライドウから読者の善意に付け込む評価乞食に及ぶとは恥を知れ的な感じで罵られ戒められもしました。その後入り口からドタドタ音がしたと思ったら襖がスパーンと開いてジョナサン・グレーンがクリスマスプレゼントだろと叫んだのを聞いたら歴代が呻き声を上げながら悪霊退散的なエフェクトで消滅していったり、そこへ勇が姉と一緒に現れて生身でジョナサン相手にチャクラエクステンションブッパして消滅させたり、色々ありましたが私は現金です。ごますりごますり。
それと前回は言いそびれてましたが、誤字脱字の類に関するご指摘もありがとうございます。非常に助かっております。毎度見逃したり見えてすらいなかったりで汗顔の至り。いつまで経っても治りませんわ。