聖書の神なら立川で鳩サブレ食ってるぞ   作:夜月工房

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43.使者が来たよ!

「バールド、オーフィスがグレートレッドに話をつけてきた」

「ほォ。結果は……聞くまでもねェか」

「えっへん」

 

ワクワク顔のヴァーリと、無表情なのにドヤってるとわかるくらい胸を張って自慢げな台詞を抑揚少なめに吐くオーフィス。実際は色々と細かい条件等を決めてほしかったんだが、そっちはあんまり期待できんだろうなぁ。

死ななきゃ儲けもんだが流石に無理ゲーが過ぎるだろうし、死んだ場合というか致死ダメージに反応する身代わり系のアイテムでも持たせておくか。

 

「まぁ、グレートレッド相手じゃヴァーリもイッセーも吹けば飛ぶようなもンだ。存分に揉まれて来い」

 

赤龍帝(イッセー)白龍皇(ヴァーリ)の相手をできるようになるための育成計画として考え出された今回の計画だが、『グレートレッドに鍛えてもらうなら現在の実力差とか誤差じゃね』という考えに加え『夢幻という性質から死んでも夢オチで済む可能性』に期待して立案されたんよね。

だからその辺をしっかり決めてくれると助かったんだが、そもそもオーフィスがグレートレッド相手に会話で済ませたという事実だけでも確かな実績だし、ドラゴンって大雑把だし決めてもその時のテンションで忘れたり無視したりする可能性のが高そう。

 

「うん? バールドも来る必要があるぞ」

「なンて?」

 

ここで首を傾げながら爆弾を投げ込むヴァーリ。聞き間違いかと問うも、まぁ結果はお察したろう。

 

「グレートレッド、ご飯に興味津々」

「ついでに言えば調理の過程も見たいそうだ。俺の知る限り一番手際が良く多くのレパートリーを持ってるのはバールドだからな」

「夢で満足してろよって言いてェ……」

 

そんなわけでアタシも次元の狭間に行く事が決まった。折角の機会まで流れたら困るし、向こうからの要請なら断れねぇわな。まぁ戦闘中はオーフィスバリアーで安置を確保できるっぽいんで、目指しあるいは超えるべき頂きの戦闘風景を見学できるのは得っちゃ得か。

 

 

 

「つーわけで確定しました。一応、それとなく『オズの魔法使い』に情報を流して頂けるでしょうか?」

「決まっちゃったかぁ……情報に関しては引き受けたよ。まぁやましい事はないし親切心で堂々と正面から伝えるけどね」

 

メフィスト・フェレスの苦笑に若干の申し訳なさを感じつつ、しかし特訓は設定目標の達成やその後を見据えると必要な事なので予定を変更するつもりは全くない。

 

「しかしグレートレッドは手加減とかできるのかい? 余波で世界滅亡とかは勘弁して欲しいんだけどね」

「その点についてはグレートレッド側が常時結界を張り、追加でオーフィスにも結界を張ってもらえる事になってますね」

「すごいね、どんな交渉術を駆使すればそんな内容を引き出せたのやら」

 

どうやらメフィストはグレートレッドがやんちゃした場合の被害を気にしてるらしい。確かにオーフィスとグレートレッドが本気でぶつかると世界が消滅するなんて話もあるし、別に拮抗せん相手に向けた攻撃でも世界消滅は可能なはずだもんなぁ。

ただ、それに関してはオーフィスがしっかり条件を設定しててくれてた。予想は外れたが、嬉しい誤算ってヤツだぁな。

 

「どうやらアーシアのお願いと渡した食事(わいろ)が大きかったみたいでして」

「なにそれこわい」

 

正確にはオーフィスに同行させられてた当事者(にてんりゅう)親友(アーシア)を交えた食事会(はなしあい)があったそうだ。

その際はグレートレッドが自身の大きさを手乗りサイズにまで小さくしたらしいんだが、ハムスターのようなチマチマした動きなのに山盛りにしたお菓子が次々と消えていく不思議な現象を見せられたそうだ。まぁ割と似たような光景をオーフィスで見慣れてたんでほっこりするだけで済んだそうだが。

そんなオーフィスだが、最近はアーシアやイッセー、ヴァーリといった面々にお裾分けする事も覚えて情操教育の成果も上々だ。食事会ではグレートレッドに無表情でドヤりながらメニューを勧めてたとか。そのせいでこの度めでたくもなく呼び出された製作者(アタシ)がいる事をオーフィスには反省して頂きたい。多分、無意味。

むしろグレートレッドがアーシアの言葉を割と素直に聞いてた話こそ真に恐ろしい部分な気もする。流石に竜たらしが過ぎんかとは思うが……まぁ困るもんでもない、と思いたい。

 

「考えているよりはずっと穏当な成果ですので良かったですよ。あくまでも現時点では、の話になりますが」

「うん、実際に始まったら勢い余って……とかありそうだね」

 

メフィストの同意が得られたように、自分で言っといて嫌な予感しかしないんだよなぁ。

特訓の名目だし実力差的にも戦いと呼べるものになる気はしねぇが、グレートレッドもドラゴンである以上はいざ戦闘と切り替えた際にテンション上がって結界なにそれおいしいのと理性を飛ばす可能性は低くない。オーフィスの結界で初撃を防ぎつつアーシアの説得および餌付けでどうにか収まるだろうか。

 

「なるようになると信じるしかありませんよ。上位者の気紛れで滅ぶ世界なら後はタイミング次第、単なる運の問題ですから」

「はぁ……君達が積極的にその確率を上げようとしてなかったら納得できたかもしれないけどねぇ」

 

そんなやり取りを最後に、用事を済ませたんで『灰色の魔術師(グラウ・ツアオベラー)』の本部を後にした。

オズに対してどのように伝えるのかは気になる部分もあるが、あるいは後日になって向こうから連絡をもらえたりするかもしれん。期待はそこそこに、それでも楽しみにしていようかね。

 

 

 

「で、抗議という名の破壊活動にやって来て無様に無力化されたわけだが感想は?」

「カッカッカッ。それなりに長く生きたつもりだが、これだけの魔法はお目にかかった事がないよ」

 

余裕があるのか開き直ったのか、快活に笑うのは老いた魔女。

まぁ魔女も魔法使いなわけで、研究者としての側面を持つ以上、複数の神話体系が破綻を起こさず成立してる大規模かつ緻密な魔法を前にして大人しくしてるのも難しいか。

 

「わたくしは全く萌えませんわん」

 

その隣では、拗ねてる感じの若い魔女。弟子か、あるいはお目付け役か。まぁ今回の凶行を止めなかったヤツだし人権はねぇんだ。

にしても、実力的には老魔女に劣ってそうな割に、この魔女まで焦りや恐怖を感じてる風はない。何か対策あるんかね。この状況から入れる保険があるんですかって言われたらねぇよそんなもんって返されそうな場面やぞ。

ついでに魔法に興味を示してもいないっぽい。アレか、自分の研究こそ至高で他は全て無価値とか考えてるタイプか。その割に頭良さそうな印象は受けないんだが。直感や閃きが主体の天才タイプだとしたら思考の外から殴られかねんのが厄介だな。消すか……?

 

「ラヴィニアが言うには御婦人の方が『紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)』の所有者だそうだ」

 

また新しい神滅具(ロンギヌス)が追加されちゃったかぁ。もう驚かんようになってもいい頃だが、こちとら根が一般人なもんでなぁ。

しかも『紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)』って持ち主が死んだらオートで生まれてくる命に宿るんでなく、新しい適合者を求めて彷徨うんだったよな。引っこ抜けるかの実験するにも特例感があってちょっと残念な?

 

「はいなのです。紫炎のアウグスタ――二代目『東の魔女』なのですが……」

「グリンダの弟子かい。残念だねぇ、自由な身なら声を聞かせてやる事もできたんだが」

「いやどす」

 

ぐるんとこちらを振り向くラヴィニアに却下の言葉を伝える。冷気が漂い始めたが、それ使ってテメーの頭冷やせよって言いたいくらい冷静さを失ってるな。いや、わざわざ拘束を緩めてやる必要なんざねぇだろ。

 

「面白系人工神器(セイクリッド・ギア)には体内から神経を支配して操る独立具現化系なンつーのもあってな? もちろん神経な以上は脳も支配できて記憶や技も参照できる。本人の意識はそのままだから拷問にも使えるぞ」

「ドン引きなのです……」

「こちとら悪魔だしなァ」

 

すぐ冷えたな。すごいぞ流石は神滅具(ロンギヌス)。関係あるかは知らんけど。

なお見た目は成人向け作品御用達なスライムであり、実際にそちら側の使い方もできる事が確認されている。なんならそっち方面に関しちゃイッセーが師と仰ぐ相手でもある。

所有者じゃなく人工神器(セイクリッド・ギア)が対象とかどうなんだそれは。

 

「つーわけだ、やれ」

「うぅ、本来は感覚まで再現できる義肢を目標にしてたはずなのに」

 

持ち主を呼び出し、その能力行使させる。その際に上がった老魔女の悲鳴とかいう誰得な音波はカットだ。

何気に実行される前から目を見開き涙を流していたりしたんだが、まぁ油を注したかのように口が軽くなってペラが回るなら聞く耳もあったかもしれんのに出てきたのは制止の命令だったからな。焦りのせいかもしれんが、順番や内容を間違える方が悪いんだわ。

 

「いやー、おじさんそれなりに長く生きてるけどあれは珍しい種類だよなぁ」

「色んな事に使えて便利よねぇ」

 

人工神器(セイクリッド・ギア)の所有者本人は嘆いてるが、外野からは概ね好評だったりする。出元が大物悪魔な点からは目を逸らすとして。

 

「さて、それじゃまず今回の喧嘩は個人か、国か、あるいは別の集まりか、聞かせてもらおうか」

「――抗議は国の指針で、襲撃は個人の計画です」

 

自分の意思とは無関係に言葉を紡ぐ現象に驚愕の表情を浮かべるアウグスタの口からは、あくまでも襲撃が個人の計画である事が明かされた。

ちな、表情が変わったのは発生した信号をスライムが無害と判断してそのまま流したから。特定の動作で詠唱を代行する技術はあるんだし、ちょっと警戒心が足りてないかね。いやまぁ驚く度に発動させる魔法が攻撃や転移とか意外にも程があるだろって話ではあるんだが。

 

「これ、人選をミスった国の責任だよな?」

「そうだな。指名したのが中間管理職で腹に一物抱えていた独断だとしても、それを就けていた責任がある」

 

一応は警戒態勢を解かずに禁手化(バランス・ブレイク)した上で聖槍の柄で肩をトントンしながら首を傾げる曹操の意見に、光翼を展開して何度か半減を実行し無力化に一役買っているヴァーリが獰猛な笑みを浮かべながら同意する。カチコミする気満々じゃねぇかコイツ。

 

「とはいえ被害がねェと正面から乗り込ンで文句言うのはやりすぎだろ……よっしゃ、ちょっと『紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)』の威力を確認がてらあっちの金魚草が自生してる湖の方に最大火力だ、やれ」

「「「「「「おぎゃあああああ!!」」」」」」

「嫌ですけど!?」

 

アタシの声が聞こえてたのか、指差した方向に群生している金魚草達の泣き声がとても騒がしい。うーん、生存本能が刺激されてるのかいつもとは臨場感が違うな。これはコンテストに複数(コーラス)部門とか提案してみるのもありか?

なお、スライムはちゃんと主の指示を待つ知能を持っていて、例え所有者の上司となるアタシの命令があってもすぐには動かない。主とはぐれても神器(セイクリッド・ギア)を解除して再起動する事で解決する。注意が必要になるのは別行動させる場合くらいだ。

 

「チッ、なら上空に向けて放ってくれ。結界を破れンなら最初からコソコソ侵入せずに正面突破してきそうだし問題にはならンだろ。あー、待機状態ができるならそっちのがいいか。まずそっちを試してくれ」

「それなら、まぁ。よし、頼んだ」

 

まー金魚草に危害を加えるとカウンターで祟られそうだしな。実際にゃ何が起きるかわからないが、逆を言えば何が起きてもおかしくないから怖いってのは非常に理解できる感情なんだわ。

なもんで向ける先を空へ、むしろ起動させてその場に待機させられるか試してもらう。今度は了承を得られたんで一安心。道具(スライム)相手にお願いする辺りは良い関係を築けてると見るか、命じられない程度には尻に敷かれてると見るべきか。

 

「……嘘ん」

 

若魔女が呆然としているのをよそに、スライム経由で老魔女の神器(セイクリッド・ギア)が起動される。

まず炎が巨大な十字の形を取った。そしてその隣に同じく炎で構成された巨人が出現。巨人は十字架を手にし、武装を完了させ動きを止めた。どうやら一区切りしたらしい。

その姿には、威容と呼んで差し支えない威圧感がある。あるんだが、その、まぁ、なんだ、な?

 

「なるほど……うーむ?」

 

神滅具(ロンギヌス)ってのは名前の通り神すら滅ぼせる可能性を秘めてるはずだ。

使い手が若く未熟ながらもそれぞれ特定分野において他の追随を許さない熱意の持ち主である二天龍や、努力までする天才である曹操やゲオルクといったその可能性を見せてくれる面々を知ってる身としては、正直な感想を言って良いのか悩むな。

 

「そこそこ強そうだが、そこそこ止まりだな?」

「ここから考えられるのは肉弾戦や炎を飛ばしてくるくらいか? 使い手の魔女も魔法を使ってくるとは思うが……そのくらいだとしたら突飛な発想で結果的に真正面から奇襲してくる赤龍帝の方が不意を突かれる怖さを感じるな」

 

神滅具(ロンギヌス)持ち戦闘狂二人の感想通り、どうすればいいのかと途方暮れるような圧倒される感覚を持てない。

ダンまちで例えるなら偉業待ちLv.1が遭遇したインファント・ドラゴンくらいか。単独(ソロ)だとスキルなり魔法なり武器なりの特別な事情なしじゃ死ねる案件ではある。

 

「この人達怖いのです」

 

ラヴィニアは引きっぱなしだが、まぁこのアウグスタやラヴィニアと比較しても二人は余裕を持って勝てそうなくらいには強いからな。成長曲線を考えたらむしろまだまだこれからピークを迎えるってーんだから末恐ろしい。また追い越される可能性がっががが。

 

「つーか召喚タイプか。なら耐久実験だ。誰からやるよ?」

「「俺がやる」」

 

うん、立候補自体は予想してたが、すげーぴったり揃ったぞ。少し練習したらユニゾンアタックできそうだなコイツら。とりま順番は穏当に決めてもらおう。

 

「じゃんけん勝負、最初はグーで」

「どつやら雌雄を決する時が来たようだな」

「やれやれ、ここは一つ寿命の短い人間に譲ってくれても良いんじゃないか?」

「このまま鍛え続ければ仙人にでもなって寿命を克復しそうだから却下だ。尋常に勝負といこう」

「仕方ないな。恨みっこなしだ」

 

なんか決闘みたいな感じなんだが。じゃんけんだよな?

 

「「最初はグー! じゃんけんポン!」」

 

じゃんけんだったわ。でも手を出す際にぶつかり合う気の反発力で地面砕けてるんだが。アタシの知ってるじゃんけんと違う。

 

「……あいこ、か」

「よく言うよ、一度や二度で終わるとは考えてなかっただろうに。さぁ続きだ」

「「あいこでしょ! しょ! しょ!」」

 

そんな感じであいこが続き、しばらく決まりそうにない雰囲気が。空気も弛緩しているため、これは好ましい流れとは言えないだろう。地面砕けまくってひび割れながら陥没してってるし。

 

「今ダ押セ!」

 

そんなわけで、じゃんけんを続ける二人に覆い被さるように炎の巨人を蹴り倒す。スライムが動かないため、巨人は抵抗する事もなくゆっくりと傾いていく。

このままじゃんけんに夢中な二人を押し潰すのかと思われた、その時である。

 

「「邪魔をするなぁ!」」

 

はい、声も動きも揃った気を纏ってる以外はただのパンチが炎の巨人を半分以上消し飛ばしました。せめて神器(セイクリッド・ギア)使ったって。

これには襲撃者やルキフグス領に接触してから日の浅い面々もお口を大きく開いてポカン顔。

ちな、一部アザゼル等の大人はチベスナ顔だった。同じ事できるかって言われたら、修行済コカビエルならやれそうなレベルに仕上がってはいる。現に今も嬉しそうに好戦的な笑みを浮かべてるしな。いや待てなんでいるんだ堕天使勢?

 

「破壊跡の規模からすると曹操のが威力は上だァな。とはいえ、この時点でこれじゃ覇どころか禁手(バランス・ブレイカー)を解禁しただけでもやり過ぎなのは見えてっし、計測不能で殿堂入りさせとくぞ」

「「なん……だと……」」

「そしてここからは競技会の開幕だ。集まった面々は奮ってご参加しといてくれ」

 

 

こうして紫炎のアウグスタは廃人になる直前くらいまで神器(セイクリッド・ギア)を強制的に起動させられ、その日は尋問をし損ねるのであった。ラヴィニアには叱られた。

ちな、途中で若魔女がお師匠様が死んじゃうからと止めるよう懇願してきたので、弟子だと判明した。四代目の候補はいるのかって聞いたら泡吹いて気絶してたが。ウケる。

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