抗議の名目で襲撃を決行した『オズの魔法使い』の(形式上には)使者が捕縛された次の日。ルキフグス領はしかし全く普段通りの朝を迎えていた。
被害らしい被害がなかったからなぁ。数年前に一度だけ起きた冥界イナゴによる蝗害のがずっとヤバかったわ。アレほどニフラム下さいと願った事態は経験した事がねぇのよ。アバドン家はアレを自在に引き起こせるんだろうか。
ちな、それなりの数で攻めてきたオズだが、大半は雇われだったり誘われてホイホイついてきたりな別所属または在野の魔法使いだった。
そして『オズの魔法使い』所属の連中に関しては基本的に犯罪者として留置所に拘束。そんでその中から適当に選んだモブ魔法使いをスライムに支配させた上で昨日の映像と伝言を持たせ、本国へ返しておいた。スライムにそれっぽい演技をお願いしたんで、向こうで対応した連中は精神的にキツい思いをさせられるんでねーかな。末端だろうと
これで態度を改めるなら良し、強硬姿勢を強めるならそれはそれで二度目を予防するために先制攻撃する名分が立つ。なおグレートレッドにちょっかいかける時点で世界の敵認定され攻撃を受ける理由になりかねない模様。
「次元の狭間で活動する用の個人用結界は問題なく作動してるっぽいか」
「また簡単に言ってるが、革命的な発明だからな?」
そうして迎えた二天龍の特訓日。やってきました次元の狭間。某最終兵器とか無の力マニアとかその配下おらんかな。あと歌舞伎役者っぽいやつとか。神竜ならぬ真龍はいるが。
「イッセーは平気か?」
「まだちょっと慣れないっすけど、どうにか」
「我、イッセーのこと支える」
「おっ、サンキューなオーフィス」
結界の効果により無重力空間に似た感じで消滅の危険がなく動けるようになってるものの、そもそも無重力空間で活動する機会なんてないからなぁ。重力下で空飛ぶのとは少し違うし。
オーフィスは全く問題にしてないが、元よりここが生まれ故郷なんだったっけかな。少なくとも一時期は帰還を渇望してた場所だし、過ごし方は心得たものなんだろう。
ちな、前回というかグレートレッドとの交渉に赴いた際はオーフィスが展開した結界に全員で収まりまとまって進んでいたそうな。今回は戦闘があるんで個人で動けた方が良いだろうって事で魔道具を制作したわけだ。
いうてグレートレッドの攻撃に耐えられる強度はねぇだろうし、破壊されたときはどうしようかね。
とりま肉体消滅時には龍神ぼでーだと思ってたら実は真龍ぼでーらしいおニューな肉体に転生というか再生というかは可能っぽい事がオーフィスに確認できてるんで、一瞬で消滅させられた場合は次元の狭間適性を得た二天龍・改とかにグレードアップする予定。魂の保護はこっちで対策してあるし、オーフィスの太鼓判を押されてるんでそこの心配はしてない。
「アーシアは平気か?」
「はい。大丈夫です」
アーシアは問題発生時の説得役と、料理の補助というか一品おかずを作る使命があるんで強制参加。まぁ本人は手乗りグレートレッドと仲良くなったんで会いに来るのはむしろ歓迎だそうな。肝が据わっていらっしゃる。
「ん、ぉぅ!?」
進む事、体感で十分前後。何やら豆粒サイズの赤い点を視認した……と思ったら、声を出しかけた段階で目の前に巨大なドラゴンの姿が迫っていた。
「グレートレッド、久しい」
「数日しか経ってないんてすけど!?」
オーフィスが全く動じてないのはわかるが、ツッコミに回れるイッセーもすげぇな。前回で慣れたのか、あるいはドラゴン属性で耐性があるのか。
〈ずむずむいやーん〉
「す、ずむずむいやーん」
とりま当のグレートレッドはといえば、デカいままアーシアと謎の挨拶を交わしてる。
やや言葉に詰まってるが、それは謎挨拶に困惑してるんであって、グレートレッドに気後れしてる感はねぇんだよなぁ。アーシア、パない。
……いやこれ原作にあるおっぱいドラゴンの歌だろ。平行世界の出来事を夢経由で見たりできちゃう系だったりするんか。地味に向こうでイッセーが頭抱えてるんだが、性癖に影響でたりせんだろうな。
つーな仮にそうだとしたら、奇跡の億や兆が起きてこの場でグレートレッドを倒せても平行世界の同位体がいる限り不滅だったり、それ以前に倒したと思ってたらいい
「えっと、バールドさん。こちらグレートレッドさんです」
おっと、現実逃避したくなる可能性にかまけてる場合じゃねぇな。挨拶は大事。
「ドーモ、グレートレッド=サン。バールド・ルキフグスです。」
〈ドーモ、バールド=サン。『
むぅ、よもや
まぁ逆に言えば特訓する二人の命は心配しなくても平気だと考えてもよさそうか。なんとなく一度は消し飛ばされる前提が生まれた気もするが。
「今回は領民がお世話になります。希望された料理については腕を振るわせてもらいますのでよろしくお願いします」
〈おけまる〉
わぁ、軽ぅい。親近感を湧かせるにはちょっと足りんけど。つかみどころがないのも夢幻って事なんだろうか。なんとなく深く考えたら負けな気もする。
とりま、アーシアを参考にして礼儀正しく誠実なのが正攻法というか、一般的なマナーを外さなきゃ加減を損ねる事はなさそうだ。なお初手ニンジャの挨拶とかいう大暴投。
「さて、それじゃ始めようか」
『
「いきなりかよ!? ドライグ!」
『応! 様子見など考えるなよ、相棒!』
『
やる気満々で我慢しきれないと言わんばかりに
〈グレートレッドは様子を見ている〉
「へ?」
「なるほど。兵藤一誠、君に倍加の時間をくれるようだ」
「な、なるほど。なら遠慮なくいくぜ!」
対するグレートレッドは戦闘態勢に入った当代の二天龍を前に不動の構え。ご丁寧に二天龍の前にウィンドウが表示され、その内容――つまり自分の行動を口に出してアピールしてれる親切仕様だ。様子見するなと助言したドライグの心境やいかに。
『
イッセーが現時点で耐えられる倍加の限界は七回まで。それでも百二十八倍であり、一万%以上だと考えればスマホゲーRPGの末期にでもなければ滅多に見かけない数値だ。
しかもこの世界のイッセーは適宜肉体をドラゴンに置換している上にほぼ実戦形式の模擬戦を含むトレーニングを積んでいるので、基礎スペックが原作の転生悪魔時代以上となっていると思われる。ぶっちゃけ直撃すればアタシなら魔力による防御各種の軽減を考慮した上で瀕死になる程度には威力パない。
「いくぜ、ドラゴンショット!!」
〈柔らかな羽毛の束でくすぐられているかのようなじれったさを感じます。6点〉
「ろくぅ!? いやでも十点満点なら半分より上だし」
〈百点満点で〉
「ぐはぁっ!?」
まぁだからってグレートレッドに通じるかってのは全くの別問題なんだがな!
「次は俺だな。バールド、力をもらうぞ!」
「はいよ、っと」
中学生に赤点評価は余りに酷だったらしく、方向が曖昧な次元の狭間にあってなお崩れ落ちるとしか表現できない反応を示し沈黙したイッセーを一瞥する事もなく、ヴァーリが半減による力の上乗せを要求してきたので許可する。
『
「うおおおぉ、はぁっ!!」
ハイタッチ気味に手を打ち合わせ、抵抗する事なく半減を受け入れ、減らした分の力を得たヴァーリが極大魔力弾による渾身の一撃を放つ。
「まったりとしてコクがありそれでいてしつこくはないさっぱりとした味わい。しかしながら素材の味を活かしきれていない印象は否めないので改善に期待。29点です」
「ごふぅ!?」
嗚呼無情。ヴァーリも赤点だった。
まーやった事はアタシのほぼ全魔力を上乗せしてブッパなんで、変換効率とか距離減衰とかの無駄を考慮していけば実のところ三倍いかない攻撃ではあるだろうからなぁ。
いっそオーフィスに燃料もらった方が良かったんだろうが、その場合は半減した分を吸収しきれず自爆するような末路を迎える可能性が高かったろう。グレートレッド相手でも同様に。欲張るとロクな結果にならんのよ。
それでも点数はイッセーの五倍近いわけだから、現時点における二人の実力差も見えてくる。いうて単純に出力だけの話なんで、ここに技術や身体能力が合わさると差は更に広がるわけだが。
しかしながらヴァーリは十年近くルキフグス領で
〈それではこれらの結果を踏まえ……〉
二天龍が立ち直れていないが、グレートレッドが口を開く。果たしてどのような特訓内容となるのか、観客であるアタシ達が見守る中、グレートレッドは言葉を続けた。
〈まずはご飯を作ってもらいます〉
……コレ、見限られたんじゃねぇよな?
そんなわけで唐突なクッキングタイム。いやまぁ予告されてたし、備蓄は
ひとまず炊いておいた米を炊飯器ごと取り出し、アーシアにおにぎりを握ってもらう。シンプルな塩むすびから梅干し、おかか、昆布にシーチキンマヨやら辛子明太子等々の具材入りまで幅広く。量を食うのは聞いてるしどんどん作ってもらう。
その間にこちらも後は火を通す直前まで工程を進めてある唐揚げやらハンバーグやらを作っていく。おにぎりの具材にも使えそうだし、いくつかアーシアへ渡しておくのもありか。
なお、グレートレッドは以前聞いていた手乗りサイズにまで縮んで少しずつ出来上がりを摘んで……抱えて食べていた。どうやら今回はアーシアの勧めに従いよく噛んで味わいながら食しているらしく、減っていく速度は人並みだ。現在のサイズは考えない事とする。
そしてオーフィスもグレートレッドに負けじと味わって食べている。何の勝負だとツッコミ入れたら負けなんだろうな。
その後もカレーやシチューといった量を用意しやすい家庭料理メインで作っていき、その内にグレートレッドから満足したと声が上がった。詳細な調理風景の描写は自爆飯テロするつもりはないんで飛ばしておく事にする。
〈訓練前の腹ごなしは十分〉
「ふっ、ここからが本番というわけか」
「ほっぺに
「……君の緊張感を和らげるための演出さ」
「はいはい、どーも」
ヴァーリが安定した環境で育ってるから変に挑発しないし、二天龍の因縁も幼少期から曹操って身近なライバルがいたからそこまで気にしてないんよね。イッセーもイッセーでオーフィスを射止めるために強くなる事に貪欲で、強敵へ挑む必要性を理解というか実感してるらしいから向上心あって評価高めだし。
要はなんだかんだ仲良いんだわ。
同じ方向を見て並び立つ二天龍とか各勢力にとっちゃ悪夢でしかないが、そこに『
普段から研究と遊びのどっちかをしてる姿しか見せてねぇが、地味にもう二度とリリスを失わないためにと
つーか規模の小さい擬似的な願望器じみた魔力の特性と人間の
閑話休題。
〈それではこれより午後の部を開催します〉
「午前の部短いな!?」
「ふっ、ようやく実戦か。腕が鳴るな」
腹ごしらえを済ませ、改めて向き合った三者。
ところでグレートレッドが手乗りサイズのままなんだが、指摘するのは野暮だろうか。うーむ、イッセーが触れてないなら放置安定って事で
「行くぞ兵藤一誠! 俺達の戦いはまだまだこれからだ!」
「いやそれ打ち切りのフラグぅ!?」
ヴァーリが不安になる台詞を吐きながらグレートレッド突っ込み、すっかりツッコミ役が板についてきたイッセーも続く。
一応、真っ直ぐ最短距離じゃないし二手に分かれてるから最低限の工夫というか、相手が迎撃してくる見込みではいるようだ。
〈ククク、その程度の力で……何ぃ、ぐわあああぁぁ!!〉
「えぇぇぇぇぇ!?」
そんでヴァーリの蹴りがグレートレッドを派手に吹き飛ばした。一体何が起きてるのか、思わず目を疑ったのはアタシだけじゃないと思いたい。イッセーも叫んでるし。
「ふっ、やはりな」
「どういうこったよヴァーリ!?」
予想が当たったらしく、ヴァーリがドヤ顔で呟いた。
「グレートレッドは……お約束に弱い!」
「な、なんだってー!?」
そして明かされるヴァーリの予想。それはまさかのフリに対して乗っからずにはいられない悲しき芸人根性だった。マジかよ。
こうして攻略法を見つけたヴァーリは戦闘を優位に進め、飽きてきたグレートレッドの
なおイッセーは先んじてグレートレッド女体化を狙ったネタフリをするもその後の対応を誤りビンタを受け、無事(?)脱落していた。アーシアに回復してもらったから怪我は治ったものの、意識がトンで戻ってきてねぇのよな。白目剥いたまま。
こうして二天龍がお労しい姿に変わり果ててしまったので、この日の特訓はお開きとなった。
それでもお腹が膨れて途中からお昼寝モードに入っていたオーフィスが起きるまで続いたんだよなぁ。ヴァーリはグレートレッドの気が長い事に感謝するべきだと思う。いやまぁそれだけの間ずっとネタフリし続けてきたヴァーリも大概だが。
〈それなりに楽しめた。次は違うパターンを希望する〉
なんだかんだグレートレッドは楽しめたようで、当たり前に次回の開催に対する要望を告げてきた。微妙に戦闘時のネタフリじゃなく料理目当てなのではと思わなくもないが、わざわざ真相を明かす必要もないだろう。
「こちらこそ、感謝を。二人にはいい刺激となったでしょう」
「グレートレッド、また来る」
「グレートレッドさん、また今度。それまでお元気で」
〈息災でな〉
こうして予想を遥かに上回る極めて常識的な範囲内で特訓は終了した。
事前通達済だし、オズの本国から襲撃とまではいかずとも偵察とかならあるかなーと思ったが、よくよく考えたらグレートレッドに察知されてカウンターされる可能性を増やすくらいなら閉じこもって祈る方がまだマシか。
これで次回あるとか聞いたらどうなるんだろうな。今回無事だったから次回も平気と開き直るか、今回無事だったが次回はもしからしたら……と悩みに悩むか。
まードラゴンの気長さと二天龍の成長速度が合わさって最終的に特訓中ついうっかり強めに放出された力の余波とかで事故る可能性は高いと見てるが。薙ぎ払いブレスとかされたら距離の減衰起こらずに射線上の諸々が蒸発しそうだし。
ファントム・ブレイブで時間が取れない予定でしたが、充電中は電源を切るタイプなのでチマチマ書いてました。おかげでどっちも亀の歩みですが。