聖書の神なら立川で鳩サブレ食ってるぞ   作:夜月工房

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45.仕事が増えてたよ!

「……あの、どうして私達は次元の狭間でラーメンを食べているのでしょう?」

 

箸に慣れていないグレートレッドに合わせてフォークでラーメンを掬いながら食べるアーシアが首を傾げる。まぁ思い切りお別れの挨拶をしたんでそのまま帰るのが普通よな。ほぼ食べ終わったタイミングじゃなかったら説得力というかが段違いだったんでねーかなと思わなくもないが。

 

「イッセーは知らンが、ヴァーリならラーメンありゃ起きてくると思ってな」

「バールド、胡椒を取ってくれ」

「白で良かったか?」

「あぁ」

 

アーシアに答えたタイミングで、スープを温め始めた瞬間に覚醒を果たしていたヴァーリが三度目の替え玉にして一度目の味変をする。数時間全力で頭働かせながら体動かしたわけだし、ドラゴン属性だし、まだ食うのは確定だろうな。

ちな、イッセーは出来上がってからオーフィスにご飯は温かい内に頂くのが礼儀だと叩き起こされてた。こちらはマイペースに替え玉ではなく二杯目を注文している。麺とスープだけでなく具材も食べたいお年頃のようだ。もっと言えば自家製チャーシューと味玉が目当てっぼいんでピンポイントに注文してくれても良いんだが。

 

〈啜るというのは中々に面白いな。普段と変わらず一緒に食べるのともまた違った感じだ〉

 

グレートレッドもラーメンは口に合ったらしい。今回は鶏ガラベースの醤油ラーメンだから、次回は別の味に挑戦させるべきだろうな。あとフォークを使う際スパゲッティみたいに巻き取らせなかった成果もあるだろうからアーシアには別途褒賞が必要だろう。

つーか次回まで待てるだろうか。勢い余ってルキフグス領(うち)まで来たりせんよな。オーフィスが滞在中な時点で今更ではあるが、唐突な二体の喧嘩で冥界終了のお知らせをされると開拓って目標の達成が不可能になるんよね。その可能性を減らすにはアーシアと餌付けが重要になりそうだ。

 

 

「次回はもっと迫ってみせる」

「俺も新技を開発してびっくりさせてやるぜ!」

〈頑張りなさい、子供達よ〉

 

そんな心配は杞憂に終わり、二天龍とグレートレッドも再会というか再戦を誓い特訓はお開きとなった。どうやらグレートレッドも食事で得た楽しみを反復しながら微睡む予定らしい。

 

 

で、帰って来ましたルキフグス領。

 

「おー、領主くん。なんか日本の五大家が虚蟬機関の残党に襲撃されてどっちも被害甚大らしくてさー。日本神話と日本地獄から治安維持の代行してくれって頼まれたからオッケーしといたぜ☆」

「何してくれてンだ関係者一同」

 

したら早々にリゼヴィムから爆弾が投下されたよね。

タイミング的には確かに五大家の上というか中枢というかが大幅に弱体化して、対する虚蟬機関は本部勤めの恐らく主力が残ってて、またとないチャンスに見えたか。そんなんやらかして共倒れの挙句に見かねた上司が悪魔へ委託とか笑うに笑えねぇがいっそ笑うしかねぇ事態なんだわ。

いうてそっちに回せる人材がなぁ。人外はクーデター誘発させそうだし、人間でも若者だと年功序列思想の日本人は反発必至だろ。いっそそれらを鎮圧してしまってもいいが、それやると余計に人手が足らなくなっちまう。

何にせよ、まずは実態の把握が先か。元より教会や悪魔が跋扈できてる程度の治安だし、膨れ上がって中身がスカスカな組織は不要な可能性すらある。いっそその辺の業務改革(せいり)を期待されてたりは……せんよな、流石に。

 

しかしオカルト関連の治安維持となれば、現地の妖怪勢力が了承するだろうか。結局人外じゃねーかって話だが、人間がアテにならん以上はなぁ。地元だからまだマシと溜飲を下げるか、地元だからこそ因縁持ちで余計に屈辱かは知らん。海外からポッと出の若造に支配されるよりはマシだとは思うがね。

さておき、西は裏京都と繋がりあるし、以前の旅行で八坂自らが鬼灯様へ挨拶を頼んでたからどうにかなるとして。

東はどうなるんかねぇ。確か猫又の参曲さんが東の有力者だったような。しかしそもそも中心的な役割を果たすのは遠野なのか関東なのか。総大将がぬらりひょんだとして、鬼灯様に一筆もらえば表面上は従ってくれるだろうか。でも鬼いさん時空のぬらりひょんって総大将じゃないんだよな。隠神刑部みたいに別個体ってパターンだったりするんかね。

つーか個人的にはこっちの意向を汲んでくれるなら、国内で妖怪にデカい面させても一向に構わんのよな。人間への健康に対する最低限の配慮さえしてもらえるなら実質的な支配を丸投げしたい。

まー今回の件に発展した原因で温羅や隠神刑部(にだいめ)がやらかしてる西は厳しい可能性もあるか。思えば妖怪から人間へのではあったが、西から東への侵略でもあるから普通に色んな方面に喧嘩売ってた案件よな。後先考えず思うがままに振る舞うのは妖怪らしい気がしなくもないが。

とはいえ、管理責任で鬼灯様にお言葉を頂戴した八坂が九尾ってたそうだから引き締めできてるとは思うんだがな。その場に居合わせたいつの間にか生まれてたらしい九重が畏怖じゃなく憧憬の瞳を向けていたようで、鬼灯様に素質ありだと見込まれてたし。原作崩壊の音がした気がするよね。今更だって? それはそう。

 

 

「そういったわけで親書を送らせてもらったわけですが」

「実質脅迫状じゃねぇか」

 

そんなわけで数日後、東京の一角にある古風な屋敷へ訪れていた。

眼前には長い後頭部の特徴的な好々爺。変化(ばか)してる風はないから本人だと思われるが、東の妖怪をまとめる総大将であるぬらりひょんである……うん、総大将だったけど別個体だったわ。この辺の設定はガバガバだけど夢だからの一言で押し通る気なんだろうか。でも妖怪って元より噂や法螺話の一人歩きによる概念というか、とらえどころのなさが強みな感じあるしなぁ。知らんけど。

ちな、視界の隅には簀巻きにされた二体の妖怪の姿が見える。血気に逸った実力のある若者がやらかす前に鬼灯様の容赦のなさを知ってる面子から鎮圧された感じかね?

 

「ハハハ、総大将ともなると御冗談もお上手なようで」

「お前さん、同じ立場で同じ内容の書状もらったらどう思うよ?」

「地上にいる悪人を捜索しては改心させる時代劇じみた行脚が始まると思います」

「だろうがよ」

 

いやね、居場所とか知らんから日本神話と日本地獄に立てた計画を説明して、東側の妖怪に接触する方法を尋ねたら、鬼灯様が現地視察のついでに渡してくると仰られまして。そりゃ地上住みの妖怪っても地獄のお偉いさんが正式に訪問してきたらぬらりひょんも粛々と受け入れるわな。

そうでなくても聞こえてくる噂から逆らう気にはならんだろうし……もしかして簀巻き妖怪は鬼灯様に失礼を働いた前科持ちなのか? 命知らずにも程があるだろう。知らないって怖いわー。

 

「日本神話と日本地獄の連名である以上、面子に関わるので半端な真似をするつもりはないです。が、我々部外者が中心になっては乗っ取りの心配もありますし、日本国内の力を結集する方が後々のためにもなるでしょう」

「言ってる事はわかるがよ。だったら最初から俺らに頼めって言ってくれりゃ良いじゃねぇか」

「推薦する側の責任がありますからね。面識のない相手に任せるとか正気の沙汰じゃないでしょう。そのために今回の会合をお願いしたわけですし」

「道理だねぇ。とはいえうちに直接その話が来なかった以上、俺の面子は丸潰れなんだがな?」

 

ジロリと睨み、じんわり威圧をかけてくる。

 

「そりゃその面子のせいで主導権争いが始まって共倒れされるのが見えてますからね。人間が似たような事で弱体化したばかりなのに人外でもやらかされたら良い笑いものの種にされる」

 

つーかその面子どうこうって文句はまず日本神話と日本地獄に言えよと。言えるわけねぇだろとか逆ギレすんなや面子どこいったよ。

 

「まぁ、話は分かった。お前さんの言う通り血の気が多い若い衆は暴走するだろうし、そこから抗争じみた流れに発展するってのは予想できる話だ」

 

で、愚痴愚痴と吐き出したらスッキリしたのか、こちらの懸念を肯定しつつあっさり受託した。

 

「だがよ、逆に言やぁその不満がお前さんに向くわけだが平気なのかい?」

 

そして心配……に見せかけた脅しか。まー向こうとしても上が頼りないのは困るだろうし試したいだろうな。

 

「ご心配なく。面子商売は悪魔(うち)も同じですし、あれこれと考えるにも最終的に黙らせるだけの腕っぷしがある事は大前提ですので」

「ほぉ……」

 

でも喧嘩売られたら買うんだわ。妖怪社会も弱肉強食、上下関係を仕込んでおくのは悪い手じゃない。

つーかぬらりひょんの能力ずっと発動しっぱなしっぽいんよね。頼み事をしてきてないのは抵抗(レジスト)されてるのを把握してるのか、あるいは日本神話と日本地獄を立ててるのか。

 

「証明のために、外で様子をうかがってる方々やそこで簀巻きにされて転がってる方々と腕試しするのもありですね」

 

お好きでしょう、そういうの? そんな言葉を続けてみれば、返ってきたのは獰猛な笑みだった。笑顔とは本来攻撃的な以下略。

 

まぁ、そのまま発生したイベント戦闘では悪魔に不満ニキネキを説明するまでもないレベルで鎧袖一触に吹き飛ばしたわけだが。

 

「な、何故だ……」

「流し斬りが完全に入ったのに……」

「ほぼイキかけました」

 

強者特有の圧を感じないって、擬態くらいするに決まってるだろと。それで雑魚に絡まれるのは時間の無駄と言われりゃソレまでだが、塵が山になるほど積もるより早く噂が走るさね。

むしろ強者に嗅ぎつけられて絡まれる方が嫌だ。特に邪龍とかは強いのは強いんだがそれ以上にしつこくて相手の嫌がる事を知能なり本能なりで的確にやって来る点がとことん厄介だしな。罰としてだろうと地獄で働いてるヤマタノオロチを見習えと。

まぁ基本封印されてるから見つけたら超絶よわよわぼでーに転生させてほぼ無力化した上でルキフグス領に招きアーシアによる懐柔を行う予定だが。アジ・ダハーカって成功例もあるし。

そんなアジ・ダハーカだが、最近はアーシアの護衛をしてくれてる元量産型ミドガルズオルム試作型の一候補だったムニムニを構っているらしい。魔法教えたり体鍛えさせたり、助言メインだが割と真っ当な感じだとか。同族意識は高めよなドラゴン。普通に喧嘩する(ころしあう)けど。

しかし思うんだが、悪魔の魔力を人間が扱えるようにマーリンだかアンブロジウスだかが云々したものこそ魔法って設定なかったっけ。アジ・ダハーカが千の魔法どうこうって伝説持ちなのとちょい噛み合わん気がする。どっかで魔法と出会ってドハマリしたインテリ系邪龍とかいうお茶目な逸話が存在する事になるから個人的には好ましい話だが。

さておき、邪龍の弱体化転生についてはドラゴンって種がどこまでいけるか可能性を見届けたい最強の邪龍(クロウ・クルウァッハ)の機嫌を損ねそうな所業ではあるんよね。二天龍の育成してるし、これも暴れん坊な邪龍達に平穏を体験させて変化を促す試みって事で見逃すまでいかんでも見極めようとしちゃくれんもんか。

 

「いてて、腰が……寄る年波にゃ勝てねぇか」

 

ちなみにこっそりぬらりひょん自身も参戦してたが、こっちの初手全力範囲攻撃に巻き込まれて乙ってたらしい。全く気づきもしなかったって事は認識阻害がしっかり機能してたわけで、後で知って冷や汗もんだったわ。零落した神って説もあるし権能なんかねぇ。鍛えねば。

 

「まぁ、流石にこんだけあっさり死者もなく片付けられちゃぁな。うちの衆だって文句の言いようもねぇや」

「良い返事を頂けて助かります」

「とはいえ東西の縄張りが接してる場所の緊張は避けられねぇぞ? 問題は起こさねぇようにキツく言っとくが、気疲れに関しての補填は欲しいねぇ」

「ふむ」

 

何を贅沢な、と言いたいが、労働環境を整えるのも雇う側の義務ではあるか。いやどうだろう、妖怪界隈に企業コンプライアンスってあるんだろうか。どっちかってーと反社に近い体制だろうに。

しかし補填か。日本妖怪的にもらって嬉しいモノを考えようにもぶっちゃけ生態によりけりだからなぁ。人間社会に溶け込んてる連中なら金銭は普遍的な価値を持ってるが、それは給料で支払うのが筋だろう。

つーか何が楽しくて事実上の敗者に一方的な施しなんぞせなあかんのよ。少なくとも双方に得のある内容のが健全だろ。こっちとしちゃ娯楽やらでルキフグス領に移住させられたら人手が増えて助かるし、誘致に繋がる観光ツアーとかかね。

いや、短期の特別な体験だと移住には繋がらんか。ある程度の期間を過ごせて環境を好きになってもらう事を狙うなら……そうだな。

 

「冥界の自領に日本妖怪用の別荘でも建てますか?」

「税金しこたま持ってかれるやつだろそれ」

「流石にその辺の融通はしますよ。心苦しいとか怪しいとかで嫌ならレジャー施設の優待券や年間フリーパスとかでもいいですが」

 

ぬらりひょんのツッコミは的を得てるが、流石にそんな押し売りみてぇな真似はする気ねぇのよ。

ちな、ルキフグス領の税金は住民税と土地を対象とした固定資産税だけ。計算が面倒なのと、そもそも予算に困ってないからな。それでも領に貢献しない民とか不要って意見は出がちなんで、最低限の目に見える成果として住民税を納めてもらってる。地税は土地の所有権が領にあるんで、まぁレンタル料よな。他人と違う事してるのに対するペナルティというか、溜飲を下げるための措置になる。

どちらにせよ領を趣味の延長(ポケットマネー)で運営できてる程度には金に困ってないわけだから、課税する意味が見出せないんよね。

領から政府に納める分も開拓村的なもんだから貧乏で当たり前的な認識をされて和平までは免除されてたし……各神話体系と繋がりを持ってる事が判明した和平後でも海千山千な神々を相手に取引するなら搾り取られるだけ搾り取られてるから利益を出せないだろうって勝手に納得されてっしな。侮られるのは損して得取れ精神が勝つのとその気になれば相手をすり潰せるから気にならんし、むしろ存分に侮ってこっちに都合良く誘導されて欲しい。

 

「まぁ、話し合う時間くらいくれや。決まったら連絡入れるからよ」

「えぇ、時差があるので通信を入れる際は配慮頂けると」

「おう、仕事自体は引き受けた。責任持って目を光らせておかぁ」

「はい。ではよろしくお願い申し上げます」

 

 

こうして一旦その場は解散したが、数日後には予め渡しておいた契約書の条件で問題ないと回答が得られたので詳細を確認しながら契約を結ぶ運びとなり、日本の霊的防衛は地上の妖怪達が担う事となった。

妖怪の生態から一部は仕方ない面もあるんで免除されてる例外もいるが、基本的に人間への過度な被害に対する予防が盛り込まれてるんで『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』を使って強制下僕化とかやらかそうとしてる悪魔は発見次第消滅させて良しって事になってる。その関連で悪魔の気配に関する検知技術を提供したから、下手すると五大家や傘下が担ってた頃より検挙件数が上がって安全になる可能性すらあるっていうね。

つーか日本人は倶生神が見守ってるから現場の再現が可能だし、恐らく問題が起きた場合はどう頑張っても非が悪魔側にある事が判明するだろう。事実を元にした抗議を受ける羽目になる現悪魔政府の胃がどうなるか、考えるだけでワクワクしちゃうんだ。

そして正式に決定したその旨や問題を起こした場合の対処等を伝えられ、伝手を最大限利用して在野の退魔師なんかに対して通達するよう命じられた五大家の重鎮達は背中が煤けてた。ウケる。

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