二天龍の特訓を終えて帰ってきたら日本の裏側が大変な事になっており、何故かルキフグス領で管理を代行してくれと頼まれてしまった。
冥界の開拓を止めるわけにもいかないんで、手足を増やすべく妖怪達への委託を決定。無事に契約を結べたのがつい先日。
今回は取引先へ下請けとの契約内容を報告というかお伺いをして、ついでに更なる手足の増加を狙って現地在住の妖怪達に地上の妖怪が協力するけど君らどうすると遠回しに伝えるため、日本地獄へとお邪魔していた。
「ここが衆合地獄だよ!」
「現世で邪淫を行った者の堕ちる地獄だ。刑罰も性欲を利用して手酷い目に遭わせるんだが……」
「懲りない面子も多そうだァな」
性欲を煽るだけ煽っても発散できない状況が続くなら延々と悶々して煩悩に囚われっぱなしなんじゃなかろうか。手痛い目に遭って反省できるような奴は来ねぇだろうし。偶然失敗する事なく死ぬってのもあるか、レアケースにも思うが。
つーかこれで反省した場合は以降のハニトラに引っ掛からなくなって結果的に罰が軽く済むんじゃ?
改心してる部分は地獄の目的には沿ってるから問題ないのか、あるいは改心が一時的なもので再犯するだろうから放置して何度でも繰り返させるのかね。
「代わりに獄卒の方が引っ掛かって駄目になっちゃうこともあるんだって!」
本日の案内は犬猿雉の桃太郎ブラザーズ。メインは閻魔大王の補佐官見習いをしている雉のルリオなはずだが、先頭を行き発言数が多いのは犬のシロだったり。性格的なもんもあるだろうし、そもそもシロは散歩扱いで仕事の認識はなさそう。
「あちらに見えるのが金太郎……平安時代に名を馳せた妖怪バスター源頼光の部下である四天王の一角、坂田金時様だ」
「人の趣味に文句を言うのもどうかと思うが、大人になった後もあの格好はどうなんだ?」
「現代日本じゃ金太郎の知名度が高いンで、その期待に応えてあの格好をしてるらしいぞ。おかげで人間達には好評って話だァな」
「それでいいのか日本人……」
今回の目的は、二代目とやらが五大家に襲撃した弱みを持つ隠神刑部。変化できて愛嬌のある個体が多い狸は人に紛れて調査するのに向いてるから割と期待してる。
つまりは衆合地獄の色街? 花街? を進んでるわけだが、途中で同行者達が前掛けオンリーのおかっぱ頭な巨漢を見かけてカルチャーショックを受けたりもしてた。
戦闘狂達が尻込みするとかパネェな、すごいぞ気は優しくて力持ち。でもここの用心棒してるくらいだし、普段の相手は暴走した獄卒の鬼やら客の大妖怪だったりするわけで。それを素手で鎮圧すると考えたら……ねぇ。いざ
あ、今回は並行して行った事のない子供達や同行を希望した者を複数のグループに振り分けて地獄見学させてもいる。アタシのグループは衆合地獄なんで、試練的な意味も兼ねて思春期を迎えた後の面子で固まってるんだが、まぁ曹操やヴァーリといったいつメンだ。客引きに一切反応しない絶食系ぶりに桃太郎ブラザーズも感心半分呆れ半分よね。
「てめぇら、変化の特訓する時間はとっくに過ぎてんぞ!」
「「ひぃぃぃぃ!!」」
と、道中で目的の隠神刑部を発見。デカい狸だから目立つなぁ。
怒鳴られてるのはアレか、変化が下手なカワウソ達。鬼いさん時空の原作が終了してるならそれなりに訓練してもらってそうだが、不思議と上達してないんだろうなぁって信頼がある。あとまたしょーもない詐欺してんだろうなぁって。
「失礼、隠神刑部様でしょうか」
「あぁん? って悪魔たぁ珍しいな」
「申し遅れました。私こういった者でして」
元よりアポは取ってたが、とりあえず見つけた以上はこの場で接触しておこう。ビジネスマン風に名刺を差し出すの一度はやってみたかったんよ。
しかし名刺って捏造し放題なのに何故か一定以上の信頼性があるんだよな日本だと。顔写真があるから騙されたときの手掛かりになるって安心する系かね? 顔面整形するくらい気合入った詐欺師とか少数だろうしなぁ。逆を言えば少数ならそんなガチ勢もいるかもなんだが。
「おぉ、話は聞いてるぜ。うちのもんが迷惑掛けたな」
「いえ、幸いにも被害は軽微でしたので」
「それはそれで不甲斐ねぇ話だが、おかげで罰も軽く済んでるから良しとするしかねぇわな」
軽く扱っちゃいるが、後継含む同族をあっさり退けられたのは指名というか許可した側の面子に響いてるはずよな。恨まれてる可能性も考えてたが、想定してた中ではかなり友好的なパターンだわ。鬼灯様効果かね。
つーか罰は軽めなのか。興味がなかったから知らんかったわ。
「なになになんの話ー!?」
「コラッ! シロ!」
「あー、少し前に地上へ残った妖怪が人間に襲撃かけたって話あったろ」
「おう、それよ」
おっとここで空気を読まず気の向くままに生きて(?)るシロのインタラプト。柿助が叱り、ルリオが説明し、隠神刑部がそれを認める。
「………………?」
「ダメそうだァな」
「まぁ……シロだしな」
肝心の
とはいえ責められる話でもないだろう。地上のいざこざとか不喜処地獄の獄卒やってる犬には関係ねぇだろうしな。
しかしそれを許さないのが真面目なルリオで、こっちが提出した報告書をかいつまんだ内容と思われる経緯を説明していた。
「へー、そんな事あったんだー!」
そしてこの態度である。ルリオが凹んでるからもう少し配慮したって。
「それで結局どんな罰になったの?」
挙句に懲りた様子もなく隠神刑部へ質問している。コレでシロじゃなかったら挑発というか煽りというか、人の心ないんか案件なんだが、シロなんだよなぁ。
「狐のところが失敗したホストクラブを立ち上げて
「ソレ普通にキツい罰なのでは?」
ホストクラブってミキちゃんのバカ兄達が
アレはアレで頭空っぽにして騒ぐのが好きなパリピにはウケそうな気もするが、
それはそれとして、二代目は仮にも大妖怪に認められたおそらくは任侠系の実力者なはずなんたが。女相手に媚びるとか屈辱にも程があるだろ。いやでも妖怪や客の年齢なら互いの認識がバグってて割と平気なのかね。うーむ、わがんね。むしろどうでもいい。
「まぁ立ち話もなんだ、予定通り詳しい話はうちでしようじゃねえか」
「それではありがたく。曹操、後はルリオ様達と適当な時間を潰して他の面子と合流しててくれ」
「わかった。頼むから余計な
「前向きに検討させて頂きます」
「ダメなやつじゃん!?」
むしろ大歓迎とか書いてる笑顔の曹操だったが、そんな鬼灯様に喧嘩売るような真似ができるはずもないだろうに。あるとしたら亡者の暴動を鎮圧するとかの方向か?
「おう、今日は自主練だ。次回にキッチリ成果を見せてもらうからな」
「「へ、へい! わかりやした!」」
どうやら早期に接触した事で予定が繰り上がり、あっちの予定はキャンセルになったようだ。なんか悪いね。
いやでもなんか休みになってラッキーって顔してんな。自主練って言ってるはずなんだが。まぁいいか。
と、いうわけで隠神刑部が
炊いてある香がキツく感じるのは、二重の意味で獣臭対策だろうか。失礼な話かもしれんが、そういう場所だし狸だらけだし。後者に関しちゃ妖怪化すると臭腺とか生態とか変わるんかね? 少なくとも前の客の残り香とかやらかさないよう風呂の頻度は上がってそうよね。
「そんで、細けぇ話は抜きにしようや。何をしてほしいんだ?」
おいおいおい、狸ってのは悪巧みやら取引上手の代名詞だろうに。流石に面食らって言葉に詰まったわ。
とはいえ長生きしてる大妖怪な事実は覆らない。老獪さは備えてて当然だし、この場合ならどんな話でも流れを操れるって自信の表れと見るべきか。
「鬼灯の旦那に可能な限り便宜を図るよう言われてんだ。遠慮すんない」
「アッ、ハイ」
違ったわ、恥っずかし。そして鬼灯様に頭が上がらん理由が増えたよ。いやまぁ向こうからすれば
「まァ端的に言えば裏側の治安維持を目的に監視の目を増やしたいわけです。地上、地獄、あるいは天国等を問わず募集する予定ですが、報酬は頑張らせてもらう反面行動にはそれなりの縛りを強制する事にもなりますからね」
「そこで俺の一言があれば、ってか?」
「狸のような変化に長けた妖怪なら人間社会へ溶け込んで目を光らせる事も容易いですからね。別に人間に化けずとも、一部は元の姿でも可能でしょうし」
「本来なら地上の話だ、あの馬鹿に話を持ってけって言うところなんだが……あの馬鹿がやらかしやがったせいだからなぁ」
思い出し怒りで表情を険しくしたと思ったらしょんぼりと項垂れる隠神刑部。感情が反復横跳びしてらっしゃる。尻尾が垂れてるの地味に貴重なシーンなのでは?
肝心の二代目は受刑中だし、仮に動かせたとしても返り討ちにされたせいで実力を疑問視されたり軽んじられたりな可能性も高そうだしなぁ。そんときゃナメた相手にわからせるというか思い出させるんだろうが。
「しゃーねぇ、一度引っ込んだ身で出しゃばるのはダセェが、故郷のために一肌脱ぐか」
「ありがとうございます」
メッセージ一つでそんな大袈裟な、と思いつつも、重鎮しかも隠居済がその重い腰を上げる時点で相当な大事だって扱いになるのもわからんでもない。今回だとわざわざ地獄から地上のために動けってくらいだし、何もしないと海外の神話体系に侵略されて自分の居場所が奪われるぞって警告にすら聞こえるわな。
事実、杞憂だとか絵空事ってわけじゃないし。やらかす可能性が一番高いのが聖書勢力な辺りは頭痛の種だが。こちとら悪魔の身ではあるものの悪魔という種を半ば見限ってるから、政治的配慮が不要で処分を即断即決できる事だけは救いか。
最近は領地も広がったし、開拓者の数も増えた。なお密度。で、安全配慮のためのアレコレも個人で提供するのはキツくなって工場建てて移管しちゃいるが、そっちの負担も馬鹿にならんからな。
つまり安全への配慮が不要な――使い捨てできる労働力をですね。鉱山奴隷的な。駒持ち悪魔なんてお貴族様確定なんだし、体は頑丈で体力もあるから休みも少なくて済む。
最近じゃ割合は下がったし大半は元がつくが、領民の結構な割合がはぐれ悪魔だし溜飲を下げる効果も……いや、不快害虫みたいに姿が見えるだけで嫌悪感や忌避感を抱く可能性のが高いか。この
いや待て、連中の聞くに堪えない
「ところで、聞けばお前さんそれなりに遊んでるそうじゃねぇか?」
「はい?」
と、隠神刑部が空気をガラリと変えて笑みを浮かべながら言った。なんつーか、下卑た感じの。
「どうよ、うちでも一人二人相手にしていかねぇか? 連れには上手く言っとくからよ」
「生憎と公私は分ける方でして。少なくとも用件が済んだなら鬼灯様に協力を得られた旨を報告しなくちゃなりませンからね」
「おぅ、そいつは邪魔てきねぇな……」
なんて事はない、お店のお誘いだった。確かぽっちゃり体型が売りの店だったっけな。別に極端じゃなけりゃ体型に好みはねぇし、房中術に手を出してる以上はあんまり言える立場でもねぇが、店を使って遊びでってのは性に合わん。なお性自認。どうしてこうなった。
とりま今後の予定を一部公開したらあっさり引き下がった。心なしか気持ち的にも引いてるような? 鬼灯様の名前が魔除けみたいな事になってんな。さすが鬼灯様。
ちな、駆け引きとかなかったおかげで予定より早く終わったんで、この後はまだ誰かしらいそうな狐カフェを体験し、その後で狐が失敗したホストクラブをやってるらしい二代目を冷やかしに行く予定だったりする。
確かに用件が済んだら報告するとは言った。だが現時点で全ての用件が済んだとは言ってないのだ……! 一応は曹操達の相手をしてもらっちゃいるが桃太郎ブラザーズも待たせてるしな。
……あれ、動物系カフェとかあの三匹は楽しめなくね? あかん、予定の立て直しせな。