「……本当に戻った」
「体に違和感は?」
「い、いえ! 特にありません!」
なんか畏まられた。あるいは異形化が精神面にまで食い込むなら命の恩人に近いのかね。理性を失って姉妹で殺し合う可能性とかもあったなら恐怖だわな。
しかし今更ながらにケモケモしい方がオリジナリティと需要はあったんじゃねぇかと思う次第。ぶっちゃけモフりたかったというか肉球をぷにりたかった気持ちが無いとは言えない。モフモフは、ホラ、最上級の毛並みを持つエイジャがいるからな。
「怪我も治ってる」
「え、嘘……ホントだ」
そんなマルバス姉妹は一般的な悪魔の容姿、つまり人間と大して変わらないものになっている。猫耳すら無い。フェニックスが常時燃えてないみたいな感じで表出してないだけだろうか。むしろ猫姿の理由は駒を与えた側の特性を反映してた方が適当か。意外と主は宗家の生き残りだったりしてな。
なんか姉は顔に大きな傷痕があったらしいが、今は痕跡を探す事もできないくらい綺麗なお肌をしてる。喋りはボーイッシュだけど見た目は妹同様に深窓の令嬢なんよね。多分戦闘では揃って後衛職やってそう。態度といい見た目といい猫のときは近接っぽかったんだが。
まーどうでもいいか。戦闘の機会はそう多くないだろうが、鍛える以上は遠近両用になってもらうし。レーティングゲームとか領地開発の邪魔にしかならない時間の無駄なんで参加予定ねぇのよ。お家再興を考えたらゲームの成績が手っ取り早いが、異文化交流して実績出しちまえば代用できるしな。
仮に実力を見せろってゲームへの参加要求をして来た場合は、ルールありのごっこ遊びしてる連中が邪魔すんなって文句言って実力を見たいらしい連中の領地に宣戦布告だな。もちろんそれまでに個人的な友誼を結んだ神話勢力使って蹂躙よ。この世界のノリだ、合法的に積年の恨みを晴らそうぜって声掛けしたら主神級が遊びに来ても驚かんぞ。まぁ解析されるのを嫌って静観する方が多数派になるとは思うが。
そして『
「手元に残る事が判明したわけだが、これ使用前後で何か変わってたりすンのかね?」
『本来は魔力の痕跡とか残るんじゃないっすか?』
「確かにこれだけ綺麗だと浄化されていると見る方が自然ですね」
うん、何の痕跡も全く残ってねぇんだよ。加害者なり被害者なりの魔力とかか染み付いててもおかしくないのに。知らんけど。
しかし駒が戻らない以上は生きてる判定で姉妹の追跡を諦めない可能性も残ったわけだ。が、見つかった時に返り討ちにする実力を獲得してりゃいいだけの話だな。駒に発信機の真似事ができるとは聞いた事ねぇから発見まではそこそこ時間を稼げるだろうし、浄化済みなんで戦車のキャスリングもできまいて。
思えば原作の和平会談であった
領地を襲撃される可能性に関しては、人形兵が領地の境界に沿って害獣避けの柵を築いてくれたし、許可なく前触れもなく入った者は処すんで現魔王派に連絡しろって札も立てた。そのまま二十四時間体制で巡回もしてもらう。
いうて現状の人形兵は中級悪魔と互角程度っぽいんよね。上級悪魔相手には時間稼ぎもどうだろうってレベル。まー代わりに光力を用いた兵装を持ってるわけだが。バレてもはぐれ悪魔対策に使えるもんを使ってるって言うだけだ。堕天使勢力辺りとの内通を疑われそうだが境界近い魔族領で拾ったものを直して使ってるって答えるし。
その堕天使領には境界付近の開拓をしてるってお知らせしたし、各神話に対しても就任の挨拶と今後の抱負を書いた手紙を送っておいた。一番人間に関わってる聖書勢力の届かない領域で人間の技術力は格段に進歩してる例を出して、各神話勢力間で同じ事ができないか尋ねて、人間が宇宙人に夢見るように次元の狭間を超えた先にいる住人を夢見てるとか嘯いて、仮にそいつらが存在して向こうからこっちに来れるならグレートレッドより強い可能性高いよね、そんなんが攻めてきたら終わりだし備える気はあるかって誘いをしたためたやつ。
まぁ、こっちから境界を越えて向かおうとしてるって判断から危険視されそうではあるな。
「とりま身綺麗になったわけだし、駒の効果が消えて弱体化した以上は鍛えてもらうぞ。それとマルバスの家を再興できるよう貴族社会に関する知識や実際の礼儀作法だの言葉遣いだのも学んでもらう。実際に働き始めるのは十を過ぎてからだがな。しばらくは給料じゃなくお小遣いだ」
「いや、でも、追手が来たらどうするんだ?」
「そンときゃとある法典に書かれていた言葉を実践するだけだ」
「……なにそれ」
ほう、姉はジト目使いか。価値が跳ね上がったな。まぁいうて積極的に探すとは思えんのよ。自分から動いたら非合法実験の情報が漏れる率を高めるだけだし。
「目には死を、歯には死を」
「なにそれこわい」
「死はこれ以上の苦しみを与えられないという意味で慈悲である。聖書にもあンだろ? 罪の報いは死、とか。まァ、頭痛起こすような聖書の内容なンざ覚えちゃいねーか。言っとくと死後の世界でも呵責が待ってっから品行方正に生きる事を推奨するぞ」
「えぇ……」
『悪魔は既に冥界在住っすけど』
「それはそう」
「そもそも悪魔は死ねば消滅すると学びましたよ?」
「それもそう」
仮に正攻法の現魔王派に捜索願を出してる場合でも『
来るなら来てみろ。天界を追われた堕ちた天使すら灼く段違いの聖なる光が君達を待っているぞ!
ちな、たまにタイミングの問題でバカンス中の二人まで召喚される可能性があるらしい。鳩が愉快犯すぎる。
今の所その間違いは起きてないが、仮に起きたらブッダ拉致扱いで須弥山に対する外交問題まであるんだよなぁ。あれ、その意味じゃ須弥山勢力って神の生存やら初代魔王のぐだぐだも知ってるわけか? むしろ立川時空ではゼウスやロキが交流してる以上、他ならぬ聖書以外の勢力は普通に知ってる可能性あるな?
うーん、納得しかねぇ理由で嫌われてるからなぁ。アタシだけでも例外扱いされるようになればいいが。とりま呉越同舟できる大人の集まりを期待だわ。
「さて、能力の慣らしは済ンだし、地上に行くぞ。領主館や政府筋の派遣されてくる役人だったり移住してくる民だったりに与える建物も作らンとな」
「お菓子……」
「後でな。即席じゃねェやつ作ってやるから」
姉妹の逃亡生活は数日間だが、飲食にはそこそこ苦労したらしい。甘味に後ろ髪を引かれてる妹ちゃんを宥めつつ、地上に戻って建物を作っていく。とりあえず最初は十戸もあればいいだろ。
あとは中心地として噴水付きの公園か。水脈はルビスが発見してくれたし、地盤沈下とかの危険性も対策不要な範囲なんで問題ないな。今の内から下水道も整備しておこう。魔石製品は異世界由来だし封印しておくべきかね。むしろ人工魔石を作り出せないだろうか。やってる事は魔力を電気、魔石を電池だし。
あるいはクロスオーバーで『
そんなん考えてる内に建物完成。いうて原作でも主人公の自宅が一日でタワマンみたいになってたり、破壊された校舎が一晩も経たずに修復されたりしてたからな。冥界じゃ珍しくはないはずだ。
しかし使用時の負担がほとんど無い辺り、ボディまで十分チートだわ。チート能力自体は使用時に魔力を消費する。ダンまち時代はしょっちゅう魔力切れとほぼ同義な症状――
「折角だし神社や教会、神殿も建てておくべきか?」
「領民を消滅させる気ですか」
「駄目かな?」
「駄目だよ」
結界内の空気は中立だが、各宗教用の建物付近は清浄だったり神聖だったりしてもいいと思う。領民に耐性与えりゃえぇねん。
ところで悪魔からの信仰でも神に効果あるんかな。個人的に神棚を置いて農家御用達な天照大神と宇迦之御魂神を祀りたいんだが。
領内のほとんどは荒れ地だが、表面が踏み固められてるだけで掘り進めたらそこそこ栄養のある土だったからな。当たり前に耕作できる。
最初はチート能力頼りで土作りするつもりだが、他にやる事がたくさんある以上は領民に任せないとな。農業用機械の導入と人力ならぬ悪魔力とどっちが速いんだろうか。
肥料とかはダンまち品で流用して……いや待て、デメテル派の作った土とか要は神の加護を受けた眷族の作業で作られたわけだし、悪魔特効持ちの可能性もあるんじゃね? うーむ、そのまま使わず一度能力を通す方がえぇか。
その能力もソーマの眷族って立場で経験を元に引き出されたスキルではあるんだが……まぁチートだけに由来が少々異なるんで大丈夫なんだろう。マルバス姉妹が書類に触って火傷したとか無かったわけだし。
あぁ、むしろ鬼灯様も鬼神だし祀りたい。復讐とか仕事に対する加護ありそう。はぐれ悪魔を集める予定のルキフグス領にとって適性高いと思うんだ。
その意味じゃ分け御霊の概念ってどうなってるんだろうか。神道は言うまでもないとして、仏教も遺骨に収められた墓と仏壇に飾られた位牌で分霊の概念が通るはずだし。
鬼灯様の分霊に監視してもらえるなら汚職の心配とか皆無になるし、領内の発展速度めっちゃ良い感じになりそうなんだがなー。しかしただでさえ閻魔大王の補佐官という立場は忙しいのだし、負担になるなら無理はさせられん。日本地獄はあの人で回ってる。閻魔大王様のサボり防止的な意味で。
「ていうか、今更なんですけど、そっちが素なんです?」
「まァな。人前で取り繕えりゃいーンだよ」
『グリーンダヨ!』
「エイジャちゃん、ちょっとこっち来ましょうか」
『ぬわーっす!』
おいしい奴を亡くした。まぁ結界に引っ掛かった奴がいるんで様子見に行ったんだろうが。
姉妹への追手にしては方向的に堕天使領側だし、あるいはタイミング的に両親な気もする。仕事放っぽって何してくれてんだ魔王またはその女王って話だが、象徴が必要だからって担ぎ上げられてる部分が大きくて割と自由なんよね。
まーこちとら規模は小さく歴史は浅い新興勢力だ。事前連絡の一つも無しな
直接会って話するにも現状は不法侵入して来た罪人扱いじゃ招くのも問題あるし、こっちから出向くか。
「さて、適当に寛いでてくれ。お客様らしいンで行ってくる」
「っ! それって!」
「さて、な。とりあえずここに隠れとけ」
「……気を付けて」
「いってらっしゃい」
姉妹に見送りの挨拶を貰ったので、手を振って応えつつ外へ。するとそこには予想通りと言えば予想通りだが、微妙に予想外の光景が。
「くっ……食べないで下さい!」
『そこはくっ殺じゃないんすか?』
「でも殺されるより生きたまま食べられる方が怖くないですか?」
『これが今度の実験体かね』
「……いや、何してンだテメー」
それは二対四枚の灰色をした鳥類の翼を持ち、頭上に光輪を戴く不審者だった。一般的な感性からすれば堕天使に分類したくなるが、この世界の堕天使はカラスと揶揄される存在であり、漆黒の羽を持つ。つまり別種だ。
そんな種族レベルで不審なやつが、上半身に縄を掛けられて正座させられていた。ご丁寧にギザギザの足場に乗せ、更に膝の上には重りとしてすやすや眠る猫を乗せている。色んな意味で下手に動けんな、これは。
うん、まぁ、色々と言いたい事はあるんだが、まずは挨拶だよな。
「ドーモ、不審者=サン。バールド・ルキフグスです」
「ドーモ、バールド=サン。堕天使ナマハメルです」
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
向こうの名乗りを聞いた直後、飛び蹴りを放ったアタシは悪くないと思う。原作的には寛容かもしれんがうちの領地じゃセクハラは程々にしか許さんぞ。
いやまぁ膝の上に乗ってた猫には悪い事をした気もするが、運が無かったと諦めてもらうしかあるまい。構わず寝てるからセーフセーフ。