聖書の神なら立川で鳩サブレ食ってるぞ   作:夜月工房

50 / 53
50.肩の荷が下りたよ!

「これが黙示録の皇獣(アポカリプティック・ビースト)……」

 

はい、そんなわけで封印されたトライヘキサの前に来ております。

七つの首に十の角、体の随所に様々な獣の要素を持ち合わせた造形は相変わらずな聖書勢力のセンスを感じなくもない。天使とかも上位の名無し(モブ)は化け物だしな。

いうて実は黙示録の内容を知らんのだが、コレは本物で良いんだろうか。いやまぁ偽物でこの威圧感(プレッシャー)は勘弁してほしいが。

 

「でっっっっっか!?」

 

確かにデカい。二天龍の修行で見たグレートレッドよりデカいんだから強さも推して知るべしってヤツなんだろう。

 

「すやすや」

 

まぁ、当の獣は厳重な封印の影響下にあって活動を停止してるに等しいわけだが。

 

「寝言ですやすやとか言ってる奴は初めて見たな」

「同じく」

「そもそも寝言なんですかねぃ?」

 

とりあえず、見てるだけで得も知れぬ不安が湧き上がってくる。これに慈悲とか、あの鳩は正気なんだろうか。実は洗脳とか思考誘導とかされてたりせんよな?

 

「まァ、そういうのは無力化した後でじっくり調べればいいさ。始めるぞ」

 

儀式の開始を告げながら、転生させる先となる依代を取り出す。周囲の空気が引き締まり、視線が集まり……緊張が霧散する。

 

「なんだその……いや本気でなんだ?」

「独特すぎんだろ……」

「精一杯のオブラートありがとう。コレは桃源郷で薬屋を営んでる瑞獣一推しの猫好好(マオハオハオ)ちゃん。ご覧の通り……猫だ」

「「嘘だっ!」」

 

そう、依代として用意したのは、白澤がデザインした名状し難いナニカを模したぬいぐるみ。ちなみに手のひらサイズで、数は七つ。お察しの通り首の数と同じだ。

 

「オリジナルの戦闘能力が皆無だったからちょうどいいと思ってな」

「だからって、もっと他に候補あっただろ!? なんでそんな2d6を強要するような見た目のを選ぶんだよ!?」

「日本地獄で面倒を見てもらうためですが?」

 

最初はルキフグス領で飼育(ほご)するつもりだったんだが、なんだかんだ野良魔獣がポップしたり各界のお偉いさんが来訪する場所だから思い留まったんよね。そんで考えたのが、死後の世界で預かってもらう事。

あの世ってのは死者のための世界であり、基本的に生者に厳しい性質を持つ。つまりトライヘキサを攻撃するとか誘拐するとか目的の連中に大きくデバフを強制できるし、トライヘキサ自体にもそのデバフがかかるんで、安全を保証する事にも繋がる。

そして働かざる者食うべからずの格言通り、トライヘキサを労働力に組み込もうと考えた。だが弱体化転生させた時点で力仕事は向かないし、かといって事務仕事などの適性が高いとも思えなかった。

そこで降ってきたアイデアが、見た目で勝負する系の仕事。極論、これなら筋力とか魔力は必要ない。とはいえ美形だったり愛くるしかったりすると誘拐や拉致のような犯罪を助長しかねないんで、マイナス側に振り切った結果が精神攻撃系(コレ)である。

幸いにも日本地獄への伝手があったんで鬼灯様に相談したら、獄卒として派遣するなら受け入れると回答が得られたわけだ。まぁデザイン予定図で舌打ちされたが。

なら変えろよと言われそうだが、生で見たコレのインパクトがデカすぎてたまにふと脳裏をよぎるんよね。だから中継見てる各神話体系のみんなも同じ症状にな〜れ☆

 

「周囲の安全を確保するため直接的な攻撃能力はないに等しいが、鳩の願いに対応するンで耐久性はマシマシだからな。阿鼻地獄に落ちてく最中の亡者共にコイツらをチラチラ見せて精神攻撃に使ってもらう手筈になってる」

「なんちゅー地味な嫌がらせだ」

「でも間違いなく効果はあるでしょうね」

「ボディーブローのごとくじわじわ効いてきそうですねぃ」

 

うむ、想像したであろう面々からの評判も上々な様子。

 

「じゃ、改めて始めるぞ。ホイ【異界信仰(ヴェルト・グラオブ)】っと」

「軽っ!?」

「はい、成功です」

「速っ!?」

「ちなみに抜け殻は主に研究用として各神話体系に配布予定だが、こンな厄ネタいるかって場合は受け取り拒否できるぞ。事前アンケートで結果は集まってるが、中継とはいえ実物を見て気が変わったりするかもだしな」

 

いやぁ、実は生ハムから話を聞いて鳩に確認を取った直後から下準備は進めてたんよね。むしろ各勢力へのお知らせをした時点ではほぼ終わってた。

いやだって下手に長々と見せて解析されたら嫌だし。何せ相手は神だ。謎のチート能力も汎用能力に貶められる可能性は零じゃない。例え下位互換の能力を開発されるだけであっても損失が大きい以上、隠せる部分は隠すよねって。

 

「これは……凄まじいな」

「情報不足なせいでシエル先生でも解析しきれなくて予想混じりって相当じゃね?」

「こんなんチートや! チーターや!」

 

封印越しに感じていた気配が消え失せた事により嫌でも終了を実感したのか、見物客は思い思いの感想を漏らす。一瞬で終わった割に見えた部分はしっかり解析してるっぽいリムルさんの嫁が地味に怖い。

ところで用意したのは猫好好(マオハオハオ)だけなんだが、何故か猫美美(マオメイメイ)が混じってるのは気にするべきなんだろうか。

 

にゃ〜ん(何やら大変な事になりましたねぇ爺さんや)」

にゃ〜ん(どうやらそのようじゃのう婆さんや)」

 

当の元トライヘキサは、困った事にコレだけなら猫らしいと思えなくもない鳴き声で何らかの意思疎通を行っている。

つーか悪魔の言語能力が仇になって内容わかっちゃったよオイ。昔話の老夫婦か何かでいらっしゃる? まさかアニメ版の叱られそうなエンディングから関連付けられたんじゃなかろうな。

まぁ、ビジュアル込みだと狂気を感じるんで、亡者の苛責にはバッチリ使えるはずだ。むしろ獄卒も危ないかもしれんね。間違っても不喜処地獄には置けんタイプだわ。

 

「うーむ、効果通りなのかわからンな」

にゃ〜ん(うわー)」

にゃ〜ん(あーれー)」

 

とりあえず無力な事を確認するために引っ張ったり振り回したりしてみたが、大して動じてなさそうな悲鳴を上げるのみで反撃等はしてこなかった。

 

にゃ〜ん(しかしずいぶんと長く寝ておったようじゃの)」

にゃ〜ん(ほんにほんに)」

にゃ〜ん(体が固まって上手く動かせんわい)」

にゃ〜ん(熱いお茶が飲みたいですねぇ)」

にゃ〜ん?(はて、煎餅はタンスの一番上じゃったかの)」

 

あんまりにもされるがままなんで実はまだ寝ぼけてるだけな可能性も考えたが、その割にのんびりと縁側でくつろいでそうな内容の世間話をしてたりするっていうね。お茶とか煎餅とかチョイスが老人しかも日本なのはなんでだ。

 

「あー、ちょっといいか?」

にゃ〜ん?(おや、どうしたかね童や)」

にゃ〜ん(相談かしら。力になれるならいいんだけどねぇ)」

 

うん、調子狂うな? 中継してなかったら呼んで問い詰めるのも辞さない程度には鳩が勝手に危険視してちょっかいかけて怒らせた説が浮上してんだわ。

 

「聞きたいンだが、自分達がどンな存在か把握してるか?」

にゃ〜ん(それはもう)」

にゃ〜ん(もちろんですとも)」

にゃ〜ん(言うまでもないが)」

「「「にゃ〜ん!(さっぱりわからん!)」」」

にゃ〜ん!(ソーナンス!)」

 

反応に、反応に困る。どうしてこうなった。いやマジで。

とりあえず敵対的でも暴力的でもないのはせめてもの救いというべきか。いや、いっそそっちのが戦闘になって無力化できてるかの確認ができて楽だった気がする。無力化されてなかったらピンチなのは内緒。

 

「さ、無事に終わったし、後は抜け殻を回収したら帰るだけ。凱旋といこうじゃねーの」

「「「日和った」」」

「やかましい」

 

諦めて帰ろうと提案したら総ツッコミを食らった。ぐぬぬ。

 

「まぁでも、魔素量はかなり多いけど危険は感じないんだよなぁ」

「鑑定結果もレベルは高いですね」

「まぁ図鑑のステータスは貧弱ですし、無力化はできてるかと」

 

しかしすかさずフォローが入る。それぞれ鑑定能力があるの便利だな。アタシもクラフトチートに内包されてるが、基本はアイテムとしての価値だからなぁ。

ちな、内容はこんな感じ。

 

名前:猫好好A

分類:生物(?)

LV:10299

用途:錬金、その他

特質:獣3、かわいい2、全属性10、不安定10、不滅10

一言:マスターテリオン? いいえ、マスタード照り焼きです。

 

おわかり頂けただろうか。自分ではようわからん。略して羊羹(混乱)。

いや、普段ならもう少し用途に合わせた内容が見えるはずなんよ。つーかLVとかダンまち世界合わせても初めて見たぞ。おかげで万超えが高いのか低いのかわからん。普通に考えたら高いが。

とりあえずこの分類は金魚草もだったな。一応は猫好好も金魚草も出身は同じだし。あるいは立川のカンダタや聖痕浮かんでるTシャツなんかも同じ分類になるんだろうか。HSDDだとキャラが濃い事はあっても正体不明とかな感じのモノってあったっけ? ミルたんはしっかり人間だったしな。弾かれなかったのは奇跡なのか、あるいは隠蔽とか偽造とかされてたんだろうか。

まぁいいや。用途に戦闘とかがあればもう少し調査しようと思ったがないっぽいし。

 

「あー、お墨つきも得られたわけだし、今度こそ帰るか」

「そうして戻った彼らを迎えたのは、何者かの襲撃を受け無惨な姿に変わり果てた故郷だった……」

「こらっ、縁起でもない!」

「そういうとこだぞ」

「てへぺろ」

 

仲良いなコイツら。

 

 

そんなわけで領地へ帰還し、留守番組の用意してくれた料理でお疲れ様会……とはいかなかった。

 

「バールド、説明をしてくれるかしら?」

「目的語にもよりますが、場合によっては私も受ける側かと愚考します」

 

帰還した我々を待ち受けていたものは、痛みを感じているのか頭を押さえながら疑問を投げかけてくる実母グレイフィア・ルキフグスだった。

 

「呑気に会話してないて早く解放させなさいよ!」

「怒り狂うリーアたんも素敵だなぁ」

 

そんで広場では木で組まれた簡素な十字架に磔にされた悪魔が二体。両名とも以前の行動を咎められ出禁にされ未だに取り下げされてない犯罪者だ。賠償金の交渉をこっちからしても動きが悪く、向こう側からの動きが一切ないんでこっちから動くの止めたらそのまま没交渉になってたんよね。時効にしてもまだ……えーと、五年か? 全然足りんな。

にしても十字架に磔とか悪魔は触れてるだけでダメージありそうなんだが、騒ぐ元気あるのな。片方は超越者だからわかるんだが、幼い方は意外というか。生まれながらのお貴族様で上級悪魔だからなのか?

 

「ここまでの経緯は簡単だぜ? 結界を滅びの魔力で吹き飛ばして不法侵入してきた犯罪者がいて、以前に出禁食らってそのままな現役の指名手配犯だったから囲んでボコった。そんで所属先にお宅の奴から喧嘩売られたから締めたって知らせてやったらそこのお嬢ちゃんが飛んできた」

「で、反応からして説明中または説明前に領主が帰還してきた、と」

「そゆこと」

 

なるほど、成長してねぇなこの兄妹。いや、単に都合の悪い事は忘れる便利な頭してるだけかもしれん。いずれにせよ再犯な以上は穏便な対応なんざ望めねぇわな。

 

「との事ですが、そもそも以前の賠償を済ませていないにも関わらずほぼ同じ内容で再犯となれば抗議等を飛ばして刑を執行されても文句を言わせるつもりはないのですが?」

「それはそれで待って欲しいのだけど、それ以上にリゼヴィム・リヴァン・ルシファーがいる事を説明して欲しいわね」

「「グレイフィア!?」」

 

再犯に関して庇うのは難しいわな。そんでリゼヴィムの説明を求めるのは妥当っちゃ妥当か。今までの功績どころか独立の話をした時点から傀儡だった可能性とか色々と考えられるだろうしな。

つーか当たり前にリゼヴィムが対処してる事に驚いたわ。身バレ防止に隠れて様子見してるかと思ったのに。対トライヘキサを提案した本人なのに留守番させられた上にあっさり終わったからフラストレーション溜まってたんかね。知らんけど。

 

「独立して四年目を迎えた頃に家族ごと亡命してきたので受け入れました。報告の通り、我が領は人手不足でしたから犯罪歴を問わず人材を集めていましたし。正統なルシファーの名前は確かに驚きましたが、逆に言えば能力も保証されているようなものでしたからね」

「そこはしっかりと身元まで含めた詳細を報告しなさいよ……」

「当時八歳の子供に無理難題を仰る。傀儡にされて現政権を転覆させてないだけマシでしょうに」

 

まぁ、リリスの復活とかいう超高難易度ミッションの達成に目処が立ってなきゃすんなりとはいかなかっただろうし、グレイフィアの心配自体は真っ当なモノなんよね。聞かされた今も皺の寄った眉間を揉みほぐし肩が動くほどの深い溜め息を吐いてるし。かわいそ。

 

「まーそもそも俺ってやる気なくして隠居してたからねぇ。そこらの悪魔が望んだり恐れたりしてるような事になるとしても、もう数年は経たなきゃ動かなかったんじゃね?」

 

リゼヴィムがアタシと魂に繋がりができた副作用で原作の自分を知ってる件を把握してると、数年ってのが原作での行動(それ)を指してる事がわかるんだが……知らないと犯行予告にも聞こえるっていうね。磔にされてる不審者の大きい方も真面目な表情で何か考え事してるし。磔にされてるけど(だいじなことなので)。新旧ルシファー、どこで差がついたのか。

ちな、悪魔二体を拘束してる十字架は磔にした対象の特殊能力を封印する効果がある。そうでなければナチュナルボーン自己中な悪魔である犯罪者二名の事だ、使えるならとっくの昔に滅びの魔力を用いて十字架を滅し自由を取り戻して何らかの太々しい要求をしている事だろう。

 

「さて、我が領で敬われつつも親しまれているコドモオジサンの説明は済みました。ここからは償いも贖いもないまま罪を重ねた重犯罪者の話に移りましょう」

「コド……?」

「領法に照らし合わせれば、ありとあらゆる権利を剥奪され事実上の奴隷落ちからの使い潰しコースとなります」

 

聞き取れなかったのか、聞き間違いだと思ったのか、首を傾げ半端に言葉を呟くという優秀なメイドらしからぬ所作を見せるグレイフィアを無視して話を続ける。

 

「それはグレモリー公爵家としても、悪魔政府としても許容しかねるわね」

「でしょうね。しかし許容しかねると言われましても、今の今まで前回の賠償について動きを見せず信用を失った公爵家と政府に配慮する義理は最早ないのですよ。それに領地への不法侵入は二度目ですからね。学習能力のない異常者を生かしておく義理などありますまい」

 

ぶっちゃけ半独立してるし、そろそろ開拓できる土地の都合で旧魔王派への侵食も考えてるからなぁ。大きな懸念事項の一つとなるトライヘキサも解決したし、いっそ現政府と敵対するのも選択肢ではあるんよね。防衛力に関しては改良に改良を重ねた人形兵(ゴーレム)やレオナルドの『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』によるアンチ悪魔のモンスターがあるし、もしもの話だが劣勢になった場合は他神話勢力や堕天使を頼る手もある。対価は考えるだけで頭痛を覚えるが。

 

「サーゼクス?」

「な、なにかな?」

 

こちらの話を聞いたグレイフィアはといえば、鳥類を思わせる動きで首をグルンと回して十字架を睨む。そんで名前を呼ばれた夫兼魔王はビクリと体を震わせながら問い返すが、どう考えても賠償未払いに対する確認だろうに。悪手じゃねぇの。

 

「あの日、後は自分が対応するから心配しなくてもいいと言ってたわよね? その後で領地の見学が叶ったからてっきりちゃんと済ませたと思っていたのだけれど?」

「えーと、その、ちゃんと部下に任せたのだけどね」

 

部下に丸投げしたらしい現魔王(ルシファー)の言葉に、誠心誠意お仕えする『番外の悪魔(エキストラ・デーモン)』は天を仰いだ。

それでも胃を抑えたりしない辺りは強いよな。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。