結局あの後はグレイフィアが休憩したいと申し出たので時間を置く事にした。
犯罪悪魔二体は喚いてたが磔にしたまま放置……はさすがにグレイフィアの気が休まらないだろうから、日除けを設置して首を伸ばせば届く範囲にストロー付きのジュースをくれてやった。なんならそのジュースも聖水割りとか考えたけど思い留まったんで褒めてほしいよね。
「あくまでルキフグス領は政府が所有を認めていて、土地そのものは悪魔政府に属するでしょう? 強硬な姿勢を崩さないのなら、爵位の剥奪と領地の没収をされかねないわ」
「ふむ、それはそれで楽しそうですね。こちらは既に報告していますが、我が領には『
脅したつもりが脅し返されたグレイフィアは非常に頭が痛そうだった。
しかしながら、実際に没収を告げられた場合は各地に派遣される役人を洗脳して欺瞞情報を流し、ノコノコやって来た欲深系後続連中を一網打尽にしつつ要所へカウンターでテロるつもり満々だったりする。つまりおおよそ悪魔政府終焉の引き金と言えるだろう。
なんせ今回の世界で個人として課されたお題は冥界の開拓であって所属は未指定なわけだし、邪魔されたらそりゃ本気出すわ。一応は土地への被害を考えつつ。
「それ以前に親交のある各神話体系から横槍が入りそうだけどねぇ〜」
「……それもそうね」
リゼヴィムの追撃にグレイフィアは同意したが、これは予告なしの取り上げに対しても各勢力が介入できる事を示している。まぁ各勢力のトップ層がそれなりの頻度で行き来しているのだし、いつ実行しようと高確率で来訪している他神話の大物が領内にいるわけだからなぁ。むしろ神なら自分の近くで騒がしくしたって機嫌を損ねて、戦争の引き金になっても気にしないスタンスで暴れかねない。
例え実力行使されずとも、各勢力から寄せられる抗議だけでも対処の負荷は相当な重さになるだろう。個別で考えても恐らくはセラフォルーが直接対応しなければならない相手が多数いるし、勢力の場合は対応を下に振れるかもしれないが面子がかかってくるんで引き下がらず長引く可能性が高い。
悪魔政府が内政干渉だとか言って弾こうにも、向こうは
まー外交部門がパンクしてもだからどうしたって気もするが、
改めて遠い目をしたグレイフィア。これにはリゼヴィムもニヤニヤ。
「まァ、アレです。高貴な身分を誇るのならば見合った言動が必要で、こそ泥よろしく隠れて侵入しようとするのは止めさせて下さい。いずれにせよ許可を出せると言えないですが、まだ権力を笠に着て高圧的に来る方が堂々としている分だけ穏便に済ませられます。というより二度あることは三度あると申しますし、以後は悪魔限定で対応を数ランク上げて魔王級でも瀕死に、それ未満は問答無用で消滅する程度の攻性防壁を敷きますのでご理解下さい」
つーか問題起こして出禁にされた場所にまた来たがるとか依存症患者や中毒者のソレなんだよなぁ。あるいは悪魔にもカリギュラ効果ってあるのかね。いやまぁ欲望に忠実なのは悪魔らしいっちゃらしいが。
「結局はそこに行き着くのね……今回と前回の罰金に関しては後日――遅くとも明後日には正式に回答するわ。そこから改めて協議する形でどうかしら?」
「お待ちしております、とだけ」
帰って担当シメて引き継ぎして、途中の予定も全部キャンセルか延期して、か。うーん、我が身に置き換える事すら考えたくない事態だ。
「それじゃあすぐに動かなければならないし、私は戻るわね」
「えっ」
「グレイフィア!?」
「かしこまりました。お土産の用意は必要でょうか?」
「配る手間が惜しいから遠慮しておくわ。もし予定してたのが食べ物ならあの二人への施しにしてあげて頂戴」
「では、そのように」
こうしてルキフグス領を去ったグレイフィアだが、夜とはいえその日の内に通信で連絡を取ってきた。超越者でもある魔王と公爵家の跡取り娘しかも二回分だけあってそれなりの額が提示されたが、反対する周囲を黙らせるのに言葉や威圧だけで済んだとは思えない。外から見れば身内のじゃれ合いというかルキフグス領への金銭的な支援や話題性を目的とした茶番とも捉えられるし。悪魔勢力内じゃ……どうなんだろな。親馬鹿の暴走?
まー手綱を握るの失敗してる点じゃ自業自得なんだが、一応は健康や美容に関するお土産を用意しとこうかね。
なお、実際に受け渡しがされたのは次の日だったんで一晩留置所にぶち込まれてた犯罪者二名は、その夜グレイフィアへ持たせる予定の土産として用意していた物の中にあった一個で五人前の大容量を誇るカップ焼きそばという慈悲を与えられて涙していた。あるいはランダムで選ばれたのが罰ゲーム用と銘打たれた激辛な種類だったのが関係していたのかねぇ。知らんけど。
さて、リゼヴィムの存在が魔王やメイドにバレた以上、無駄に警戒して監視の目を増やしたり変な契約を持ち掛けてきたりと面倒事が増えるのはほぼ確実と言える。
旧魔王派が問題を起こす可能性を考えれば無意味に広めるとは思えないが、なんだかんだ旧魔王派の根は深く広いんで恐らくはバレるだろう。
「つーわけで旧魔王派を管理下に組み込もうと思います」
「別にいんじゃね? 俺の名前好きに使って構わねえし」
「アタシの名前も使って良いわよ」
「サプライズを上乗せとかえげつねェな」
リゼヴィムだけでもオーバーキルだろうに、リリスの生存までバラしたら旧魔王派どころか悪魔勢力がひっくり返るんだわ。なお聖書勢力以外はおおよそ知ってる情報だったりする。何しろ名前も姿も隠さず正規の手続き踏んで観光行ってるからな。
ともあれ、計画に必要な大義名分は得た。現政府からの許可も必要かも知れんが、ぶっちゃけ事後報告でもいいかなーと。
いやまぁ旧魔王派に潜り込んでるスパイの一人や二人……じゃきかなそうな数はいるだろうし、そこを通じてバレるとは思うが。うーむ、横槍が入るよりは予め伝えておく方が最終的な手間は少ないか?
「よし、チラシは完成した。あとは適当にバラ撒けばいいか」
許可をもらえたんで、早速『旧魔王派を支配下に置いて領地ゲットしようぜキャンペーン』の開催について予告のビラを作った。内容としては
「すごいな、胡散臭さが半端ない」
「俺なら罠を警戒して様子見だな。捨て駒がいれば送って、そうでないならスルーか」
「領主くんってこの辺のセンス足りてねぇよなぁ」
なお初版はボコボコに言われた模様。つーかあのアーシアでさえ笑顔がぎこちなかったんだし、推して知るべしってやつだぁな。
「ど、独創的だと思います」
「無理に持ち上げる必要ないわよ。本人も内心これはないって思ってるはずだもの」
「一人で済ませるの、悪い癖」
ちな、リリスのフォローがなかったらアーシアはストレスで自律神経がやられてた可能性があったと鳩が言ってた。ぐぬぬ。あとイニーの指摘は耳が痛い案件だった。
「そうして完成した第二版がこちら」
「まぁ、一緒に作ったから知ってるが」
「多少お堅苦いけど送る相手を考えたら良いんじゃないかしら」
「まー領主くんからって時点で軽く見るとは思うけどな」
「それな」
ルキフグスは『
なもんでこっちからは当主就任の挨拶をしたくらいで基本放置。気位の高さから『
しかしここに至っては開拓可能な土地の問題が立ち塞がり、ついでに切り札たるリゼヴィムの存在が味方とは言い切れない現政府にバレた。恐らく現政府に入り込んでるはずの工作員やら諜報員やらのパイプ役を通じて旧魔王派にも伝わる。なら機先を制するべきだろう、と。
旧魔王派を名乗る以上は正統なルシファーに従うのが当然で、そうでない場合は現魔王派に寝返るか、
まぁ寝返ったところで現政府からの扱いはお察しというか真なるルシファーの下へどうぞって切り捨てられそうだし、武装蜂起は鎮圧する手間が増えるが経験を積めるから悪くないし、要はどう転んでも最終的に土地はルキフグス領の一部となる予定だったり。今の今まで動かなかった方が悪いんで諦めてもろて。
個人的には内憂を抱えずに済む第三勢力の立ち上げをして全周囲に喧嘩売って欲しいところだが、それはつまり正統なルシファーからの無茶振りにどこまで反発できるかって事を意味する。
いうてなんだかんだリゼヴィムにゴマスリするのは富や権力を確保し甘い汁を吸うためだろうし、無慈悲な領地没収と最下級からのやり直しを命じられて守れるかって話。多分無理だろ。仮に一度は大人しく受け入れたとしても、見下してた人間やはぐれ悪魔が上司とか耐えられるわけないし、すぐ暴発してくれると信じてる。
「まァ、アレだ。来なかった事を後悔させるくらいカリスマ発揮してくれ」
「りょーかい。オジサン頑張っちゃう」
例え要約すると『お前ら俺の奴隷な』であっても、発言者と言い回し、そして聴衆の程度次第では熱狂させる事ができてしまう。
今回の場合は発言者の時点で聴衆に耐性デバフが入ってるようなもんだし、そこから全力の話術で振り回されるのも確定した。勝ったなガハハちょっと田んぼの様子見てくる。
で、数日後。
「そんなわけで旧魔王派とルキフグス領で勢力として独立するって現政府に宣言しといたぜ!」
「何してくれてンだテメー」
いやマジで。履歴を埋め尽くすグレイフィアからの着信はこれかぁ。