暗麺麭男   作:ゆうれい

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#5  Our heart burns

「俺の《異性への魅了(ニコポ・ナデポ)》が解けかけているな。」

 

《ヤマダ》、彼は転生者である。

元々、この「フード世界」とは別の次元の世界の惑星の一つである『地球』に生まれ

裕福な家庭の末っ子として生まれ、両親の愛を受け甘やかされて、育った。

裕福であるがゆえに、欲しいものは何でも手に入る。

最新のおもちゃ、TVゲーム、他人の持ってないものに興味を覚え、

飽きるとすぐに捨てていく。そのような生活を繰り返し、《ヤマダ》が小学校に入る頃には彼は他人を見下していた。

勿論、そんな性格を続けていれば、学校の様な集団生活の場では淘汰される。

だが、無駄に親が金持ちなので直接的な暴力は受けず、無視される様になっていた。

そこで《ヤマダ》が感じたのが孤独。ちっぽけなプライドから皆の輪にまざることができなかった《ヤマダ》はその孤独という心の隙間を、小動物の虐待で麗していた。

しかし、その様な事を続けていれば、警察や学校、それに無視されていたクラスメートに目をつけられる。噂が噂を呼び、その周囲の声は彼の両親の耳にも入っていった。

《ヤマダ》の父親は激怒し、母親は涙を流す。

唯一、信頼していた両親の失望は《ヤマダ》にとって大きなショックを与えた。

結局、そのことがキッカケで《ヤマダ》は塞ぎこむ様になっていった。

そして《ヤマダ》は『ネットゲーム(MMORPG)』と運命的な出会いを果たす。

《ヤマダ》はこれに大きくハマった。

課金すればするだけ、強くなれるそのゲームは今までの《ヤマダ》の生においてかけていたパズルのピースそのものであった。そして、強くなれば強くなった分だけ周りはその強さを褒め称え、媚あつらえ、すりよってくる。

《ヤマダ》は愉快で堪らなかった。何故ならそこには《ヤマダ》がこの世で

最も嫌う孤独がなかったのだから。

《ヤマダ》にとって、そのゲームこど現実であり、世界であった。

しかし、その楽しい時間にも終わりがきてしまう。

 

「サービス終了のお知らせ!???」

 

そう、このゲームの親会社の重役が、汚職をやらかしそれがニュースで連日報道され株価は暴落。多大な赤字とともにこのネットゲームのサービスの撤退がきまったのだ。

《ヤマダ》は目の前が真っ暗になった。

 

「俺の世界が、俺の気づきあげてきた物が崩れてしまう」

 

それは彼にとって正に、死刑宣告とも言えるものだった。

何故?何故?何故?何故?何故?

こんなことは許されない。こんなものは世界じゃない。

《ヤマダ》はその場で自らの命を絶っていた。

 

次に《ヤマダ》の意識が覚醒したとき、

《ヤマダ》の姿は、自らの作り上げたゲームのキャラクターになっており、

その自らが鍛え上げたキャラクターのスペック通りの力を得ていた。

《ヤマダ》は狂喜した。

苦労して上げたレベル。親の脛を齧って得た最高級の課金装備。

全てが己の手の中にあるのだ。

やはり、この世界が現実である。俺は間違っていなかったと。

故にだろう。《ヤマダ》は今、激しい憎悪を燃やしていた。

彼は許せないのだ。己の力が解けかけているのを。

 

「おい!『殺戮人形(トークン)』を一箇所に集め、参加者狩りをさせろ!ここからが本当の意味での《死の宴・デスゲーム》だ!ヒャハハハハハ!!!」

 

 

 

「(ん・・?森の様子がおかしいな)」

 

暗がりの森の中央部。

カレーパンマンを探していた暗麺麭男は、騒めき立つ森の変化に気がつく。

ザッ!ザッ!バキッ!ザッ!バキッ!

遠くから聞こえてきたのは『殺戮人形(トークン)』の足音。

しかし、何か様子がおかしい。

暗麺麭男は、木に登り、朝もやがかかる暗がりの中、目を凝らす。

 

「なっ・・・!?」

 

思わず驚愕の声を漏らす。

多い。それはまるで一つの軍隊の様に移動している『殺戮人形(トークン)』であった。

そして、それは獲物を逃さないように森の木を破壊しながら進んでいる。

ザッ!ザッ!バキッ!ザッ!バキッ!

森の木をへし折りながら進むこの殺戮者の行進はまるで森を喰らっているようだった。

 

 

「(あれはまずいな・・。相手さんが本気になってしまったらしい。)」

 

確かにこの状況はまずい。

森の木を破壊するということは、即ち隠れる場所を失うというである。

この、2日間、『殺戮人形(トークン)』との戦闘なしで生き残ってきた暗麺麭男にとって

それは致命的になりうる。足取りこそ遅いものの『殺戮人形(トークン)』はあの数だ。

疲れ知らずの捕食者は残りの2日にはこの森を全て掌握してしまうだろう。

そうなれば、戦闘はさけられない。

 

「詰んだか・・。」

 

いくらなんでも、一気にあれだけの数の『殺戮人形(トークン)』を相手に

勝てるわけがない。今までは10匹単位で行動していた『殺戮人形(トークン)』だから

何とか逃げる策も思いついた。

しかし、あの『殺戮人形(トークン)』はどうだろう?ゆうに50、いや作り出した全てが

一つになって行動してるではないか。

あれでは、カレーパンマンの熱を持った『カレービュー』で『殺戮人形(トークン)』を引き付けることに成功しても、他の『殺戮人形(トークン)』たちの波に飲まれてしまう。

そうなれば、もはや助かることはないだろう。

あの圧倒的な数の暴力には太刀打ちのしようがない。

暗麺麭男は絶望からか、その場に座り込んだ。

 

「「アンパンマン!!!」」

 

すると、暗がりの森の木の影から4人の影が現れた。

カレーパンマン、メロンパンナ、てんどんまんにカツどんまん。

いつの間にか合流したのであろうこのゲームの参加者達であった。

かまめしどんの姿が見えないということは、もう既に殺されたのであろう。

暗麺麭男は即座にそのことを理解する。

 

「そんなとこに座ってないではやく逃げるざんす!!」

「そうっす!あの人形どもが大群になって襲ってくるっすよ!!!」

 

その、かつどんまんとてんどんまんの言葉に暗麺麭男は心底馬鹿にしたような

顔を浮かべ口を開いた。

 

「逃げる?逃げるだって?あの大群からどうやってにげるんだい?」

「なッ!みんなで力をあわせればきっと、生き残れるざんす!」

「そうっすよ!あんな人形なんてみんなで力をあわせれば・・!!」

「みんなで力をあわす・・?なら何故ここにかまめしどんがいない?大方、『殺戮人形(トークン)』と戦闘して、殺されたのだろう?そのときは力を合わせなかったのか?」

 

暗麺麭男の言葉には嘲笑が含んでいた。

あの大群より少ない数の『殺戮人形(トークン)』にかまめしどんはやられたのだろう?

その、かまめしどんと戦闘力の変わらないお前らに一体何ができるのだ?と。

 

「そんな言い方ってないよ!!私たち皆で力を合わせれば絶対生き残れるはずだよ!!これまでもピンチの時には何とかなってきたじゃない!」

 

メロンパンナは余りにも酷いアンパンマンの口調を咎める。

そう、彼女は知らないのだ。アンパンマンが暗麺麭男だということを。

アンパンマンにとっては彼等の命など、そこらに落ちてる綺麗な石ころと同じだ。

道端に落ちてたら拾いはするが、別に手放しても何も感じることはない。

《ヤマダ》に洗脳され、この1ヶ月近くの間アンパンマン達と行動していなかった彼女にとってのアンパンマンは、お手本になるようなヒーローであり続けていた。

それこそ、カレーパンマンのように。

故に、彼女は期待した。

彼ならすぐに、先ほどの言葉を訂正してくれる。

皆で力を合わせて生き残ろうと言ってくれる。

何故なら、彼はアンパンマン。最強のヒーローであるのだから。

しかし・・・

暗麺麭男から出てきた言葉は自分の期待とは裏腹のものだった。

 

「売女が・・・!お前がそれを言うか!?《ニンゲン》に腰を振り、俺たち住人を裏切り続けていたお前が!!軽々しく生を語るな!!」

 

普段のアンパンマンなら考えられないほどの激昂であった。

それは、言ったアンパンマン自身が驚く程に。

それを、投げかけられたメロンパンナには相当、衝撃だったであろう。

彼女は、目に涙を為、震えだす。

その姿に、アンパンマンはハッとして冷静になる。

 

「・・・すまない。今のは失言だった。ただ、あれだけの大群はもう戦ってどうにかなるとはどうしても思えないんだ。僕のことはほっといてくれないか?」

 

自暴自棄。

アンパンマンにはもはや何もかもどうでもよくなっていた。

それは、己が目標にしていた、このゲームを必ず生きて《ニンゲン》が何をなすか

を見届けるということですら無意味に感じてしまうほどに。

今更、何をしても、殺されるのだ。

《ニンゲン》がやってきてから、自分があれほど執着していた何が何でも生きるということも、もはや全てがどうでもいい。

 

「ハハハッ。これじゃ・・何のために生まれたのか・・」

 

アンパンマンは、自嘲するように呟く。

その言葉に今まで黙っていたカレーパンマンが口を開いた。

 

「そうか・・・。僕はこのために生まれてきたのか。」

 

 

カレーパンマンは、常に疑問を抱いていた。

自分が何のために生まれたのかと。

ヒーローとしての力は、アンパンマンに劣るし、ルックスも食パンマンに比べたら

天と地の差がある。

これでは、自分がいらない子のようではないか。

思い悩んだ彼は、その悩みをジャムおじさんに打ち明ける。

 

「ジャムおじさん、僕は何のために作られたのでしょうか?」

「ん?いきなりどうしたんだい?カレーパンマン」

「いや、ヒーローとしての力はアンパンマンに及ばないし、ルックスは食パンマンに負けるから、自分は誰に必要とされるのかを疑問に感じたんです。」

「んー。そうだねぇ。それじゃあちょっと空をみてごらん。」

 

ジャムおじさんのその言葉にカレーパンマンは空を見上げた。

そこには、サンサンと熱い日差しを放つ太陽があった。

 

「あの太陽。あれはアンパンマン。僕はアンパンマンのコアを太陽のように作ったんだ。そして、カレーパンマン、君のコアは星を模して作られてある。」

 

ジャムおじさんは続ける。

確かに、君はアンパンマンより力に劣るかもしれない。

星が太陽のように力強く輝けない様に。

確かに、君は食パンマンより美しくないかもしれない。

星が月のように儚く美しく輝けない様に。

しかし、太陽や月のすぐ隣には当然の様に星は輝いている。

昼でも夜でもそれが当たり前であるかのように。

昼でも夜でも、変わらずに太陽や月の隣で輝く。

僕は、君にそんなヒーローになって欲しいんだ。

 

「まだ、少し難しかったかな?」

 

と、ジャムおじさんは笑った。

確かに、その時にジャムおじさんが言っていたことは意味がわからなかった。

そして、それを深く考える時間もなかった。

 

《ニンゲン》の襲来。

 

彼らの持つ力は恐ろしいほどに強大で、

すぐに多くの死者が出てしまい、自分たちはとらわれてしまった。

奴隷としての過酷な労働に続き、今回の《死の宴(デスゲーム)》。

理不尽なまでの力の前に、今を生きるのに精一杯だったのだ。

しかし、今ならわかる。ジャムおじさんが言いたかったことが。

アンパンマン。彼は今あるべき姿を見失っている。

この絶望的な状況で、彼がアンパンマンとしての姿を失っている。

なら、自分が正せばいい。あるべき姿に戻せばいい。

昼でも夜でも、変わらずに太陽や月の隣で輝く星のように。

自分は、太陽にはなれない。自分は月にはなれない。

そのことに嫉妬がなかったといえば嘘になる。

しかし、星には星の役目がある。

この、絶望的状況だからこそ、自分はアンパンマンを正さねばならないのだ。

 

「そうか・・。僕はこのために生まれてきたんだ。」

 

迷いはない。

たとえ、命を失うことになったとしても。

バタコさんもわかってくれるはずだ。

 

「(それが、カレーパンマンとして、生まれてきた理由だろ?ジャムおじさん)」

 

時刻はすでに夕方になっていた。

『殺戮人形(トークン)』の近づく音も近い。

カレーパンマンは、己の星に炎を灯した。

 

 

 

 




あけましておめでとうございます。
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